民生委員のなり手を増やす究極策の提言

「参考にされたい資料」

1  民生委員のなり手不足の現状

2019年度が始まり、ゴールデンウイークが明けたころには、12月の一斉改選を見越した動きが始まる。つまり、次の任期を固辞する意向を持つ民生委員の、市区町村行政等への申し出が行われ、これに伴う後任候補者探しなどが開始される。

民生委員12年目を迎えた筆者は、今、危機感と期待の持てない気持ちとが入り交じった何とも言えない気持ち、更には、あきらめを伴った妙に納得できる気持ちに覆われている。

それは、民生委員のなり手が一段と少なくなっているからである。せっかく、委嘱を受けた民生委員の少なからぬ者が一期で辞めてしまうからである。この状況に対する関係機関等の動きがはかばかしくない、と捉えられるからである。ひとりの民生委員として、これまで取り組んできたことに大きな限界を感じているからである。

直近の平成28年12月1日の一斉改選の全国の委嘱状況(平成29年1月16日 厚生労働省公表)を見ると定数238,352に対し、委嘱人数は229,541人で、差し引き 8,811人が欠員、つまり、なり手が得られなかったのである。8,811人の「採用枠」が無駄になってしまったのである。欠員率は、3.7パーセントで、前回改選時の2.9パーセントから0.8パーセントも上昇している。

欠員の多い都道府県を多い順に挙げると、東京都836人(数字は筆者の集計。以下同じ)、大阪府786人、神奈川県711人、埼玉県518人となっていて、都市部ほど欠員が多い傾向、つまり、なり手の確保が容易でないことを物語っている。

このなり手不足については、全国民生委員児童委員連合会が平成24度に行った調査において、全国の法定単位民児協(民児協の最小単位。町村民児協はこれにあたる)における「課題となっていること」のトップ(72.9パーセント。調査回収数は8,594)に挙げられている(詳しくは、全国社会福祉協議会発行の『ひろば』2013年3月号参照)。

本来、なり手不足については行政が中心となって対応すべきであろうが、実情を知る者のひとりとして、少しでも役に立ちたいとの思いから、ホームページの改訂に取り組むこととしたものである。

なお、取り組むに当たっては、なり手不足の解決を図る、言い換えれば、現状を改めることをもって「よし」とするのではなく、将来にわたって多くのなり手を確保できるよう、民生委員制度の大本にも踏み込んでいるものである。

願わくは、立法府の皆様、マスメディアの皆様、並びに地域福祉関係の皆様には、 民生委員のなり手不足の現状に、改めて深いご理解を賜りたい。中でも、新聞、テレビ、ラジオ等の皆様には、一斉改選のこの時期、広く世間の皆様に「現状」をお伝えくださるよう、格別のご配慮をお願いしたい。


「民生委員」という名称に関するお断り

「民生委員」の委嘱を受けた者は、児童福祉法第16条により自動的に「児童委員」に充てられ、「児童委員」の職務も担うこととなる。いわゆる「二刀流」を余儀なくされる(このことは、多くの一般の方には知られていない)。

この場合の正式名称については、厚生労働省などでは「民生委員」と「児童委員」とを併記し、「民生委員・児童委員」「民生児童委員」などと表記している。

他方、「民生委員」という名称は、「民生委員」と「児童委員」との総称として広く世間で用いられている。これにつき新聞等では、「ここでの『民生委員』という表記は『児童委員』を含むものである」というような断り書きが入れられることもある。

されど、これでは「児童委員」の存在が消えてしまう。このような欠点を補うものとして、筆者は、「民生委員」と「児童委員」との初めの一文字をとった「民児委員」(みんじいいん)という略称を、通称として用いることを提唱してきた(2014年10月出版の拙著にて)。
ちなみに、全国民生委員児童委委員連合会の略称「全民児連」においても「みんじ」という文言が用いられている。

この提言においても、これ以降「民生委員・児童委員」 を表す通称として「民児委員」を、また、これを短く表記したいときには「委員」を用いることとしたい。
なお、「民生委員」と「児童委員」とを区別して用いる必要がある場合には、それぞれ個別に表現することとしたい。

