境界亭日乗「喉芸あれこれ」(1)

今までの日乗で書いて来た声質や発声がらみメモは(1の前)に収録


<7月某日>
神野美伽さんの発音と助詞の表現
●発音:
 “キレ味がいい”とお褒めいただくこともありますが、これは若い頃から“唇、舌、歯”の遣い方を訓練してきたからです。私は大阪出身で、語尾が流れがち。デビュー当初はもっと歯切れよく、もっと歌詞をはっきり発音出来るように、ものすごく練習させられたものです。生前の松尾和子さんには♪逢えなくなって〜の“っ”に命を賭けて唄っています、と教えられました。発声も大事ですが発音も大事です」 また韓国語を習ったことで、普段遣っていない口周りの諸筋肉の駆使で、逆に日本語の発音に磨きがかけられたとも言う。
●助詞の表現: 
07年7月11日発売『ふたりの旅栞』で…。唄い出しの♪しあわせが〜の「が」、♪見えますか〜の「か」をはじめ「てにをは」などの助詞表現で歌の色が変わってきますから、私は常のそこを(助詞の表現)意識して唄っています。今回はそれら助詞で温かさ、」柔らかさ、女らしさが出せたかなぁと思っています。

鳥羽一郎さんの野太い低音の「男声」は演歌・歌謡曲の“お宝”です

 
演歌の男性歌手で高音が得意の方は皆さん喉が強いんです。でも数曲聴いたら、みんな同じに聴こえちゃうんだなぁ。(同感です)。J−POPも男も女もファルセットばやりで、鳥羽さんの「男声」を聴くと本当にホッとします。

<6月12日(水)>
都はるみさんのうなり 
昨日10時頃のNHKを観たら、都はるみが自身の「うなり」について語っていた。「歌手を目指してレッスン開始。幾多の歌手志望者の中で目立つためにと、母が上方の芸人「タイヘイトリオ」のタイヘイ夢路の浪曲うなりを覚えるように特訓を強要。いやで逃げると襟首をつかんで声をださせるんです。練習するとお小遣いをくれるんです。お腹から声を出さなきゃなりませんから出来るようになるまで半年はかかりました」。それでコロムビア歌謡コンクールに出場したら、多くの出場者審査にくたびれていた審査員が、そのうなりにハッと眼を覚まして・・・」。「人生の歩き方」の再再放送らしい。

田中優子「芸者と遊び」から「芸」集め… 
芸者、芸人、芸妓、男芸者。女芸者、町芸者、元祖は深川芸者、その別称は羽織芸者、色を売らない吉原芸者、芸能、芸域、芸道、芸苑、芸才、芸事、芸術、芸処、芸談、芸当、芸風。 曲芸、文芸、遊芸、手芸、農芸、武芸、工芸、技芸、至芸…。辞書で「芸」は、習って身につけるわざ。特に伝統的な演劇・音楽などの一定の型に基づく表現の仕方。

藤あや子さんの歌唱遍歴
 出身が民謡です。当初はソプラノのきれいな声でしたが、民謡は高い声“甲”が勝負。甲の声を出すべく練習で喉を潰しました。病院に行けば“唄っちゃダメ、喋っちゃダメ”。民謡の先輩方は“さぁ、今こそ唄って甲を出せぇ〜”と言う。そんなことで 3回は喉を潰しました。ですから今では並のことでは潰れぬ喉です。21歳から歌謡曲の練習を始めて、20代半ばに演歌歌手に転向しました。高音はいくらでも出ましたが、今度は中低音が課題になってきました。最初はポップス系のヴォイス・トレーナー、次にオペラの先生について発声・呼吸を勉強。今の声、演歌歌唱を身に付けるのに約 20年かかりました。07年3月21日発売『無情の酒』は初の本格マイナー演歌。聴き応え充分。同シングルにはスタジオライヴ風一発録り歌唱がサービストラックで収録。巧い!です。あの色っぽ仕草の裏側のある、得難い実力に注目を…。

