10周年記念ミニアルバムは脱演歌で、新たな世界を構築!
田川寿美
『夏から秋へ〜寿美・
25歳』
〜「ソングブック」9月号掲載原稿〜

 若手女性演歌の最右翼・田川寿美ちゃんが、早くも10周年を迎えている。
16歳でデビューして今、25歳。
その定評ある歌唱力に磨きをかけた10周年記念曲『海鳴り』が大ヒット中だが、
一方、25歳の自然体で唄いたいと…
脱演歌のライヴ・ステージを7月23日〜25日に草月ホールで行った。
そして8月18日に10周年記念ミニアルバム『夏から秋へ〜寿美・25歳』で
脱演歌の全6曲をリリース。
それは演歌一途からスーパー・ヴォーカリストへの道、
本物のエンターテイナー目指す道。
新たな世界に飛び立った田川寿美ちゃんに、さっそくインタビューです。


●鋭い自己分析から脱演歌の試みが…
 まずはライヴ仕立ての
10周年コンサート、そして8月18日発売の10周年記念ミニアルバムへの経緯を聞いてみた。
「従来の着物のステージとは違う、いわゆるライヴ・コンサートをやりたくなって来たんです」
 と言うことは、演歌ではない楽曲への挑戦…。
「そうです。今まで“海”を舞台にした男女の哀しい歌ばかりを10年余…繰り広げて来たわけでして、これにはどこかに無理があって、肩にも変な力が入って来ます。そこで25歳の自然体で唄いたくなってきました」
 目下、その磨かれた歌唱力を発揮しての…“海”舞台の哀愁演歌『海鳴り』がヒット最中にかかわらず、余りに鋭い自己分析をサラッと言ってのけた田川寿美。思わず、その顔を食い入るように見つめれば、そこには…美しき着物姿で凛とした表情をもって、コンピュータ社会の21世紀からは実体験し難い懐かしき過去(演歌世界)を再構築するバーチャル世界の歌姫・寿美は居ず、現実に厳しく対峙し格闘している生身の田川寿美がいるではないか…。
「10代の頃は歌の舞台が波止場なら、波止場にいる自分を素直に想像し、そこで哀しいなら哀しい自分を素直に想像して歌って来ました。でも、そのうちに“これは嘘だなぁ”と思ったら次第に疲れて来た。これでは聴いて下さる方々も辛くなってしまう…」
 そんな疑問を2、3年前に抱き出したと言う。無我夢中で走って来てフと立ち止まれば、そこに立ちはだかる大きな矛盾。
 だが、目下ヒット中の『海鳴り』を聴き込めば“壁”を超えたのであろう成果か、生身の女の味わいが生まれつつある妖しい味も出ていて、見事に壁を乗り切って“いい女”になって行く彼女が垣間見える。ホンネで唄い、語れる本物になって来たんだなぁ、とうれしくなって来た。
「悩んでいるうちに、自分の中で踏ん切りがついたと言うか、先に進む糸口が見えて来たんです。糸口は三つあって、一つはどんな時代背景であろうと、女性の気持ちって変わらないんだ…という認識です。二つ目は実際に演歌が好きで、私を支えて下さっている方々が大勢いらっしゃる…という認識です」
 あっけからかんと語るが、答えが見出せるまでは苦悩の日々だったに違いなく、そこをサラリッと言ってのけるのもいかにも寿美らしい…。
「そうフッ切るためにも、また21世紀に生きながら演歌を唄うことによる精神バランス上、等身大で唄える歌の必要性に気付いての脱演歌の試みです。そんな私の考えに、スタッフの方々もいいアイデアを出して下さった」
 それが今回の作品公募展開で、テーマは25歳の田川寿美が恋をしている夏、恋が終わった秋。4月末日の締切までに約5500曲が寄せられ、結果的にティーン中心のJ―POPでも演歌でもなく、25歳ならではの歌謡曲6作品が選ばれた。メロディー応募部門から選ばれた3曲には作家・五木寛之さんが快く作詞してくれたという。
 こうして完成したのが8月18日リリースの10周年記念6曲収録のミニアルバム『夏から秋へ〜寿美・25歳』。レコーディングを終え、リハーサル2回で冒頭紹介の草月ホールでのライヴ・コンサートだったと言います。コブシ効かせた寿美節に親しんで来たファンは、コブシ一切なしの脱演歌、彼女のパワフルな歌謡ヴォーカルに驚嘆したことは言うまでもないだろう。
「今の20代、30代層はもう歳を取っても演歌を聴いたり唄ったりしない世代だと思いますから、同世代にも聴いていただける歌の世界を持つことも大事だと思います。演歌はこうしなければいけないという決まり事の多い歌唱ですから、ポップス・ヴォーカリズムをもって自己表現する術も身につけたいと思った」
 と言うことで、この歌を唄っているのは田川寿美ですヨと言われなければわからず、きっと実力派の新人歌謡シンガーが現れたと思うに違いない、存在感に満ちた全6曲です。

