週末大島暮し

～「ソングブック」５月号掲載分～
ＩＮＴＥＲＶＩＥＷ
石川さゆり
歌手生活三十周年記念アルバム『さゆり』は閉塞の歌謡曲シーンを
突き抜ける新たな楽曲群。シングル『転がる石』は衝撃作品です。

　歌手生活三十周年記念のシングルとアルバムを3月25日に同時リリースした石川さゆり。「作曲、作詞、編曲、そして歌い手の私が期せずして刺激し合い、触発し合って…」完成された作品群。シングル『転がる石』は阿久悠作詞。「丸くならずに尖がって生きましょ」と男女年代の枠越えた大きなメッセージ曲です。

　「第12回ＮＡＫ日本流行歌大賞」で『涙つづり』大賞受賞の石川さゆり。同曲はスタンダード演歌で、使い込むほどに輝き増す抹茶碗にも似て、唄う度に味わい増す楽曲だった。そして待望の歌手生活三十周年記念シングルとアルバム。
　シングル『転がる石』はノンリズム、エリック･クラプトン風ギターのイントロから、今までに聴いたこともない石川さゆりのハードな声、歌唱が響く衝撃作。同詞は阿久悠の同題小説の“テーマ詞”で、杉本眞人作曲。阿久さんは…
「アルバムのために何篇も書いたが、どれも石川さゆりの唄う顔が想像出来た。そこで、これなら想像出来まい…と、半自伝的小説に書いた詞をこっそり渡したら、それがシングルになってビックリした」
　小説によると“転がる石”は淡路島の高校生二人が魂を触れ合った証拠を残そうと創った同人誌題名で“苔のつかぬようにゴロゴロと転がり続けよう”の誓いが込められている。さゆりさんは、同曲を手にした時の感想を、こう振り返っている。
「さぁ、これをどう唄うか？そう問われたと思いました。同時にドキッとするほど惹かれての挑戦でした」
　意欲的な歌手が30年もさまざまな歌を唄って来て、それでも出会わなかった歌と巡り合えば唄わずにはいられまい。阿久さんは伊豆・宇佐美から東京の制作現場の興奮を想像してニヤリッとしていたに違いない。レコーディング終了後、二人はこんな会話を電話で交わしたと言う。
「これは本来10代、20>代の新人が荒削りに歌うべき曲なのでしょうねぇ」
「そう、デビュー曲向けです。決して三十周年記念曲ではない。でもそんな常識を打ち壊したあなたの挑戦が僕はたまらなく嬉しい。僕は今、ワクワクしていますよ」
　完成したシングルを、また発売日当日に行なわれた試聴会ライブを聴けば、それは見事に石川さゆりの歌になっていて、作家と歌い手の丁丁発止から新しい世界が拓いた、と知らされた。今、石川さゆりは…
「『涙つづり』は、家庭を持って山坂を越えて来たご夫婦に見える歌ですが、『転がる石』は大人になって行く過程の思春期に誰もが通過する悩みや葛藤を歌っています。また大人になっても会社の拘束や、世間のしがらみから自由に転がり出したい欲望もあるはずで、これは男女年代に関係なく、多くの方々に聴いていただける楽曲です。メロディーの気持良さもありますし…」
　転がる自由もなく必死に頑張った新人時代があり、そして今、自立を考え揺れ出した18歳の娘がいる。
「歌い手としては、阿久先生が投げかけて来た宿題を、思い切り投げ返しただけなのかもしれませんが、そこに込められたメッセージは私の身体にズンッと入っています。おこがましいことは言えませんが、30年唄って来て、丸くならずにいつまでも尖がって生きたい、皆さんにも一緒に尖がろうよ、と言う気持ちを伝えたいと思っています」
　アルバム『さゆり』収録は全12曲。
「今、歌は飽和状態になっていて面白くなくなって来た。また30年唄って来て、この先にまだ拓ける世界があるのだろうか、さらにはある種の限界から先は同じことの繰り返しになるのかしら、そんなの嫌だなぁと思い始めていた最中に、期せずして作詞、作曲、編曲の先生方、そして歌い手の私がそれぞれに刺激し合い、触発し合ってニョキニョキと新しい世界を次々に創っていったのがこのアルバムです」
　未知の世界に触手を伸ばして自身の世界を拓げた石川さゆり。
「そう、私はアメーバー」（笑い）
　…とすると次々に新たな挑戦を期待する。そう言えば、こう釘を刺されてしまった。
「私たちは大衆音楽をやっているワケだから逸脱したらいけません。あくまでも皆様と一緒に音楽を楽しみたいのです。ですから、あぁ、ひとりでも多くの方々にシングル、アルバムを聴いていただきたいなぁ～。いい曲が完成したのですから、これからは皆様の耳にお届けすることに専念します」
　石川さゆりの30周年は、この会心アルバム全曲をひとりでも多くの方に届けるために邁進…とみた。　

●写真は3月25日、東京・青山スパイラルで開催されたアルバム『さゆり』完成記念LIVE試聴会。ゲストに吉岡治、弦哲也、阿久悠、杉本眞人、飯田社長が出演。

●シングル『転がる石』作詞：阿久悠／作曲：杉本眞人／編曲：川村栄一●カップリング『すっぴんさん』作詞：阿久悠／作曲：弦哲也／編曲：南郷達也
●アルバム『さゆり』＜収録曲＞風帰行／故郷によろしく／湯の町シネマ／すっぴんさん／風花温泉から／転がる石／～近松情話～夢の浮橋／蛍の夜／湯の花KOUTA

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