<4月19日(木)>
島倉千代子さんの歌詞を覚える秘策
 昭和13年生まれ。昨年は『それゆけGOGO』の歌詞がどうしても覚えられないと嘆いていて、テレビで見た仲代達矢さんの台詞覚えの格闘ドキュメントや、某から聞いた大御所俳優たちの抱腹絶倒カンニングあれこれを話して励ましたもの。さて、今年の新曲『おかえりなさい』はレコーディングと同時にもう覚えたとおっしゃった。歌詞覚えの秘策は…と伺えば、声を殺してこうおっしゃった。「あるんですよぅ、暗記のサプリメントが。その名も<暗記の達人>。受験生が飲んでいるんですって。これを飲んだら一発で覚えました」。ホントかいなぁ〜。69歳、声が以前のように出てきて張り切っています。

<4月19日(木)>
喉芸の達人・角川博さんの喉芸談義あれこれ
●ジャンル別の響かせ方:歌は喉から出すんじゃなくて響かせるんです。楽器ですからね。三橋美智也さんをはじめとする民謡系歌手は頭の上の方で響かせつつ抜ける、浪曲系は横や下でまわす。それを粋にまわせば都々逸、端唄になる。ロック系は声を頭の後ろにぶつける感じが多いのかなぁ。
●ブレスについて:J−POPにはブレスを“音”にしている方が多いですね。五木ひろしさんは鼻呼吸が優れていますからノーブレスのように聴こえます」
●音の高低について:一般の方は、高い音を頭の上と意識しているケースが多いけれども、これは逆なんですね。高い音は頭の下を意識して、低い音は頭の上を意識して響かせるといいんです」
●角川博の発声法:フフッ、皆さんのいいとこ取りです。あれはいい音色だ、その響きがいい…そう思えば次々取り入れたごっちゃ混ぜが僕の歌唱です。
●艶歌とは:基本的には男が唄う女歌だと思っています。女性が女の艶を唄うとグチャグチャにいやらしくなるケースが多いんです。ですから女性が艶歌を唄う場合は、自作自演風ではなく客観的に唄ってちょうどいいんです。思い入れが強すぎると遅れたり、ベトッとなりがちです。

<4月18日(水)>
伍代夏子さんの「隠しブレス}
「急ぎブレス」
「♪ひとりでは漕げない〜は気持良くカーンと声を出して♪ひとりでは〜と♪漕げないの間で鼻でちょっとする
“盗みブレス”。♪沖も見えない〜は重く暗い感じの声で低音をしっかり。2行目の♪あなたと肩寄せ〜は鼻にかけて甘えた感じ。♪竿を差す〜の「竿を」と「差す」は演歌っぽく各2回づつまわしましょう。♪辛い浮世の〜はリズムにしっかり乗って…。♪夢を追いかけ 船出する〜は「夢で」でポンと間を入れて♪追いかけて〜。ここから大きく張りますから、スッと“急ぎブレス”して♪船出する〜 長音符をたっぷり引っ張って下さい。色をつけて膨らませる気持ちがいいでしょう。♪この手で〜はリズムを入れて。♪しあわせ〜は可愛くにこやかに。ここで明るくしないとずっと暗い歌になってしまいますから、将来の幸せを確信する表情がいいでしょう。最後の♪ふたり舟〜は粘って押して伸ばして粘ってです。舟旅がずっと続く感じです…」 ※伍代夏子はイメージクリエイター:詞から彼女ならではのイメージで一つの物語を創り上げてから、自身の楽曲イメージを固めての歌唱方針を決めます。新曲インタビューでは一編の詞から長編物語を語っていただけます。

<4月16日(月)>
天童よしみさんのオールマイティー
 タメ、巻き舌、コブシ、ビブラートを利かせたメジャー演歌は独壇場で、マイナー調もジ〜ンと染みるいい味を発揮。一方『珍島物語』やポップス系カヴァーのストレート歌唱もパワフル。文字通りのオールマイティー・シンガーゆえに「天童らしさ」も模索が続く。35周年シングル『なんで泣く』でこう語っている。「…♪泣くな なんで泣く〜の太字の部分が一番高い音です。特に最初の「な」が母音化して長音符で上がる部分は、民謡でも浪曲でも演歌でもなく、この歌の最も聴かせどころ。理屈ではない物哀しさが出せたかなと思っています。今までになかった響きです。そして2行目の♪たかが女ゆえ〜のがが最も低い音で、この響きも好きです。その意味では“天童らしさ”のひとつがここで出た…と思います」

