歌川二三子 『夢人生』

父は浪曲師・東光軒宝月。身体に染み込んだ喉芸

その浪曲で培われた「語り歌唱」。聴けども尽きぬ多彩な喉遣いは歌謡界の「お宝」です。

 9年前の自身のアルバム収録曲から新録リリース。聴けども尽きぬ多彩なノド遣い。病魔を克服し、『父娘鷹』で復帰して 10年…。これまでの張りや威勢のよさ中心から、誰もが唄いやすい歌を!と「語り歌唱」に挑戦したのがこの 9月21日発売の当作。
 ♪色々あったね おまえさん
 本当にここまで よくきたわ〜
 この語りは、よくあるマイク接近でつぶやく歌唱とは違って、しっかりと響いている。“張る”虚飾を脱ぎ去れば素地が出る。父は浪曲師「東光軒宝月」、母は合い三味線。 5歳から一家で旅まわり。身体にしみ込んだ芸がでる。浪曲は喉遣いの宝庫。老若男女の声色に始まって無限の声芸がある。
「張らずに語る歌唱、抑えて唄うには腹式発声でなければできません。この唄は腹筋が痛いほど…」
 そんな歌川にして、声が出ぬほど喉がつぶれたこともある。話すこともままならないが翌日がレコーディング。腹式で 16曲を収録。かくして磨かれる歌唱と喉。
「老人ホーム慰問が829回です。大声を張って唄ったら、皆様おどろいて引いてしまいます。膝をついて同じ視線で語りかけ、唄います。小さな声でも声を響かせます」
 各地で歌唱指導を兼ねたキャンペーンを展開。歌川の歌唱を得ようとカラオケファンは歌川の“お腹の動き”を見ているという。
「お腹から押し出す声、しゃくって出す声…。そうした指導実践も逆に私の身に付きます」
 同曲をよく聴くと、韓国歌手に共通のあのハスキーもある。
「子供時分は何百羽の鶏小屋ん中に入って、声を出したり…」
 喉を何度も潰して得た声質…。『夢人生』には、レベルを上げたカラオケ自慢が、さらにレベルアップするのに貴重なヒントがいっぱいです。女性が語るこの『夢人生』をマスターしたら、今度は男性側から人生を歌った前作『人生坂』へ挑戦。ここまで唄えたらその前々作『大祭〜馬追い祭り〜/村上水軍』へ。ここでは腹式発声ならでは大迫力の“口上”が聴ける。そうして唄を、喉遣いを深めれば自然に邦楽への興味も湧いてきましょう。そこまで関心が広がったら、それが本当の「カラオケ文化」のように思うのだが…。

●浪曲師の父「東光軒宝月」とともに 5歳からステージ巡業。もうこうしたキャリアを有するのは歌川二三子が最後ではないだろうか…。
「父は眼が見えませんでしたが、とてもきれいな声をしていました。その喉は魔法のように多彩でした。ひとウネリすると、そこに絵がクッキリと浮かぶ表現力がありました。生きているうちにもっと教わっていればよかった…」歌川二三子の芸も“おタカラ”です。

『夢人生』
作詞:里村龍一
作曲:岡 千秋
編曲:池多孝春



歌川二三子『おとこの出船』

「ソングブック」06年10月号に掲載

思う存分に歌い上げて真骨頂発揮。3歳から父に付いて巡業旅。その喉遣い…絶妙なり。

 前作は“語り”の抑えた歌唱ながら腹式発声でよく響いた『夢人生』だったが、新曲は思う存分に張った歌唱。歌川二三子の真骨頂発揮と言っていいだろう。今年がデビュー 20年目。それもあってか新曲はデビュー曲『演歌街道』のカップリング曲。原点確認の意があるのだろう。
「作曲の五十嵐靖夫さんはおさげ姉妹(60年代に活躍)のお父様で、遠藤実先生に紹介して下さった恩人です。 10年前のアルバム『演歌心づくし』に新アレンジで収録していますが、いつかは A面曲で恩返しをと思っていましたが…」
 ♪怒涛逆巻く おとこの出船〜 
 北海の荒くれ船の男意気、勇壮な出船シーンをドラマチックに唄った楽曲で、今回は男の掛け声をフィーチャリング。歌川の歌唱はそんな情景を思い切りダイナミックに広げてる。強靭な張りとキレの良さ、いきいきとした艶、加えて錆味もあってまさに油がのった声に酔えば、その巧みな喉遣いにも感心させられる。腰の据わったコブシとビブラート。サビ2行ではコロコロと声の出処まで変化させて(喉の開き方を変化させて)歌唱のクライマックスに奥行きを生んでいる。そう褒めると、こう語ってくれた。
「数え年の3歳から父(浪曲師・東光軒宝月)に付いて巡業に出ていました。父は眼が見えませんで、それは貧しい家でした。でも父は仕事で家を出る朝は、我が家では贅沢品の卵を食べるんです。あぁ、私も仕事をすればおいしいものを食べ、可愛いスカートもはけるかしら…と父の仕事に付いて行くようになったんです。母は合い三味線。私は新舞踊…。お芝居の一座にひとり入れられたこともありました」
 その時分から鍛えられた喉なのか?
「いえ、父から手ほどきは受けましたが、恥ずかしがり屋で人前では唸れなかったんです。でも父は美声で“かたり”がものすごく上手でした。そばで聴いているだけで幸せを感じたものです」
 浪曲は啖呵(声色)が聴き所。喉遣いによって老若男女を演じ分ける芸。自然と身につけた喉遣いなのだろう。カップリング『逢・相・愛− LOVE YOU−』で低音の魅力・菅一次を立てて可憐な声で寄り添うように唄って、ここでも類稀な喉遣いを発揮。
 カラオケ自慢の皆さんは歌川二三子『おとこの出船』の巧みな喉遣いに、ぜひ挑戦していただきた…。

●12年目になるレギュラーテレビ「演歌流行歌」が全国12局ネットに拡大。ここを活動拠点に、実力を追うように人気も全国的規模になりつつある。声の張りと艶と錆味に多彩な喉遣い。今が油の乗り切った絶好調。必然的に日々人気上昇。

『おとこの出船(掛声入り)』
06年7月26日発売
作詞:飯塚義美
作曲:五十嵐靖夫
編曲:池多孝春



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