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2 民生委員の委嘱に至る経路

なり手不足の状況下で新たな担い手の発掘、委嘱がどのように行われているか。言い換えれば、どのような経路・ステップを経て委嘱に至っているかを考えることは、その解決策を考えるうえでも意味あることと思われる。
以下、昨今行われていると考えられる5つのケースに、インターネットに掲載された「民生委員募集」のケース、さらには「その他」のケースを加えた7つのケースを挙げてみた。

  1. 次期委嘱を固辞しようとする者が、自己責任において後任の候補者を探し出し、本人の一応 の了解を取り付けた上で、市区町村行政等に話をつなぎ委嘱に結び付けるケース。

  2. 非公式の次期委嘱固辞の申し出を受けた当該地区の自治会長、区長等が責任を負う形で地区内から後任候補者を探し出し、委嘱につなげるケース。

  3. 次期委嘱固辞の非公式情報や噂などをキャッチした市区町村議会議員等の地域有力者が自ら把握している後任候補者の情報を市区町村行政等に持ち込んで委嘱に至るケース。

  4. 民児協に関係のある団体等が日ごろから発掘、把握している後任候補者の情報を市区町村行政等に提供し、委嘱に至るケース。

  5. 全体研修会等の折、市区町村の「民生委員事務」所掌課・係等から、現職委員に対し、次任期に対する意向を○月○日までに報告されたい旨話があり、これをうけて次期固辞の申し出があり(この場合、固辞者は後任探しの責を負わない)、その後に後任候補者探しが行われ、委嘱に至るケース。

  6. インターネットの「民生委員募集のお知らせ」(沖縄県の沖縄市、久米島町、西原町などが実施)などを見た人が市区町村行政等に応募を申し出ることを出発点として委嘱に結び付くケース。

  7. その他(1から6以外のケースも地域によってはあるものと思われる)。

いずれのケースであっても、市区町村に置かれている「民生委員推薦会」並びに都道府県知事、政令指定都市・中核市の市長の推薦等を経て、最終的に厚生労働大臣名による委嘱となる。

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3 民生委員のなり手不足の原因、起因

当提言において、なり手不足ということは、「どういう状態をなり手不足というのか」「なり手不足を招いている原因は何か」「なり手不足の起因とも言うべきことは何か」などをはっきりさせないまま用いてきたが、ここで改めてこれらに触れていきたい。

1 「なり手不足とは?」

世間で民児委員のなり手不足というと、新たに民児委員委嘱に応じてくれる人材、つまり、民児委員候補者ないしは新任民児委員が不足していることと捉えられているようである。このような捉え方は、オーソドックス、かつ合理的と思われるので、当提言もこのような考え方に立って今後も論を進めていきたい。

2 「なり手不足を引き起こしている大本は?」

なり手不足を引き起こしている大本は、現職委員の多くが1期ないしは2期を務めただけで、年齢制限に達する前に次期を固辞することにある。
このような退任は、たぶん年齢超過等による「自然退任」を大幅に上回っているであろう。そして、このような退任は、民児委員の需要と供給に著しい影響を及ぼし、「穴」とも言うべきものを生じさせている。この「穴」とも言うべきものが今日のなり手不足を引き起こしている大本である、という言い方もできる。この「穴」により民児委員交代のサイクルが早まってしまい、一斉改選のたびに多くの新任を必要とする状況をつくり出している。言い換えれば、新任委員が全体の3分の1を占める状況をつくり出しているのである。

筆者が所属している最小単位の組織「地区民生児童委員会」では、平成28年11月30日をもって、総数14人(主任児童委員1人を含む)のうち、1期を務めた者3人と2期を務めた者1人、合わせて4人が退任した。加えて、公職への就任や75歳を超えたことにより更に4人が退任した。これらの結果が一斉改選に大きな影響を及ぼし、平成28年12月1日においては、新任が8人、経験1年未満が1人、1期未満が1人、2期目が3人、4期目が1人という体制となった。
新任8人の説得、勧誘に当たられた方は、断られても、断られても、断られても説得されたとのこと。本当に本当に「有り難い」、そして尊いことである。
しかし、このような事態を招いてしまう民児委員界は、やはり「異常」としか言いようがない。こう言わずに何と言うのだろうか。筆者は言葉を見つけられない。