<4月10日(火)>
4月2日に石川さゆりさんに聞いた、桂米朝師匠の芸能生活60年を祝う会のお話
 3月24日、東京・渋谷のセルリアンタワー能楽堂での「桂米朝師匠の芸能生活60年を祝う会」のこと。・・・能楽堂は凄い磁力があるんです。ですから伝統芸の皆さんは、その磁力に負けまいと凄い迫力で挑むんです。でも米朝師匠は完全に肩の力が抜けていて、逆にあの舞台を自分の空気にしちゃったんです。その代わりというのもおかしいんですが、噺が何度も同じ個所を堂々巡りしちゃって終わらないんです。出囃子じゃなくて終りの太鼓をなんていったかしら、太鼓が鳴ってさっと引き上げたんですが…。高座で眠っちゃた志ん生師匠に、お客様が「眠らせておいてやろうよ」って言ったんですってね。共にまさに「芸は人なり」の領域です。で、楽屋にご挨拶に伺ったんです。「今日は素敵な空気を共有させていただいて、とてもうれしかったです」。そうしたら「いえ、今日私は落語をやらなかったん。今度は私がちゃんとやる時にまたいらして下さい」って。
 …あたしはこんな芸談ができる石川さゆりも「芸は人なり」の領域に踏み込んだなぁ、と思ってうれしくなってきた。さゆりさんの仕事を続けてきて本当に良かった。


<4月2日(火)>
大月みやこさん/シンプルな楽曲は素材(音色)が勝負です。わたしの今の素の音色は明るいんです。
 大月みやこさん、3月28日発売の新曲『ひとり語りの恋歌』は、ここ最近続いたドラマチック歌謡から一転。「シンプル・イズ・ベスト」と言える楽曲。「シンプルだから素材(音色)が勝負だと思いました」。その中低音メロディーの音色が実に明るい。「音色は気持ちが先行します。暗い気持ちなら暗い音色になる。意地悪だったら意地悪な声になる。私は40周年をいささか過ぎてまして、物の考え方が“大らか”になってきたように思います。何をするにも肩肘を張らずに考え、行動できるようになってきた。そんな変化があって生まれた音色だと思います。今までドラマチック歌謡で歌唱をいかに組み立てて唄うかが勝負で、その分、普段の大月みやこが隠れてミステリアスになっていたと思いますが、その意では“素”の大月みやこが全面に出た初めての楽曲かも知れません。今、私は明るいんです」。ジャケット写真を見ると、実に穏やかないい表情で写っている。

<3月19日(月)> 石川さゆり35周年パーティーで宴最中に報道陣に呼び込まれて…
あの娘(こ)は芸が好きだから 北島三郎さんはこう言った。「あの娘(こ)は芸がすきですから、その定められた道を励めばいい。石川さゆりにはさゆりの形がある。これからはそれをもっと皆さんの方へ放って欲しい」 (芸に言及で、さすが御大です)
さゆりちゃんならではの道
 五木さんはこう言った。「彼女は自分の生き方、自分らしさをしっかり定めて歩いているから一本芯が通っています」 (北島さんと同じところを見ています。さすがです)

<3月3日(土)>
石川さゆりさんの3月25日発売 『狭霧の宿』 がらみの…「喉芸談義」
<艶歌>
 って、やはり声だと思います。その艶や響き。そして最も肝心なのが、それらが汚れていないことだと思います。
<新たな音色> 最近、10代や20代の頃のピーンと張った声とは違う、もうひとつの自分の音色…深いまろやかな音色を見つけたような気がしています。加えて声の巾(音域の巾)も広がってきたんじゃないかなぁと思っています。とてもいい時期(年齢、キャリア)に入ってきたと思います。これから5年間が自分でも楽しみです。※あたしは劇場公演「長崎ぶらぶら節」の劇中歌、あの2小節に亘る長音符多様 『歌、この不思議なもの』 を連日舞台で発揮の、あの声が契機で新たな音色を見つけたんじゃないかなぁ、と秘かにそう思っている。
<声のコントロール> いろいろな音色、太さ細さ、深さ浅さ、押し方引き方、それらの巾が出来、それらをコントロール出来るようになったということは、35年間に亘っていろんな歌に出会ってきた結果だろうと思っています。

