神野美伽 『日本の男』

神野美伽の十八番・男歌が絶好調!
大和生まれの 魂は曲げぬ 日本の男が〜
明治男の武骨と侠気を歌って、実は女を唄っているとか。男歌連発ヒット予感

 前作『雪簾』も男歌でロングヒット。女性で男歌が十八番…は稀有な存在。しかも新曲は余りに直截簡明…『日本の男』。ここまで徹した男歌を唄える女性歌手は他にいないだろう。しかも作詞は女性の繊細なる世界を描くことで定評のご主人・荒木とよひさ。新曲に秘められた心と、そこから神野美伽の魅力をクローズアップ。

 ダイナミックで威勢のよいイントロ。グッと腰を溜めて、腹の底から絞り出す男歌。前作『雪簾』も男歌でロングヒット。男性歌手が女歌や艶歌を唄うケースは多々あるが、女性で“男歌が十八番”とは稀有なこと。“何故に、男歌なのか”を訊かねばならぬだろう。そう質問すれば…
「あらっ、そんな風に考えたことはなかっわぁ。そういえば、こういう太いメロディーの男歌を唄う女性歌手は少ないですね」
 しかも新曲は腰を抜かさんばかりに大胆な詞『日本の男』。ここに描かれたのは並みの男歌ではない。
♪時代遅れと 笑われようと
 大和生れの 魂は曲げぬ
 日本の男が ここにいる〜
 今は懐かしい明治の武骨で侠気に貫かれた男像とでも言いましょうか。
「今はものが言いにくい時代になっています。こういう歌を唄うと、国粋主義的なとらえ方をされがちで、特に対アジア諸国にはデリケートな問題に発展しかねません。でも古き良き日本のことごとくが急速に失われて行くばかりで…」
 と節操をなくした日本人を嘆くことしきり。男女、親子、夫婦、社会…人間関係なしくずし。日本の情緒、文化の奥深さ、倫理観、さらに日本語の美しさも崩れ行くばかり…。
「主人(作詞家・荒木とよひさ)とは一つ屋根の下で暮らしていますが“私生活と仕事は別”でやっています。ですからディレクターが作詞家に発注し、できた詞をディレクターからいただきます。主人の詞は必ずタイトルだけの表紙があって、幾作もの中からこのタイトルを見ただけで“あっ、私が今、唄いたい曲はこれ”とわかったんです。仕事は別ですが、主人とはテレビのニュースなどを見ながらの普段の会話から、最近なしくずしになって行く日本を嘆く私を知っていますから…」
 神野美伽、昭和40年生まれ。
「もの心つく頃には、すでに新幹線が走り、カラーテレビもありました」
 すでに日本は高度成長に走り出し、それに比例するように古き良き日本人像も失ってきた。
「そうした男たちがいた時代をリアルタイムでは知らないんですが、私は日舞(花柳流名取)、少林寺拳法(二段)と書道(二段)に親しんで日本の伝統文化に親しんできましたから、日本人が失ったものはわかるんです。この歌は“日本の男”を歌ってはいても、実はその裏の“かくありたい日本の女”を唄っているんです。歌唱は男ですが、心は女で唄っています」
 優しく慎ましく、しかも凛とした心を持っていた日本の女…。カラオケ中心層の 60代は、日本の心を知っていた最後の世代。きっと共感していただけるはず、と言う。
 神野美伽の歌には、常にそうした時代のメッセージ性があって共感を広げている。
「男歌の前は『浮雲ふたり』『あかね雲』『めおと雲』の雲シリーズ。穏やかでほんわかした歌ですが“男と女はこうありたい”というメッセージをしています。このシリーズで新しいファン層も広がりました。抽斗をもっと多彩に広げたく思います」
 自らの歌唱については…
「私の声は響きが明るいから高く感じられることが多いのですが、基本的には中低音です。“キレ味がいい”とお褒めいただくこともありますが、これは若い頃から“唇、舌、歯”の遣い方を訓練してきたからです。私は大阪出身で、語尾が流れがち。デビュー当初はもっと歯切れよく、もっと歌詞をはっきり発音出来るように、ものすごく練習させられたものです。生前の松尾和子さんには♪逢えなくなって〜の“っ”に命を賭けて唄っています、と教えられました。発声も大事ですが発音も大事です」
 また韓国語を習ったことで、普段遣っていない口周りの諸筋肉の駆使で、逆に日本語の発音に磨きがかけられたとも言う。ぜひ参考にしたいアドバイスです。
 そんな神野美伽の今後のテーマは
「ファルセットにも挑戦したいし、しっとりした艶歌にも挑戦して歌の抽斗をもっと充実させたく思っています」
 デビュー23年目、41歳。
「まだまだこれからです」
 と意欲に目を輝かしていた。

<歌唱アドバイス>メロディーを覚えたら、カラオケをしっかり聴いて下さい。それぞれ意味があって使われている楽器演奏にも注目。またワンコーラスの中に三連符が 8個あります。ここをしっかりリズムに乗ると絞まってきます。( by神野美伽)

