糖度とアルコール度、酸度とpHの話



 よくワイナリーに伺うと糖度が22度でどうのこうのとか、pHがどうのこうのという話を聞くことが多い。よくわからなくて、なんとなくいじかしい思いが多かったので、機山ワイナリーさんの読むワインを読ませていただき、さらに質問までさせていただいたところ、丁寧な回答を頂いたので整理してみました(ただし私が概要を整理したものなので、思わぬ、まとめちがいもありますので、その際はご容赦くださるとともに、ご指摘ください)。


第1、総論

 ぶどう果実は成熟に伴って、糖分が増加し酸が低下します。また、皮の着色が進みます。  ぶどうの主成分である糖分と酸それにフェノール類も成熟と共に大きく変化します。すなわち、開花後のぶどう果実の成長は以下のような段階を経て進みます。

   Step1. 最初の段階では盛んに細胞分裂が起こり、勢い良く果実は成長する。緑色の小さな果実に酸が蓄積され始めるが、糖はまだ果実には送られてこない。
   Step2. 徐々に生育の速度は遅くなり、開花から約60日後に訪れる”ヴェレーゾーン”に近付くと果実の肥大は一時ストップする。 果実が成長するのと共に、ヴェレーゾーン期までは酒石酸とリンゴ酸は共に増加します。
  Step3. ヴェレーゾーン以降、果実は柔らかくなり始め急速に糖の蓄積が行われる(糖度が増加する)。酸は減少し(ヴェレーゾーン期を過ぎると共に減少していきますが、リンゴ酸の減少の方が急速に進みます。リンゴ酸が果実のエネルギー源として消費されるためです。)、果皮に色がつきはじめる。フレーバーやアロマを呈する化合物が生成され始める。ヴェレーゾーン以降急激に増加するとその後は増え方がゆっくりになり最後には止まります。
  Step4. 最終的に、果実はぶどうの木についたまま水分を失う。果粒から水分が蒸発して果実の重さが減少するため見かけの糖度は上昇し続けます。糖度は濃縮され濃厚なフレーバーを示す。遅摘みタイプや酒精強化ワインに使用される。
 

第2、糖度とアルコール度の話

質問
日本のブドウ農家やワイナリーからは、「糖度がよく24度まで上がり」とか、「22度で収穫できた」という話を聞くことが多いのですが、これはどういう概念でしょうか。何度以上ならワインになるのでしょう。微小な糖度では発酵が起こらないということもありますか。収穫を遅らせれば遅らせるほど糖度は上がり続けるという理解でいいのでしょうか。

回答
1、日本では糖度が22度とか24度とか言っているのは、Brixのことと考えて良いと思います。糖分は比重によって計測します。「糖度」というのは一般的には果汁中の種類の糖の濃度(g%)をいうのですが、これを測定するのは大変難しいので、果汁の比重を基にして表すのが一般的なのです。

比重の単位としては、ブリックス(Brix)、ボーリング(Balling)、ボーメ(Baume)、エスクレ(Oechsle)などの単位が使用されています。日本では、ブリックスが通常用いられますが、オーストラリアではボーメ、ドイツなどではエクスレが一般的です。それぞれの単位に応じた比重計があり、換算表も用意されています。ちなみに比重1.100 = 23.6 Brix = 13.1 Baume = 100 Oechsle です。果汁の比重を測定して、それを糖度に換算する経験的な方法が利用されておりそれぞれのスケールを付した比重計を使用します。

ちなみにワインのスタイル 収穫時の糖度の目安は次のとおりです。
      スパークリングワイン 16-20
      ライトボディーの辛口白ワイン 19-20
      フルボディーの辛口白ワイン 21-25
      辛口赤ワイン 21.5-25
      ポートワイン 22-30

2、法律上最低糖度の決まりはないので いくら低くてもワインにはなります。日本では補糖が許されているため理論上は望みのアルコール度まで出すことができるでしょう。ただあまりに未熟なぶどうでは pHが低いため酵母が増殖するのに問題がでそうです。また果汁中の酵母の栄養素(窒素成分など)も足りないような気がします。何よりぶどう本来のフレーバーが無い状態で造った酒をワインと言って良いのか・・・。

3、よく糖度が高いと良いぶどうだと考えられがちですが、糖度が高いということが成熟が進んでいるもっとも分かりやすい目安になるのでそういわれているだけで、糖度とぶどうの質の間には直接的な相関関係はありません。現在では”ワインのフレーバー、味、テクスチャーに影響を及ぼすような成分(以下フレーバー成分と略します)”の成熟度が”適熟”を決めるのに最も重要と考えられています。