<3月1日(木)>
木遣声 
 
圓地文子「女坂」に…定紋付の印絆纏で門に立っていた鳶の一人が木遣声で叫びながら…とあった。「木遣声」。今は遣われない言葉だろうが、錆の利いた渋い声のことだろう。無論、辞書には載っていない。
 
ついでに定紋付(じょうもんつき)も辞書に載っていないが、家を代表する公式の紋のこと。女性が嫁いだ後に実家の紋をそのまま用いるのは「女紋」。

<2月21日(水)>
大川(栄策)節とは?
 このほど、「駅」が10万枚突破でレコード協会よりゴールドディスク賞を受賞。次作「再会」も好調で、新曲は3/21「稲妻」。そのカップリングに約20年前の「明洞の夜はふけて」を収録。若き日の声を振り返りつつ、大川節について語ってくれた。…若い頃の声の艶、伸びは今より断然良くて、何も考えなくても唄えば届くんです。歳をとるに従ってそれらが衰えてきますから、業でカヴァーするんです。詞の物語、言葉、人物描写を深く考えて、さまざまに声に変化をつけて表現するようになる。この歌唱組み立てが得がたく楽しくなってくるんですね。これはねぇ、女性が素肌の美しさが失われるに従ってメイクの技を身に付けるようなものですよ。「これが大川節だ」と解説して下さる方がいらっしゃいますが、きっとそれは正解なんでしょうが、僕にはそういう意識がまったくないんです。敢えて「大川節とは」と問われれば、前述した物語、言葉、人物のとらえ方だと思うんです。こうとらえたからこう唄った・・・。プロですから、とらえたものが自然に喉に出る。そのとらえ方が「大川節」なんだなぁ。…氏はワンフレーズごとに、だからここでこう唄ったと詳しく紹介してくれた。氏のオフィシャルサイトを見ると、「大川栄策カラオケ教室」があって、そうした歌唱組み立てが詳しく紹介されていて興味深い。

<2月18日(日)> 
喉芸を中心に他のエンタテインメント料金比較表
内容 (1) (2) (3) 備考
五木ひろし御園座一ヶ月公演 15,800 9,400 4,800 1部が芝居、2部が歌のステージ
佐久間良子主演御園座 大奥 14,000 8,500 4,500 芝居のみ
新春花形歌舞伎  14,000 8,500 4,500 坂東三津五郎 中村橋之助など
御園座1日(短期公演)石川さゆり 10,000 6,000 3,000 通常コンサート価格だろう
今井美樹 国際フォーラムA 7,500  全席指定 ニューミュージック料金
EXILE さいたまスーパーアリーナ 7,800 全席指定 JーPOP料金
C.アズナブール 国際フォーラムA 20,000 15,000 往年のポップスシンガー
D.ギャレット オペラシティ 6,500 5,500 4,500 若きヴァイオリニスト
CATS 人気ミュージカル 11,550 9,450 6,300 c)3,150
鈴本演芸場(新宿。末廣亭もほぼ同じ) 2,800 2,400 2,400 一般、学生、シニア
映画ロードショー 1,800 1,600 1,100 一般、高・大生、小・中・シニア

数日前に第30回日本アカデミー賞発表があった。ハリウッド映画不調の一方、日本映画がすこぶる元気復活だ。昨年は年間400本の映画が出来たとか。足繁く映画館に通う人々が多く、総興行額は相当なものだろう。昔の音楽産業は豆腐業界と同じ規模の売上だったような記憶があるが、今はどうなっているのだろう。
…そんなことでエンタテインメントの料金が気になってきた。あたしはシニアだから映画なら1,100円で観れるが、肝心の演歌歌手の公演やステージはとても自腹じゃ高くて観には行けない。追っかけファンたちの財力が羨ましい限りだ。まぁ、貧しい年寄りのあたしにとっては、寄席料金までが許容範囲だろうなぁ。劇場だと当日売りの3階席立ち見がC席半額で入れたりして、自腹の場合はそんな観方をする時もある。中高年を主対象にする演歌・歌謡曲だが、この料金は裕福中高年層対象、あるいは超マニア世界のような気がしないでもない。ここからいろいろな事が見え、考えられるような気もする。その一つは…演歌の低迷が叫ばれていても、不滅の秘密がここにもあったりするんですね。
 おっとぅ〜、玉三郎の篠山紀信撮影で50万円の写真集が出るとさっ。


