大川栄策 『風港』
●「ソングブック」1頁原稿を書いたが、1/2頁」にしてくてってんで、ここにオリジナル1頁原稿を掲載●

久々のメジャー曲。明るく唄って辛さも表現。
男の矜持で“いなせ”な別れ。
さらに味わい深い大川歌唱です。

来年は40周年で60歳。 キャリアを重ねて深まる歌唱の滋味。
枯れずに艶を大事に。ますます奥深い領域に入って行く予感…。


 『駅』『再会』『稲妻』3部作からひと区切りで5年ぶりのメジャー曲。
 新曲を聴いて「おぉ!」と驚いた。 明るく弾んだサウンドに、大川栄策の明るい歌声。久々のメジャー楽曲。だが聴けば、胸にツンとくる“別れ”の辛さ。カ〜ンと抜けた明るさの中に、微妙に閉めた喉で寂しさも滲み出ている。カップリング曲『夫婦みち』もメジャー曲で“明日を信じて生きて行く夫婦みち”だが、いわゆる“幸せ演歌”とは違って、こちらも明るさの中にどこか寂しさが漂っている。最も難しい歌唱領域だろう。まずはメジャー調を選んだワケは…。
「『駅』『再会』『稲妻』と 3部作が続いて、ここで一区切りをつけたかったので、5年ぶりのメジャー楽曲です。 詞は辛い別れですが、男が矜持を持って未練や女々しさを振り払っている。女も男も泣きたい気分だが、 酸いも甘いも噛み分けた大人の?せ我慢…」
 男の無理した格好よさには、どこか背中に哀愁がある。 インタビューには遠慮は無用…。“この曲をマイナーでも聴いてみたかったなぁ”と呟けばこう言った。
「実はマイナーとメジャーの両曲を作っていただいたんです。マイナーも実に良かった。でも男がちょっと女々しくなり過ぎかなと思ったんです。 併せてここで一区切り…という気持ちもあってメジャーを選択。でも明るさの中の辛さや哀愁を感じていただけたならば、 それは狙い通りでうれしい限りです」
 C/W『夫婦みち』のメジャーについては…
「作曲の南国人さんは韓国メジャー曲の大家です。 突き抜けた曲調のなかに哀愁が滲む…というのが韓国メロディーの特徴で、単なる“夫婦の幸せ演歌”とは違ってペーソスがにじみます」
 大川栄策の最近シングルのカップリング曲は、20年前に発表の韓国メロディー・アルバムからのカットが続いていて、これはA面曲とベスト・マッチング。

来年が40周年で、50代最後のシングル。ベテランならではの難しい領域…

 来年が40周年で60歳。 この新曲が50代最後のシングルになった。50代を振り返ってもらった。
「声だけで押しては行けない歌の深さをどう表現するか…。そんなことを意識して唄ってきたのが50代だと思います。 それはこの新曲にも言えることで、格好よく別れてはいるけれども実は心の奥では泣いている。好きでも好きとは言えない…そんな大人の表と裏、光と陰を唄わなければならない年齢だと思っています」
 歌の最も難しい領域。果てしない歌の道だ。老婆心で声の調子を訊いてみた。
「17年前に亡くなられた芥川隆行さんが、よくこうおっしゃっていました。“人間の器官の中で最も老けにくいのが声です”と。だから幾つになっても艶っぽく…と励まして下さったんだと思います。これからも枯れず艶っぽく唄って行きたいと思っています。併せて物事をより幅広く、深く見る眼を磨いて行くのも今後のテーマですね」

