低温浸漬(低温マセレーション)と除梗について



ヴィノテークでアンリ・ジャイエの特集があり、また、ドメーヌQで実際に低温浸漬や除梗の現場を見て、またそこでの西方さんとの会話、さらに山田健さんの現代ワインの挑戦者たちを読んで、表題のものに興味を持ち、頭の整理のためにまとめておく必要を感じたのでメモしておく。

 まずはマセレーション(英)、マセラシオン(仏)、醸し(かもし・日)とは、ブドウ果皮を果汁に接触(浸漬)させることをいう。JSAの教本ではここをしっかり書いてないので、どうりでいつまでたってもどういう概念かわからなかったのである。表題のもののように発酵開始前に低温で醸しを行なう場合もあるし、長期熟成型のワインでは発酵終了後もさらに醸しを続ける。なお、早飲みタイプのワインではかもしの期間を短くする。かもしは通常1週間、長いところでは1〜2ヶ月という。発酵自体は26度〜30度で1〜2週間。
 醸しの際果帽が浮き出るのでルモンタージュ、ブルゴーニュではピジャージュをする。


アンリジャイエ
 収穫時期の気温が低い年にはワインの香りがより強くエレガントで色も濃く、かつその色が熟成期間中も保たれることに気付いていた。そこで、収穫した葡萄を13度くらいまで人工的に冷やしてみることを思いついた(マストの冷却装置によって。マストとは破砕機などにより、ブドウ顆粒が破砕され、果皮、果汁、種子、果肉が混ざり合った状態にあるものを言う)。天然酵母を使用。亜硫酸添加量を極少にする。除梗は原則100%除梗。その理由は果梗が完全に熟していないで入れると漬け込むことで悪い影響を与えるから。したがって、梗がよく熟した2003年は除梗をしなかった。ピジャージュはあまりしない。種子が外れることで果汁と直接接触してしまい、タンニンが出すぎてしまうから。


ギィ・アッカド(ニュイサンジョルジュのレバノン人の醸造コンサルタント)
 10度以下にまで冷却し、マセレーション期間を長くした(1週間に及ぶ)。亜硫酸は大量に添加(通常の2-3倍)。培養酵母使用(天然酵母では発酵が始まらない)→最初のうちは色がとても濃く、タンニンも強いのだが、熟成しない


ピエール・ダモワ 除梗は70%くらい行なって残りの30%はそのまま発酵槽に入れる。発酵前に低温で漬け込んでおくやり方には関心はない。あれは色を出すためと理解している。自分は香りを出したいから。


プレューレ・ロック
 無農薬・無化学肥料の有機栽培。小さな木のオープン発酵槽に葡萄の房を丸ごと入れて、発酵の進み具合を見ながら、ゆっくりとつぶしていく。つぶし方も今では人間が足でつぶすようにしており、発酵の最後には、はだかで飛び込んで全身でかき回す。そのほうがやさしくかき混ぜることが出来てとても高貴なタンニンが溶け出してくる。発酵中の温度コントロールもほとんどしない。前はしていた。しかし、収穫を夜明けにして、冷たい葡萄を発酵槽に入れるようにしたら、そのほうがずっと良いものができたんで、それからはよほどのことがない限り自然に任せている。
ドメーヌプリューレロックの足踏みピジャージュの様子は写真入りで、堀さんのサイトに紹介されているのでそちらをご覧ください(勝手にリンク貼っちゃってすみません)。

発酵前の「低温マセレーション」について。
 この技術が生まれる前のブルゴーニュでは、力強いワインを造るためには高めの温度で発酵させ、その後、高温のまま皮と種子とをワインの中に漬け込んで(マセレーションし)、果皮成分をたっぷりと抽出するのが一般的な方法であった。この方法の短所は、若いうちにはどうしても飲みにくくなり、またせっかくの果実の風味が高温のために飛んでしまう点にある。そこで低温マセレーションの方法が出てきた。簡単に言うと、発酵槽に入れた葡萄を8度とか12度とかいった低温で、数日間から長いものでは2週間ほども漬け込み、この間に皮の部分から十分に香りと色の成分を溶け出させ、その後に発酵を開始、発酵がすんだらすぐに搾ってしまう方法。


イヴ・コンフュロン
低温マセレーションという技法は大昔からあった。非常に寒い年に発酵槽に入れた葡萄がなかなか発酵を始めてくれないことがしばしばあり、当然醸造家はなんとかしようとジタバタあがくのだが、後になってみると、何故か意外にもそういう年のワインは、色も鮮やかで香りも強く、若いうちから楽しめる上に長い熟成も期待できるという理想的なできばえになることが多かった。コンフュロンの父親がこれは何だと思い始めたときに、コンフロンの蔵に研修に来たのがギアッカドだった。二人は低温マセレーションの技法を完成させることとなった。
 コンフュロンの父親(ジャック・コンフュロン・コトティド)の完成した方法は、葡萄の房をつぶさずに、そのまま10度くらいに冷却してから、まるごと発酵槽に入れ(除梗しない)、あとは自然に発酵が始まるのを待つ。発酵槽の下部には葡萄の重さでつぶれた果汁がたまるので、この果汁を時々下から抜いて、葡萄の上からシャワーのようにかけてやる。その内にこの果汁が発酵を始め、その結果できた炭酸ガスが葡萄全体をおおっていくので、この状態でまたしばらく置いておく。この炭酸ガスにつけておくのがコンフロン流の特徴で、炭酸ガスの力で、皮の細胞を壊れやすくし、色と香りを引き出そうというもの。発酵開始後は、発酵のすすみぐあいをみながら、木の棒で房をゆっくりゆっくりつぶしていく。ちょっぴりつぶすと果汁が新しく供給されるため、発酵が活発になる。そのまま置いておくと発酵が下火になるので、そうなったらまたつぶして発酵を開始させる。このつぶす、待つの連続で発酵期間を引き延ばしていき、この間に皮だけではなく、種や茎(果梗)からもタンニンなど旨み成分を引き出す。
 コンフェロンと比較すると、ギ・アカの場合は多かれ少なかれ房をつぶしてできた果汁の中に葡萄を漬ける方法を取っている。果汁と葡萄の皮を直接接触させることで、濃厚な色と、華やかな香りを引き出しているのだが、ボディが備わらず、若いうちだけというワインになる。すでに葡萄は破砕されているので、発酵は比較的すみやかに進む、そして発酵がすんだら、すぐに搾る。発酵が終了した時点ですでに皮からの色や香りも完全にできっているから。ただし、種に由来するタンニンなどのうまみ成分はほとんど溶け出さない。もっとも搾った後高温で漬け込んでおかないから香り成分が飛ぶということはない。


参考:マセラシオンカルボニック 原理は非常に似ているのであろうけど、30〜35度の温度で行なう点でこれまで述べたものとは異なるようである?2酸化炭素とブドウの房ごと処理するもの。ボジョレーのようにマセラシオンが短期間であると非常にフルティーな香りで色の良く出ているわりにタンニンによる渋みの少ない、フレッシュな味の赤ワインが得られる。