<2月13日(火)>
藤あや子さんの喉
 私、元はソプラノのきれいな声だったんです。民謡時代に「甲」の声を出さなくてはいけませんから、その練習で声を潰したんです。病院に行けば「唄っちゃダメ、しゃべっちゃダメ」という言うけれども、先輩方は「今もっと出さなければダメよ。さぁ、唄えぇ〜」と言う。唄うしかありませんから唄って、3回くらい声を潰しましたね。だから今は、どんなことをしても潰れない声になりました。演歌歌手に転向してからは、低音が出ないのでポップス系のヴォーカルセラピーの先生、オペラの先生にもついて発声、呼吸法をかなり勉強しました。最近では二葉百合子先生について歌謡浪曲もお勉強させていただいています。…3月21日発売 『無情の酒』 を聴くと中低音が実に良く、高音の張り上げも鮮やか。また表題曲の「ギター演歌ヴァージョン」も収録されていて、これはミュージシャンの演奏と同録で、唄い方を変えた歌唱を披露。声質良し、喉遣い多彩。なかなかの表現力です。あたしは「色気」より、その「喉」が好きだなぁ。

<2月12日(月)>
司会付きと自前バンド
 あれは誰のステージだったか、いわゆる“大物”歌手で、歌の合間に司会(芸人)が入って客を笑わせていたのにはビックリしてしまった。あれじゃ雰囲気台無しじゃんと。あたしは五木さんとさゆりさんのステージ取材中心。それ以前はニューミュージックやロック系取材で、彼らは新人でも司会者付きライヴなんてやらない。たどたどしくも、それで会場とのコミュニケーションを交わし、会場の気をコントロールする術を覚えて行く。昨日のテレビで「綾小路きみまろ」特集があって、彼が司会をしていた森進一さんや伍代夏子さんのコメントが紹介されていたが、「歌の合間にあれをやられたんじゃ、歌手はたまんねぇ〜な」と思った。カラオケで司会者付きと、自前バンドで司会者なしステージの歌手とは、余りに大きなクオリティーの差があるのではないか…。自前バンドを抱える経費は莫大だろうが、これで初めてライヴだろ。カラオケでもいいからせめて自分のMCでステージを進行させたらいいのになぁとも思って、そう言ったら「あらっ、私は営業に行けば5回も着物を着替えるのよ。司会者なしではとても出来ません」と某着物歌手に言われてしまった。それじゃ歌ではなく着物ショーじゃないかと思った。自前バンドを持つ演歌・歌謡曲歌手が何人いるか指を折って数えてみた。

<2月9日(金)>
都はるみさんも長山洋子さんもポップス、洋楽志向 
 共に着物で唄う演歌歌手だが、はるみさんはEXILE、BIGIN、平原綾香などJ−POP好き。長山さんは演歌歌手以前に洋楽カヴァー曲をリリースしていたこと、津軽三味線のサウンド性から洋楽、サウンド志向。共に「江戸音曲には興味がない」とおっしゃった。意外だった。一方、端唄や俗曲にいい味を出し、ステージで女義太夫、浪曲、落語、講談と日本芸能の巾を広げているのが石川さゆりさん。面白い対比です。

