八代亜紀
3月17日発売『これからがある』
〜ソングブック7月号掲載より〜

 フと耳にして、妙に心に残る歌がある…。いつかまた、出会わないかなと思う。
次ぎに聴いた後は、レコード店に走っていた。
そんな感じでジワジワと広がって行く歌がある。
八代亜紀『これからがある』も、そうしてヒットの輪を拡大中。
 先行きの見えない明日に元気を失った人々への応援歌。
♪これからがまだまだ これからがある…。
八代亜紀にとっては極めて異色のメッセージ色濃い楽曲です。
同曲に元気を取り戻した人々が多いと聞く。
同時に楽曲と歌唱の妙に魅力を感じる人もいる。
大スケール・メロディーのインパクトと、マン・ツー・マンで優しく語りかけるノン・テンションの癒し歌唱が、
行ったり来たり波紋のように揺れて、他にはない不思議な魅力もある。
このご時世、元気な人は少ない。
元気を取り戻すには同曲の、このバイブレーションを浴びてみるのがいいようです。

 3月発売の八代亜紀『これからがある』が、波紋を広げるように浸透中です。ひとたび耳にすれば、その優しさが胸にジワーッと沁み込んで、忘れ得ぬ歌として心に命を宿す。八代亜紀にとっては異色の人生応援歌、極めてメッセージ色濃い作品。まずは、同曲誕生の経緯を聞いてみた。
「昨年の30周年で阿久悠先生と話し合い、元気をなくした中高年の方々に、貧しくても心豊かだったあの頃のいい時代を思い出していただこうとアルバム『いい男いい女いい時代』をもって、1年間走って来た。仕事で全国をまわっていますと、シャッターが下りた商店街をはじめ、不況に苦しむ人々に胸が痛く切なくなって来たの。そして21世紀です。過去を振り返るのではなく、積極的に明日に向っていただく応援歌が必要と思った。もず唱平先生と旦那さん(所属事務所社長の増田登氏)が囲炉裏を囲みながら構想を練ってくれて出来た曲です」
 そして、こう続けます。
「今までの28年間を振り返れば、いま元気をなくしたお父さん、お母さん方が最も活気に満ちていた時代に、私は応援していただいた。そんな皆さんが不況下で苦しんでいるのを黙ってみてはいられない…」
 ボランティア活動も活発な彼女のこと、溢れるような情熱が同曲にこめられている。そしてレコーディング。大スケールのメロディーに、声高らかに歌い上げると思いきや…
「旦那さんがね、それじゃ、ダメだというんです。コブシもいらないと。もず先生も“うまく歌わないで下さい”と言うんです」
 もともとジャズもカンツォーネも歌うクラブ歌手。ウワーッと歌い上げる歌唱はお任せの彼女は一瞬戸惑った。「外に向って広くではなく、聴いていて心が広く感じる、心が優しくなる…そんな広さが欲しいのです」
 と難しい注文。歌い上げず、語りに徹した歌唱の『なみだ恋』100万枚突破の大ヒット曲があるではないか。この語りの歌唱に、心の広さを求めた新たな歌唱がここにある。結果的に大スケールのメロディーが発揮するインパクトと、ノンテンションの癒し系歌唱が交互に波状的に広がる、妙なる魅力を有した歌が誕生した。
「元来、レコーディングは七分で歌うが、私の信条なんです。七分で歌えた時は、そこに余裕が秘められているわけですから奥行きが出ます。でもレコーディングはある程度キチンと歌わなくてはいけないという意識がありますから、この辺が難しいのね」
 そして今、ステージやテレビでは、CDに収められたヴォーカルより、さらに語りかける歌唱が披露されていて、聴く者を引き込む効果がより発揮されている。ラジオでテレビで、またステージで同曲を聴いた人々から…
「明日、希望に向って生きる勇気と元気が湧いて来ました」
 の反応が続々届いていると言う。同曲発売と共に展開されている「あなたにとっての夢 これからがある」をテーマにしたハガキ文の募集(別項で紹介)にも、感動メッセージがたくさん寄せられている。同曲は世代を超えた応援歌で、若い層からのハガキも多いとか…。
 一方、八代亜紀は今、中高年層の憧れ的存在になりつつあって、この辺にも熱気が高まっている。箱根早雲山の別荘アトリエ暮しがそれで、八代窯の名を冠する陶芸(主にご主人が熱中)、絵画(ご存知、八代さんはフランスのル・サロン3年連続受賞の画家)、そして畑を耕し、温泉もありの豊かで素敵な山荘暮し。中高年が夢にみる第2の人生ここにあり、なのである。
「ここ数年は音楽活動が月に20日間、絵とお休みが10日間ペースです。私が描く絵はルネッサンス技法による綿密写実画です。薄く何度も描き重ねて質感と深味を出して行く絵ですから、絵筆を持てば即、没頭出来る世界です」
 こころ落ち着くもうひとつの確かで充実した生活を持って、歌手・八代亜紀のスタンスも微動だにしない確かさを生んでいる。語るすべてに説得力が増している。
「ステージで完全燃焼できるのも、そのためだと思っています。激しいダンスも踊ります。パワーをいっぱい感じていただきたいの。そこで“亜紀ちゃんも頑張っている。俺たちも頑張らなきゃ”と思っていただくことが私の使命なのですから…」
 八代亜紀の大きな眼が、またキラッと輝いた。
「さぁ、八代さんにタッチなさい。きっと幸せになりますよ」
 と、聖母にも似た微笑…。

