長山洋子 『悦楽の園』
●「ソングブック」掲載原稿●

演歌歌手転身15周年記念シングル第2弾
阿久悠作詞、さだまさし作曲。
10年前に出版の阿久悠「書き下ろし歌謡曲」で
最も話題のあの詞が感動作に仕上がった!!

百年前の世紀末の頽廃も、今では抒情に思えるかもしれない…。
完成させたのは、さだメロディーと長山洋子の硬質なヴォーカル


さだメロディー、依頼から1年を経て完成。長山洋子の記念碑的楽曲が誕生

 阿久悠作詞、さだまさし作曲。これだけで充分に凄いのに、その詞は阿久悠が10年前に出版した「書き下ろし歌謡曲」(岩波新書)の「世紀末抒情」編収録の、最も頽廃的な性の園をテーマにした『悦楽の園』。誰もがこれは楽曲にはならぬと思っていた詞が“歌”になって、腰を抜かすほどに驚かされた。
 阿久悠は96(平成8)年の11月から12月までの間の20日間に百篇の詩を書き上げた。最後の「世紀末抒情編」 10作品を書き上げた翌日に、彼はこんな短歌を日記に書いたとか…。「百篇の恋歌を二十日で書きあげて/臨終の床の色魔の思い」。余りに偉大だった作詞家・阿久悠は 8月1日に亡くなった。享年70歳。
 まずは、百篇の詞の中から『悦楽の園』を選び、さだまさし作曲、若草恵編曲の経緯を伺ってみた。
「昨年のこと、15周年に唄うべき作品を模索するスタッフ・ミーティングで、今まで唄っていない阿久悠作品をぜひ…と言うことになりました。阿久先生のオフィスを訪ねたのが昨年 3月で“書き下ろし歌謡曲”より『悦楽の園』他をいただきました」
 同作をチョイスしたのはスタッフで“これを長山洋子が唄ったら”の予想も出来ぬ未知の世界に興味を抱いたとか。だが果たしてこの詞に曲が付くのだろうか?
「詞を何度も読んでいるうちに、私の脳裏にさださんのメロディーが浮かんできました。無理なお願いと思いつつ依頼しますと快諾下さった。 3月の依頼で夏頃に完成予定。しかし待てど暮らせど上がってこない。年を越えてスタッフ全員がすっかり諦めた今春にやっと上がって、慌ただしいスタジオワークが始まりました」
 胸躍るようなスリリングな制作過程を想像したが、かくもの長丁場。だが完成したメロディーを聴けば、この詞にこの曲の他なし。見事に詞と曲が融合して“さすが!さだまさし”と感心しきり。そして編曲…。胸をワクワクさせながら新曲を聴いてみた。

演出一切なし、情感も抑えた硬質な声で大成功…。画期的な“長山歌謡曲”

 まず飛び込んできたのは明治のレトロ感、頽廃感を漂わすダルシマ(ピアノやチェンバロの前身的な打弦楽器)の妙なる調べ。ストリングスにピアノ、地を這うようなリズムはウドゥ (アフリカの素焼壺ドラム)で濃厚な妖しい味わい。そして同曲で最も低い音の唄い出しでスタート.♪お許し下さい 悦楽の園におります〜。長山洋子がマイナー調ならではの喉を閉め加減のやや硬質な歌声で、情感を控えるように唄っている。彼女は同曲をどう唄おうと考えたのだろうか…
「詞と曲が世界をしっかり作っていますから、私が悦楽の世界を演出する必要はなく、1音づつしっかり唄うだけでいい…と思いました」
 それが正解なのだろう。これをもし艶っぽく唄ったら、文字通りの“頽廃”で聴くに耐えられなかっただろう。
「おっしゃる通り…。熟欄の果実に蜜をかけるようなもの。女性のモノローグですから唄い上げることもなく、喉を閉め気味につぶやくように唄いました。上がりたいところで上がらず、下がりたいところで下がらないさださんのメロディーラインで、当然抑えの歌唱…」
 主人公の年齢設定は?
「阿久先生の時代設定は明治の世紀末ですが、その辺も意識せずに今の私が等身大で唄っています」
 歌唱の演出なしでも充分にユニーク。いや未だかつてなかった歌世界を構築。阿久さんの反応は…
「スタッフが完成した音をお届しましたら“覆面で出したら誰が唄っているのかわからない。大変身です”とおっしゃって下さいました」

