勝沼の原産地呼称制度


 山梨県勝沼町(現甲州市)は、平成17年(2005年)9月15日、「勝沼町原産地呼称ワイン認証条例」を議会で可決し、同日から施行した。勝沼町では昭和58年より原産地呼称制度を全国に先駆けて導入しているが、その内容は甲州葡萄の糖度規定(18度以上)にとどまっており事実上形骸化していた。このため、同町では新しい原産地呼称認証制度をつくるべく2年間にわたり検討を進めてきたものである。今回条例・同規則を取り寄せてみました(甲州市HPには未搭載とのこと)。

 新しく制定された認証制度の対象となるのは、勝沼町内で自社醸造(町内に事業所を置き、破砕からキャップシールおよびラベルリングまでの工程を町内でおこなったもの)されたワインのみで、町外で瓶詰めされたワインは対象とならない。表示の区分は、葡萄栽培地および認定基準の厳しさに応じて、以下の4つのカテゴリ(区分)に分類されている。なお、4つのカテゴリともに、他品種と甲州種とのブレンドは認められない。また、地区名、ブレンド比率、収穫年の表示にあたっては、当該表示の葡萄が75%以上でなければならない。

 カテゴリ1
 「勝沼町原産地呼称地区名付自社醸造ワイン」(5条1項)
 @対象品種は、勝沼町産の甲州および欧州系醸造専用品種のみ。
 A最低糖度は搾汁後の果汁(補糖や濃縮などの処理前)の段階で甲州種が17度以上、欧州系醸造専用品種は20度以上でなければならない。
 Bワインのラベルに表示する収穫地は、地区または大字、子字、圃場、生産者、通称地とする。地区は、勝沼、祝、東雲、菱山の4地区とする。地区名表示は75%以上。
 C醸造用葡萄品種はブレンドが可能だが、75%以上使用した品種は表ラベルに、それ以外の品種は裏ラベルに使用比率の高い順に記載しなければならない。また、申請のための製品のボトルは750ミリリットルまたは720ミリリットルであることが必要である(規則4条)。
 Dヴィンテージワインに限る(規則6条3項)。

 カテゴリ2
 「勝沼町産原料自社醸造ワイン」(5条2項)
勝沼町産葡萄100%で、糖度は品種を問わず15度以上であること。
収穫地は町名を記載し、地区名、字名、圃場名などは表示できない。

 カテゴリ3
 「山梨県産原料勝沼町自社醸造ワイン」(5条3項)
山梨県産葡萄を100%使用し、葡萄の糖度は品種を問わず15度以上であること。

 カテゴリ4
 「国産原料勝沼町自社醸造ワイン」(5条4項)
国産葡萄100%であれば、品種は問わない。最低糖度は品種を問わず15度以上であること。

 上記のカテゴリ規定にもられた糖度基準は自主検査が前提となっていて、カテゴリ1での甲州種葡萄の収穫時での糖度は実質的に20度以上、またカテゴリ2で求められる葡萄の糖度15%以上は収穫時でみると16〜17度以上に相当し、糖度基準に関しては相当厳しい条件をクリアしなければならない。各カテゴリともに、ソムリエ、ワインアドバイザー、醸造家で構成されるメンバー15人ほどの官能審査会と、ラベル提示後の再審査を得て正式認定となる。認証されたワインは、認証シールまたはラベルへの刷り込みが可能だが、認証シールは申告製造本数に基づき無料で交付する予定だ。

 今回の表示規定では全てのカテゴリにわたり、酸化防止剤は亜硫酸のみが認められ、アルコールやソルビン酸添加したものは認められない(規則6条2項)。「無添加ワイン」も認証対象からはずれた(6条5号)。また、補糖・補酸を一切認めない長野県の規定と比べ、今回の勝沼町の規定は補糖・補酸については触れていない。

 認証審査会は毎年2回、6月と12月に開催が予定されている。第1回の認証審査は平成17年9月15日以降に取り引きされた葡萄を使ったワインが対象となるが、1回目は甲州種を中心とした白系ワインが中心となる見通し。
 「勝沼町内には29の免許業者があり、その内23社が実際に自社商標ワインを製造している。新しい表示規定に当てはまるワインは各社とも1〜2銘柄と想定され決して多くはない。しかし最初は少なくとも、ともかく市場で注目されることが必要だ。いずれ申請件数も増えてくると期待している」と、勝沼町役場担当者は新制度普及の見通しを語っている。

 なお、17年11月の市町村合併により、勝沼町は塩山市、大和村とともに「甲州市」の一部に編入された。現在の塩山には8ワイナリーが事業を展開しており、これらのワイナリーも包含した原産地呼称をつくる課題が期待されるが、当面、今回の新表示規定は旧勝沼地域限定の制度として暫定的に効力を持つとのこと。条例によれば、認証は勝沼町長がなし、申請も勝沼町長に対してなすことになっていたが、現在は甲州市長への申請、同市長による認証ということになるとのこと。平成18年2月現在、認証されているものはいまだないが、現在申請認証にむかって検討中のワインもあるとのこと。

