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- 14 / jul / 2005 Deadhorse, Alaska.

意外に暖かく、よく寝れた。目覚めの一服をしていると一台のバンがやって来た。話し声を聞いていると日本人のようなので、行ってみる。こちらでガイドの仕事をしている河内さんに出会った。「やっぱり、日本人だったか!昨日カブを見て、そーじゃないかなぁって思ってたんだ!」後でまた着ますので、テントそのままで写真を撮りましょう!と言って何処かに走っていった。

ラーメンを作って朝飯にする。用を足しに行き、帰ってくると犬が着いてきた。何だか俺の様子を窺っているようだ。サイトまで付いて来てパッとテーブルに飛び乗り勝ち誇ったような顔をしてる。ハッと思ってテーブルを見ると、今日の唯一の食い物マフィンが無くなっている!このクソ犬め〜!俺の大事な食料を食いやがったな!ぶっ殺してやる!本気で殺意を覚えたが、管理を怠った自分が86%位悪いので、堪える。こんなバカ犬放置するんじゃね−よ。

怒りながら荷物を纏めていると河内さんが戻ってきた。テントを一緒に写真を撮ってもらう。プロのカメラマンに写真を撮ってもらうなんて光栄の限りだ。差し入れにオレンジとジュース、ビーフジャーキーを貰う。さっき犬に唯一の食料、マフィンを強奪されたばかりなので、有難い!

10時前に出発する。いよいよ、いよいよ最後の北路だ!大胆且つ細心にダートを走る。河内さんから「コールドフットから先は道が悪い」と聞いていたが、思っていたほど悪くない。ガンガン70キロ程で走っていたら、フカフカと緩いダートに突っ込んでしまった。ヤバイ!と思ったがもう遅い。コントロール不能になって左右に踊る。「ブレーキはダメだ!落ち着いてアクセルを戻せ!バランスだ!バランスを保って乗り切れ!」
恐怖で全身の毛が逆立ちながらも、冷静にやるべき事を考えられた。徐々に速度を落とし、やがて停まった。奇跡が起きたと思った。涙が出た。落ち着こうと一服する。
手が震えて火が付けられない。「ヤバかった!コケずに済んだ〜!」

最後の最後でコケてたまるか!慎重にゆっくりと走り出す。
アイスカットという聳え立つような急坂に差し掛かると右へ左へ蛇行しながら必死に漕いでいるチャリダーが居た。こんな坂道を漕ぐ奴がいる事が信じられなかった。「見上げた根性だ!」2速でウンウンと上りながら挨拶して抜いた後、坂を上りきった所で彼を待つ。

暫くしてチャリダーがやって来た。なんと日本人だった。「よく、あんな坂を漕いで登ったね、根性あるなぁ!」と絶賛する。大阪出身でアンカレッジから走って来たらしい。デッドホースから一年掛けてウシュアイアを目指すらしい。今から一年後にウシュアイアって言ったら真冬だが真冬のパタゴニアを走るつもりなんだろうか?まあ、人の旅に茶々を入れるのも何だろうと思うので聞くのを止める。

今日中にデッドホースまで走る気らしい。チャリでそんなに走れるのか?聞けば一日200キロは普通に走るらしい。これからも一ヶ月6000キロペースで走るつもりだという。俺と変らないペースだ。メキシコ以南は治安面もあるから一日にそんなには走れないだろうが、そんな事は偉そうに忠告しなくても常識があれば分かる事だから何も言わない。
デッドホースで会おう、と別れる。

辺りは森林限界を超え、地平線まで草と水溜りしかない。地球上にはこんな世界があるのか?何だか不思議な気持ちだった。
これまでも地平線まで何にも無いような景色は見てきたが360度何にも無いのだ。地平線の彼方から爆煙を巻き上げながら疾走するトレーラーが見えるがすれ違うまで5分以上掛かる。

避けきれなかった大きな穴を踏んだ時、『バキンッ!』と金属音がした。ミラーは折れてないし、バイクを停めて調べてみる。チェーンカバーが大きく垂れ下がっていた。しかし、ネジは付いている。見るとネジの受け側の金具が綺麗に折れていた。致命傷ではない、針金とビニールテープで固定する。もう少しだ、頑張れコルデーロ号!

ガラガラとやかましくなったチェーンカバーを揺らしながら、更に一時間程走り、残り80キロ程になった所で再び、今度は2人組みのチャリダーに合う。一人は、またまた日本人のタカユキ君だった。彼もウシュアイアを目指すらしい。彼は2年位と言っていた。今日中にデットホースまで行くのか?と聞いたら今日も行ける所までだ。という。
それくらいが普通だと思う。

8時頃、段々と冷えてくる。手が悴んできたが我慢して走る。
地平線に小さな凹凸が見えた。徐々に凹凸がはっきり見えてきた。
間違いない!あれがデッドホースだ!
鼻の奥がツーんとしてきて、涙が溢れて地平線に浮かぶ凹凸が再びぼやけてしまった。
着いた。遂に辿り着いた。もう、急ぐ必要はないんだ。俺は走りきったんだ。
一旦停まって、涙を拭いて、鼻をかむ。吐く息が真っ白だ。真っ赤に目を腫らしながら、プルードベイホテルに入る。一泊90ドルだが、24時間食い放題だという。ココに宿泊してい
る客の殆どは石油基地で働く人達だ。ホテルはプレハブを繋ぎ合わせた建物で、まさに基地といった感じだ。荷物を部屋に投げ込んで、食堂に行く。何でも好きなものを好きなだけ食って良い。というので腹一杯色んなものを食う。

ふと鍵がない事に気付く。フロントで合鍵を借りて部屋を探すが鍵が見当たらない。チェックインして5分で鍵を無くしてしまった。建物内で落とした事は間違いないのだが、見当たらず、フロントに戻って事情を話すと「あなたは疲れているのよ。鍵の事なんて気にしないで、先ずはゆっくり食事をして休みなさい」と優しく言われる。が、フロントにも届いていないという事は誰か悪意のある人が持っているんだろう。と心配になる。仕方ない。貴重品を持ってシャワーを浴びる。最後の最後、ヘマをやった。

正直、とても疲れていた。
暖かいシャワーを浴びながら再び泣いた。走り終えた事が嬉しいのか、これで終わりと思う事が寂しいのか、何だか分からない思いが込上げて、それが涙にとなって溢れ出てくる。声を出して泣いた。
涙が止まるまで、俺はずっとシャワーを浴び続けた。


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