これからは演歌にこだわらず、歌謡曲に幅広く果敢に挑戦を…と思っています。

「アイドル時代を経て、遅れを取り戻そうと演歌にどっぷり浸かってきた15年です。阿久先生は“演歌にこだわらず、歌謡曲を幅広くとらたらいい”とアドバイス下さいました」
 改めて思えばアイドル時代の歌も演歌も、みんな歌謡曲。この新曲で演歌という狭い枠から飛び出してみれば、その視界のなんと広いこと。その意でも同曲は長山洋子にとってターニングポイントの作品になったと言えそう。
「これで、ジャンルにこだわらない果敢な挑戦が次々にできそうです。演歌転身15周年はその意味でも通過点。今後が楽しくなってきました」
 同曲は彼女の代表作として、今後はアコースティック、オーケストラ、時にア・カペラと様々なアレンジで末永く唄われることになりそうで大いに楽しみ。
 なおカップリングはさだまさし『精霊流し』をカヴァー。これまた聴き応え充分…。今後の長山洋子の音楽世界がこれで一気に広りそうで、今後の活躍にますます期待が広がった。

3月28日発売のCD10枚+特典CD1枚のスペシャル・ボックス『長山洋子・歌心の旅』、5月23日発売の『長山洋子・演歌映像集』が目下好評発売中。●10月21日には 中国上海国際芸術祭(東方芸術センター)に出演。

『悦楽の園』
07年8月22日発売
作詞:阿久悠
作曲:さだまさし
編曲:若草恵




長山洋子 『洋子の…新宿追分』
●「ソングブック」掲載原稿●

演歌転身15周年記念曲…まずはアルバム『洋子の紙芝居』からシングルカット。
昨年のデュエット曲『絆』大ヒットの勢いで 15周年に突入
昨年より自ら企画・制作に参加。そこから自身のスタンス、
明日もしっかり把握で、一段と頼もしい存在に…


大好評『洋子の…』シリーズ第3弾!!
中低音と多彩な喉の響きで聴かせます


 16歳でアイドル・ポップスシンガーとしてデビュー。10年目の平成5年、25歳で演歌『蜩(ひぐらし)』リリース。そして今、演歌歌手転向 15周年。その記念シングルが昨年9月発売のアルバム『洋子の紙芝居〜長山洋子オリジナル演歌集〜』からのシングルカットで『洋子の…新宿追分』。
 前作のデュエット曲『絆』がカラオケ層に大きな支持を得てヒット。その勢いをもっての新曲リリースで、連続ヒットの可能性大。作詞は鈴木紀代、作曲は水森英夫…。
 喉を鍛えてきた結果だろう“錆味”を帯びた声質に存在感がある。中低音中心のメロディーを抑え気味に唄い出し、コブシあり長音符の気持ち良い響きあり。音色を幾重に変化させたサビフレーズの歌唱など歌に深みを生んでいる。
「演歌転向から翌年の『蒼月(つき)』が水森先生のメロディー。その時に中低音の響かせ方を勉強させていただきました。子供の頃に民謡をやっていて、高い声“甲”を元気に張るのが聴かせどころでしたから、低い声はほとんど使っていなかったんです。もう少し大人でしたらお座敷の歌(長唄、小唄、端唄)もやって別の喉も使ったのでしょうが…」
 演歌転向と共に中低音を身に付ける努力を重ねつつ、演歌ならではの表現力を増してきた。
「でも新曲では自己満足にならないよう、感情を入れ過ぎないように、声を前に出すことに専念して…」
 培ってきたものに、改めて“水森歌唱”を強調しての新曲歌唱といえそうだ。