プロフィール
●昭和46年デビュー。翌年「全日本歌謡選手権」10週勝ち抜きチャンピオンに。昭和48年の『なみだ恋』が大ヒット。以来、多数ヒットを放ち昨年、歌手生活30周年。昭和60年より個展を開催してきたが、平成10年よりフランス「ル・サロン展」に3年連続入賞を果たして、画家としても活躍中。
『これからがある』 作詞:もず唱平/作曲:伊藤雪彦/編曲:伊戸のりお
CDS:CODA−1938/MTS:COSA−1515 ※カップリング曲『愛の影』は作詞:水木れいじ/作曲:伊藤雪彦/編曲:川口真軽快テンポの八代演歌。

八代亜紀『骨までしびれるブルースを』
06年1月18日発売(作詞:荒木とよひさ/作曲:水森英夫/編曲:矢野立美)
月刊「ソングブック」3月号掲載


骨の髄まで楽しくやろうよ…遊び心いっぱい「ザ・ヤシロ」の炸裂だ!!

 イントロからフルバンド演奏に身体が揺れます。流れくる歌声は「ザ・八代亜紀」。そのハスキー、コブシ、ビブラート、巻き舌、ブレス…と八代亜紀の全特徴全開。レコーディング現場では、ワンフレーズ毎に歓声渦巻いたに違いない。直截な説明をすれば“ものまねコロッケ”が八代亜紀の特徴をオーバーな表現で唄った感じ…。
 そう言うと八代亜紀も大笑い。低迷の歌謡シーンに起爆剤を投げ込むような極めつけのユニーク&インパクト。かくも楽しい新曲誕生は、いかにして誕生したのだろうか?
「世の中、ストレスが溜まりっ放し。バンドの皆さんもフル演奏が出来ずに欲求不満。そう、楽しかったあの頃、昭和のよき時代のフルバンドで思い切り遊んでみましょうよ…よいうのがコンセプトです」
 台詞入り。
「夢ね…あれもこれも 楽しかった夢…いいじゃない…」
 いつの時代のことだろう? 「それは作詞の荒木さんに聞いてみなければわからない。私にとっては昭和40年代の歌謡曲全盛で、まだキャバレーやクラブにフルバンドがあった時代かな」
 そう言われて、このタイトルから城卓矢『骨まで愛して』を想起すれば、そのヒットは昭和41年。同年には青江三奈『恍惚のブルース』もヒット。両曲を作詞の川内康範は、後に八代亜紀の『愛ひとすじ』『愛の執念』などの情念渦巻く“愛シリーズ”を作詞しているではないか。そして…
「同じハスキーの先輩、青江さんにとても可愛がっていただきました。男っぽい青江さんの“アキ、アキ”と呼ぶ声が今も忘れられません」
 同曲を聴いていると、昭和の良き時代の懐かしさもする。ではなぜ水森英夫作曲?
「水森先生は最初、三連符のメロディーを書かれたんです。それはすでに『もう一度逢いたい』などのヒット曲がありますから、そうではないのをやりましょう。そこで冒頭説明のフルバンドで徹底して楽しく…と書き直していただいたんです。アレンジも私がプロデュースすることになって、矢野立美さんが私のイメージを伝えたんです」
 水森英夫はオケ録りの最中に余りの“エグさ”にスタジオを逃げ出したそうな。音が完成してからこう言ったと言います。
「あのぅ、ちょっとトビ過ぎてはいませんか。もうすこし演歌風がいいと思いますが」
 しかし唄入れしてみれば…
「“これはいい、最高です”と大納得。発売日の1月18日にNHKラジオの生番組“きらめき歌謡曲ライブ”で初披露。演奏“三原綱木&ザ・ニューブリード”の皆さんが、それは喜んでノリノリの演奏して下さった。むろんCDよりさらに大ノリのステージ・アレンジです」
 昨年の35周年は叙情演歌『不知火情話』で着物姿だったが…
「今年はワァッと広がった髪でドレス。“八代亜紀だぜぃ〜!”というファンションでやろうと思っています」
 表題曲が極めつけのインパクト曲なら、カップリング『最後の女』は極めてオーソゾックな演歌。作詞・秋野めぐみは本人のペンネーム。氏は『恋瀬川』で第17回日本作詩大賞・入賞のお墨付き。
「耐え忍ぶ女性が好きなんです。私が書くと全部こんな女性が主人公になります」
 根は優しいんです。だから1年の3分の1は確保している画家生活で描く絵は“優しさ・あたたかさ”がテーマ。肖像画やペットの絵の注文が引きも切れぬ
「超売れっ子画家で〜す」
 新曲の遊び心も、そんな充実生活があるからこそ生れたのだろう。