喉の障子の開け閉め具合を会得しなさいと古賀先生。これぞ“陰翳礼讃”の妙

 メジャー曲でも、多彩な喉遣い。その辺を訊いてみた。
「古賀政男先生は江戸音曲にも造詣が深く、それら唄の喉についてこうアドバイスをしてくれたことがあります。“喉の障子を開け閉めする加減を会得しなさい”。そうした伝統の喉は演歌歌唱にも受け継がれていて、このメジャー曲にもそれが微妙に生きています」
 喉の閉め具合に、障子の例えは実にわかりやすい。全開にすればカ〜ンと明るくなって、その閉め加減で明るさ、風、湿気などの調整もできてそこに情調も生まれる。情景描写、心理描写に深みを増す。
「歌は3コーラス同じメロディーですが、詞は言葉が違って物語を形成していますから、一語づつ表現が違ってきます。そこで喉の障子の開け閉め具合の妙が必要になります」
 この辺がクラシックやJ−POPと大きく違う演歌歌唱のひとつ。障子文化を知らない洋楽また若者にはちょっと無理かもしれないと苦笑した。この“喉の障子論”は文豪・谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃」に書かれているのと同じ指摘で実に興味深い。芸に真摯に取り組んできたベテランならではの指摘だがこうも付け加えた。
「でも僕たちは西洋音階の中でやっているわけだから、その兼ね合いが難しいんですよ」
 芸を真摯に追求の大川栄策ならではの言葉。40周年後のさらなる深化にますます期待…。
 最後に『風港』のカラオケ・アドバイス…
「男性が唄うならば情感を込めるというより粋がって唄っていただきたいですね。5行目のフレーズ♪今夜ばかりは…今夜ばかりは…ではしっかりリズムを刻んで、乗り送れないようにして下さい」 
 さぁ、メジャーの明るさの中に、男のツンとした辛さが表現できたら貴方の歌唱は完璧…。

●日舞の精進も重ねる大川栄策の江戸音曲への意見はさらに鋭い。
「三味線、鼓、琵琶、琴などの楽器って、生の音にこそ生命があるんだと思うんです。あの味わいはレコードで出すのは難しい」。ちなみに「陰翳礼讃」を読めば同じことが書かれていてビックリした。こう書かれていた。…日本の音楽は控え目、言葉数も少なく“間”が大切にされている。しかしこれを機械にかけると、機械に迎合して“間”がなくなってしまう…。インタビューに応える彼の語り口はいつだって物静かで、決して声高にならず、言葉少なく「間」がいい呼吸である。そんな彼ならではの慧眼だろう。

『風港』
07年10月3日発売
作詞:松井由利夫
作曲:伊藤雪彦
編曲:佐伯亮

※9月2日のテレ東「ソロモン流」のつんく♂を見たら、高音が出なくなった喉にマイクロカメラを入れての診断シーンが映っていた。V字型の喉が障子幕みたいに開いたり閉じたりしていた。つんくさんの喉は開閉が左右均等でなかった。
※取材した夜のテレビで70歳の加山雄三さんがアルバムをリリースしたと報じていたし、24時間テレビの歌唱シーンも何度も流されていて、それはとても70歳とは思えぬ声だった。



大川栄策 『稲妻』
●「ソングブック」掲載原稿●

『駅』『再会』ヒットに続く期待の新曲
起伏に富んだ哀愁のメロディーも中高音の狭い音域で、女性のカラオケにぴったり。
3連続ヒットの期待…

“大川節”は、詞曲の解釈から生まれ出るもの。大川ならではの解釈と歌唱組み立てを公開…

前作『再会』は男性が唄ってくれました。
今度は女性の皆様に唄っていただきたい

 取材当日に、2年前発売の『駅』累計枚数が大台に乗っての日本レコード協会「ゴールドディスク」の盾を持参されていた。そして昨年の市川昭介先生遺作『再会』もヒット。絶好調の大川栄策の今年の新曲は『稲妻』。“雪国の駅”から“赤提灯”、そして今度は濃密な愛が漂う二人の部屋へ。グイグイと視覚が近くなってくる見事な展開…
「たかたかし先生がそこまで考えて書いて下さったんでしょうね。一方、杉本先生は10数年まえの『酔いぐれすずめ』以来です」
 高音部のメロディーとその歌唱がメリハリを生んで、これまたヒット性が高い
「それが作曲的・歌唱的な“掴み”になっている楽曲です。メロディーの抑揚が激しいから大きな曲かと言えば、音域的には僕が今までに唄ったことのないほど狭いんです。低音がなくて 10度。1オクターブが8度で、あと2度あるだけ。女性歌手が唄っている音域なんですね。『さざんかの宿』は15度ほどありますから…」
 それでいてメリハリが効いた印象は、作曲と歌唱の技なのだろう。だが音域的には女性が気軽に唄える楽曲になっている。
「前作『再会』が意外に男性が歌って下さいましたから、今度は女性にも唄っていただきたい」
 そのためにも楽曲・歌唱の解説をさらに詳しくしていただくことにした。