<2月6日(火)>

都はるみさんの「うなり」

 新曲『風雪夫婦花』の歌唱は、当然「はるみ節」。その歌唱記述は稀ゆえ、ここでじっくりきいておこう。
「17歳の時に唄った『涙の連絡船』や復帰後の初シングル『小樽運河』では“うならない唱法”で唄っていますよ。でも『風雪夫婦花』は私の十八番歌唱にぴったりの楽曲です。まず、この言葉は<どの方向の声>がいいのかしらと考えます。それによって声の出し方、言葉の触り方をいろいろ変えています。そして“うなり”を具体的に説明すれば、唄い出しの♪こぉ〜こで逢ったが…の「ぉ」(「こ」の母音)を響かせ「が」で溜め、♪ひゃぁ〜くねんめぇ〜と各母音をポポッと上げて走らせているのかなぁ。五木寛之先生にこう言われたことがあります。 …唄い尻を上げる人・下げる人がいるが、はるみさんは上げますね。それはきっと持って生れたものでしょう…と。私は母から譲り受けたものだと思っています」
 歌唱説明は語るも書くも至難。都はるみは、これらを喉の奥で上下に響かせ、時に抜いてと多彩に発声している。この辺は同い年の五木ひろしとちょっと似ている。興味深いエピソードをもうひとつ…。
「引退後、新人をプロデュースしていた時に<うぅうぅ〜〜わっ!>(音が向うから来て反対側に飛んで行く感じ)という練習をよくさ せたものです。言葉を勢いよく飛ばす練習。お腹から声が出ていないと飛んで行かない。これが出来るようになると、小さい声でも言葉と心を遠くに届けることが出来るようになりますから…」
 市川先生は都はるみに音域の巾、特に高い声が出るよ う熱心にレッスンしてくれたとか。今もデビュー当初のキーを保っている。そして新曲にもある巻舌。
「先生が“はるみの巻舌はいいよなぁ。僕は一番好きだぁ”とおっしゃって下さった。 でも私はこれも無意識です。人から指摘されて“そんなぁ”。でも聴き直してみれば入っているんですね」(爆笑)。
 ラ行に巻舌あり。またフッと力を抜いて優しさの表現もあったりと実に多彩。新曲人気に3拍子の心地良さもあろう。(以上、書きかけの原稿一部より)


<1月18日(木)>

古今亭志ん朝の魅力。

 まず声。声はいい。ずば抜けてよかった。最高の美声だとは言わないが、聴きやすい声だった。基本は高目だが、低音の要素をふくみ、中高音域でまるく整った声だったから、線が細くなることもなく、ペラペラと安手になることもなかった。安心して感覚をゆだねられる快い響き。
 そして調子のよさ。ダイナミックなパワーとなめらかなタッチとが、はやめのテンポに乗って調和していく。はやいが、リズムがしっかりしていたから、とりとめなく流れ去ってしまうことがない。言い換えれば、聴く人を置きざりにして飛んで行ってしまうことはない。
 しかも息が長い。文字に直せば、句読点が少ない。ことばがぶつ切れになることがなく、たちまち聴き手を引き込んでしまう。句読点の少なさを抑揚の変化や、そこから生れる“志ん朝節”のメロディーで補っていく。
(長いからこの辺で引用をやめる※「志ん朝の高座」文:京須偕充より)


<1月17日(水)>
悲しいほど美しい声であった。高い響きのまま夜の雪からこだまして来そうだった。

 これは川端康成「雪国」書き出しの「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」に次いで有名な?駒子ではなく葉子の声の表現。坂本冬美『雪国〜駒子 その愛〜』を聴いた。力を抜いて六・七分ほどの歌唱で艶歌に挑戦している。ここで原田悠里『天草の女』インタビューでサイトアップしなかった「地声」の箇所を改めて紹介したくなってきた。「地声で中低音をいかに響かせるかがこの歌の勝負どころですから、逃げずに挑戦しました。クラシックのソプラノを例に挙げるまでもなく、高音域は訓練でいくらでも出るようになりますが、地声の歌唱はとても難しいんです」
 川端さん、高い響きは誰にだって美しく聴こえるんです。地声で艶を出すってぇ〜のが難しいんですよ。

朝日夕刊「演劇」欄 の「華岡青洲の妻」にこんな箇所があった。(1)死に行く青洲の妹小陸にかけるせりふは悲痛そのもの。抑制しているが、新派のうたいせりふの効果が出ている。(2)強い声音のせりふは若い時の覇気を表現出来るが、その後の苦悩や成長を出しきれていない。

<1月11日(木)>
小泉文夫・團伊玖磨「日本音楽の再発見」の「3−日本の歌の声をどうつくるか」より要点抜粋。
小泉 森進一の歌い方は、義太夫とか新内のテクニックですね。
 聞いてみると低く感じますが。ピアノのキーで探ってみると「襟裳岬」のいちばん高いところは加線(五線譜に足りない分を付け加えた水平線)の一本のAフラット(志寿太夫クラスのたいへん高い音)で、これは素人では出ません。でもあの人の新内風は下のほうに共鳴音がある関係で低く聞こえるのです。
小泉 布施明の歌も聞いた感じでは普通の音域で歌っているように聞こえるけれども、じつは高い音を出していて、真似て歌おうとしてもできませんね。しかしそれが浄瑠璃の太夫さんの歌うのを聞くのと同じ体験を与えてくれる。声のテクニックが、ふるわせ方からなにから、ほんとうに清元によく似ている。
 発声というものは、もっとその国の言葉、生活環境、風土、思想、あるいは民族の骨格、そういうあらゆることが加わってできてきたものです。NHK「新春オペラコンサート」を見たのですが、これは自分の生活環境も歴史も顔も肉体も、すべて忘れて歌うわけです。(と日本のオペラ歌唱を否定して…)

