ワイン・トピックス

酒石の話


 イラクへの自衛隊派遣に揺れる日本。ワイン(の一成分)がかつて戦争に使われていたという話を知っているでしょうか。最初にこの話を聞いたのは、サドヤ醸造所の今井社長さんからです。

 「昔の太平洋戦争当時、日本軍から、潜水艦のソナーとして酒石の結晶体が聴音材になるからということで、サドヤを含む山梨のワインメーカーは結構酒石をせっせとつくらされた。ワインに石灰を混ぜると酒石が出てくる。酒石をとった後のワインを売るのであるが激まずだった」

 この話長いこと暖めておいたのですが、エキスパート試験つながりでお友達になったサイトの管理人ようこさん(英語が達者でワインエキスパートな薬剤師さん)に詳細を聞いてみたところ、次のような回答が寄せられたのである(ママで掲載します)。


どうもピンとこなかったので酒石の正確な化学式とか、石灰と酒石の関係とか調べてみました(^_^;)。

1.酒石の定義。
手元の化学辞典によると「ぶどう酒製造の際得られる(R,R)-酒石酸水素カリウムを多く含んだ結晶のこと」とある。
また、ソムリエ協会教本にも「酒石酸とカリウムが化合した」と書いてある。

2.石灰の定義。
酸化カルシウムの俗称。

これらから考えられるのは、
ワインの酸味の成分でもある酒石酸と石灰が作用して(R,R)-酒石酸水素カリウムができる。
ということ。

が、加えているのは酸化カルシウムであり、酸化カリウムではない。(カリウムとカルシウムは字面は似ていますがまったく別の元素です)

ということは、tojoさんのおっしゃる用途に使われていた酒石は「酒石酸水素カルシウム」なのではないか。・・・と思って調べてみたら、一部のサイトにそのような記述がありました。

一方、ソナーに使われるのはロシェル塩といわれる「酒石酸ナトリウムカリウム四水和物」なんだそうです。つまり、化学式もさることながら、カルシウムが含まれていないので石灰を加えてできる結晶とは全く別物。

ということは、ワインに石灰を加えてできる「酒石酸水素カルシウム」と、通常ソナーなどに使う「酒石酸ナトリウムカリウム四水和物」の物理的、化学的性質が似ていて代用できたのではないか?もしくは酒石酸水素カルシウムを原料とすれば安価にロシェル塩が合成できたのではないか?と想像されるのですが、ネットで検索した限りではまったくわかりませんでした。

結論として
1.ワインに石灰を加えると酒石酸水素カルシウムができる(これは化学的にもとくにフシギではない)。 それを酒石と呼んでいた。
2.酒石をとった(すなわち、酒石酸が酒石として沈殿して取り除かれた状態)後のワインはつまり、味の 成分から酸味やうまみが抜けているのでマズイのは想像に難くない。
3.生成した酒石はソナーに用いられるロシェル塩とは別物だけれども、代用品もしくは原料として使われた可能性はある・・・が詳細は不明。


以上の回答を受けたのです。
 さすがです。でも御本人も気にしておられましたので、どこか違うのではという点や気になる点がありましたら、メールや掲示板などで御連絡をお願いしておきます。ようこさん貴重なご回答ありがとうございました。