こうして歌唱を組み立てました…
大川栄策のカラオケ教室

「♪雨が来そうと 窓にもたれて つぶやく女の 背中の薄さ〜 最初の2行は女性の情景描写ですから、感情を抑えて客観的視点で唄って方がいいと思います。「窓」の高音は“掴み”です。「背中の薄さ」も感情を込めたい言葉ですが、あくまでも男の視線。好きも嫌いもなく第三者の眼で唄うのがいいでしょう」
 3行目から男の独白。モノローグです。
「女は男と一緒になったことに納得しています。愛があればそれで充分だと思っているが、男は夢を実現できなかった自らの不甲斐なさが辛いんです。時代、デジタル社会に乗り遅れたのだろうか…。男の“泣き”です」
 大川栄策の切ない“泣き”歌唱が数箇所あり、これに音色を逞しくした箇所が交互に現れます。「そう、女への気持ちと、男の自らの心への語りがあります。♪ごめんねごめんね〜を説明すると、最初の“ごめんね”は女にむかっての呟きで、次の“ごめんね”は夢を果たせなかった自分への腹の底からの叫びです」
 最後の♪苦労をかけるね〜の“かけるね”がガラッと音色を変えて唄っています。
「ここも大きなポイントです。2コーラス目の2行がまた女の情景描写で感情なしの歌唱ですから、その伏線として敢えて強く身を切るように唄っています。一人称と二人称の変化をハッキリさせるためですね」
 そして、3コーラス目の詞…
「♪抱いてみたって 淋しいけれど〜 僕はこれじゃ女に対して余りに突き放し過ぎじゃありませんか、とたか先生に言ったんです。そうしたら、これは女に言っているのではなく、世の中への問いかけだと先生はおっしゃった。ですからその気持ちで唄っています」
 最後に突然…希望が出てきます。
「そう、陰々としたドラマではなく、女がそういう気持ちでいてくれるから、男も夢をまだ諦めず明日を信じて行こう…で終っています。愛し合っていれば力も夢も湧いてくる…。男はいつまでも泣いてはいられないものね」
 大川栄策オフィシャルサイトに「カラオケ教室」があって、こんな感じで歌詞の分析からくる歌唱アドバイスが本人執筆で掲載されているので、同じ手法でいち早い紹介でした。

“大川節”は感じたままを素直に唄う自然体。
C/Wの韓国メロディーも大人気

 さて、カップリングは『明洞の夜はふけて』で韓国メロディー。そういえば『駅』のC/W>『あの愛をもう一度』、『再会』の C/W『命果てるまで』も韓国メロディーだった。
「僕は20年ほど前に韓国メロディーのアルバムを3作発売していて、新曲C/Wは2枚目のアルバム『韓国の情(こころ)を唄う』からのシングル・カットです。『命果てるまで』は表題曲『再会』を一時抜いて有線ランキング3位まで行きました。今の韓国ブームが影響しているのでしょうか…」
 最後に大川節とは?と訊いてみた。
「これが“大川節”と解説して下さる方がいれば、おっしゃっていることはきっと正解なのだろうと思います。でも僕自身は“大川節”という意識は微塵もないん。前述した歌唱組み立てのように、詞曲からこう感じたからこう唄った…というのが正直なところ。プロ歌手ですから、こう感じたらそういう歌唱・音色が自然に出てくるワケでして…」
 この気負わず、てらわずの自然体でヒット連発。来年に迎える40周年がますます楽しくなってきた。

『稲妻』
07年3月21日
作詞:たかたかし
作曲:杉本眞人
編曲:佐伯 亮

●C/Wは20年前の歌声。…較べれば、若い時分の艶、伸びには敵いません。若い声は、その声だけで相手に届きます。これは女性の化粧と同じで、素肌から歳を重ねて化粧をし、それが濃くなって行くように、歌唱も艶や伸びの衰えと共にテクニックが増してくるんです。詞の背景や主人公の胸の内、言葉の意味などを多彩な喉で表現するようになってくる。そうした歌の組み立てが歌を創る楽しみになって来て、それが“大川節”になるんでしょうね。