● そのハートフル歌唱は世代を超えて…
 簡単に紹介すれば…まず、透明感と張りのある高音が、癒し系とも言える穏やな空間を広げる『恋月華』。軽快テンポ、ポップ・サウンドに乗ってキャッチーな歌詞で可愛く若々しく弾ける『真夏にキュキュキュ』。旅情フォークっぽい味わいの『嵯峨野前線』。ミディアム・テンポでしっとりと歌い上げる『秋のバラード』。同曲について彼女は「25歳の揺れ動く気持ちが書かれた詞で、不思議なほどに今の自分にピッタリの歌です」。そして、ちょっと大人のムードで説得力あるバラード『セピア色の日々』。ポップ演歌とでも言いたい『内灘哀歌』…。総じて、その張りのある声質がいかんなく発揮され、生命力と意志力が満ちたパワフルなヴォーカルです。完成したミニアルバムを聴きながら彼女はこう言います。
「まだまだ出来ていませんが、もっと自分をナチュラルに解き放って、ハートフルなヴォーカルが出来たらいいなぁと思っています。幸い音域を広く書いていただいたせいか、いつの間にか太く、中低音の出てきた喉を発揮しての説得力が出せたかなぁ、と思っています。そして何よりも生きている躍動が気持ち良く唄えて、聴く方も気持ち良く聴けるかなぁ…と思っています」
 そして、こうつけ加えた。
「デビュー当時は怖さを知らなかったから、いい意味で尖った部分もあって、その良さもあったかに思っています。が、それも次第になくなって決められた枠の中にいる安心から、そこから出るのが怖かった時期もある。これじゃ進歩ありませんものネ」
 と、また自己分析。さて同アルバムにはステージで披露されながら、それらの目玉楽曲ともいえる2曲が未収録で、田川寿美の脱演歌の試みに早くも“伝説”が生まれている。その1曲は作詞・五木寛之/作曲・山崎ハコの『浅野川恋歌』。フォーク全盛期に熱狂ファンを有したハコのメロディーで、泉鏡花がらみの詞とくればその重厚さは想像出来てフォーク世代には垂涎楽曲。
「金沢を流れる浅野川沿いに文豪・泉鏡花生誕の地があって記念館も文学賞も設けられています。今後のイベントで使われるかも…。ハコさんが私のイメージで書いて下さった楽曲です」。
 そしてもう1曲は9月1日公開の映画「大河の一滴」の主題歌で作詞は同映画原案(原作はエッセイ集)の五木寛之で、作曲は加古隆。五木ひろし『山河』のようにスケール大きな楽曲で、かつ英語詞が入った楽曲だとか。目下は両曲リリース予定はなく、草月ホールのライヴ・ビデオ&DVDの発売までおあずけです。(ビデオは9月21日発売、DVDは10月20日発売予定)
「まだ若いから、ひとつの枠に嵌りたくはないんです。演歌層以外にも名前を知っていただける、そんな存在に向って歩み出します」
 もうひとつの世界を構築し始めた田川寿美は、今後は今までの演歌一途から多世代へアピール出来る巾広いフィールドで活躍しそうです。改めて五木ひろし、石川さゆりなどの大先輩を見れば、基本は演歌より歌謡曲で、共にポップスも唄っているではないか…。その意味で、田川寿美もいよいよ本物・大物への道を歩み出したと言えそう。
 今後の主なスケジュールは、10周年記念リサイタルが8月31日の神戸国際会館こくさいホ―ル、10月19日の中野サンプラザ。
「草月ホールのライヴが私の新しい第1歩とすれば、このリサイタルが第2歩目です。いま流行っている歌の中から自分を表に出せる楽曲を選んで唄ってみたいと思っています。ギター弾き語りにも挑戦します」
 そして12月に大阪・新歌舞伎座の座長1ヶ月公演も決定。25歳から30歳へ、今を生きている歌手、「いい女」の歌手が間違いなく誕生しそうです。