ともあれ、要は、何とかしてこの「穴」をあけさせないようにすることである。何とかして、固辞の意向を漏らしている現職、あるいは、ひそかに固辞の意向を持っている現職を翻意させることである。このことができればなり手不足の解決に極めて大きな力となること、請け合いである。

以下、なり手不足の解決方策を立てるに当たっては、@新たな民児委員候補者の発掘、A現職への働きかけの強化、この二つをベースに据えて取り組むこととしたい。

3 「新たななり手が得られない原因?!」

4 「現職に次期を固辞させる原因?!」

@ 職務の心理的負担が甚大、かつ活動範囲等が不明確

民児委員活動は、母子や児童に関することから障がい者に関すること、更には高齢者に関することまでが「守備範囲」となっているが、これらの何を重点として、どのようにやるか、どこまでやるか(どこまでが限界か)などが明確ではなく、民児委員の負担を極めて大きくしている。

例えば、日常的支援と言われている「ゴミ出し」についても(要支援者の状態によってその対応は様々であるとしても)家庭の奥まで立ち入って、つまり、流し台周辺の生ゴミを集めたりすべきなのか。あるいは、自治体指定のゴミ袋に入れられ玄関等に置かれたゴミを集積所に運ぶだけとすべきなのか。はたまた、ゴミ出しはホームヘルパーに委ねるべきとするのか。さらには、ゴミ出しについては民児委員の本来的任務ではない、と捉えるべきなのか。

いずれにしても、これらがはっきりせず、民児委員個々の判断に任されているのが実情である。言い換えれば、支援すべき事項、その範囲・限度等の不明確さにより多くの民児委員が悩まされていると考えられる。とりわけ、1期目の委員に2期目へ向けて二の足を踏ませる大きな要因となっているものと捉えられる。

なお、「日常的な支援」に関し、平成28年度版の「活動記録」の「例示」では、新たに次の文言「他に代替手段がないなどによりやむを得ず」が挿入された。つまり、「他に代替手段がないなどによりやむを得ず、通院の付添、買い物の代行、ゴミ出し、除雪灰等軽易な日常生活に関する相談・支援活動を行った延件数を計上する」と改められたのである。

このことは、「代替手段がある場合にはそれによる」ということを示唆しているもので、「例示」とはいえ、活動のあり方を考える上で大きな役割を果たすことは必定であり、なり手不足の解決にもプラスになることと思われる。このような画期的とも言えることに取り組まれた関係者に拍手をおくりたい。

A 面倒で容易ではない活動記録の作成

千葉県民児協が平成23年度に実施し、翌年3月に発表した「民生委員・児童委員活動実態調査報告」によれば、「活動記録の様式についてどう思うか?」という問いに対し、新任の62パーセントが「もっと簡易のほうがよい」と回答している(29.1パーセントが「使いやすい」と回答)とある。

この結果に、「活動記録の作成は容易ではない」という民児委員の気持ちが表されている、と筆者は捉えている。また、「容易ではない」活動記録の作成が新任委員などに次任期を固辞させる一因となっている、と捉えている。

B リクペクトされていない民児委員集団

大正天皇の御下問が契機となって創設された由緒ある民生委員制度。厚生労働大臣名の委嘱状を交付される民児委員。多くの適格要件をクリアーした者が委嘱される民児委員。このような民児委員は多くの人からリスペクトされる存在かと思いきや、民児委員の多くが高齢者で気力、体力、行動力等が優れず、残念ながら世間の注目と尊敬を集めるには至っていない。

このような民児委員が構成する集団、言い換えれば、覇気のない集団、所属している者が所属している集団を誇れない集団は、所属する者をして「この集団にはいつまでも居たくない」という気持ちを起こさせてしまうのかもしれない。
こう考えると、次任期を固辞しようとする者が少なからずいることは、致し方ないこととも言える。

C 心無いことを言う者もいる要支援者

社会奉仕の精神をもち、かつ、要支援者の立場に立って活動しなければならない民児委員は、我慢を強いられることもある。

高齢の要支援者から「そんなの要らねえ」「もう来なくていい」などと言われると、「この人は自分の気持ちをコントロールするのが難しくなっているのであろう」と思いつつも、心の中では「このへそ曲がり・・・」と思う。しかし、それを顔に表すわけにはいかない。こうしてストレスがたまるのである。