大川栄策『再会』
068月2日発売(作詞:たかたかし作曲:市川昭介編曲:佐伯 亮)コロムビアME
〜月刊「ソングブック」8月号掲載〜


前作『駅』のヒットに続いて…ダブルヒットの予感。引き込み聴かせるその歌唱…絶好調です。

 ヒット曲『駅』に続く新曲『再会』は、作家陣も同じでダブルヒットの予感。声高にてらわぬ物静かな歌唱。押しつけがましくなく引き込んで聴かせ、聴き込めばメリハリ、豊かな多彩さで芳醇な味わいがある。
『駅』は細木数子のテレビ番組にゲスト出演をした際に、乞われてア・カペラで披露。これで再びヒットに勢いをつけた経緯がある。“引きこんで聴かせる”歌唱はア・カペラが効果的。テレビを観ていた人々は、画面ににじり寄るようにして耳を傾けたに違いない。
 新曲『再会』を聴いてみると、相変わらず物静かな歌唱だが、ドッシリとした“腰の強さ”も感じられる。グッとタメた腰をもって伸びつつ沈みつつ流麗に舞う日本舞踊に似ていて、そうだ、彼は西川流の舞踊家でもあるんだ、と気付きます。
「舞踊は有機的な間の連続です。肉体の美しい動きや間に多彩な表現があります。演じる歌、すなわち演歌にも通じますね」
 ソフトな気が、スッと風のように流れ込むような歌唱あり、コブシでアクセントをつけたと思えば、トンッと床を強く踏んだように力強く唄う部分もある。最後は気持ちよく伸びる高音のサビへ…。
 このブレない歌唱スタイルはいつの頃から確立されたのだろうか。
「25年も前の若い頃に、市川昭介先生に“声が響き過ぎる”と言われたことがあるんですよ。それでは情緒や哀愁など多様に表現することができないだろうという指摘でした。今は特別の意識もせずにこの声この歌唱です。今はもう58歳、サビやシブ味の世界でしょうね」
 と笑う。そして新曲もそんな年代に合った詞…
「一言で言えば大人の恋愛の歌ですね。僕とほぼ同年代の男性が、若い頃に思い出を作り合った女性と、思いもかけずに再会する。胸はトキメキますが、若かったころのように燃え上がるワケもなく、テレもあればホロ苦い反省もあって、最後は見送るんです。年輪を重ねた男の重みや矜持を交えて唄っています」
 カラオケ層は、歌唱的にも“シャウト”する青春を遥かに超えた世代だろう。その意ではまさにカラオケ世代が我が歌として唄える大人の恋歌と言えるでしょう。しみじみとした情緒が流れて、汲めども尽きぬ味わい…。
 デビューから38年目。芸の奥義をシカと掴んでいるだろう大川栄策の真骨頂。
「難しいけれども、演歌ならではの妙味あるジャンルですね」
 前作『駅』から新作『再会』へ…。40周年に向けての助走、いよいよ絶好調。『駅』では全国の“駅キャンペーン”で大活躍。京都駅では若かった頃の十八番、タンス(50kg)を担ぎ上げるパフォーマンス(実家が家道製造業)を24年振りに披露してくれた。今度はどんなキャンペーンで盛り上げてくれるのか、それも楽しみです。

『再会』
06年8月2日発売
作詞:たかたかし
作曲:市川昭介
編曲:佐伯 亮

(キャプション)●6月初旬、後援会の皆さんと温泉地へバス4台を連ねて一泊旅行。『駅』ヒットで大いに盛り上がったことは言うまでもない。ちなみに後援会は男女比は3対7で圧倒的に女性ファンが多い。ジーンズファッションもお似合いです。


