石川さゆり★9/23新曲『一葉恋歌』

〜月刊「ソングブック」(10月号)原稿のリライト版を「さゆり倶楽部」(2004.10.1)に掲載〜

●石川さゆりインタビュー
雌伏4ヵ月…シングル、アルバム、ツアー大意欲の秋!
新曲『一葉恋歌』を唄うは…“石川一葉”


ここに居るのは“石川一葉”… 
 
9月23日、待望の新曲『一葉恋歌』リリース!ファン倶楽部皆様の熱き応援をいただいて、会報が届くころはヒットチャートの上位かも。(10/4付、初登場演歌チャート3位)
 8月下旬、さゆりさんにインタビュー。
 粋な着物姿。その表情は明るさ、若さ、意欲に充ちていた。新曲『一葉恋歌』に “してやったり” の自信の現われか。ほのぼの『陽だまりの詩』 『人間模様』、しみじみ『星の旅びと』と続いて、本人も皆様も焦れ切るほどに待ったさゆりさん本流、真骨頂発揮の文芸楽曲。
「…とは言え、今度は小説ではなく実在の作家・樋口一葉を歌った楽曲です。小説の主人公なら、そこに私のイメージも加えて歌うのですが、今度は一葉さんにどこまで肉薄出来るかがテーマ。どんな時代にどう生きたのかしら…と。健気に激しく、情熱をほとばしらせた余りに短い人生でした。でもそこには一途な女心があり、文学の夢がありました。実際にゆかりの地…本郷菊坂、“たけくらべ”の舞台で自ら雑貨・駄菓子屋を営んだ下谷龍泉寺町(遊郭・吉原の三ノ輪寄り)の“一葉館”、代表作を一気に書いたサビで歌われる♪本郷丸山福山町(“にごりえ”の舞台)を訪ねたりして、一葉の空気を自分の身体の中にいっぱい取り込んで、こう唄ってみました」
 さゆりさんなら艶やかにも、流麗にも唄えましょう。しかし、ここに居るのは気丈じゃなければ生きては行けず、それでいて“純”な情感を胸に抱いた24歳の一葉。情感に流れそうで流れない、やや硬質な声色と歌唱。見事に一葉になりきったさゆりさんならではの歌唱です。そう思って縞柄の着物に日本髪、キリリッとした顔を見つめれば、あの一葉の写真とダブって、思わず“石川一葉”…。
「凄くいい!」
 と絶賛すれば…
「わぁっ、そう聴いていただけたらうれしい。歌詞の1番は、糊口のために作家を目指して師事した半井桃水(なからいとうすい)への恋、2番の詞は♪その身体 任せてくれと 露骨に言い寄る人もいた〜(相場師・久佐賀義孝は、金を貸す代償に妾になれ!と言った)の生活苦を、そして3番は死を覚悟した寂しさ…。短い人生に実にいろんなものを凝縮して逝ってしまった。でも、ここには女性の普遍的テーマも充ちています」
 さて、新五千円札の一葉登場は11月。同曲サビの♪本郷丸山福山町〜のご近所に在住の作詞・吉岡治さんは、松下プロデューサーの依頼に、待っていました!とばかりに書き上げた。
 一葉の波瀾に富んだ短い人生を恋、生活、死を各番のテーマにそれぞれ展開し、サビを終焉の地 ♪本郷丸山福山町〜で締める見事さも小気味いい。そして弦哲也さんのメロディーもいい。
「…でしょ。形式的なドラマチック仕立てにするのではなく、地に着いた力強いメロディーというか、これが弦さんの曲なんでしょうね。きっと、弦さんも一葉さんが大好きかも」
 いい詞にいいメロディー、そして“石川一葉”とも言える見事になりきった歌唱。聴けば聴くほどに味わいが増し、一葉の姿が浮んで来ます。さらに一葉の小説、人生を知れば知るほどに歌が胸に染み込みます。五千円札登場で樋口一葉ブームはこれからが本番。話題必至です。

いい歌との出会いは歌手冥利につきます
 ここで意地悪な質問…。24歳と言えば、さゆりさんは新婚1年のとき。
「フフッ、いっぱしの大人と思って毎日を夢中で過ごしていた(笑い)。先日、一葉館を訪ねたら書簡など展示されていて、達筆ですごい文章を書かれている。当時と私たちの世代とでは、こうも成熟度が違っていたかと驚かされました。さらに今の世代はもっと違って、二十歳の娘もこう言う。“今の日本の20歳は少しも成人じゃない。25歳だって、まだまだ子供じゃないかしら”。樋口一葉の時代(明治中期)はそれほど今と違っていたんですね。私は百年も前に遡って生きることは出来ないけれども、こうした歌と出会って糸を手繰り寄せるように、その時代や人に近付ける。いい楽曲に出会うと、あぁ、歌って凄い、歌手って楽しいなぁ〜、と改めて思います。樋口一葉の短くも力強く生きたエネルギー、一途な気持ちを少しでも皆様にお伝え出来たらいいなぁ〜と思っています」
 カップリング『でくのぼう』はユニークな楽曲。ジャージィなフレーズでおしゃれに歌い出すも、途中で♪いいじゃないか・いいじゃないか〜とアッケラカンの年末音頭に展開。これもさゆりさんのもうひとつの顔“おちゃぴぃ”発揮作です。

新コンサートは歌芝居など2部構成。ニューアルバムも大充実!
「新曲はカップリングを含めて制作中の10月21日発売のオリジナル・アルバム『さゆりU〜十曲十色』から生まれました。十人の作曲家による10曲収録。楽しい曲ばっかりです」
 さゆりさんが展開する十人の女性。おきゃんもしっとりも、情念に悶えるも、みぃ〜んなさゆりさん。その眼が輝いている。
「…でしょ。4月のツアー終了後からずっと制作没頭で、今、秋からの諸活動の準備万端で弾けそう」
 これほど長い間、ステージをやらなかったのは初めてとか。まさに雌伏して炸裂!の感。そのステージとは…
「今まで観ていただかなかったものを、と考えて浪曲入りの“歌芝居”、小編成演奏コーナーありの2部構成です」
 シングル、アルバム、ステージ…すべて納得の大充実をもって
「新しい石川さゆりをお楽しみ下さい」
 その眼が “私、今、声も気持ちも24歳” と言っているようでした。

<キャプション>
写真は一葉館近く「一葉煎餅」の前で…。一葉ゆかりの地は東大赤門前の裕福だった頃の地で「一葉忌」開催の法真寺、白山通り沿いに終焉の地・本郷丸山福山町の文学碑などがあります/菊坂の旧住居辺りで…。「一葉さんもこの井戸の水を汲んだんですね」/“たけくらべ”の舞台…下谷龍泉寺町の「一葉館」を訪問です。百年前に遡って生きられないけれど…。/吉岡治先生と…/二葉百合子先生、三味線の伊丹秀夫先生と…/ギター、ベースの小編成で歌うさゆりさん/「歌芝居」は浪曲で一人二役「おさんと茂兵衛」/ここは本郷菊坂。石川一葉が階段から現われて…/谷中の築地塀をバックになに想う…観れば、明治時代にタイムトリップ/明治・大正の面影残る日本家屋で一葉さんの短い一生が甦ります…



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