Attention !
numérique / numérisation にはまだ定訳が無い

le numérique, numérisation をそれぞれ「インターネット」「インターネットとの融合」と訳すのが適切と思われる事例をご紹介したが、この二語にはまだ定訳が無い。

もちろん文脈次第であるし、筆者により意味するところが揺れているようでもある。

でも、最近このような用法が増えてきているのは間違いない。従ってそのつど自分で、この二語の意味するところを文脈に基づいて考え、訳語を選ぶ必要がある。

le numérique を IT と訳す向きもあるようだ。しかし IT と言ったら、工場内の生産管理から、鉄道の運転・制御、航空機の操縦・管制… とカバーする範囲が途方もなく拡がり、現代社会で IT に無縁な活動など、禅寺での座禅くらいではなかろうか (笑)。

とりわけ、

1)numérique

に挙げた三つの文脈で IT と訳すのは、le numérique が具体的に意味するところとずれるのではないか、と不肖小林は考える。

老婆心ながら付け加えると

 
単純に le numérique で検索しても、恐らく

 le numérique = Internet

という説明は見付からない。

かなりしつこく検索して回った印象からすると、仏語の Internet は日本語の「インターネット」よりもカバーする意味が狭い感じがする。

日本語の「インターネット」は、ネットワークとしてのインターネット上で行われるあらゆる活動 (特に Web) を含んで使われることが多いのに対し、仏語の Internet は、「コンピュータ・ネットワークのネットワーク」という元々の意味に近い形で使われているように感じられる。

それで、日本語の「インターネット」に相当する語、ネット上のあらゆる活動まで含む語として、le numérique が広まったのではないか。

敢えて単純化すれば、

 Internet ≠「インターネット」= le numérique

だからこそ、文中の le numérique を訳すには「インターネット」が一番相応しい例が幾つもあるのに、le numérique = Internet という説明は見付からない、という状況が生じた、という仮説は如何でしょう。


注の一 
これだけ、numérique, numérisation を条件反射的に「デジタル云々」と訳さないように、と強調したあとで申すのも何だが、全ては文脈次第。「デジタル云々」と訳すべき状況も勿論ある。

注の二 
ミーティングの日本側にある程度仏語を解する人がいることが多くなってきた。ある程度の人に限って、「キミ〜、フランス側が numérisation と仰っているのに、何で「デジタル化」と訳さないのだ!」と難癖を付けてくる可能性がある。「済みませ〜ん、ここは文脈上、明らかに「ネットとの融合」の意味で使っておいでです」と言い切る自信が無いと難しい… 或いは日本側の疑問を伝えて、説明してもらうのも良い。