10>周年記念ミニアルバム『夏から秋へ〜寿美・25歳』
1.恋月華 2.真夏にキュキュキュ 3.嵯峨野前線 4.秋のバラード 5.セピア色の日々 6.内灘哀歌(4.5.6.>は作詞:五木寛之)●CD:COCP-31479 MT:COTA-4989 各¥1,890(税込)

プロフィール 本名:田川寿美(たがわとしみ)。昭和50年(1975)11月22日、和歌山市生まれ。13歳で「第13回長崎歌謡祭」でグランプリ受賞。翌年「スターは君だ、ヤング歌謡大賞チャンピオン大会」の第6代グランドチャンピオンに。これを機に上京し、鈴木淳・悠木圭子夫妻に師事。平成4年『女…ひとり旅』でデビュー。平成6年「第4回NHK新人歌謡コンテスト」でグランプリ受賞。同年末の「紅白歌合戦」初出場。以来、ヒット曲をコンスタントに放って、今年デビュー10周年を迎えている。


田川寿美『女人高野』
〜平成14年10月23日リリース/ソングブック12月号掲載分〜
従来演歌を打破する快作。
11年目の決意は果敢なる挑戦で「今」を撃つ“寿美流”旗揚げです。

『女人高野』作詩:五木寛之 作曲:幸耕平 編曲:若草恵
 C/W『浅野川恋唄』作詩:五木寛之 作曲:山崎ハコ 編曲:宮崎慎二 

プロフィール
●本名:田川寿美(たがわとしみ)。昭和50年(1975)11月、和歌山市生まれ。13歳で「第13回長崎歌謡祭」グランプリ受賞。翌年「スターは君だ、ヤング歌謡大賞チャンピオン大会」第6代グランドチャンピオンに。平成4年『女…ひとり旅』でデビュー。以来『哀愁港』『北海岸』『海鳴り』などのヒットを放ち、昨年の10周年、25歳から従来演歌からの脱皮を模索し始めていた。

 2002年・秋。田川寿美は渋谷公会堂のステージ・ラストで仰天のファッション、エレキギター弾き語りで『女人高野』を披露した。それは若者一辺倒の音楽シーンから、時代を我らの手に奪回せんと、従来演歌から脱皮した楽曲をもって、旋風巻き上げての華麗・果敢な挑戦…。 今年後半、若者の音楽が衰退兆候をみせ、好機到来とばかりに新たな試みで挑んだ幾つかの楽曲があった。前川清『ひまわり』、島津亜矢『夜桜挽歌』、さらには石川さゆり『転がる石』…。これら意欲的な作品群の、今年の棹尾を飾るエポックメーキングな楽曲リリースで、新生“寿美”は、新たな時代の旗手になりそうです。