昨今「自己主張が過ぎる」要支援者も少なくない。もちろん、そうではない要支援者が圧倒的に多いのだが。いずれにしても民児委員は「過ぎたる自己主張」には無力であるし、ひとの何倍もの寛容性が求められる。これらを「間尺に合わない」として、次任期を固辞する委員がいても決して不思議ではないのである。

D 小さくない負担「民児協会費」と少ない「活動費」

民児協に所属する私たちは、受け取った活動費の中から「民児協会費」を支払う。筆者が平成29年度に受け取った金額は、交付金措置の「県報償金」59,000円、「地区活動推進費」3,820円(町民児協経由)。「報償」32,325円(町会計室から振り込まれたもので、36,000円から源泉徴収税3,625円が差し引かれた額)で、合計95,145円である。

支払った金額は「町民児協会費」20,000円(県などの上部組織への納入会費を含む)。「地区民生児童委員会費」36,000円(14人の委員により構成される最小単位の組織で、会費は29年度から2,000円引き下げ、月当たり一人3,000円。なお、「県外研修」や「懇親会」等の個人負担がある場合は、この会から支払われる)で、合計56,000円である。

残金を算出すると、その額は39,145円で、月当たり3,262円となり、これが活動のガソリン代や電話代、その他に充てられる。

民児委員の勧誘を受けたとき、お金のことは多少なりとも気にはなるであろうが、そのことを口にする者はまずいない。けれども、多くの者が「中学生の小遣いと同額くらいは頂けるだろう」と思ったのではないか。しかし、実際は上に述べたとおり。これでは、次期への意欲がうせるのも仕方がないことか、と筆者には思えるのである。

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4  なり手不足を解決するための8つの具体策

1 一斉改選の記事掲載を依頼する

 

新聞社を始めとするメディアに出向いて、@2019年12月1日に全国一斉の改選が行われること、 A民児委員のなり手が著しく不足していること、B民 児委員の活動内容や待遇の現状、等を訴え記事として 取り上げていただくようお願いする。

2 PRや勧誘のためのリーフレットなどを作成、配布する

一斉改選に合わせて民児委員のPRも兼ねた民児委員勧誘資料、例えば「民生委員とは? その任務とは?」 などを作成、配布して新たななり手の発掘に努める。

以上の1・2の策は、なり手不足に対する即効薬的な効き目が期待できるものである。
次に挙げる3〜8の策は、中期的視野に立って取り組むべきもので、根治薬的な要素も併せ持つものである。

3 ホームページづくりの一層の促進を図り、「スマホ世代」などにうったえる

市区町村民児協におけるホームページづくりをさらに進め、「民生委員とは?」「民生委員活動とは?」などをインターネットにアップロードし、パソコンやスマホ使用者等へ積極的に情報を提供する。


4 「新任通算3年目研修」を実施し、次期継続を促す

新任3年目の委員を対象とする研修を実施し、委員一人一人に研修日当日までの実践を総括する機会を提供して、それぞれの成果や課題の明確化を図り、2期目への意欲、言い換えれば、モチベーションを高めるとともに、ひそかに2期目固辞を考えている委員に対し翻意を促す(別紙レジュメ参照)。

なお、3年目研修に加えて「中堅通算6年目研修」を実施することにより、なり手不足の一層の解決が図られるものと思われる。


5 民児委員活動の重点化、スリム化を図る

制度創設以来取り組んできた活動に、そのときどきの社会的要請等が加わって膨らんでしまった活動を整理・縮小することは、社会の要請に背を向けることにもなりかねず、それほど簡単ではない。されど、スリム化を図るには大鉈(おおなた)を振るうしかない。問題は何を根拠に大鉈を振るうかである。

非常勤の特別職の地方公務員として位置づけられ、法令遵守を義務づけられている民児委員としては、現行の民生委員法および児童福祉法に示されている職務をもって、その根拠とするのが当を得ている。