国産ワインを巡る新しい表示規定

 一方、国産ワインの表示に関しては、1986年以来、業界5団体(日本ワイナリー協会と北海道、山形、長野、山梨の各ワイン酒造組合)による自主基準がつくられ現在に至っていたが、この基準が19年ぶりに改正され、平成18年1月1日より適用され、順次新基準により表示されていくとのこと。新基準は次の通り。

 【「国産ワインの表示に関する基準」の主な改正点】

 <改正表示基準の基本方針>
@消費者の視点に立って行う
A情報公開の時代に対応したもの、国際ルールとの整合性に配慮したもの、業界の健全な発展に資するものとする
B分かりやすい内容とし、定める数値は客観的根拠に基づくものとする。
 <改正内容>
 (1)タイトルの変更=「国産果実酒の表示に関する基準」を、「国産ワインの表示に関する基準」に変更した(ぶどうを原料とした国産ワインの表示基準であることを明確するにするため)。
 (2)適用範囲の拡大=基準の適用範囲をぶどうのみのワインを対象としたものから、使用した果実の全部または一部がぶどうであるワインを拡大させた(類似するワインとの表示の整合性を考慮)。
 (3)「国産ワイン」と「国内産ワイン」の用語の整理=「国産ワイン」と「国内産ワイン」の2つの用語を「国産ワイン」に統合し、「国内産ワイン」の用語は廃止した。「国産ワイン」の定義を、“1”国内で製造したワインと“2”これに輸入ワインをブレンドしたワイン、とした。
 (4)製造者名の表示の拡大=現行の「製造者名」のラベル表示に加え、選択により、「製造者名」+「製造場名」の表示も可とした。(例)○○株式会社××ワイナリー製造。
 (5)輸入原料を用いて製造したワインの表示方法の変更=現行の「国内産ワイン・輸入ワイン」(またはその逆)による表示方法を廃止することとした。今後は、使用した原料果実などを「国産ブドウ」、「輸入ブドウ」、「国産ブドウ果汁」「輸入ブドウ果汁」「輸入ブドウ」の用語により、使用量の多い順に表示する方法に改めることとした。
 (6)「国産ぶどう使用」「○○産ぶどう使用」の表示基準の変更=これまで、使用量が50%超であれば表示可としていた基準を、100%に引き上げ、かつ、国産ぶどうに限定した。表示は、「国産ぶどう100%使用」「○○産ぶどう100%使用」とし、100%使用していないものについては、たとえその一部に国産ぶどうまたは○○産ぶどうを使用していたとしても、国産ぶどう使用または○○産ぶどう使用などとそれらを強調する表示は行わないこととした。
 (7)産地表示基準の変更=これまで、使用量が50%超であれば産地表示可としていたものを、75%以上に引き上げた。また、産地が国内であるものは、すべてのぶどうが国産のものであるものとし、産地が国外であるものは、原則、産地表示不可とした。
 (8)品種表示基準の変更(第6条4項)=これまで、使用量が75%以上であれば表示可としていた基準の変更はないが、2品種を表示する場合の最低使用割合25%超の基準を15%超に改めた。なお、品種表示は、使用原料の形状(生果、果汁、ワイン)および産地(国内、海外)に関係なく表示可とした(旧基準は、輸入ぶどう果汁については、品種表示不可としていた)。
 (9)年号表示基準の変更=これまで、同一収穫年のぶどう使用量が75%以上で表示可としていた基準についての変更はないが、年号表示が行えるのは、原則すべてのぶどうが国産のものとした。使用原料が国外であるものについては、国外産地表示可のワインに限り認めることとした。
 (10)特定用語の追加=「クリオエキストラクシオン」「冷凍果汁仕込」「ドメーヌ」「無添加」の用語を追加した。
 (11)特定用語の定義の改訂=「シュールリー」「シャトー」「エステート」「元詰」について定義内容を一部変更した。

輸入ワインの使用の問題もあるが、主要なワイン生産国では、海外産のマスト(ブドウジュース)を国産ワインの原料に使っているのは日本だけだし、濃縮果汁を使い発酵前あるいは発酵途中に水を加えることが許されているのは日本とアメリカだけのようである。


表示基準見直しのポイントは、輸入ワインを用いたものの表示と、輸入果汁を原料とした場合の取り扱いなど。

かつての規定では、国産ぶどうを原料としたワインが50%以上使われているものは「国産ぶどう使用」と表示できるが、これを100%に改めた。また、海外から輸入された濃縮果汁に加水・醸造し、国内でワインに仕立てた場合は「国内産ワイン」として取り扱われているが、輸入ぶどう果汁の表示をつけることが義務づけられた。いまだ十分とはいえないかもしれないが、少なくとも区別が徹底化した点はよかったと思う。なお、日本ワイナリー協会では自主基準がすでに変更されている。