<歌唱アドバイス>最初の4行はスウィングして。最後の♪骨まで〜は三連符を意識して、声を天に突き上げるように。それに続いてウォウォ〜と思い切り唸って下さい。●3月22日〜28日に上野・松坂屋で個展開催。●目下は本人プロデュースのパチンコ「CR演歌の歌姫」が八代亜紀全開の映像と歌オンパレードで大話題。



八代亜紀『女心と秋の空』

「ソングブック」06年10月号掲載

所ジョージ楽曲。軽妙かつ軽めの存在感で…それはまさに“秋風”のような心地よさ。
新たな八代亜紀の魅力に…揺り揺られます。ベテランの達観、洒脱の域をどうぞ…


 所ジョージ作詞・作曲と聞いて、おっと・と・とっと肩透かしをくらった。前作『骨までしびれるブルースを』も真っ向勝負を避けた大変化球だったからだ。そのハスキー、コブシ、ビブラート、巻き舌、ブレス…。自身の特徴を強調した遊び心いっぱい「ザ・ヤシロ」節。まだ遊び足らなかったのか…。『女心と秋の空』を聴いてみた。ちょっと気だるい軽快テンポにスチールギター。ハワイの海辺をお馬がパッカ・パカと歩んでいるかのパーカッション…。
「スタジオで唄い出そうとしたら、そんな愉快な絵が浮かんできて笑い出しちゃったの。もう止まらなくって…」
 かくして肩の力も抜け、その歌唱は風さながらの超ライト感覚…。
♪港のまちに住む人の 風の便りにのせましょう ちょいと女心と秋の空〜
 八代歌唱が笑みをこらえている気配も伺える。聴いている側も知らずに肩の力を抜き、身体が揺れだす。
「そう、ちょっと幸せな気分になったでしょ。今はイヤなニュースばっかりで生き難い世の中。だからこそ、こんな歌がいいんですよ」
 低迷する歌謡シーン。ヒット実現に苦闘する歌手群像。八代亜紀はそんな状況も含んで、こう言った。
「私たちは100万枚ヒットの時代を知っていますが、今は頑張って10万枚が大ヒット。こんな時代は楽しくやった方がいいんですよ」
 『なみだ恋』『舟歌』『雨の慕情』…のミリオンヒットを有し、レコード大賞受賞者ならではの達観か。改めて新曲誕生のそもそもから訊いてみた。
「テレビ番組の待ち時間に所さんと絵の話をしたんです。“所さんの肖像画を描きましょうか”に“いや、僕ではなく家の犬を描いて下さいよ”とおっしゃった。沖縄で捨てられていた雑種2匹を奥様が東京で可愛がっているとか。ワンちゃんの写真をお借りして絵を描いて差し上げたんです。そのお礼にと曲をプレゼントしていただきました」
 最初は八代節濃厚のかっこいいジャージーな仕上がりだったと言う。
「所さんも“これぞ八代節。我が家の宝物にします”とよろこんで持ち帰って下さった。その時はアルバムのなかの1曲になれば…と思っていましたが、スタッフが後で“もう一度録り直しましょう”と言う。せっかく所さんからいただいたのだから、力の入った八代節ではなく、所さんらしい軽いノリの歌唱でやってみましょう…と」
 スタジオ入りした八代を襲ったのが、前述の笑いが止まらぬ楽しいイメージ。レコーディング・スタッフを30分も待たせてから唄いだした。その歌唱は、見事なまでに力が抜けていた。聴けばそこに新たな八代亜紀の魅力があるではないか。レコード会社も事務所も一挙にシングル・リリースに向って動き出したと言う。
 振り返れば八代亜紀には30代のスランプに、焦れば焦るほど必要以上の力で唄っていた時期があった(自伝書“素顔”より)。その後は七の力の歌唱を信条にしてきたが、新曲はさらに力を抜いての“風”歌唱。
「これで、所さんのひょうひょうとした感じが出たと思います。所さんの絶大人気は、誰もが存在感強調の芸能界にあって、その軽妙さが逆に好感、安心感を与えてのことだと思います」
 一見、世界を異にする二人だが、互いに自身の趣味世界をライフスタイルに確立している点が共通項。所ジョージは趣味世界そのままの構えなしでブラウン管に登場で、八代亜紀はややもすれば“えぐい歌”を得意とする歌手として登場だが、この曲は八代のそんなイメージを完全払拭だろう。
 平成9年、「すっぴんコマーシャル」で世間をアッと言わせたことがあったが、そんな事も思い出させる思い切ったナチュラル性のアピールになりそう。そもそも八代は厚化粧ではなく彫りの深い顔立ち。また一時期の川内康範作詞の情念渦巻く楽曲で“濃い”イメージがあったものの、過去のヒット曲を振り返れば『なみだ恋』のワルツ、『雨の慕情』のサビ♪雨雨ふれふれ もっとふれ 私のいいひと つれて来い〜の軽快なサビで大ヒット。
 さて、その所ジョージの楽曲は、テレビなどでよく披露される数フレーズでオチがついて終る歌ではなく、しっかりと書き込まれている。しかしその詞は限りなく存在の軽さに貫かれ、シテ役(主人公)が果たして男か女かもハッキリしない…。
「私もそう思って所さんに伺いましたら、客観的にみている女歌だとおっしゃいました」
 情念、執着心なしのノンテンション。
♪女心と秋の空 どこまで本気なんでしょう〜
 ウム、ひょっとするとこの軽いノリをもってヒットの企て…とも勘ぐりたくなってくる。
「そんな“えぐい下心”なんかありませんよ。でもこの曲を数回聴いていますと、自然と一緒に口ずさみ、肩を揺らしたくたってきますから不思議です。発売前のテレビ収録を2番組撮りましたが、皆さん、この曲になりますと笑いながら身体を揺らしているんです」
 前作はかつてのキャバレー・フルバンド全盛期を意識した楽曲だったが、新曲はライブハウスやリゾートで聴きたい・唄いたい感じ。また所さん大好きの若い人々が唄い出せば、ファン層を越えた大ヒットの可能性も…。
 カップリング『お酒を飲んで…』も所ジョージ楽曲。こっちはブルースハープをフィーチャー。八代亜紀が大好きなジュリー・ロンドンを思い浮かべながら聴くのも一興。

