エゴン・ミュラー氏を囲んで、ドイツワインの会


2003・2・13 吉祥・東京国際フォーラム店
ワイナリー和泉屋さんの主催で、エゴンミュラーさんとの食事会が開催され、参加してきました。当初7人定員だったのですが、応募人数が多かったみたいで、結局40人ほどの人が参加されていました。
 ドイツワイン界の大御所でもあるサントリーの伊藤眞人氏が司会進行を務めてくれました。エゴンさんは双葉のサントリーワイナリーで研修をしていたということで日本語も結構話せ、英語フランス語も堪能であるが、現地の雰囲気をかもし出すためドイツ語で話すということでした。
 エゴンさんが各ワインに説明を加えていく方式で会は進みましたが、ラッキーなことに最初席のはしっこに座ろうと思っていたら、その席がエゴンさんの席と通訳の方をはさんで隣だったものですから、いろいろと質問してしまいました(失礼な質問多くてごめんなさい)。質問と答えは各ワインの説明の間をみてしています。私以外の人の質問も混ざっています。
 ちょっと長くなりますが、以下、今回の会の概略です。


       
        左からエゴンミュラーさん、和泉屋新井社長、私


食事
@ゴマ豆腐
A吉祥で作った豆腐(天然塩を少しかけて食べる)
B白身魚の西京焼き(塩焼きだとシュペートレーゼに負けるとかで)
C天麩羅とざるそば

ワイン
@シャルツホーフ リースリング1999 アルコール9%
Aシャルツホーフベルガー リースリング カビネット 2000 8%
Bシャルツホーフベルガー リースリング シュペートレーゼ 1999 8・5%
Cシャルツホーフベルガー リースリング アウスレーゼ 1999 8%
以下、蔵出し特別ワイン
Dシャトーベラ2001 アルコール度12%
Eシャルツホーフベルガー リースリング ベーレンアウスレーゼ1989 6・5%


  99シュペートレーゼ     99アウスレーゼ




  01シャトーベッラ      89ベーレンアウスレーゼ
  


前置き
 エゴン・ミュラー氏は代々、同名を襲名し、現在の当主は4代目エゴンミュラーである。
エゴンミュラーはドイツの名醸地モーゼルザールルーバーにあり、トリアーの近くである。ルクセンブルグ、フランス国境のすぐ近くにあるモーゼルでは、ライン川の支流で、支流から離れれば離れるほど北に行けば北に行くほど気候として寒くなる。ドイツの中でも寒い地域である。トリアーは古い町でローマ時代から栄えた。
 ローマ時代にシャルツホーフ(エゴンの有名な畑)でローマ人がワイン栽培を開始した。中世のころは修道院も所有していた。その後フランス革命でナポレオンが登場し、没収売却された。1797年ジャンジャックコッホという人(前所有者)の娘とミュラーの先祖(1代目エゴンミュラー)が結婚したことで修道院を買うことになったのが我々の醸造所の始まりである。畑は60ヘクタールある、そのうち8・5haがシャルツホーフベルクという畑(なかでも西側の標高の高いところのほうがいい畑)、その他ルガデーという醸造所もあり、これはビルデンガーブラウネクップという畑の葡萄を使う。ほかの畑でできたものはシャルツホーフというワイン名で売っている。先の二つのものは畑の名前をつけて売っている。

テイスティングと各ワインの説明
@99シャルツホーフリースリング。さわやかな飲み口。
 これはスタンダードワインでQba格付けである。99年は100年に4回しかない位のすごくいいヴィンテージ(ほかは後述)。このワインですら、他の年ならシュペートレーゼクラスと言っても過言ではない。Qba格付けのワインにはアルコール度を高めるため補糖が許されている。ただ99はよい年なので補糖はほとんどしていない。98はしっかり補糖をしたが。

A00カビネット。甘みとともに酸味が強くなる。
 Qmpクラスでは法律上補糖が禁止されている。マストの比重が決められている。
 2000ヴィンテージであるが、夏気温があがり収穫時まではOKだった(ここから熟したテイストが感じられる)。このまま行けば前の年同様すばらしいヴィンテージになると期待されたが、収穫が始まったら雨ばかりで葡萄は腐敗した。選果を丁寧にしたが、それでも3分の1は捨て、残りの3分の2でなんとかなると思った。酸が99よりも多く、現在よい飲み頃。99カビネットのほうが00カビネットよりもボディがあり、飲み頃までにもう少しかかる。

