ビオ(5) 農薬って何?


1、農薬の定義
 農薬の定義には様々なものがあるが、農薬というときの最大公約数としては、有害生物から農作物(植物)を保護するために使われる薬剤のことで、防除対象により、主として、殺虫剤(害虫)、殺菌剤(カビや細菌)、除草剤(雑草)の3分類をすることが一般的である。

2、農薬の歴史
 (1)1万年前に農業が始まった。
 (2)紀元前のギリシャローマ時代に麦の種にワインなどを浸したり、また、オリーブ油の搾りかすが殺虫剤として使われたとも言われ、また紀元前1000年には畑に硫黄をまくことが行なわれた記録があるそうで、これ以後硫黄を燃やし害虫を防除することもおこなわれ、この燻煙法は1500年頃まで続けられた。硫黄は最も古い農薬といえる。
 (3)日本では1700年前後、鯨油や菜種油を使った注油法が発見されている。この方法は、まず油を水田に注いで水田水の表面に被膜をつくります。次にイネを笹竹などで払って害虫をそこへ落とします。落ちた虫は油が体に纏(まと)わりつき気門をふさがれ窒息死してしまいます。現在でも油を果樹などにかけて虫を殺すことは行われています。
 (4)しかし、近代農薬ができるまでは世界的に祈祷やまじないが主となっていた。
 (5)近代農薬の誕生〜除虫菊、デリス根
 1800年代になると、農薬にも新たな動きがでてきました。コーカサス地方で除虫菊の粉を殺虫剤として用いた。またデリスという植物の根も用いられた。
 1851年にフランスのグリソン氏は石灰と硫黄を混ぜた物(石灰硫黄合剤)に効果があることを発見した。
 1873年 ボルドー液発見 ボルドー大学のミヤルデ教授が硫酸銅と石灰の混合物がブドウのべと病に著しい予防効果のあることを発見した。
  (6)現代農薬の時代
 1938年には、農薬史上最も重要な発見とされる「DDT」の強力な殺虫活性がスイスのミュラーにより発見された(ミュラーはこの功績によりノーベル賞。現在は危険性のため使われていない)。これは人間が大量に合成可能な化合物を、殺虫剤として実用化した最初の例で、その後の農薬は全てここからスタートしたといっても過言でない。蚤や蚊、しらみ、マラリアの撲滅には2次大戦後ものすごい威力を発揮した。この後も、1941年から1942年にかけては、フランスとイギリスでBHCが、1944年には、ドイツでパラチオンが発見された。
1934年にアメリカでジチオカーバメート剤の殺菌活性が発見された。
1944年にはイギリスで2,4-PAの除草活性が発見された(除草剤の発見)。
 (7)今日の農薬 1962年、環境運動家のバイブルともいわれる、レイチェル・カーソン女史の「沈黙の春」の出版を機に殺虫剤DDTなどが自然界で分解されにくく環境に蓄積し、思わぬ害を招く可能性を指摘され、危険とされる農薬の淘汰が始まった。農薬の毒性、蓄積性(残留性)、自然環境への影響などがクローズアップされ、年々規制が厳しくなっている。

3、農薬の内容
 (1)殺虫剤 昆虫の神経に作用して麻痺させたり異常に興奮させたりするものや、昆虫の脱皮を阻害したり、産卵数を抑制することにより防除するものもある。
 (2)殺菌剤 菌の細胞壁を作る酵素など菌独自の酵素を阻害することにより防除する。薬剤が葉の上に残り付着した病原菌の酵素を阻害して予防するもの(非浸透性殺菌剤)が伝統的であるが、最近は、薬剤は葉や根から吸収されて予防だけでなく既に植物に侵入した菌にも効果があるものがある(浸透性殺菌剤)。
 (3)除草剤 植物の成長ホルモンを撹乱したり、光合成を阻害したり、植物独自のアミノ酸合成酵素を阻害することにより防除する。農作物にも影響しないかという問題があるが、たしかに選択性を出すのは難しいが、薬物取り込みの差や薬物が農作物においてのみ分解されることを利用して影響を少なくするという。

