月刊「カラオケファン」連載 〜10月号(8月21日発売号)〜
40周年の軌跡と円熟の展開
五木ひろし 俺の山河は…。

文:スクワットやま   Squat Yama
第23回 ファイブズエンタテインメント設立
     

[取材日記] 平成14年5月21日、ホテルオークラ別館12階・星雲の間で株式会社ファイブズエンタテインメント「旗揚げ」記者発表会、つまり同社設立と第1作『傘ん中』の発表が行われた。特別の理由はなかろうが、やけに狭い会場だった。部屋いっぱいの取材陣。息苦しいまでの熱気が満ちてか、会場はちょっと興奮気味だった。司会者が、こう切り出した。
「五木ひろし、来年の55歳を控え、新レコード会社設立という男の勝負に出ました。新会社の第1弾シングル『傘ん中』、カップリング『二行半の恋文』共に作詞・阿久悠、作曲・船村徹の異色顔合わせによる力作、意欲作です。まずは両曲を聴いていただきたく存じます」
 五木登場と同時に報道テレビのライトとカメラ・フラッシュの閃光。熱気を帯びた会場で五木が両曲を披露した。ざわめきを静めるように会見席に阿久悠、船村徹、そしてキングレコード天沼常務取締役が着席。五木が説明を始めた。
「株式会社ファイブズエンタテインメントを4月23日に設立し、5月8日より新住所で業務をスタートさせています。いま紹介させていただきました第1弾シングル『傘ん中』は 6月21日発売です。ここに至る経緯を振り返りますと…」
 五木はデビュー当初のことから語り始め、親子にも似た深い関係が31年間に及んだ徳間ジャパンの徳間康快社長が平成 13年9月に亡くなり、この春に同社と契約が切れたことを説明。
「演歌状況が厳しいことは重々承知していますが、自分が責任を持って作り、売るという原点に戻って、厳しい状況に一石を投じられたら、と思っています」
 と新会社設立の決意を説明。そして船村徹は…
「荒天の出船の方が毅然としていい」
 と祝辞を述べ、初コンビ・阿久悠とのアルバムを含めた制作経緯を説明。阿久は…
「吉田正さん、船村徹さん、美空ひばりさんのような歌は書くまい、作るまいと歩いて来たが、気付けば背中合わせに船村さんがいた。今の音楽シーンには大人の風が吹いていません。子供たちに席を譲ったら、その席をなかなか返してくれない( J−POPが音楽シーンを席捲し続けているの意)。ここらで大人の歌はやっぱりいい、上手いということを教えてやらなければいけない。船村さんと五木さんと共に、そんな新しい風をおこしたい」
 小西良太郎プロデューサーは…
「最強トリオの誕生です。阿久さんが船村さんに挑戦するように書き、これを船村さんが真正面から受けて立つ。阿久さんに言わせれば“曲を作るというのは狂気を伝達していく行為”で、今度は五木さんが挑発されてファイトむき出しで挑戦する。まさに平成の名勝負で、秋にはアルバム・リリースです」
 五木の新会社ファイブズEは自ら作って自ら売る“原点”と、若者に偏った音楽シーンに再び大人の成熟した歌謡曲の注入、つまり“歌謡曲の逆襲”をしようという二つの理念がアピールされた。

[ファイブズEの3年間余] 今、新レコード会社設立から3年余が経った。振り返ると、息苦しいまでに果敢で気迫に満ちた挑戦、クオリティー追求を求めた日々だったような気がする。いや、その挑戦は日を追って怒涛のような迫力を増しているようでもある。
 ちなみにファイブズE設立からリリースしたシングルは9タイトル、アルバムは数枚組を含めて15 タイトル。確かな統計を持ってはいないが、一アーティストが短期間でこれだけリリースした例は他にないのではなかろうか。
 五木はファイブズE設立後のシングルから“自ら作り、自ら売る”の原点に立って、お客様ひとりひとりとの握手会を慣行している。これは、むろんシングル購入者との握手で、レコードを売る最も原点の“手売り”に通じる。新曲発表会で、店頭キャンペーンで、さらには通常のコンサート会場でも五木は“握手・握手…”を繰り返している。
 結果は主シングルはほぼ全作が好セールスを記録。現在キャンペーン中の『ふりむけば日本海』は、ちなみにオリコン演歌チャート 11週にわたってベスト6位内をキープ。秋から年末に向けて、まだまだ盛り上がりそう。
 アルバムも後世に遺したい貴重な作品が多い。『55才のダンディズム“翔”』は何度聴いてもいいし、 40周年記念のCD3枚組『五木ひろしオリジナル40“新宿駅から40年”』『五木ひろしが歌う!“日本の歌・歌謡史 40”』、そして名曲継承の『永遠の古賀メロディーを歌う』『哀愁の吉田メロディーを歌う』『永遠の道標 五木ひろし“美空ひばり”を歌う』。
 コンサート活動も劇場公演、通常のツアー展開共に活発で平成 15年春の横浜アリーナ「55才ハッピーバースデーコンサート」、同年9月の日生劇場「古賀政男の不朽の名作を歌う」(芸術選奨文部科学大臣賞を受賞)、ハワイはシェラトンホテルでのディナーショー、平成 16年12月の東京国際フォーラム、野外1万名コンサートの「GREEN EART 21 in ASO」などは語り継きたいほどに秀逸なライブが続いている。余りの活発展開に…
「あぁ、五木ひろしはスーパーマンだ」
 と思ってしまうところだが、実際は音楽に真摯に対峙し、身を削るような努力を重ねている結果。こんなに凄いヤツは、他にはいない…。

ITSUKI NOW ●アルバム『五木寛之・五木ひろし作品集〜ふりむけば日本海』8月24日リリース 五木寛之作詞の代表5曲、五木ひろし作曲の代表5曲に、W五木楽曲4曲の構成。
 五木寛之作詞はザ・フォーク・クルセダース『青年は荒野をめざす』、冠二郎の昭和 52年ヒット『旅の終りに』など。五木ひろし作曲は29歳最期の夜にギターを一人弾きながら作った最初のメロディー『渚の女』、上総優の名で作った『駅裏あかり』、阿久悠作詞大賞・大賞受賞の『契り』など。
W五木楽曲は『ふりむけば日本海』、同曲が曲先なら詞先で同時期に作った『かなしい癖』、五木ひろし 40周年記念の『あなたに』、堀内孝雄のアルバムのために二人で作った『だけどYOKOHA』。それぞれの活動が、やがて W五木作品に至る過程がわかって、改めて『ふりむけば日本海』の良さが再認識できそう。
<キャプション>メイン写真平成14年5月21日の「旗揚げ」記者発表



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