numérique / numérisation, industriel, social, santé
1)numérique / numérisation
2025年1月14日付け Le Monde の一面に、記事の要約が一つ掲載されました:La régulation du numérique de l’UE menacée
Les législations adoptées par l’Europe pour lutter contre la désinformation sur Internet et les abus de position dominante sont dans le viseur de Donald Trump et des géants américains de la tech.
タイトルに続く4行によれば、インターネット上の偽情報拡散と支配的地位の乱用に対する、EUの規制がテーマです。
従ってタイトル中の le numérique はインターネット (上のあらゆる活動) を指すと考えて良いでしょう。
更に 記事本文 冒頭には、要約として、
Bruxelles paraît démunie pour s’opposer à l’attaque menée par Trump et la Big Tech contre les législations européennes visant à réguler son espace numérique.
とあります。espace numérique は「デジタル空間」と訳して構わないが、誰が見てもインターネットを指しているでしょう。
実は今まで、le numérique がなぜインターネットを指すようになったのか不思議に思っていました。しかし espace numérique は numérique を本来の「デジタル」の意味に取っても自然な表現であり、且つインターネットを指していることも確実です。
もしかすると espace numérique をきっかけとして、le numérique がインターネットを指す表現として定着したのかも知れません。
というわけで、トップページの例文Bに戻ると、
La télé est en voie de numérisation.
(「TF1-M6合併」の記事 p.3 第二パラのタイトル)
numérisation は名詞 numérique の派生語として様々な訳し方があると思いますが、「テレビとネットの融合によるビジネスの可能性」といった論考も既に見られる。そこで、例文は次のように訳すのが妥当と思われます:
「テレビはインターネットと融合しつつある」
現に、スマホを用いた視聴者参加型のテレビ番組や、Netflix 等による動画のネット配信が始まっています。更に問題の例文が出てくる「TF1-M6合併」の記事によれば、将来的には視聴者のネット検索履歴を利用して、視聴者毎に特定のCMを流すことさえあり得るらしい。怖い、怖い…
ATTENTION !
Numérique/Numérisation にはまだ定訳が無い
2)industriel
仏和辞書では普通「産業, 工業」といった系統の語義が当ててあります。実際 industrie automobile 自動車産業、industrie aéonautique 航空機産業、等々であり、また les industriels がいわゆる「産業界」を指していることもあります。しかし最近のマスコミにおける用法を見る限り、- secteur industriel 製造業
- implantation industrielle (外国への) 工場進出
- friche industrielle 工場跡地
- 映像コンテンツの制作側に対して、テレビやDVD録画機等の「メーカー側」を指すのに les industriels が使われる
では、これでもう industriel には必ず対処できるかと思うと、さにあらず。2002年12月に Crédit Agricole が当時の Crédit Lyonnais に友好的 TOB を提案した際のル・モンド紙の記事に、projet industriel なる表現が使われていました。「単にバランスシートをつなぎ合わせるだけの projet financier ではなく、事業部門の統合から店舗の統廃合にも踏み込む」という趣旨かと思いますが、一言でどう訳せば良いか未だに分りません。
更に2015年1月の France Culture で、Le Monde 紙の新本社ビル建設に際して印刷所をどうするかという質問に対し、同紙のトップが次のように答えていました:
On a depuis un moment une question qui se pose, qui est de la nécessité pour le Groupe Le Monde d'avoir son imprimerie. Vous le savez, il y a encore quelques dizaines d'années, il était de bon ton en France de considérer que son indépendence éditoriale était liée au fait de détenir son outil industriel...
outil industriel は単に imprimerie を繰り返さないための表現とも取れますが、敢えて訳せば印刷設備云々しか思い付きません。
3)social
この語を目にすると、つい「社会, 社会的」が口をついて出てしまいます。実際『小学館 ロベール 仏和大辞典』を見ても、語義のトップにそう書いてあります。しかし現代フランスの新聞・テレビ等における実際の用法を見る限り、「労使, 雇用」または「福祉, 社会保障」をまず思い浮べる方が良いように思われます。相変らず全て文脈次第ですが、幾つか例を挙げますと、- problèmes sociaux 労使問題/雇用問題
- dialogues sociaux/relations sociales 労使対話/労使関係 (労務)
- conflits sociaux 労使紛争、労働争議、スト
- couverture, protection sociale 社会保障
- charges sociales 社会保険料の企業負担分
- logements sociaux [低所得層向けの] 低家賃住宅
- mesures sociales, traitements sociaux 雇用調整措置/福祉に関わる措置
- coût social [上記に関わるコスト]
- services sociaux 福祉サービス
- politique sociale 労働政策/福祉政策
4)santé
本来は「健康云々」ですが、最近は「医療云々」と訳すべき例が多く見られます 。- système de santé 医療システム
- coût de la santé 医療コスト
- professionnels de la santé 医療従事者
5)finance/financier
a) 名詞 finance- 複数:Ensemble des recettes et des dépenses de l'Etat; activité de l'Etat dans le domaine de l'argent; science régissant cette activité (Grand Robert).
例えば les finances publiques 財政 (云々) - 単数:Grandes affaires d'argent; activité bancaire, boursière (Grand Robert).
例えば la finance [分野, 業界等の意味で] 金融
- directeur financier d'une entreprise 財務部長
- états financiers [企業会計上の] 財務諸表 (但し同じ綴りの名詞として、企業の財務担当者, 金融投資家等の意味もあり)
6)pollution/polluer
気候変動問題が注目されるようになって以来かと思いますが、本来の意味、つまり工場などから危険物質が垂れ流されて云々の場合の「汚染」と違う使い方が頻繁に出てきます。即ち、CO2排出 (量) の意味で使われるのです。お気を付け下さい。以下に一例を挙げます:
Est-il vrai que la France représente "1% de la production mondiale de CO2" ?
追伸 この項目でご紹介するケースは、日仏両語の間で言語による世界の切り取り方が大きく或いは微妙に異る典型的な例、とも言えます。だからこそ、文脈次第で当てるべき訳語が変ってくるわけです。
そもそも世界とその中に起こる森羅万象は、語彙の全体によって無数の切れ目が入れられて初めて、人間にとって把握可能なものになる... というのは受け売りですが、こうした発想に興味のある方は、拙文「早期英語教育への疑問」 をご覧下さい。