(キャプション)●毎年4回の絵画展を開催。これからが芸術の秋で、どんなに音楽面が忙しくても秋と冬の個展に向けてのスケジュールはしっかりと守られている。目黒区八雲の「ミリオンアートスペース/アトリエ・ギャラリー」では絵画・陶芸教室も開催中。詳しくは「八代亜紀オフィシャルホームページ」を参照。

『女心と秋の空』
06年8月23日発売
作詞・作曲:所ジョージ
編曲:石倉重信


八代亜紀 『鰻谷』
●平成19年3月号「ソングブック」掲載●

故・河島英五の遺作を七回忌にリリース。
「この惑星の八代亜紀の新曲は泣ける。鰻谷から難波まで歩いたら…涙が止まらなくなった」
男を想う女のモノローグ。語り歌唱からブレスを入れて“河島英五”を彷彿。映画シーンのような名曲です。


12年前…生前に託された遺作。
二人の出会いは必然だったような…


 ここ最近、意表を突く楽曲を次々にリリースの八代亜紀。「ザ・ヤシロ」炸裂『骨までしびれるブルースを』、そして所ジョージ楽曲の超ライト歌唱『女心と秋の空』。こうなってくると“さて次は”と期待して、今度も驚かされた。タイトルは『鰻谷』…
「げっ、ウナギの歌? 私はダメです。ウナギは嫌いですから」
 八代亜紀は思わず飛びのいたそうな。ディレクターがこう説明した。
「これは12年前、平成7年の25周年アルバム『色彩花変化』制作にあたって、河島英五さんが八代亜紀のために書き下ろしてくれた作品です。その時は『さよならあんた』と今回の新曲カップリング『月の花まつり』を収録し、この歌は追ってリリースをと思っていた。今年は河島さんの七回忌ですから…」
12年前の譜面とデモテープに接した八代亜紀に、河島英五の思い出がよぎった。
「大阪で河島さんのラジオ番組にゲスト出演した際に“ステージでは河島さんの歌も唄っているんですよ”と言いましたら、とても歓んで下さったの。そんな事もあってディレクターが 25周年アルバムに曲を発注してくれたんです」
♪女は無口な ひとがいい〜の『舟歌』。
♪目立たぬように はしゃがぬように〜の『時代おくれ』。
 どこか似た雰囲気がある。そして二人でNHK「ふたりのビッグショー」に出演した。
「河島さんが最後に“八代亜紀さんは僕の歌も唄って下さっています”こう言って、二人一緒に『さよならあんた』を歌ったんです。大柄で男っぽい方ですが、とても繊細で優しい方でした。お亡くなりになったのが、その半年ほど後でした」