次の記述を見ていただきたい。

《今後取り組むべき仕事・活動10項目》
1 住民と行政・関係機関とのつなぎ役や連絡調整役を果たすこと
2 訪問調査や見守り等により支援ニーズを把握すること
3 高齢独居、高齢世帯の社会的孤立の防止に取り組むこと
4 地域住民へ介護・福祉サービス等の情報を提供すること
5 高齢者・障がい者の消費トラブル被害の防止に取り組むこと
6 認知症予防活動と認知症者を抱える世帯への支援に取り組むこと
7 障がい児・者等、弱者への災害時の避難並びに地域生活を支援すること
8 児童を取り巻く環境状況を適切に把握しておくこと
9 児童虐待防止活動の推進及び子育て一人親世帯への支援に取り組むこと
10 日常生活を支援(文書の読み書きなど軽易かつ頻度の低いこと)すること

以上10項目については、株式会社日本総合研究所が平成24年度セーフティーネット支援対策事業補助金社会福祉推進事業として行った「民生・児童委員 の活動等の実態把握及び課題に関する調査研究事業」におけるアンケート調査で用いられた設問「現在、対応することが多い活動」及び「今後、関わる必要性を感じている活動」に対する回答それぞれ25項目を、民生委員法及び児童福祉法が示す民児委員の職務並びに要支援者のニーズや時代の要請等を勘案し、筆者が取りまとめたものである。

願わくは、現在の民児委員の重い負担となっている数多くの活動を、この10項目により重点化、スリム化を図っていただき、なり手不足の解決に役立てていただきたい。

6 「活動記録様式の簡易化を」

民児委員が毎月作成し提出している活動記録は、最終的に厚生労働省でまとめられて「福祉行政報告例」として公表され、同省のホームページや政府統計の総合窓口(e‐Sat)に掲載される。

報告の目的については、厚生労働省から都道府県知事などへの福祉行政報告例実施に係る依頼通知に「報告の目的 福祉行政報告例は、社会福祉関係諸法規の施行に伴う各都道府県、指定都市及び中核市における行政の実態を数量的に把握して、国及び地方公共団体の社会福祉行政運営のための基本資料を得ることを目的とする」とある。

民児委員の毎月の活動結果の集約が社会福祉行政運営のための基礎資料となっていることは、誠に喜ばしいことである。しかし、毎月の活動記録の作成が民児委員、とりわけ、新任委員の大きな負担となり、次期任期を固辞させる一因となっている可能性があるなら、早急に対応を検討すべきである。

その手始めとして、活動記録の作成が民児委員にどれほどの負担となっているのかいないのか、その実態を把握すべきである。本来なら悉皆(しっかい)のアンケート調査を行って、民児委員の本音並びに負担の実態を把握することが望ましいが、事は急を要している。

まずは、単位民児協などで忌たんなく話し合いをし、活動記録の様式の見直しがなり手不足の解決に役立つと考えられるなら、組織の上部に話を上げ、最終的に全国民生委員児童委員連合会(以下、「全民児連」という)として厚生労働省に、福祉行政報告例(平成24年度承認「第40民生委員(児童委員)の活動状況」を変更されるよう要望すべきである。

なお、統計法(昭和二十二年法律第十八号)により総務大臣の承認を受けている福祉行政報告例(一般統計調査)を変更しようとするときは、あらかじめ総務大臣の承認を受けなければならない、とされている。
ちなみに、厚生労働省が総務大臣に変更申請を行い承認された件数は、平成26年度で24件である。

更に、仮の話であるが、活動記録の様式が変更された場合には、昭和36(1961)年度から続いた活動記録の統計が途切れることとなるが、これについては次のような対応が考えられる。

全国には単位民児協会長が10,965人いる(平成29年2月現在。全民児連「あなたのまちの民生委員・児童委員」から)。この方たちは活動記録の作成に精通されているので、現行様式による作成を継続していただき、一般の委員約22万人には変更された様式により記録を作成してもらう。

このことにより、なり手不足に少しでも歯止めがかけられるなら、変更することの意味は大きい。デメリットは、統計が二本立てとなることで、統計事務担当者の負担を増やすことである。

これまた仮の話であるが、民児委員の中心的な職務が「つなぐこと」にあることを踏まえた上でのゼロベースによる様式の見直しが望ましいが、当面の策として次のことが考えられる。