<1月9日(火)>
芸能浅間神社
 花園神社は通り道だが、そこに芸能浅間神社があるとは知らなかった。昭和48年刊「新宿の散歩道」をひもとけば昭和3年に富士信仰の富士塚を本殿南側に築いて浅間神社を祭った。本殿改築ん時に縮小されて境内東北隅に移された…とあった。「芸能」とついたのは何故だか、何時だかは書かれていなかった。藤圭子の『夢は夜ひらく』の歌碑があった。

<1月8日(成人の日)>
 荷風さん「妾宅」2題。再読したらこんな箇所にあたしのマーカーがあった。「中音の音聲(のど)に意気な錆が出来た」。
江戸音曲 江戸音曲の江戸音曲たる所以(ゆえん)は時勢のために見る影なく踏みにじられて行く所にある。時勢と共に進歩して行く事の出来ない所にある。然も一思いに潔く殺され滅ぼされてしまふのではなく、新時代の色々な野心家の汚らしい手にいぢくり廻されて、散々慰まれ辱しめられた揚句、嬲り殺しにされてしまふ痛ましい運命。それから生ずる無限の哀傷が、即ち江戸音曲の眞生命である。

<1月5日(金)>
含み心
 「長唄は小唄に較べると万事上品でございますからね。含み心でおうたいなさい」。この「含み心」がわからねぇ。さてと…。
三味線 「汀さん、あなたは三味線を習いたいとおっしゃるけれど、三味線だけを習うってことはないのですよ。三味線は小唄端唄、長唄清元常磐津などの唄から浄瑠璃の伴奏なんでござんすからね」。
(以上、宮尾登美子「菊亭八百善の人々」より)

<1月3日(水)>
鯨と芸 浅草で、こんな看板を見っけた。

<06年12月16日(土)>
原田悠里さんの「音色」論 私の場合はクラシックをやっていましたから、どうしてもボリュームで勝負をしてしまうんです。小技ではなくて大技でね。デビュー25周年の旅は、そこ(小技)を埋める旅だったんです。 く音色>と<地声>と<コブシ>ですね。えっ!1月1日発売「天草の女」は音色が多彩だと…。あなた、うれしいことを言ってくださいます。それが本当ならば、私、もの凄くうれしい、満足だわ。音色というのは…、あの 「歌は心で唄う」と言いますが、心では歌えないんですよね。「音色」で唄わなければ歌は伝わらないんですよ 。心が音色に変わって行くってことが<心で唄う>ってことなんです。いくら心で思っていても、心では唄えません。言葉にしなければ思いが相手になかなか伝わらないように、歌手はそれを心を音色に変えなければ心は伝わらないってことです。心がなければ唄えないけれども、心が音色で代弁してくれなければ伝わらないんですね。心がいっぱいあって、その心の色を声として伝えて行くってことなんだと思うんです。

<06年12月8日(金)>
「寒声」(かんごえ) 某の原稿で「寒声」という言葉を教えてもらった。謡曲、浪曲、読経、詩吟(瞽女、行司も含め)などで声を鍛えるための寒中の稽古事、発声練習。喉から血が出るほどやって声を作る訓練とか。これはまた季語にもなっている。あたしにはまだ知らない言葉がいっぱいあります。