ブレスを入れてパンチを効かせた歌唱で、
抑えた心の叫びを表現…


 物悲しいアレンジ。“あほ”な男への想いに胸をツンッと突かれた女の歩きながらのモノローグ。八代亜紀は最初、愛しい男を包み込むように優しく唄ったと言います。
「昨年末にレコーディングが終ったんですが、年が明けたら男性スタッフ陣が“もうちょっと、河島英五さん風に縦ノリで放り投げるように唄ってくれと言うんです」
 ブレス箇所を多くして、抑えた想いを吐き出すようにパンチを効かせつつ唄い直してみた。アレンジは大阪でバンド音楽中の河島英五の長男・河島翔馬。ストリングス編曲が石倉重信。かくして完成した『鰻谷』は、前半が抑え気味の語り歌唱のモノローグで、次第に抑え込んでいた気持ちが胸の叫びになって迫ってくる歌唱。それに併せて静かに流れていたハーモニカが間奏から前面に出て河島色を増してくる。
♪鰻谷から難波まで…
 あんたなんかもう知らん〜
 聴いていると、大人のいい女が男を想って人の流れに逆らって歩くシーンが浮かんできます。大阪のインパクトある新しい歌の誕生。きっと話題の BOSSコマーシャルの宇宙人ジョーンズも、この新曲を知っていたらこう呟いたに違いない。
「この惑星の八代亜紀の新曲は泣ける。鰻谷から難波まで歩いてゆく女を想ったら…涙が止まらない」
 それにしても“鰻谷”だ。大阪の歌と言えば通天閣、御堂筋、道頓堀、心斎橋、宗右衛門町、梅田、法善寺、船場など枚挙にきりがないほどいろいろな地名が挙がるが“鰻谷”は初登場ではないだろうか。場所は大阪ど真ん中、心斎橋駅から徒歩0分から徒歩 10分までの東西にのびる北通りと南通り商店街。
 七回忌を迎えた河島英五への思い出、題名のインパクト、絵が浮かぶ大人の恋…夜の大阪からヒットの輪が広がりそうな予感がしてきた。
「大阪は大好きです。大阪の皆様も八代演歌を熱狂的に迎えてくれます。きっと新曲を大阪で唄ったら“亜紀ちゃん、おぉきにぃ〜”とよろこんでくれそう。早く大阪で唄いたいです」
 なおカップリング『月の花まつり』はケナーをフィーチャーしたフォルクローレ風のアップンポ曲。♪地上に咲いた 幾千万の花〜 とアンデスの悠久の輪廻が歌われている。
「7年前の生前の河島さんのデモテープを聴いて、不思議な気持ちになりました」
 河島英五の鎮魂歌のようにも聴こえる。八代亜紀のカラオケ・アドバイスは…
「私風に唄っても、河島英五さん風に唄ってもいいと思います。変則的な譜面で難しいと思ったら、聴いたフィーリングのまま唄った方がいいように思います。『舟歌』と同じように絵が浮かんできたら成功でしょう」
 八代亜紀は目下、オリジナル・アルバムを制作中。『大阪で生れた女』の BORO、『夢想花』の円広他…多彩な作家陣で、この完成も楽しみ。
「目下、着々とレコーディングが進んでいます。気合の入った素敵なアルバムになりそうです」

『鰻谷』
作詞・作曲:河島英五
編曲:河島翔馬
ストリングス編曲:石倉重信

●サントリー「BOSS」の宇宙人ジョーンズが♪しみじみ飲めばしみじみと〜と唄って「この惑星の八代亜紀は泣ける」と語る CFが大人気。大量スポットで、八代亜紀が街を歩けば子供や若者が「おぉ、ナマ八代だ!」と大騒ぎになっているとか。思わぬ CF効果に八代人気が急上昇中…。


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