 去る9月24日、渋谷公会堂で行なわれた「スペシャルコンサート2002」のラストナンバーとして披露された『女人高野』。その衣装は重厚華麗な和にタイトな洋をミックスした意表突くエキゾチック・ファッション。抱えた真っ赤なエレキギターをサンタナ風に泣かせつつ、パワフルなナチュラル・ヴォーカルで観客の度肝を抜いた。
「これが11年目の新曲です」と田川寿美の果敢な挑戦が高らかに宣言された瞬間だった。
 10月23日、同曲リリース。その一週間後に彼女にインタビューした。
「フフフッ…」と不敵な微笑み。「さぁ、何を聴いてもいいわヨ」のシグナルで、してやったりの自信が浮かんでいた。いや、ホントに楽しそ〜。イキイキと弾けている。そこでフと昨年夏の取材を思い出した。
 型に嵌った演歌にもがき、自我の叫びを抑えられずにブルルッと身震いしつつ、殻から飛び出して来たばかりの彼女は、まだ羊水に濡れたままの不安なヒヨコだったけなと…。
「見事に飛び立ちましたねぇ」に、「お蔭様で…」と応えたその眼差しは、闘いに挑む鋭さと意欲に充ちていた。
「闘い装束の、その鮮やかなこと…」と絶賛しつつ、その顔を見つめれば、スックと自立した屹然美も備えて(なんと綺麗に、大人の顔になったことよ)眩いばかりじゃございませんか。
「歌ってバランスだと思うのです。詞は日本らしい情緒・情念がいい。これなら従来からの演歌ファン、私を今まで支えて下さった皆様方にも違和感なく受け入れていただけるし、私もそうした日本の良さを大事にして行きたい。が、その良さを若い方々にもアピールしようとすれば、今の音楽で伝えないと届いて行かないと思うのです」
 詞は、そのむかし女人禁制の高野山で唯一悩み多き女人たちを受け入れたという奈良山中の室生寺に向う自立を決意した女性がテーマ。
「日本情緒の満ちる詞に、メロディーやアレンジを、さらにはファッションを今っぽくして、若い方々に抵抗なく聴いていただけるように挑戦してみました。それが、これからの新しい演歌・歌謡曲になればいい。エレキギター弾きながら、こんな衣装で…というイメージもお伝えして五木先生、幸先生に詩とメロディーをお願いしました」
 サラッと説明したが、よく考えればそこに入念な計算(戦略)が伺える。演歌の枠を無節操に外せば正体不明の音楽になり兼ねない。田川寿美とスタッフが考えたのは和と洋のインパクト満ちたコラボレーション。
 サンタナ風の“泣き”たっぷりのエレキギター・イントロ。ここに壮美なストリングスが加わっての唄い出し。抑揚を抑えたメロディーと中低音を効かせたフレーズから、やがてフルサウド、アップテンポに転調してパワフルな高音を叩きつけるポップ・ヴォーカルが展開し、最後は哀切感に満ちたサビへ誘います。
「デビューして何年後かに“高音がいいね”と言われて7、8割は高音を強調する楽曲、歌唱を唄い続けて来ました。でもずっと不安だった。高音は数ヶ所であってこそ、より効果的だと思っていたから…。ですから今回はファルセットに至る手前の、地声で唄える範囲内、従来よりキーを半音下げて唄っています。結果的に芯の強い説得力ある声、歌唱を得ることが出来ました」
 持ち前の透明感ある声質にパワーが加わって「凛」とした美が、さらに濃厚に出て来た。
「五木先生が、情念を立ち切って自立を決意しつつ室生寺へ向う女性の気持ちで唄って下さい、とご指示下さった。加えて、私は小さい頃から演歌を唄って来ましたから、常に大人っぽい感情を出すべく、ややもするとこねくりまわす演歌歌唱のなかでもがいて来ましたから、これを機に枠から飛び出してナチュラルでストレートなヴォーカルにトライしてみたかったんです。今、唄っていて気持良くて楽しくて…」
 とは言え、歌に情感がなくなったかと言えばそうではなく、張り上げた声の抜け、揺れ、勢い、色の多彩な変化をもって、情念が清冽に昇華していくドラマチックな歌唱を展開です。室生寺ロケのプロモーションビデオを観ていますと、山門の真ん中に立ち、後方からの光を浴びたシルエットでエレキギター弾く彼女の映像と共に聴こえる、その響き渡る声は神々しいほどです。
 さて、田川寿美がこの楽曲で見せたチャレンジの凄さは、楽曲や歌唱の新たな試みを含めて、それが己の新たなスタンスとして「形(ビジュアル)」と「言葉」でハッキリとアピールした点でしょう。宣材チラシにはハッキリと、こう宣言されています。「演歌“寿美流”家元御披露目、第1弾!」
 それは日本情緒の和に、真っ赤なエレキギターが象徴する洋の融合。そこに漂う妖しいエキゾチシズム。これが同派の真髄、奥義なのでしょうか?
 家元は、こう応えます。
「いぇ、そこまではまだ煮詰まってはいません。まずは、こういう挑戦をしている田川寿美という歌手がいる。それを認知していただき、30代や40代の方々にもっともっと聴いていただけたらと思っています。とりあえずはエレキギターを弾きながら…とだけコンセプトし、あとは変化続ける流派です。まだ26歳、変化と進化が楽しい時期です」(笑い)
 昨年、自らの演歌を鋭く分析し、“今”を生きている等身大の音楽を求め出した彼女は、その吹っ切った気持ちを胸に秘め、改めて挑んだ従来演歌『海鳴り』に、圧倒的存在感をも生む効果を得てレコード大賞最優秀歌唱賞を受賞。
「これから、従来演歌と新たな“寿美流”の割合いがどうなりますかは、今後のお楽しみ…」
 だそうですから、ファンにとっては両極堪能の欲張った楽しみがこれからも続きそうで、楽しさ倍増です。
「歌手という仕事は天から授かった使命です。これからも妥協なしの真剣勝負で、今、出来ることを追求し続けていくことが悔いのない生き方でしょうから、これからもこの道を邁進して行きます」
 それは『女人高野』の鎧坂を登る自立を決意した女性と同じく、“寿美流”の始まり・始ま〜り!です。
 明日の演歌シーンは、同流派の隆盛次第…。さぁ、皆様ご一緒に盛大に盛り上げて行こうではありませんか。(文:スクワットやま)

