成世昌平 『坂東太郎』

民謡歌唱と現代歌謡曲のミックス
その突き抜けるハイトーンの気持ちよさ

 出だしからスカッとしたハイトーン。なんと気持ちよいことよ。本人は「クリスタル・ハイトーン」と言うが、その言葉のイメージは冷たい透明感。ここにあるのは地声高音のあたたかさ…。
「若者たちの音楽のファルセットは一過性のものでしょうが、僕の場合は地声の高音です。邦楽の基本はストレートですから、バイブレーションも使っていません」
 日本の「原風景」を求めたこの歌にふさわしい日本の歌唱法。日本の本来的なものと現代歌謡曲のミックスで“スーパー歌舞伎”のようです。同曲最大の魅力は、その発声・その歌唱法。
「昭和初期歌謡曲は発声・歌唱法の特性をもって人気歌手になった方が多いんです。僕も演歌を年々リリースしてきて、売れないからもういい。これでダメなら民謡の世界に専念…と、最後の気持ちで出したのが『はぐれコキリコ』でした。もず唱平先生に曲をお願いしたら“演歌には 40年余のベテラン勢が多いから勝負もできないだろう。あなたらしく民謡的要素を含んだ曲なら作りましょう”。それで民謡の発声・歌唱をもってヒットしたんです。ここ数年の曲が演歌風だったものですから、再び民謡色を濃くしたのが『坂東太郎』です」
 各コーラス頭に「スイスイスイ」「ピーヒャラピー」の擬音。
「三橋美智也さんの楽曲を彷彿させてくれます」
『赤い夕陽の故郷』 『夕焼けとんび』 を例に出し、民謡系大先輩に似た楽曲を得たうれしさを語ります。そして自身の義太夫、人形浄瑠璃、三味線などとのエキサイティングなコラボレーションを語りだします。カラオケが文化なら腕(喉)を上げたカラオケ上達者たちもそうした邦楽への関心も広げて欲しいと熱弁をふるう。同曲は高音域の存分な発揮で、カラオケすれば理屈抜きでカイカ〜ン間違いなし。
「収録のカラオケは1音下げた標準キーと女性用キーを収録しています。カラオケ自慢の皆様の挑戦を楽しみに待っています。サビの♪お〜い千太…を、それぞれお好きな名前に替えるなどしてお楽しみ下さい」
 今年が民謡歌手30周年、レコードデビュー20周年。節目の年にまた大きなヒットが期待される。

●大ヒット『はぐれコキリコ』をこう分析してくれた。…カラオケ大会で同曲を唄っているのに CDを持っていない方が多かった。 CDが5万枚売れたらカラオケしている方は25万人はいるのかもしれませんね」。皆様、ちゃんと CDを買いましょう。

『坂東太郎』
05年11月2日発売
作詞:もず昌平
作曲:聖川 湧
編曲:前田俊明


<掲載スペースが小さいにもかかわらず、いろいろと訊いた(教えていただいた)んで、日記に以下のように追記した>

演歌ヒットの方程式 成世さんにいろいろ教えていただいた。9月最後の日乗で、ここまでご覧くださる方はいないだろうから、新曲と関係のない部分の勉強メモをばここに。以下、成世昌平さんのコメントにアタシの解釈を加えたメモ。
…「はぐれコキリコ」もそうでしたが、10名ほどのカラオケ大会に行きまして、同曲を唄えるのにCDを持っている人はほんの数名だったんですよ。CDを買ってもいないのに唄っているんです。「はぐれコキリコ」は難しい曲ですからカラオケを覚えるために僅かでも買ってくれて練習した人がいただろうに…。それが現実なんです。もしこれが簡単な曲と考えてみなさいよ。ならば。皆さんCDを買わなくても覚えてカラオケしちゃうんですね。ですからCDは
まずファンやカラオケ・コア層が3〜5万枚買ってくれれば、カラオケしている人はその5倍はいるとみていいでしょうねぇ。僕の場合はそんな状態でジワジワと広がっていって、「歌謡コンサート」で唄ったのを契機に一気に広がったんです。今度は一般のカラオケ好きの方に広がって、5年で50万枚です。
そのころは、どこかでカラオケ大会があると、何人もが「はぐれコキリコ」を唄っていたほどで、同曲だけの大会かっていう状況もあったんです。
 昔のカラオケ好きは、覚え易い曲を選んで唄っていたもんですが、
今はちょっと難しい曲、他の人が知らない楽曲、極端に言えば誰も知らないP盤(自主盤)を強いて選んで唄うケースもあるくらいなんです。今はカラオケする皆さんのレベルが上がって、何度も聴いてやっと覚えられる、唄えるくらいに難しい歌(CD)が求められているんです。
★まとめますとCDが売れるのは…
@熱心なファンがお宝アイテムとして買う。(ファン数だけ売れる)
Aカラオケ対象ではなく「聴く歌」として買う。(これが一体どれほどいるんでしょうか?)
Bそして熱心なカラオケファンが買う。(ファン数+Aで10〜20万枚以上か)
C一般t的なカラオケファンが唄う教材として買う。(30万以上〜)
 今は、だいたいこんな感じで売れていくようですね。ですからCDを買ってもらうには、この逆のステップがあるんです。
★ヒットへのステップ
@まずファンに買っていただく。(ファンが多ければ、それだけで数万枚は行くでしょう)。
A次にカラオケのコア層に食い込む。
B一般的カラオケ好きの方々に広げる。
 ということになります。僕の場合は50万枚売るのに5年かかりました。さてここで効果的なプロモーションが必要になって来ます。僕は「はぐれコキリコ」以降も新曲を出していますが、「えっ、あれ以降は出ていないんでしょ」程度の認識しか持っていただいていません。これが今年の8月に昨年の「鶴の舞橋」を「のど自慢」で唄いましたら「あぁ、そういう曲が出ていたんだ」で去年のCDなのにドドッと売れた。テレビで唄うってことは、そこまでの効果があるんです。どんなにいい新曲を出していても、その告知が効果的でないと、頼りになるのは口コミだけ。これでは時間がかかりすぎです。また店頭に商品があることも重要です。お客様がやっと買う気になっても店頭になかったら、もう手をだしませんからね。