『日本の男』
06年5月3日発売
作詞:荒木とよひさ
作曲:岡千秋
編曲:池多孝春


神野美伽 『二人の旅栞』
07年8月号「ソングブック」掲載原稿

団塊世代男性の第二の人生を見守る妻…。
昨今のコンサート会場に急増の夫婦連れにピタリの楽曲。
神野美伽の新たな顔は健気に尽くす可愛い女…

助詞の表現が歌の表情を作ります。助詞に印をつけて唄ってみれば、表現力増した歌唱になります。トライしてみて下さい。


リタイア後の人生リセットを決意した旅立ちの歌にカラオケ層の共感広がる


 ここ最近、新曲毎に“それまでにない顔”を発揮の神野美伽。新曲『ふたりの旅栞』は、夫の新たな人生の選択について行く健気な女性を歌っている。郷愁を帯びたストリングスのイントロに誘われて、神野美伽は言葉頭をソフトに入って、言葉尻を優しく抜きつつ揺らす音色・歌唱を展開。夫に尽くす健気さ、いや可愛いとさえ言える感じで唄っている。最初の8小節は一体誰が唄っているのだろう…と思ったほどで、これまた新たな顔の発揮。
 まずは楽曲説明から伺った。カラオケ中高年層が聴けば、この二人の旅は決して道行などではなく、団塊世代がリタイア後に決意した田舎暮らし、第二の人生への旅路に聞こえてくる。
「私もそういう歌だと解釈して唄っています。“旅栞”は造語で、人生の折り返しをとうに過ぎたあたりに差し込まれた栞ですね。今の中高年は若いですから退職後に新たな人生、夢を追っています。IターンもUターンもありましょうし、海外暮らしをされる方もいます。ここでは信濃路ですから長野県移住。“あなたが決めた夢だからわたしもついて行きますよ”と歌っています」

助詞を表現豊かにすると、歌が生きてきます…と歌唱の秘訣公開。

 さて、その歌唱については…
「唄い出しの♪しあわせがの“が”、♪見えますかの“か”をはじめ“てにをは”などの助詞表現で歌の色が変わってきますから、私は常にそこを意識して唄っています。今回はそれら助詞の個所で温かさ、柔らかさ、女らしさが出せたらいいなぁと思って唄いました」
 前々作の『日本の男』で腰をためて明治男の無骨な侠気を唄った神野美伽と余りにかけ離れたイメージ。新曲毎に“それまでにない顔”で聴く側はちょっと戸惑ってしまうのだが、果たして神野美伽の実像は…
「自分にないものは出てきませんから、男歌の私も優しい私もすべてが自分の中にあるのだと思います。男勝りで勝気な私もいれば、自分でも嫌なくらいに女っぽい私もいます。甘えたい私がいれば、その裏に世話焼きの私もいる。この歌には夫に尽くす裏側に“私がいなければアカンのやから…”という母性もある。自分のなかにいろいろな女がいて、それらすべてが自分の歌だと思っています」
 次にメロディーの分析…
「メロディーが3段階に変化しています。最初は語りのメロディー。♪しあわせが〜から1オクターブ違いで次のメロディーに移行。これは岡先生の“新商品”ですね。♪秋深い信濃路で〜からはイメージも景色も変わってラリラリラ〜・ラリラリラ〜と畳み込み、次が♪あなたが選べば〜 から私のファルセットが出るように創って下さいました」

曲先で、どんな詞はつくかスリリングな楽曲創りで多彩な展開…

 キングレコード移籍後はほとんどが岡千秋メロディーで曲先。今回は“旅”のイメージの作曲で、神野美伽ご主人・荒木とよひさが作詞。ディレクターが説明する。
「このメロディーにどんな詞がつくか…と毎回スリリングな楽しさがあります。予想を裏切る挑戦をされて“あぁ、こんな捉え方もあったのか”と驚かされることもままあります。これも神野美伽の歌唱キャパシティーの広さゆえでしょう」
 結果的に男唄の神野が好き、“雲シリーズ”の神野が好きなどファンも多彩。今度は健気で可愛い女の神野が好きというファンも生まれそう。一人のマルチ展開で、次々にファンの輪が膨れ上がっているようで、コンサートの動員力も際立って活発だ。
「年間60〜70会場のコンサートがあります。数年前までは圧倒的に女性が多かったのですが、次第にご夫妻でいらっしゃる方が増えています。きっとリタイアされた旦那様を奥様がお連れしてくるのだろうと思います。その意味でもこの新曲は皆様に楽しんでいただけそう。コンサートで心を解放されたご主人が奥様に“今夜は久しぶりにどこかで食事をして帰ろう”なぁ〜んて気持になってくれたらいいなぁと思います」
 最後にカラオケ・アドバイス…
「歌詞を見て語尾(助詞)が幾つあるか印をつけて、そこに表情を持たせてみる。また三段階のメロディーも色分けして気持ちを変えて唄ってみる。そうしたら一本調子になりません…」
 なおカップリング『雪簾』はの。一昨年リリースの楽曲をギターとセッションするように唄ったニューアレンジヴァージョン。美空ひばり『悲しい酒』を彷彿させ、これまた神野美伽の幅広さだろう。きっと生ステージで聴いたらジ〜ンとシビレそう。新曲ヒットで大きな勢いをもって、来年春からの 25周年突入。期待は増すばかり…。

『ふたりの旅栞』
作詞:荒木とよひさ
作曲:岡 千秋
編曲:南郷達也

●「40代に入ってまた新たな自己表現が出来たらいいなぁと考えています。それが歌なのか文章なのか芝居なのかは未だわかりませんが新チャレンジをして行きます」。すでに韓国語に挑戦したキャリアもあり新挑戦に期待…。●「神野美伽リサイタル 2007」は10月3日:渋谷C.C.Lemonホール(開演18:30●8月コンサートは11日・宇都宮市文化会館/28日・愛知県半田市福祉文化会館/29日・三重県上野市文化会館




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