(質問)98ヴィンテージは酸味がほとんど感じられずぼけた印象であったが、この原因としてとても暑い夏が影響しているのではないかと言われているが本当か。
(答え)そのとおりである。ただ98は収穫時に降った雨も影響し、そもそも出来はよくない。
(質問)補酸は許されるのか。
(答え)どのクラスでも許されない。
(質問)御社では赤ワインは作っているか(失礼ながらと前置きしての質問)。
(答え)日本人は赤が好きであるが、赤ワインは当社では作っていない。
(質問)アイスヴァインは作っていると思うが寒くないか。
(答え)マイナス7度以下にならないとアイスヴァインは作らない。寒ければ寒いほどよい。
(質問)そういうときに一杯ひっかけてから収穫に行くことはないか(グリューヴァイン〜ホットワインとかを想像)。
(答え)ない。終わったあとなら飲むけど。
(質問)普段は何を飲んでいるのか。ドイツ人だからビールも飲むのでしょうか。
(答え)ビールはほとんど飲まない。夜はゆったりとワインを飲む。
(質問)どんなワインを飲むのか。
(答え)自分のところのもあるし、友人のところもある。むろんフランス、イタリア、スペイン、アメリカなどの赤ワインも飲む。

B99シュペートレーゼ コクが出てかなり甘くなる。
 エゴンミュラー家で作っているワインはすべてリースリングのみである。
 モーゼルの土壌はスレートと呼ばれるものである。シャルツホーフベルクは黒色をし、ビルデンガーのほうは茶色をしている。スレートの独特のテイストとザールの酸がミネラルとかスチールっぽい感じの個性を与えるのである。ビルデンガーのほうが、鉄分が多く、出来上がるワインも力強い。

      
 
テイスティングに戻るが、このワイン表面上は貴腐ワインのテイストが強いがバックボーンにスレートのテイストを感じることが出来る。99は貴腐葡萄の割合が高い。もっと寝かせたほうがよいと思う。ちなみに最高の年と言われる76年のシュペートレーゼをこの前のクリスマスに飲んだがおいしかった。

(質問)このように甘いワインを食事にあわせるとしたらどんな工夫があるか。
(答え)フォアグラに合う(ちょっと質問の意図から外れてしまったが・・、一般的な食事にどう料理を工夫して合わせるかを聞きたかったのですが、他の人の質問もあるのであまり詳しくは聞けなかった)
(質問)補糖とズースレゼルブというのは違うのか。
(答え)補糖は発酵前の段階でアルコール度を高めるために行うものであるが、ズースレゼルブは発酵後に風味付けのためにおこなわれるものである。発酵後に行う方法として、ズースレゼルブの他、当社では発酵を止める(止まる)方式で行っている。その中でも3つの方法に分かれる。第1に、セラーの真ん中の通路の部分に樽を置くと風通しがよいがので温度が下がり発酵が止まる。ただこの方法法は発酵プロセスがゆっくりのときである。第2に気温を下げる部屋(があり、その部屋で発酵させる)。第3にうちではやっていないが酵母自体をフィルターで取り除いてしまう。ただこの方法は残糖が得られる代わりに風味も失われてしまうのでしたくない方法である。
(質問)補糖に使うのはどういう糖分か。
(答え)普通の砂糖である。
(質問)樽はどんな樽を使っているのか。
(答え)古いオーク樽で1000リットルのものを使っている。一番古いので60年使った樽である。
(質問)新樽はリースリングの繊細でエレガントな風味を阻害するから使えないのか。
(答え)そのとおり。

C99アウスレーゼ(小売値段19800円) かなり濃く貴腐香が強い。 
 このクラスになると法律上のエクスレ度を確保するのは当然のことで、本物の貴腐葡萄から作ることが大切になる。99の特徴であるが貴腐葡萄がこれほどたくさん取れた年はなかったということである。一生懸命収穫に努めた。この100年であるが、他にも貴腐葡萄がよく取れた最高の年は76年、49年、また記録は残っていないが21年があげられる。したがって99は100年のベスト4に入る出来。他にも77年もいいが、熟した葡萄ができたというだけで貴腐葡萄はそれほど出来なかったのである。そのような年でもカビネットシュペートレーゼクラスなら97や77などよい年もあるがアウスレーゼクラス以上になると99のような年でなければだめだ。

