『人間模様』 さゆりトーク
自分の素直な想いを正直に唄いたい。そうしたらナチュラル・ヴォーカルで洋服に…。
唄いたい世界はまだまだ無限です。

〜「さゆり倶楽部」NO.27掲載原稿より〜

 演歌ではなく歌謡曲、着物ではなく洋服…。別に特別なことがあったワケじゃないの。ただ創り込んだり、技巧に走ったりするのではなく、自分の素直な想いをナチュラルに唄いたくなっただけ…
♪ただの人間 ただの男の
  そんなあんたが 大好きなのさ〜
 サビ通りの心境です。私にはすでに創り込んだ世界はあって、それはそれでステキなのだけれども、自分の素の部分も唄ってみたいなぁ〜、と思ったんです。
 昨年の30周年楽曲『転がる石』の時にハッと思ったんです。あの詞には阿久先生の…、型にはまらない、収まらない“しなやかさ・素直さも大切”というメッセージがあったのではないかと…。40代(大人)の私が、素直に感じたものをナチュラルに唄いたい、そんな想いを阿久さんに伝えたら、先生もそんな歌が書きたかったんだよ、とおっしゃって下さった。
 で、作曲の杉本さんも“この詞をもらった瞬間にメロディーを奏でる音がいっぱい鳴ったんだ”と言い、素直でストレートなメロディーを仕上げて下さった。大人の女の虚飾ない素直なつぶやきが、そのまま歌になった等身大のナチュラルな楽曲、それが『人間模様』です。
 演歌から歌謡曲へ、と言われそうですが、そんな経緯ですから、ジャンル的なこだわりは一切なし。そう、私が歌を始めた頃はすべてが歌謡曲だったんです。例えば昔の「夜のヒットスタジオ」(昭和43年〜平成3年の長寿歌番組)の頃はジュリーも殿様キングスも、みぃ〜んな“歌謡曲”。それがいつの頃からか、これは演歌、これはJ−POPだと狭い枠で括り始め、歌謡曲がどこかに押し込まれちゃった。
 阿久先生もこれを危惧されて、
今こそ“歌謡曲の逆襲”と熱心にアピールされている。日本の歌謡曲は明治、大正、昭和に亘って世界の音楽の良いところを貪欲に吸収して来た。その“何でも有り”に歌謡曲の楽しさがあり、巾の広さがあったんです。そんなワケで、私達の世代はジャンルにこだわりなく、そもそもが歌謡曲なんです。だから『人間模様』も、特別に新しいことを企んだワケでもない。何でもないことですが、音楽が変に偏らずに本来の姿を取り戻す…、その意で“歌謡曲の逆襲”はとても今、大事なことなのかもしれません…。
 さて、大人の女性が心に感じたことを、素直につぶやく、そんな楽曲ですから、
歌唱も当然、ナチュラル・ヴォーカル。私のいつものキーより、ちょっと下げて唄っています。
♪上手に口説いて くれたなら〜
 ねっ、心の言葉を素直に伝えようとする歌唱でしょ。これを、従来のキーで、ちょっと張って唄ってみましょうか…。
♪上手に口説いて くれたなら〜
 ホラッ、こう唄うと声が響いて“歌”になっちゃう。言葉を越えてしまう…。
 つぶやく歌唱ですが、キーを下げたための中低音が存在感をもって伝わって来ますって…。まぁ、褒めるのがお上手ですこと…。で、つぶやきに終始しちゃいますと“歌”になりませんから、ちょっとだけ創っています。
♪蝶々でないし 孔雀でないし〜
 ここの部分は軽くコブシが入って、開放された心地良さが広がっています。このちょっとした“歌の創り”で歌謡曲に仕上がっている。面白いでしょ。
 『人間模様』からディレクターが松下さんに替わったんです。で…
“石川さゆりという歌い手は、歌のいろんな部分があって、歌の百貨店みたいだ。だから、こういう歌、そういう唄い方でなければいけないと限定するのは余りにもったいない。逆に、いろんな世界が涌き出て来るような、そんな感じの歌も創ってみましょう”で生まれたのが
カップリング『稲妻』です。“あぁ、石川さゆりにはこんな世界もあったのか”と楽しんでいただける、と思っています。ここまでやると今後、何が飛び出して来るかわからない(笑い)。そんな楽しみもありましょうが、だからと言って10代・20代の若者ではありませんから、そこはやはり、今まで自分がやって来たことを踏まえた上での歌創りになるでしょうねぇ〜。
 この辺は、衣装についても同じ事が言えます。ナチュラルだからと言って10〜20代ではありませんから、洗いざらしのジーンズに素肌にシャツ…、というワケには行きません。実年齢なりの“素”のおしゃれを探って行くことになります。微妙な年齢なんですよ(笑い)
 着物なら、髪をしっかりアップにして金糸銀糸のきらびやかな着物で、カチッと創り込んだ世界もあれば、紬のような世界もある。これが洋服ですと、さらに幅広いワケですから、これからさて、どうなりますか…(笑い)
 
