2004年 ピエモンテ

ピエモンテ

ピエモンテは久方ぶりの大きな収穫にわいている。ドルチェット、バルベーラ、フレイザ、どれをとってもバランスよく熟している。決してアルコールが強いわけではない。2003年に比べると少しパワーに欠ける程度だ。主役のネッビオーロもリッチでフェノール分がたっぷり、13%〜13.5%のアルコールがある。モスカート、シャルドネなどの白品種や、ピノ・ネーロなどの早熟品種もこれまた“アウトスタンディング”と評されている。
 収穫と仕込みを終え静けさを取り戻したアルバを11月下旬に訪ねた。そして、ピエモンテの2004年ヴィンテージとバローロワインをとりまく市場環境の変化について、バローロのバイヤー、ジュゼッペ・モンキオ氏(エノランガ社)に聞いた。また、バルバレスコの生産者プルノットの広報担当者には、バルバレスコの収穫状況を聞いた。

バローロの状況
 「2004年は偉大なヴィンテージです」と、開口一番、モンキオ氏は言った。バローロでは、ここ数年、最良のヴィンテージが続いていた。しかも、2003年のように常軌を逸した気候条件、つまり並外れて暑い、バローロでは考えられないような夏にさえ慣れはじめていた。しかし、2004年はこうした異常気象に見舞われる前の、真っ当な気象状況に戻った年と言えるだろう。以下、モンキオ氏の話を、季節を追いながら整理した。
<冬>
 2003年11月から寒くなり、山間部には雪が降り始めました。早い時期から寒くなっただけではなく、降雪量が多かったこともこの冬の特徴でした。
 バローロのブドウ畑がある地域では、とくに1月に入ってからの積雪量が多く、これは2003年夏の猛暑で乾ききった地中の水分量を補う“ご加護の手”と呼ばれました。というのも、地中の水分は雨よりも雪によって補充されるほうが葡萄栽培家にとっては都合がよいのです。雪によって蓄えられた水分は、より長く土中に留まり、時間をかけながらわずかずつゆっくり溶け出して、土の深層まで届くようになりますから。
<春>
 冬に倣って2004年の春もまた葡萄栽培には最良の気象条件が続きました。3月から4月にかけて、数日間の雨がありました。同時に気温は20℃から23℃までの暖かな日が続きました。
 これによって、葡萄樹は2003年に比べると8日から10日間ほどゆっくり遅めの成長活動を開始しました。5月の初旬から15日までの間に、都合2〜3日の大雨があったので、ブドウ畑の一部では今年最初のベト病が発生しました。
 6月の第2週から開花が始まりましたが、よく晴れて安定した天候が続き、開花の環境はとても順調でした。結局、春のすばらしい天気は5月いっぱいまで続きました。5月末には雷雨があり、今年最初の雹も降りましたが、ブドウ畑に目立った被害はありませんでした。その頃には、すでにブドウ果はかなり成長が進み、地域によって多少の差はあるものの、顆粒の大きさは、だいたい米粒大から、それよりやや大きい程度のものにまで育っていました。
<夏>
 夏の気候も引き続き通常通りで、安定した天候に恵まれました。気温も普通に上昇し、8月4日には再び雹が降りました。この降雹でブドウ畑は、地域によって15%〜25%ほどの被害を被りました。その後、地域と葡萄品種によって多少の差があるものの、概ね7月の終わりから8月の初めにかけてブドウ果が色づき始めました。
<秋>
 夏の終わりから秋の始まりにかけて暑さが持続しました。日中の暑さが夜間にも持ち越したので9月の後半にはドルチェットの収穫が始まりました。この頃の特筆すべきことがらとしては、夜間気温がそれほど下降しなかったため(本来、昼夜の大きな温度差はネッビオーロ葡萄の成熟に重要かつ効果的な要素ではあるが)、大きな温度変化に弱いドルチェット葡萄の成熟には非常に良い条件であったことです。
 そしてドルチェットの収穫が終了した9月末になると、急に夜間の気温が著しく下降を始めました。昼間の温度は依然として高いままでしたので、昼夜の大きな気温差が今度はネッビオーロの成熟にはこの上ない好条件となり、文字通りネッビオーロに完璧な成熟をもたらしました。ネッビオーロの収穫開始は10月20日からでした(大幅な夏季剪定を行った一部の農家を除く)。
<2004年の収穫量>
 猛暑と旱魃でブドウ果が干ブドウの状態になってしまった2003年の収穫量と比較すると、2004年は35%〜40%もの増加となりました。しかし、過去数年の平均的な収穫量と比較すると増加率はもう少し控えめで、約20%増になります。この数字は夏季剪定を行わなかった栽培農家に関するもので、夏季剪定をきちんと行い収量を抑えた栽培農家の場合は、平均すると10%〜15%ほどの収量増加になります。
 収穫量が増加したので、2004年産葡萄の取引価格は下がっています。2003年に較べると平均価格で10%〜15%の下落です。
<2004年の主発酵と乳酸発酵>
 2004年のアルコール発酵に関しては何も問題はありませんでした。ブドウ果は健康そのもので申し分がなく、糖度はドルチェットで19〜20度、ネッビオーロで20〜21度ほどありました。乳酸発酵は12月初旬まで続きましたが、これも全くなんの問題もなく順調に進みました。