(質問)アウスレーゼなどの収穫は現実にはどのようにしているのですか。
(答え)場所を限定して取るわけではなくて、取った葡萄を選別しているのである。具体的には30人いる作業人が二つのバケツをかついでいき、一つには緑の葡萄、もうひとつは貴腐葡萄を入れていくのである。99年はほんとに干し葡萄のようないい貴腐葡萄が取れたのである。99はベーレンアウスレーゼ、トロッケンベーレンアウスレーゼも作りたい。ちなみにアウスレーゼ用のワインに値する葡萄がワインにして1000リットル分収穫でき、ベーレンアウスレーゼ、トロッケンベーレンアウスレーゼはそれぞれ50リットル分が作られた。ちなみにどんな葡萄でもワインにしようとすれば8000リットル分が取れる。アウスレーゼ以上の場合はリスクが大きい。緑色の葡萄は水分をはじくから雨もさほどではないが、乾燥した葡萄は雨の水分をすぐに吸収してしまうからである。ドイツの天候の特徴は11月になるとずっと雨が降り続けるのである。温度がもっと下がれば雪になってしまうのである。ちなみにエゴンの畑は北緯にすると50度をちょっと切る程度で、日本でいえば樺太の真ん中あたりに位置するほど。アイスワインは館(=醸造所)のすぐ裏で作られ、このあたりは収穫せずに取っておこうというくらいの狭いところだが、アウスレーゼ以上は範囲が広いのでワイナリー全体に与える影響は大きいといえる。
(質問)こういうすばらしいワインの寿命はどれくらいか。
(答え)30年くらいかと思う。50年は持たせないで飲みたい。
(質問)全体の醸造パターンと新酒なんかを作ることはあるのか。
(答え)収穫は早いと10月15日。平均すると10月20日から11月10日の間行われる。そしてプレス。この段階で果汁を1日放置することで固体部分を沈殿させ、清澄させる。次に1000リットルのオーク樽で発酵。天然酵母で自然に発酵させる。セラーの中は11月になると寒いので発酵はゆっくりと進む。クリスマスくらい遅いと1月に入るまでゆっくりと発酵が進む。そして、自ら発酵プロセスを止める。発酵の結果酵母がなくなるか、寒すぎて酵母が活動を停止するからである。その間、毎日試飲し、マストの比重を計ったり、甘すぎないかドライすぎないかチェックし、時には人為的に発酵を止めることもある。その後滓引きし、3〜4ヶ月熟成させ瓶つめ、販売へとなる。2002ヴィンテージ販売を始めたところ。日本では5月ころ販売開始予定。取引している業者にみんな同じように平等にいきわたるよう心がけている。
(質問)和食とのハーモニーはいかがでしょうか。
(答え)和食とリースリングの相性はよいと考えている。カビネットは特に合うと思う。カビネットはいろいろな側面を持っている。

D01シャトーベッラ なんか南仏(ヴィオニエ)の白ワインの風味?エゴン家のリースリングとは風味が違う?
 伊藤氏によると今後サントリーで販売を検討するが、3000円で売れればという。
 スロヴァキアの旧貴族ウルマン家とのジョイントワイン。プロデュースとボトリングをエゴン家で行っている。スロヴァキアは1992年前にはチェコスロヴァキアであった。ドナウ川に沿ってある醸造所である。ブタペストから北に60キロの位置にある。ブタペストの銀行員ウルマン男爵の夏の休暇地である、1945年に敗戦で没収された。私の妻のおじがウルマン男爵の娘と結婚した。1986年共産圏の崩壊でウルマン家に買戻しのオファーがあり、それを承諾した。私の妻の父が状況を見に行った。城はぼろぼろであったが葡萄畑がたくさんあった。義父から私に見てきてほしいと依頼されたので見に行ったのが2000年のことである。葡萄であるがよくある東欧の品種であるベルシュリースリング(リースリングとは無関係)が植わっているかと思ったらリースリングが植わっていた。また何の技術もないワイナリーのワインだが結構いい。そこでここのワインを造ってみようと思った。当初ドライなリースリングを作ろうと思ったが、その年はマイナス22度まで冷え込んだため発酵を自ら止めてしまい、ドライにはならなかった。葡萄の収穫はモーゼルより早い。2001.10月初めエクスレ度90~95度、貴腐葡萄も少ないという電話連絡を受けた。収穫を1週間待ったところエクスレ度で一気に35度上がったので収穫をした。
 
E1989ベーレンアウスレーゼ 黄金色。杏の香りが漂う。酸はさほど強くない。とろりと粘度が高く、上品であるが強い甘さ。
 サントリーの伊藤さんいわく値段がつかない。
 ベーレンアウスレーゼは毎年できない。89は比較的多く出来た。76・99ほどではないが(BAとして)質は均質であるので差はないはずである。
 特に語る言葉を持たないという感じであった。そろそろ時間ということで名残を惜しみつつ会はお開き。

 とても上品で貴族的な感じの4代目。受け答えもドイツ人らしくきまじめ。
あなたたちのセラーにはボルドーが入っていると思うが、ボルドーを飲み、99年の貴腐ワインを寝かせてみてほしいというくらいが最大限のジョークであり、つつましい。
 しかし久しぶりにリースリングを堪能したすばらしい会であった。記念写真を撮って散会。

後日談 エゴンの畑は100年もの樹齢のリースリングが結構あるということで、そこらへんを聞いてみたかった。