<11月14日(火)>
三門忠司さんの「新内」稽古 『男の燈台』を取材。目下オリコン演歌チャート2週連続1位。テイチク移籍5年目。※うれしい話を聞いたんで、ここに収録。
…2年前から新内のお稽古をしているんです。新内は高音中心ですが男の三味線は普通一本。でも僕は三本(一本より半音三つ分高い)でお稽古しているんですよ。三本は結構きついです。なぜ三本かと言うと、中村美律子さん(お稽古の1年先輩)と二人でいつか舞台で「新内流し」をやりたいから。みっちゃんが手拭ほおかぶり、僕が頭にちょいと乗せる置手拭きで花道から「新内流し」で出てくるってぇのが夢で。粋でしょ。師匠も二人にそれをやらせたいんです。
「忠さん、三本でお稽古しておけば、みっちゃんとやれるよ」
 ってワケなんです。僕が本手(ほんて)を弾いて、みっちゃんが上調子を弾いて…。最初は高い声が出なかったんです。♪え〜え〜って。それがやっている間に♪え〜え〜(インタビュー室で大音声)と出るようになった。新内は裏(声)も遣うんですが、お陰で今までより高い声が出る、きつかった音が楽に出せるようになってきた。
「あぁ、60歳を超えても頑張れば開発できるんだ」と思いましたね。今、お稽古しているのは粋で高い「二上がり新内」
「師匠、いくらなんでもこれは俺には出ないわ」
 と言ったんです。
「忠さん、出なくてもいいから、やっている間になんとかなるって」
 で、やっていたら手が届くようになってきた。
 男が持つのは中棹で、女性は上調子の細棹。男がツンと弾くと、女性がチャラランって弾く。
♪ツン・チャチャ・ツン・チャララン・ツン・チャチャ…。
 この高い所を女性が弾くんですね。この間、美律子さんの大阪リサイタルがあって「一日遊びに行かしてもらいます」と言ったんです。そうしたら本番3日前に電話があって
「忠さん、私、三味線弾くねんけど、ステージから呼ぶから一緒に弾はへん」
 で当日、師匠と三味線を弾いているみっちゃんが
「こんなん弾いていますとウズウズしている人が来てまんねん。忠さん、上がりぃ〜な」
「はいはい」って。僕が「さのさ」を弾き、美律子さんが唄う。「さのさ」のアンコに婦女系の男女の台詞を入れて。
「忠さん、今度は私が三味線弾くから都都逸やってぇ」
 普通では面白うないから即興で… ♪今日のみっちゃん特別きれい(はぁ〜)お客酔わせる美律子節
 ってやったんですよ。そしたらお客さんが喜んでくれましてねぇ。普段は♪きょおぉ〜のぉ〜って、普段出さない高い声ですからお客さんシーンとして、みっちゃんの手も止まって。…ややして「忠さん、なかなかいいなぁ〜」
 僕らの世代でも「都都逸」や「新内」をリアルタイムで知らないんだけれどもお芝居や映画で観ていて、子供の頃にはラジオで流れていたかしら…。でも30代40代の方になるともう
「新内?そんなこと僕らはシンナァ〜イ」
 ですものね(爆笑)。江戸前の文化ですね。津軽の太三味線は若い方が結構やられているんだけれども…。小唄、長唄、新内、都都逸、端唄…ね。粋なイナセな江戸の文化なのに、なんでみんなやらないんだろうて。関西の僕らがやっちゃおうって。僕らが通常唄っている歌とは、声の遣い方、まわし方が違うんですけれども、どこかにそういう匂いが活かせるんじゃないかと。そういう気がしますね。貴重な芸なんですから…。美律子さんに
「今に追い着いてみせまっせ」
「ふふふ〜ん、そうはさすかいな」
っていいライバルです。そういう事を含めて芸を磨く、歌の世界を広げるというか、まぁ、勉強していてマイナスにはならないだろうから。新内の師匠もこう言ってくれます。
「忠さんの新内は本格的だからどこに出ても恥ずかしくないからね」
 去年の暮のディナーショーでお稽古始めてまだ1年だったんですが新内をやったんです。美律子さんが1年目の暮に自分のお店でやりましたから。追いかける身の僕は、クソッ、俺も1年でやりたいって頑張ったんです。「三味線三年・琴三日」と言いいます。撥が手に収まるまで1年、2年してまぁ弾ける、ちゃんと弾けると言えるのは3年からと言われるているです。うん、頑張りますよ。
(以上語ったままの未構成。いい話でしょ。こんなんを聞くとあたしはうれしくなっちゃう。中村美律子はオリコン11月6日号にあたしの原稿が載っている)

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