 また、米国での同時多発テロ事件以降の消費低迷で、深刻な供給過多に陥っていたバローロの市場環境について、モンキオ氏は次のように説明した。
 バローロを取り巻く市場環境は、現在のところ膠着状態に陥っています。2004年の収穫直後に発行されたワインスペクテイターの記事が、“世紀のヴィンテージ”と発表したので、それに影響されて一瞬、バローロの市場が活性化しました。しかし、それもすでに落ち着いたようです。
 生産者のところに入る買い注文は、低価格のドルチェットとバリック熟成していないバルベーラに集中しており、いずれも平均蔵出価格は4ユーロ〜6ユーロです。出荷価格に関するバローロの生産家の話を総合すると、2001年産の蔵出価格は若干下がる傾向にあります。下げ幅はだいたい10%くらいでしょうか。これ以上のことを現段階で述べることは差し控えさせていただきます。
 ただ、2001年産の蔵出しの始まる時期は延期され、平年より遅いタイミングになるものと思われます。それは、ほとんどの生産者が2001年産以前のヴィンテージの在庫を抱えていますし、中には1998年産の在庫がまだ解消されていない生産家もいますから。バローロの生産者を取り巻く市場環境は、依然として厳しい状況が続いていることは間違いありません。

バルバレスコの収穫状況
 バルバレスコのプルノット社に出かけて、広報担当者から2004年の天候とブドウの収穫状況を聞いた。
 2003年の晩秋から2004年の初めにかけて降った雨と雪が、2003年夏の旱魃と猛暑で著しく乾いた土壌の水分を回復させました。
 冬の間の降雪量が多く、おしなべて寒さが厳しかったことと、その後の春の長雨が5月の初めまで続いたことから、ブドウ樹の発芽が平年よりやや遅れました。この長雨で葡萄栽培農家は、ベト病が早期に発生するのではないかという危惧を抱きましたが、幸いなことにベト病の発生は免れました。
 ベト病への心配はそれほどでなく済んだものの、バルバレスコ地区の葡萄栽培農家を悩ませたのは、その後に発生したうどん粉病のほうでした。7月の初旬から続いた曇りがちで控えめの気温、それに高い湿度が加わってうどん粉病が発生しました。その後、8月から9月にかけては適当な高温とからりと晴れた天候に恵まれました。
 ブドウ果は中程度以上に育ち、順調な成熟をみることができました。今年は発芽時期が遅れたので、暑すぎない夏の温度上昇によって、その後のブドウ果の成長は順調でしたが、8月末の段階で10日間程度の成熟時期の遅れがみられました。
 2004年の特筆すべき天候条件としては、9月から10月初めにかけての高気圧の発生により、日照量が多くて雨が少なく、温度も平均値よりやや高め程度のほどよい暑さが続き、収穫時のブドウ果が完璧な健康状態のもとにあったということです。そのため、栽培農家はみな、心穏やかに収穫作業に臨むことができました。
 2003年に較べると遅い収穫開始でしたが、非常に品質の高いブドウを収穫することができました。また今年は、どの栽培農家もブドウ樹の生長バランスをとることに非常に心を砕いて作業にあたった年でした。なぜなら、2003年の極端な暑さでブドウ樹がとても疲弊したからです。
 バルバレスコ地区でのネッビオーロ葡萄の収穫開始は10月10日頃でしたが、好天に恵まれ、幾日かは曇天の日もありましたが幸い雨は少なくて済みました。収穫作業は10月末にはすべて終了しました。
 その後の醸造段階で、2004年のワインは非常にアロマが高く、香りに複雑さがあって、色調が濃く、申し分のない適切な酸度とアルコール度をもち、とても将来性の高いものになりました。要約すると、2004年は気候条件的にこのうえなく正常な年であり、正常な収穫時期と理想的な収穫条件に恵まれた、クオリティの高いワインをもたらしたエクセレントな年でありました。