企画・制作に本格参加したアルバム
『洋子の紙芝居』から見えてきたもの…


 新曲が初収録された『洋子の紙芝居』を振り返ってみよう。ここには『洋子の…海』『洋子の…名残月』 (2年前に発売)を含んだ全12曲に“洋子の…”が付いている。
「このアルバムから企画・制作スタッフの一人として参加させていただきました。鈴木紀代先生の詞に 8名の作曲家…。“あぁ、この先生は長山洋子をこう捉え、こう解釈して下さっているんだ”とか“スタッフは私をこう見ていたんだ”などと初めて分かったことがいっぱい。その上で皆さんとキャッチボールをしながら歌を作って行くことを体験しました。そう創って初めて歌が自分のものになる。責任感も湧いてきたように思っています」
 アレンジに自らのアイデアも提供。そうして完成した音に、自分の歌唱をもって歌に命を宿して行く。“新しい歌を創る”得がたい歓びを知った。
「歌はただヒットすればいいのではなく、長山洋子ならではの歌でヒットが肝心”…改めてそう思いました。それら楽曲こそが 5年先、10年先につながって行くのだと思います。今まではその辺が手探りでしたが、確かなものが見えてきたようです」
 制作に関わることで周囲の諸状況、自分が立っているも把握できた。今まで曖昧だったプロデューサーの言葉もよくわかってきた。必然的に明日への意欲が増してくる。 その意も含め同アルバムからのシングル・カット『洋子の…新宿追分』を 15周年の最初の記念曲にした意義もありそう。年内には他の記念曲発売も予定だが、まずはこの新曲で勝負…。

今年は15周年企画が盛りだくさん。
劇場公演と多彩な商品群…


 今年は細川たかしとの特別公演が 4月に大阪・新歌舞伎座、6月に東京・明治座、7月に名古屋・御園座が決定。
「昨年、細川さんと明治座をはじめに歌のステージ展開をさせていただきましたが、今度はお芝居と歌の二部構成です。新歌舞伎座が山本周五郎原作“うらめし屋繁盛記”で、明治座と御園座が“弥太郎・鶴姫さみだれ道中”です」
 そして 9月には野外コンサートも予定。他に15周年記念BOXや映像作品などの多彩…。
「15周年は大事な通過点ですから、しっかりやりたいですね。同時に節目を迎えて自分の足跡を振り返れば、 10年間のアイドル時代に洋楽カヴァーをしてきて、これも大きな財産です。4年前の平成15年の『じょんがら女節』から津軽三味線の立ち弾きを始めて、今ではこれで長山洋子のコンサートが盛り上がっていますからこれも大事です」
 長山洋子ならではの世界を確認し、そこから見えた明日の目標や夢…
「津軽三味線は日本情緒を超えてロックに通じるサウンド性を有しています。若い頃の洋楽カヴァーを含めて、演歌の域を超えることも可能かな…という気もしています。将来的にニューヨークのライヴハウスでもやりたいし、他ジャンルのミュージシャンとのコラボレーションもしたい」
 ジャパニーズ・ギタリスト、三味線プレーヤー &ヴォーカリストの展開。夢があれば今を頑張れる。頑張れば夢が叶うことも知っているのだろう。長山洋子の今と明日が俄然楽しくなってきて、目が離せない存在になってきた。

『洋子の…新宿追分』
07年2月21日発売
作詞:鈴木紀代
作曲:水森英夫
 作曲:伊戸のりお

(キャプション)●「だんだん演歌とJ−>POPの垣根がなくなってくるように思っています。津軽三味線のポップな感じも、そんな垣根を壊す武器になりそうな感じだし…」。日本の音楽シーンをも見つめる眼も持って、来るべき 20周年、25周年を想う余裕も生れている。そう、アイドル時代から数えれば歌手活動は25年。すでにベテランの域に達しているのかもしれな



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