4、葡萄、ワインと病気、農薬

カビ病が現在のブドウの病気の主流となっている

 (1) Mildioe べト病 ボルドー液(硫酸銅+生石灰+水) カビ由来の病気 殺菌剤
    1878年にフランス上陸。
    @病原菌は、糸状菌・べん毛菌類に属するPlasmopara viticola (Berkeley et Curtis) Berlese et de Toni
    A被害の様子 葉でははじめ淡黄色の輪郭の不明瞭な斑点が現れ、斑点の裏面には白色のかびが生える。発病が多いと初秋ごろほとんどの葉が落ち、果実の生育が妨げられる。幼果がおかされると、その表面は鉛色に硬くなり、肥大は止まってその上に白色のカビが現れる。未熟果は果梗から侵されて紫黒色となり、ミイラ化する
    B防除 ボルドー液:銅イオンが強い殺菌効果を持つことは古くから知られていた。作用特性は不溶の銅化合物を作物上に付着させ、植物の有機酸や雨水の炭素イオンにより銅イオンが溶出し、病原に吸収されて原形質におけるSH活性基を持つ酵素の阻害を引き起こす保護殺菌剤であり、世界で有機農産物にも使える農薬の一つとして登録されている(以上、ワインの事典柴田書店から引用させていただきました)。しかし、銅が土壌に蓄積することが近時問題視され、いかにボルドー液使用を少なくするかがビオを実践している栽培農家ワイナリーの悩みの種である。

 (2)Oidium  ウドンコ病 硫黄 カビ由来の病気 殺菌剤
    ウドンコ病 1855 格付けの年にフランス上陸
    @病原菌 Uncinula necator というカビの仲間
    A被害の様子 5月上旬から、10月にかけて、新梢、若葉、花穂、果粒に、Uncinula necator というカビの仲間が繁殖する病気。新梢全体がカビで白くなり萎縮したり、葉の表面が白色になったのち褐変したり、果房が白くなりやがて果粒が固く「石ブドウ」と言われる状態になるほど被害が大きい。開花前から7月中旬までの間、硫黄製剤などの防黴剤を散布し防除に努める(以上ワインの事典から引用)。
    B防除 硫黄を含んだ農薬、たとえば石灰硫黄合剤。硫黄は自然界にも存在するため、ボルドー液ほどの問題意識はないと思われる。

 (3)Pourriture Grise 灰色カビ病 ロブラール水和剤 カビ由来の病気 殺菌剤
   @病原菌は糸状菌・不完全菌類に属するボトリティス・シネリアでカビの一種。この菌は軟化腐敗させ、灰色の分生子(胞子)を形成するためその名がある。
   A被害の様子 ブドウの葉や果実を灰色のカビで覆ってしまう
   B防除 ロブラール水溶液 

 (4)Applerot  晩腐病(炭そ病) ベンレート水和剤 ジマンダイセン水和剤 カビ由来の病気 殺菌剤
  @病原菌は、糸状菌・子のう菌類に属するGlomerella cingulata  Spaulding et Schrenk
  A被害の様子果実のほか花穂、葉 。主に成熟期の果房に発生して果実を腐らせる。
  B防除 ベンレート水和剤 ジマンダイセン水和剤


5、カビ、細菌、ウイルスの違い(参考)

カビ、細菌、ウイルスは、いずれも微生物の一種とされる。微生物とは、肉眼でその存在が判別できず、顕微鏡などによって観察できる程度以下の大きさの生物を指す。生物の定義に自己増殖能力を挙げるとすると自己増殖能力を有しないウイルスは微生物との限界が微妙となるがここでは一応入れておく。

カビとは、菌類の一種であり、主に糸状菌を指す。菌糸と呼ばれる糸状の細胞からなり、胞子によって増殖する。細菌よりもカビのほうが複雑な形態と染色体を持っている。一方ウイルスはそれ自体は細菌ではなく、他の生物細胞に寄生して細胞内に侵入したときだけその特徴を見せる。

 菌類より小さくて1ミクロン以下の菌は細菌と呼ばれる。細菌は、菌の形(球菌・かん菌・連鎖球菌)によって大別され、さらに繁殖に際して空気を必要とする好気性菌と空気を苦手とする嫌気性菌の2種類があり、細胞分裂により倍々ゲームで増殖していく。この細菌は菌類(カビ)に似た性質はもっているが、「細菌類」として別の仲間とされます。
 ウイルスは一般に細菌などよりもずっと小さい生物で、電子顕微鏡でなければ見ることはできず、また、ウイルスは非常に単純な構造でできており、DNA/RNAとそれを包む殻で形成され、その形には多くの種類がある。