ビオ7  野生酵母の使用


1、酵母(英 イーストyeast)は、単細胞性の微生物であり、一般的には出芽酵母のことを差す。出芽酵母とは、出芽によって増える酵母の総称。出芽とは娘細胞が母細胞から芽吹くように生じる細胞分裂のこと。その多くは菌界の子嚢菌門に属している。子嚢菌は子嚢(胞子を含む袋状構造)を形成するグループである。
 酵母はサイズとしては、カビよりも小さく、細菌よりも大きい。
 単に出芽酵母と言うときは一般に、その中の一種Saccharomyces cerevisiae (サッカロマイセス・セレビシエ)を指す。
 出芽酵母は糖を代謝しアルコール発酵を行なうことが古来より知られていた。Saccharomyces cerevisiaeという学名はラテン語の糖Saccharum と ビールcerevisia に由来する。同種の亜種はパンや酒(ビール、ワイン、清酒など)を作る際に用いられており、人類にとって最も馴染みの深い有用微生物の一つである。

2、醸造発酵の歴史 酒が出来始めたころの話は省略して、そのシステムについての歴史に限定。
 (1)レーウェンフック(1632-1723)による顕微鏡の発明と微生物の発見(1673)
 (2)ラヴォアジェ(フランス1743-1794)がアルコール発酵の定量分析を行い、糖がアルコールと二酸化炭素に分解される作用であると述べる(1789)。
 (3)18世紀〜19世紀中ごろ 微生物の発生起源についての自然発生説(レディに代表される)と生物発生説(スパランツァーニに代表される)の争いー論争A
 (4)1837 ベルツェリス(スウェーデン1779-1848) 発酵は一種の触媒(化学反応においてその反応を促進させる物質を触媒という)作用であることを発表
 (5)19世紀中葉 ドイツのシュワン(生物学的発酵説〜アルコール発酵は酵母という生命ある微生物によって引き起こされる)とドイツのリーヴィッヒ(科学的発酵説〜アルコール発酵は分子の振動が糖に伝わると、糖が分解してアルコールができる)の争いー論争B
 (6)1857 この年パストゥールは、「発酵物質を熱処理すると発酵が起きない」ことを突き止め、有機物の発酵や腐敗が微生物によるものであることを解明、「微生物が自然発生することはない」ことを明らかにした。すなわち、その実験としてはチリが入らないようフィルタを通した空気に容器に煮沸した肉汁を曝露しても、また、フィルタがなくとも、有名なスワンネックのフラスコを使い、チリが入らない工夫として長い曲がった管を通して空気を入れれば、肉汁中には何も発生しなかった。したがって、肉汁に発生する微生物は外部からのチリについた胞子などによるのであって、肉汁中で自然発生するのではないことを証明してみせた。このようにして、パスツールは自然発生説に致命傷を与えた。ー論争Aに関し決着。
 また、パストゥールは、論争Bに関し、アルコール発酵過程が微生物(当時は酵母の研究)活動に基づくものであると発表(ただしこれは酵素という無生物が起こすものとはパストゥールは証明しなかった)。これに対し、リービッヒは微生物ではなく、細胞外の無生物因子(当時は発酵素(=fermente)という用語を用いた)が発酵に関与しているとして、この説を否定した。
 (7)ハイゼン(デンマーク1842-1909)によるビール酵母の純粋分離の成功(1883)〜培養酵母への途がひらかれた。
 (8)1897 ブフナー(ドイツ1860-1917) アルコール発酵が酵母の菌体から由来した酵素によって起こることを証明(無細胞アルコール発酵)ー論争Bに関し決着 ガラスの粉末で細かく砕いた酵母からの抽出液により生体外で発酵現象を起こさせることを発見し、その有効成分(酵素ー現在では1946年のサムナーおよびノースロップにより、酵素の本体がタンパク質であることの証明がなされた)にチマーゼという名前を与えた。すなわち酵母は細かく砕かれた結果生命と細胞を失ったにもかかわらず発酵が起こったことを発見したのである。

3、野生酵母と培養酵母について
 まずはイメージをつかむためワインの事典(柴田書店)83p-から原文のまま引用させていただきました。
 「ワイン醸造においても果汁や発酵初期のモロミにはブドウに付着して混入したいろいろな酵母が見られる。これら野生酵母の多くは果汁に添加される亜硫酸と発酵の進行にとなって生成するアルコールによって生育が阻害され、発酵中期以降に限られた種類の酵母のみとなる。
 もろみ中で最後まで残り、アルコール発酵の中心的役割をなす酵母はサッカロミセス属に属し、広く酒類の醸造やパンの製造に用いられる酵母と同族の酵母である。
 古くはブドウに付着した酵母による自然発酵でワイン製造を行なっていたが、高品質なワインを大量に安定して製造することが難しいことから、近年では優れた醸造特性を有するワイン酵母を果汁又は果もろみに添加することが一般的になっている。特に活性を保持したままの酵母を乾燥保存する技術が進み、輸送と長時間の保全が容易で必要なときに、すぐに使用できる乾燥酵母の利用が多くなっている。
 優良酵母の必要条件として、発酵性が良好、亜硫酸耐性、酒石酸耐性(低pH耐性)、揮発酸低生成能、高糖耐性などの性質が考えられる。」

 野生酵母のなかには、有害な産膜酵母なんかも含まれるため、以上に述べられたように野生酵母の使用が必ずしも成功するわけではないというのがこれまでのワイン醸造界の常識であったものが、ビオの世界により、テロワールの特徴を生かすためには野生酵母の使用が望ましいというように意識が変革していったのであろう。
 これ以上は現在のところ能力不足なので、ニコラジョリーの次のコメントで終わりとしたい。
 「ビオディナミでは、毎年、酵母は大変多数増加し、各ヴィンテージの特有性を引き出すものである。工場で製造された酵母は、大体、芳香性のあるもので、AOCワインが自然に出す味を壊し、大変奇妙な味に変えてしまう。」