4、発酵による糖度の減少とアルコールの発生

果汁中の糖が全てアルコールにかわるとすれば、1 kgの転化糖(ブドウ糖と果糖)から、約480 gのアルコールが理論上生成することになります。例えば糖度20の果汁であれば、リットルあたり96.3 gのアルコールを生成し、これをアルコールの比重より計算すると12.2%(v/v)となります。 

実際は、糖が完全にアルコールに変換されるのは困難で一応の目安としては 糖度2度でアルコール1% すなわち糖度が22度(Brix)だとアルコール度が11%になり、糖度が24度だとアルコール度が12%と言われています(実際の工程ではもうすこし高めにでますが)。あくまでも残糖を残さない場合の話で醗酵を途中で止めて甘口にした場合は醗酵に消費された糖の分量だけアルコールが出ることになります。

 白ワインの場合、一日に0.5-1.0 Baumeの比重の減少を目安に発酵管理を行います。赤ワインの場合は、皮や繊維質などが窒素源となり得るため、発酵のすすみ具合はもう少し早く、一日に3-4Baume、十分に冷却をした場合1-2Baumeが理想とされています。



第3、酸度の話

質問
酸度とpHは同じと考えてもいいのでしょうか。若いうちは酸度が高くpHも低いという使い方でいいのでしょうか。どれくらいの酸度で収穫するとよいのでしょうか。

A 回答
1、ぶどうが若いうちは酸度が高くpHが低く、その後果実の成熟にともなって 酸度は下がりpHが上がってくるということはそのとおりです。しかし、酸度とpHは違う概念です。多くの人が勘違いをしています。

酸度とは、ワイン中の様々な種類の酸の合計のことで、一般的には果汁をアルカリで滴定した値(適定酸度)で表します。日本では酒石酸濃度(g/L)に換算して表しますが、フランスでは硫酸濃度(g/L)に換算するので少し注意が必要です。なお、適定酸度というのは 酸とアルカリが等量で中和して中性になるのを利用して酸の量(酸度)を測定する方法です。具体的には ワインに水酸化ナトリウム水溶液をピペットやビュレットを使って、少しずつ足していき 中性になるまでに必要な容量を測定します。中和したことはフェノールフタレイン指示薬やpHメーターで判断します。それを基に酸度 何g/Lというのを計算します。

 pHとは、溶液中で解離している水素イオン濃度を対数であらわした値です。溶液中の酸の種類、強さやそれぞれのイオンでの解離状態などの影響をうけます。電極を使用したpHメーターで簡単に測定できるのですが、内容的には非常に複雑な項目なのです。


2、収穫時の酸度の目安は特にありませんが(品種などにより様々です)、醗酵管理上のpHの目安はpH3.0〜3.3です。長野の認証では補酸できないのでぶどうのフレーバーを犠牲にしてでも早めに収穫するという話を聞いたことがあります。それ以外でしたら収穫をきめるのはフレーバーの充実や糖度を重視して、酸が足りなければ補酸することが多いです。
 なお、総論のstep3の関係で、収穫時期を決めるのにリンゴ酸と酒石酸の比率を指標にするワインメーカーもいます。一般的に暖かい気候下ではリンゴ酸の減少のスピードは早く、滴定酸度も減少します。このため同じ品種であれば同じ糖度の際の酸度は暖かい地域の方が寒い地域より低くなります。品種によっても、酸の組成に特徴があることも知られており、リースリングは酒石酸の比率が高く、反対にピノノワールやシュナンブランはリンゴ酸の比率が高い品種として知られています。


3、甲州種と酸、マロラクティック発酵の話し
問い 甲州種は一般に酸度が(酸が?)低いからマロラクティック発酵を起こさないというのはそのとおりでしょうか?

回答 確かに甲州はシャルドネなどに比べると酸度は低いです。ただ マロラクティック醗酵はそもそもの酸度とは余り関係なくスタイルとして必要ないのでマロラクティック醗酵をおこさない(あるいは起こさないよう亜硫酸を添加してしまう)のだと思います。マロラクティック乳酸菌はpH3.3程度の時に最も良く生育しますので、甲州でもやろうと思えば可能です。

4、pHと醸造段階の話
問い pHの話は醸造段階に入っても問題になるものですか?

回答 pHは醸造段階でも、酵母や乳酸菌 はたまた野生微生物の成育に大きく影響を及ぼします。その他酸化防止剤の効果、タンパク質と酒石酸の安定、様々な酵素活性そしてアントシアニンやタンニンの発色と安定性にも影響を及ぼすため、ワイン醸造上の管理が必須の項目です。