「はぐれコキリコ」は5年で50万枚売れたんです。以上の状況から判断して同曲をカラオケした人は数百万人はいるんじゃないでしょうか。で、実際に買ったのは50万人ってことなんです。

発声・歌唱法について
 これは11月2日発売「坂東太郎」がらみのインタビューで。これは「ソングブック」の、今月はもう一杯で、これは来月入稿の取材で、例のとおりテープは回さずの眼もメモ」だけで、来月になったらすっかり忘れているだろうから、ここに記録も兼ねてのメモ書き。また、こんなけインタビューしながら、誌面は1/2位しきゃないのも実状で、もったいないからどこかに記しておきましょうって意もあってのこと。
 チラシにハイ・トーンとあるが、ファルセットでもなく、透明感があるとも違って、地の匂いのあるハイ・トーンです。
成世 えっ、クリスタルだと思っているが。
 ない・ない。やはり民謡ならではの土、あったかさです。
成世 難しいがインパクトの強いスケール大きな楽曲です。カラオケ自慢が唄ってみたい、挑戦してみたいだろう曲です。高音をふんだんに遣って一般の曲との差別化を図られています。で、ファルセットというのは、最近の一過性の流行でしょ。それには僕は関係がなく、僕のは地声のハイ・トーン。しかも僕は高音域でもバイブレーションを使っていません。民謡、民族音楽の基本はストレートです。「日本の原風景」を求めたこの曲は、日本本来の歌唱法(バイブレーションなし)で臨みたい、と思ったからです。この楽曲には詞、メロディー、歌唱共に日本本来の歌と今の歌謡曲とのミックスで仕上がっています。「スーパー歌舞伎」と同じですよ。民謡じゃおもしろくないから、そこに今の歌要素をミックスする、という手法です。
 歌謡曲には民謡系の発声派がいて、バイブレーション派がいて、今はスカッと抜けた水森英夫系発生も賑わっています。成世さんははっきり民謡系発声です。
成世 昔、昭和初期歌謡曲は発声の特性を持って人気歌手になった方が多いんです。三橋美智也さん、春日八郎さん…。いや、それぞれが独自の発声・歌唱特性を有していたが、今はそれもなくなってきた。もず昌平さんに曲を頼んだときに、こう言われたんです。「演歌にはこの道40年などのベテランが大勢いて、彼らとは勝負できないでしょう。貴方らしい民謡的要素を含んだ曲なら作りましょう」。それが良かったんだと思っています。ここ数曲がちょっと演歌風だったものですから、ここでまた民謡色をより濃くしてのが新曲「坂東太郎」です」。
 昭和歌謡の民謡系ニュアンスの箇所もある。
成世 ♪赤い夕陽のふるさと〜の「お〜い」という部分ね。それと各コーラスの歌いだしの♪スイスイスイと〜 ♪ピーヒャラピー などの擬音は僕も気に入っている。うれしかった部分です。
 カラオケが「カラオケ文化」などと言われている。そこまで歴史を重ねたのなら、それをなぜ邦楽へ感心を広げないのだろう。
成世 その通りです。僕は人形浄瑠璃、義太夫の方々ともコラボレーションしていますが、そこには今学んでおきたい技がたくさんあります。端唄、浪曲だって、カラオケするみなさんはもっとそこまで踏み込んでいただきたい。
 そうなってこそ“文化”です。成世さんのテーマは?
成世 残念ながらメモはここで終っている。


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