大川栄策『哀愁平野』
作詞:水木れいじ/作曲:筑紫竜平/編曲:南郷達也
〜ソングブック8月号掲載〜


あぁ、気がつけば大川さんは歌謡曲・演歌の「元祖・癒し系」歌手…
その物静かな語り、たたずまいが新曲にも反映していて惹き込まれます。


 人には、声高に話す方と物静かに語る方がいる。多くはそれらの中間、普通なのだろうけれども、敢えて分類すればどちらかに大別できて、これはきっと誰もが生まれ持つ資質のひとつで、大川栄策は間違いなく後者だと思う。だからと言って、物静かな方がきらめきを競い合い、自身の存在をアピールし合う歌手世界にあって埋没してしまうかと言うとそうでもなく、例えば金星の輝きのように人を魅惑してやまない得がたいパワーを有している。
 こう書いて、アッと気が付いた。大川さんは「癒し系歌謡曲・演歌歌手」で、その元祖なのかも…と。
 慌しいレコード会社の片隅で彼の物静かな語りとたたずまいに接しつつインタビューをしていると、彼の世界にすっぽり惹き込まれ、周囲の喧騒も忘れている。
 そう、大ヒット曲『さざんかの宿』も、人に声高に語るのではなく、ひっそりと咲く冬の花の恋で、まさに大川栄策ならではの代表曲。そして新曲『哀愁平野』も然りだ。聴けばまず、サウンドを前面に出し、これに一歩引いた形で歌唱があるのに気付く。これでもか!と歌唱を前面に押し出した“作り”に慣れ切っている私たちにとって、この謙虚さはむしろ新鮮な感動で、身を乗り出して聴き込むことになる。
「サウンドは薄いより多様な厚さがあった方が僕の好みですし、オケ録りからミキシングまですべて立ち会って作っています」
 レコーディングにも、自身のポリシーが貫かれている。そして歌唱を聴き込めば、そこにはしたたかに磨き込まれた「大川節」がある。コブシとバイブレーションが心地好く流れる歌唱に、万華鏡のように多彩な音色がクルクルと展開されている。「歌唱は自然がいいですね。言葉の一つづつ、言葉の連なりから自然に生まれる呼吸がありますから、これに逆らわずに従うのがいいと思っています。音色も言葉の吟味から自然に生まれて来ると思っています」
 大川さんは日本舞踊にも精進を重ねていて、その流れるような歌唱を舞踊に例えて…
「日本舞踊は、有機的な間で展開して行きます。決して流れを切ってはいけません。同じだと思います」
 そして、こうつけ加えます。
「また舞踊は、客席から見て絵の中に溶け込んでいるのか際立っているのか、座りが良いのか悪いのか、光っているのかくすんでいるのか…ここが肝心ですが、残念ながら演者には見えないワケです」
 平成10年よりペンネーム「筑紫竜平」で作曲活動を開始しており、新曲も自身のメロディー。
「第三者の客観的判断を仰ぐ意味もあって、キャパ100名規模の会場で“実験ライブ”と称する活動を始めています。未だスケッチ段階の自作曲をここで披露して、お客様からのストレートな反応を得ています」
 作曲もまた謙虚で、普遍性を求める真摯な姿勢から生まれたライブステージ。前作『男春秋』も2回目のライブを経て生まれた曲で、新曲『哀愁平野』も今年2月7日の3回目の“実験ライブ”で披露された未発表の4曲から生まれている。
「水木れいじさんの詞も、押しつけがましくない世界。今は殺伐とした時代ですから、人々をホッとさせる日本的な瑞々しい情緒を大事にしての作曲でした」
 この辺は故・古賀政男の最後の内弟子らしく、師の教えを継いでいるのだろう。そしてまたひとつ気付いた。ここ最近の大川さんのジャケットは、そのファッションも写真もナチュラル志向ではないかと。
「平成8年の“思い定めて”(小椋佳作品)から田村仁さん(フォークやニューミュージック系の大物アーティストを撮っているカメラマン)に任せています」
 虚勢を張らなければ、或るがままの自然体を磨く他はない。来年が35周年。自然体の円熟が増した大川節にタップリ酔いしれたい方は、シングル『哀愁平野』と同時発売されたアルバム『ゴールデンベスト』をお薦めです。(文・スクワットやま)

 日本舞踊は西川流で、スケジュールの合間をぬって熱心にお稽古を積んでいる。目下は2年に1度の国立劇場発表会で披露。舞踊は“有機的な間の連続”です、と歌唱にも通ずる奥義を探り出している…。5月18日、シングル『哀愁平野』と同時リリースされたアルバム『大川栄作ゴールデンベスト』 <収録曲>哀愁平野/夢一天/雨の港/酔いぐれすずめ/舞酔い雪/雨の永東橋/木枯紋次郎/さざんかの宿/海峡酒場/路傍の花/わかれ港町/路地あかり/女のグラス/目ン無い千鳥


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