いずれにせよ着物も洋服も、それを見てもらうためではなく、中身を聴いてもらうためのもの…、そういう考えで選んで行きますので、お楽しみ下さい。
 新曲『人間模様』を唄う石川さゆりを見て“あっ、石川がいつもと違うなぁ〜。創った石川ではなくて、素に近い部分で伝えようとしているなぁ〜”と分かっていただけたら幸いです。
 ステージについてもお話しておきましょう。今年、青山劇場の音楽会をやりませんでしたので、多くの皆様方からお問い合わせをいただきました。これは10年間続けて来て、昨年がちょうど30周年記念。いい区切りが出来ましたので、ここでひと休み。また来年やらせていただくとすれば、従来とは違った形の青山劇場をスタートさせたく思っています。
11月の新歌舞伎座1週間ステージで、そのための新たな方向性のようなものが見い出せたら、と思っています。
 今後のリリースは、目下、ディレクターと“こういう世界が創れないか”“未だやっていない世界は”…など語り合っていますので、ここから新たなテーマが生まれて来るかに思います。とにかく今、さまざまな音楽に触発され、アイデアも無限に湧いていますので、あれもこれもやりたいことがいっぱい。今後、何が出て来るか、自分でもワクワク胸をときめかしています。
 最後に歌以外のお話も少し…。そう、最近、10年振りにゴルフクラブを買い替えました。そうしたら、まぁ、なんと言うことでしょう。ビックリするほど飛ぶじゃありませんか。道具の進歩の凄さに感心しています。えぇ、これは内緒にしていたんですが、10代の頃からクラブを持っているんですよぅ〜。でも母・主婦になると、ゴルフは家を1日空けるワケで、なかなか出来なかったんです。これからはゴルフ、そして中断していたスキューバダイビングや陶芸も楽しみたいなぁ〜と思っています。私の40代、次第に充実を増している感じ…(談)

<写真キャプション>
スチール撮影
渡辺達生スタジオでジャケット写真、アーティスト写真を撮影。洋装のジャケットは平成6年『飢餓海峡』、翌年『日本海の詩』以来…。

スタイリストさんが、こう言った。「胸元をデコルテと言いますが、こんなに美しい肌の方はちょっと他にいません。ねっ、キレイでしょ」

LDカラオケ撮影

9月12日、北品川の「K’S STUDIO」で撮影。LDは他3曲入りで10月16日リリース。ナチュラル・さゆりさんの映像と共に『人間模様』を唄って下さい。

撮影コンセプト:ルネッサンス風やヨーロピアン風に揺れる自然光ゆたかなドームスタジオで、この曲の持つあたたかさ、優しさを表現します。ギターを弾く男性カットで男をイメージさせるシーンも挿入。

1階がプール付き、2階がドームのスタジオで。

30度を越す残暑の中、さゆりさんの衣装は秋冬物




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