《4本立ての活動記録》

  1. 「相談・支援件数」の内訳の14区分を廃し、総件数のみを計上する

  2. 「その他の活動件数」の内訳の6区分を廃し、総件数のみを計上する

  3. 「訪問回数」の内訳の「訪問・連絡活動」「その他」を廃し、一括して計上する

  4. 「連絡調整回数」の内訳の「委員相互」「その他の関係機関」を廃し、一括計上する

7 「一斉改選時期の4月移行を」

年度末の3月ころに行われている自治会や町内会を始めとする「地域団体の長」選びがくじ引きで行われることも珍しくないというほどの地域役員のなり手不足の昨今、3年ごとの12月に行われる民児委員の一斉改選は、地域人材の獲得競争において著しい不利に立たされている。つまり、12月改選に向けて候補者選びが動き出す5・6月ころには、数少ない地域人材の所属は既に決まってしまっているのである。しかも、民児委員には、適格要件という極めて高いハードルがあり、候補者の発掘は容易なことではない。

地域役員のなり手に事欠かなかったであろう一斉改選が始まったばかりの昭和20年代のころと現在とではその状況は大きく変わっており、4月1日改選への速やかな移行が望まれる。
移行による効果は、なり手不足の解決はもとより、より優れた人材の確保や多くの付随的効果も期待できる。民児協においては、年度途中の役員交代や臨時総会開催も不必要となる。市区町村行政においても、民児委員及び民児協交付金事務の年度処理が可能となる、等が挙げられる。

なぜ、12月の一斉改選となったのだろうか、その経緯を次に記してみた。
昭和23年に公布、施行された民生委員法において、民生委員の任期は「委嘱後3年」となっていた(委嘱時期の違いにより任期満了時期もまちまちとなる)ものを、昭和28年の同法の一部改正で、「補欠の任期は、前任者の残任期間とする。」(同法10条)と改められ、かつ、附則の経過規定において、「この法律の施行の際現に民生委員の職にある者の任期は、第10条の規定にかかわらず、昭和28年11月30日までとする。」と改められたので、その後は12月1日の一斉改選となった(厚生労働省のホームページの掲載文から抜粋引用)。

法律改正が容易であるとは決して思わないが、附則に規定されている「任期を3年に達する11月30日までとする」を、「任期を3年に達する3月31日までとする」改正については、「厚生労働委員会委員」を始めとする国会議員の皆様や世間の皆様などの理解が得られるものと思われる。
要は、現行の12月の一斉改選で大きな影響を受けている市区町村や都道府県並びに単位民児協、ひいては全民児連等がいかに辛抱強く、かつ、本気でこのことを立法府や行政府にうったえていくかである。

8 「『民児委員活動費』『民児協活動推進費』の一層の増額を」

「社会奉仕の精神をもって・・・」職務に精励することをむねとする民児委員としては、言いにくいことではあるが、なり手不足解決のための条件整備の一環として活動費等の増額を要望することは許されることであろう。

されど、筆者の経験する限りにおいて、このことが話し合われたことは、全く無い。現職が活動費の額に関心を持たず、ただ現状に甘んじているようでは、活動環境は整備されない。お金に関することは、黙っていても「よきに計らっていただける」というほど簡単なことではない。

今大切なことは、なり手不足の解決に資する活動費をいかに確保するかということである。なり手に事欠いている民児委員を引き受けてくれる今後の新委員のためにも、現職の責務として声を大にし、このことに取り組んでいく必要がある。
とにかく、このことに関しては、全民児連のリーダーシップを大いに期待したい。

なお、小見出しに書いたように、「地区民生委員協議会活動推進費」についても一層の増額が必要であるとしたのは、増額により協議会の財政状況が改善されれば、委員一人一人に相当な負担となっている地区、町村、郡区市、都道府県、全民児連等への納入会費の減額も可能になると考えられるからである。そういう意味において、「地区民生委員協議会活動推進費」が平成29年度から、30,000円増額され1か所当たり230,000円となったことは誠に有り難いことである

ちなみに、活動費用弁償費の地方交付税交付金の措置は、昭和31(1956)年度の一人当たり年2,000円から始まり、その後年々増額され、平成12(2000)年度には60,300円の最高額となった。その後は財政状況の悪化により平成18年度には58,200円となり、平成28年度から59,000円となっている。

ところで、厚生労働省の御尽力により平成26年度から「民生委員・児童委員活動保険」が整備されたことは、活動条件の整備、ひいては、なり手不足の解決にも資することであって、これまた有り難いことである。

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