写真は9月24日、東京・渋谷公会堂「スペシャルコンサート2002」での『女人高野』ライブ・シーン。振り袖には鮮やかに室生寺・五重の搭。ライブステージをじっくりご堪能したい方は、新春1月2日〜26日の中日劇場公演へどうぞ。山川豊、田川寿美のフレッシュコンビに、ベテラン橋幸夫の豪華トリオでお芝居、そして歌のビックステージです。




田川寿美 デビュー15周年シングル『雪が降る』
〜オリコン06年10月2日号掲載〜
ここから本当の花を目指して

 デビュー15周年記念曲『雪が降る』は、抑えた歌唱を効果的に使って哀しい叙情を豊かに描いている。この歌唱に充ちた成長を語る前に、まずは 15年の足跡を振り返る必要があるだろう。
 デビュー曲は『女…ひとり旅』。2年目に同曲で「紅白歌合戦」出場。脚光を浴びつつも自身に厳しく対峙していた田川がいた。『哀愁港』で「紅白歌合戦」 3回目の出場。この頃、演歌から撤退するレコード会社が続出。田川は同世代ユーザーからも演歌・歌謡曲の注目を得んと模索し始めた。
“演歌・歌謡曲って何だろう”
 その真摯な闘いの成果が、20代半ばの10周年に形になった。着物を脱ぎ捨てた草月ホールのライブと 10周年ミニアルバム『夏から秋へ〜寿美・25歳』。演歌から歌謡曲にシフト。等身大の楽曲を得て自信を深める一方、演歌に“演じる”姿勢を徹底させ『海鳴り』で胸打つ熱唱を発揮。
 翌・平成14年。田川は真っ赤なエレキギターをサンタナ風に響かせ、着物とドレスを融合したエキゾチック・ファッションで『女人高野』をリリース。この年、音楽シーンに演歌・歌謡曲の座を奪回せんとするムーブメントも噴出した。五木ひろしが自身のレコード会社を立ち上げた席で阿久悠と小西良太郎が「今こそ、若者たちに明け渡した座を奪回せよ」と叫んだ。石川さゆりがハードなメッセージ『転がる石』を出し、前川清が福山雅治楽曲『ひまわり』で総合チャート 13位の快挙。それらは“演歌低迷”が揶揄されるなかで反撃の狼煙のようだった。
 田川の室生寺・山門での逆光を浴びた『女人高野』PV映像は、そんな状況下の若手歌手の旗手、ジャンヌ・ダルクのように美しかった。
15周年楽曲から“本当の花”を目指して…
 『女人高野』以後の動きが気になっていた。『ここは港町』から1年7ヶ月振りの 15周年記念曲『雪が降る』。この間の経緯を訊いてみた。
「歌、そして自分を真剣に考え悩みつつ到達した『女人高野』でした。今、振り返れば若くして自分の歌の世界が偏り固まってしまうのがイヤで焦っていた部分もあったと思います。今は歌作りをスタッフにお任せし、私は喉を鍛え、芸の巾や深さを増すことにまい進しています。また、そんな機会を与えられたことに感謝もしています」
 大人になりました、と暗に含んでこう言った。そう、それでいいじゃないか…。芸の道は長い。世阿弥は「風姿花伝」で 25歳は当座の花、本当の花は35歳からと言った。これは室町時代のことで今なら 45歳からだろう。今、31歳…。
 そこで自らの喉、歌唱を分析してもらった。
「当初は高音が若さの魅力だと言われました。でもそれは永遠に続かない。身体も喉も大人になって“本当の味”を求めるようになっています。ファルセットからその手前の地声へ、さらに中低音へ音域を拡げてまろやかな色艶、多彩な音色やのど遣いを追求です」
 あの凛とした眼が揺らいで、こうも言った。
「最近ねぇ、道端の花を見て“あぁ、愛しい”と思うようになったんですよ」
 そんな豊かな心が歌に出ぬワケがない。 15周年記念曲『雪が降る』には大人の優しさがとらえた歌唱組み立てがありそうだ。各コーラス共に最後のフレーズ♪海に降る雪〜 で寂寥感を広げて楽曲全体を大きく深くしている。さらにカップリング『小雨の城下町』は艶歌で、キーを下げて中低音を抑え響かせ、従来の田川にはない“大人の艶歌”の領域に踏み込んでいる。
15周年記念曲は“本当の花”を目指した新たな旅立ちと言えるだろう。



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