●芹洋子『鈴の音山河』●
〜ソングブック10月号掲載より〜

『四季の歌』『坊がつる讃歌』に継ぐヒットの可能性を秘めて…

 『四季の歌』を例に出すまでもなく、抒情愛唱歌のヒットは人から人へジワジワッとゆっくり広がって、国民的大ヒットになるケースが多々。同曲は今からなんと!16年も前の楽曲。それが昨年末頃からにわかに話題沸騰。ショートサイクル化進む現在の音楽シーンに警鐘鳴らす、驚くべき息の長さ。巡る四季のお遍路さん巡拝姿が抒情爽やかに歌われる同曲は、芹洋子さんの新たなヒット予感。

プロフィール
 本名、伊東洋子。東大阪出身。昭和45年、NHK「歌はともだち」で3年間レギュラー出演。昭和51年『四季の歌』ミリオンセラー。その後『坊がつる讃歌』などヒット。以来、抒情愛唱歌の一人者として活躍中。

抒情愛唱歌は人から人へ唄われて初めてヒット。文化継承の意もあり… 

 芹洋子さん『鈴の音山河』が、大きなヒットに向かってジワッと動き出そうとしている。シングル・リリースは1月21日発売とまだ先も、すでに人から人へ唄われて、ゆっくり大きく広がり始めていて、いち早く同曲をクローズアップ。
 その前に、抒情愛唱歌と呼ばれるジャンルのお勉強…。
 この“世界”で活躍の方々はペギー葉山さん、由紀さおり・安田祥子ご姉妹、ボニージャックスさん、当欄で紹介済みの「すがはらやすのり」さん他だろう。
 そのヴォーカリズムの特徴を敢えて挙げればコブシなし、ビブラートも控え目の虚飾を排した唱法。例えばそれは亡き藤山一郎さんに代表される昭和初期歌謡、音楽学校出の真面目な歌唱と言いましょうか。
「そんなクラシック出の方々が絶対条件でしたが、芹洋子の抒情を訴える歌謡曲的歌唱、声質が支持されています」
 と伊東プロデューサー。芹さんは…
「これら歌は、皆さんと一緒に唄える点も特徴です。コンサートでは、覚えていただきたい歌を歌唱指導するコーナーを設けていますが、後でまた同じ会場に行けば、もう皆さんの愛唱歌になっていて “さぁ、ご一緒に” で大合唱になります。ボールを投げ、戻って来てまた投げる…こうして歌が次々に広がって行くんです。皆さんと一緒に歌も私も生きている、そんな手応えがある歌々…」
 そう、抒情愛唱歌はカラオケ以前に人から人へ唄われることでヒットを広げる宿命を帯びている。同時に…
「失われつつあり、大切に遺したい日本文化充ちる貴重な歌がたくさんあります。“村の鍛冶屋”はすでになく、職業や風習、景色や情、生活の知恵など日本人が失ってしまった大切なものがあの歌この歌にあります」
 抒情愛唱歌を歌い継ぐことは、日本文化、美しい日本語の継承。
「音楽生活30周年の去年、120曲の童謡、唱歌、愛唱歌を収めたアルバムをリリースしましたが、これは継承する音楽活動で、一方、これからの歌を生み出して行こうとするのが、この『鈴の音山河』なんです」

10年、20年の息の長い抒情愛唱歌。『鈴の音山河』は癒し効果も発揮… 

 いよいよ本題。同曲は、演歌っぽい唱歌メロディーで、爽やかなサウンド、温かい芹さんならではの歌声で、春夏秋冬それぞれの景色の中を歩むお遍路さん巡拝の姿が歌われています。作詞作曲は四国・四十五番札所の「岩屋寺」のご住職。四季を折り込んだ歌で、それなら芹洋子さんにぜひ唄っていただきたいと昭和62>年に自主制作(委託盤)。しかもカップリング収録曲だったとか。それが実に16年後の今になって、にわかに盛り上がり始めているのです。
「四国のバスガイドさんが、これは芹洋子さんが唄っている歌ですと紹介しつつ唄い始めたらしいのです。レコードがないにも関わらず、人から人へと広がって、やがてキングレコード、放送局、事務所への問い合わせが殺到するようになったんです」
 むろん、昨年発売の6枚組アルバムにもなく、急きょ1月21日にリリースが決定。四国のお遍路さんに限らず、お札所巡拝は全国各所にあり、問い合わせも次第に全国規模に拡大中とか。
「世紀末の頃からジワジワとお遍路ブームが始まっているんですね。心の奥に悩みを抱えた巡拝に、鈴の音を鳴らす杖“♪リンリン チリリンお札所へ”のサビが心の支え、励みになっているような気がします」
 と芹さん。発売と同時にヒット動向に注目です。実際のお遍路は大変ですから、同曲を唄う度に札所巡りの功徳もありかと思わす“癒し効果”にも期待し、誰もが心の安らぎ求めて唄い出すかも…。
 また、この9月14日には1977年発売のアルバム収録曲『サンゴ草咲く日に』の、これまた26>年を経て同曲歌碑が「サンゴ草」咲く網走市・能取湖畔に建立されるとか。これは同湖畔で毎年行なわれる「サンゴ草まつり」が今年で第40回目。それを記念して建てられるもの。
 ますますショート・サイクル化する若者たちの音楽ですが、『鈴の音山河』『サンゴ草咲く日に』の驚くべき息の永い展開は教え、考えさせるところ多大です。

キャプション:「私は腹ならぬ歌唱八分が信条です。二部抑えているところから聴く方の心がすっと入って来る、そんな歌唱を心掛けています。歌い手、聴き手が同じように歌を感じたいんですもの」
と芹洋子さん。

お遍路豆知識
 今から1200年前、弘法大師が42歳の時に開いた四国霊所八十八ヶ所を巡拝すると、88>の煩悩が消え、願いが叶うと言われています。徳島阿波が1番〜23番、高知土佐が24番〜39番、愛媛伊予が40番〜65番、香川讃岐が66番〜88番。全行程1450キロ。タクシーやバス巡拝で7日から13日。徒歩なら1〜2ヵ月。巡拝衣装と主な用品は頭に遍路笠、白衣にお袈裟、手甲と脚絆、手には金剛杖、片手に念珠と持鈴、肩と首から山谷袋と巡拝パックを下げます。さぁ、『鈴の音山河』唄いつつ巡拝に旅立ちませんか…。


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