長保有紀『城ヶ島雨情』

移籍第2弾は21年目のスタート記念…自分らしさを求め、強調した自信作。

 写真をとくとご覧あれ。スリムなナイスバディにジーンズ・ファッション。艶やかな着物姿ではなく、こうしたナチュラルな長保有紀から“素”がのぞく。まずインタビューに応える語り口調に、その歌唱特徴も伺える。
「フフッ、わかるぅ?私、舌が長いの。中学生の時に全日本歌謡選手権に出て、滑舌が悪いと指摘された…」
 いやいや、どうして。それが長保ならではの“艶”を生んでいる。だが、その“艶”はよくあるしっとり濡れたものではなく、写真のボーイッシュ・ファッションにも通じる元気さ、フレンドリーな女性の魅力。それが人々に愛されるゆえん。ユニークな存在なのです。
「クラウンのディレクターさんは、そこを見抜いて移籍第1弾『花筏』も新曲『城ヶ島雨情』も、女性詞で男性っぽいメロディーの楽曲を下さった」
 実は昨年8月リリース『花筏』は、デビュー 20周年記念曲だが“クラウン移籍第1弾”を前面に打ち出してのプロモーションで、『城ヶ島雨情』を 21年目の新たなスタートと位置づけている。その新曲の作詞は旅情ものの第一人者、木下龍太郎。大正ロマン漂う北原白秋『城ヶ島の雨』を彷彿させるべく
♪利久ねずみの雨〜
♪通り矢のはな〜
 などが盛り込まれた詞。
「きっと着物姿の他の歌手が唄うなら、しっとり艶っぽく唄うでしょうが、長保有紀らしさく軽快に唄っています。二人の思い出をいっぱい甦らせたあとは、未練を断ち切って新たな旅立ちを予感させる心情で唄っています」
 その独特な節回し(コブシ)に加えて彼女の明るい“艶”が、別れ歌なのに、明日の旅立ち暗示する歌になっている。そこが長保有紀らしさ。自身の 21年目の旅立ちについては、こう語っている。
「北島さんがこうおっしゃっていました。 20年目はまだ経験を積んでいる最中で、まだ頑張っている。 30年目になってやっと頑張りが抜けて自然な歌唱になる。そうなって本当に人間味がにじみ出る…と。その意でも、本当の味が出せるのはこれからです。これからどんな出会いや経験が待っているか楽しみです」
 尊敬する北島三郎と 7月24日、NHK「のど自慢」出演が決定で、この共演からまた何かを得るような予感もする。まだまだ、これからに大きな可能性を感じさせる長保さんです。

● 10月予定で和歌県・紀州徳川家の菩提寺・長保寺(ちょうほうじ)で 2年目スタートを記念した野外コンサートを企画中。同寺は同じ名を縁に、平成 2年の5周年曲『雨やどり』10万枚突破記念に長保節にちなんで“コブシ”を植樹していて、今は春に立派な花を咲かせているという。詳細発表にご注目下さい

長保有紀『雪国紅葉』

連続ヒットの4曲目は…マイナー演歌“長保節”新分野確立で大きな存在感!!

 移籍後『花筏』 『城ヶ島雨情』 『越後海道』と連続ヒットで、いよいよ王道“マイナー演歌・艶歌”に挑戦。「艶歌=しっとり」と思いきや、しっかり“力み”が入っていて独特な味わいを構築。
「実は『城ヶ島雨情』の時にできていた楽曲なんです。大事に 2年間熟成させてきました」
 熟成にはワケがあった。
「当初は艶歌ですから“しっとり”唄っていました。でもしっくりこないんです。長保らしくないんです。そこで詞の解釈を改めてみました。艶歌ですが、この詞は恋する気持ちが最高潮の最中に男性に心変わりをされた歌。ならば、しっとりの余裕もなく苦しさに激しく身悶えているのではないかと。色に例えればしっとり濡れたブルーではなく、情念が激しく燃えるレッドだと。レコーディングのやり直しをお願いして、この歌唱が完成しました」
 納得するまで挑戦した真摯な心が、約5分の新曲に充ちている。情念の激しさはブレスにも現れて、フルボリュームにしてヘッドフォンで聴けば、身もだえの息遣いまで共有したかの一体感。
「昔は…ブレスは良くない、と言われましたが、今はそれが表現になっていればいいと思っています。ふふっ、ちょっとエッチな気分になっていただけたら、それでいいんです。今はお母様方がカラオケを応援して下さっていますから言わないようにしていますが、歌にはちょっとエッチぽさも必要です」
 加えてブレスがあることで「ンタッ」とアフタービート風に聴こえ、独特のノリも生んでいる。“長保節”の特徴をさらに探れば“母音化”も挙げられる。例えば唄い出し♪残る〜は「の“お”こる」〜 ♪紅葉〜は「も“お”みじ」と唄うなどで、これら母音重視は関西の特徴。訊いてみれば…
「わかりますぅ。今は大阪在住で日常的に大阪弁を使っています」
 かくして完成の“長保節”。大ヒットすれば芸が確立する。熱烈応援をいざ!。
「移籍後のディレクターは、好きなように自由に唄ってみて下さい、と私の個性を大事にしてくれます。そこから連続ヒットが生れています。そして今、私ならではのマイナー演歌も出来ました」

 『雪国紅葉』
06年7月5日発売
作詞:木下龍太郎
作曲:中村 典正
編曲:佐伯 亮

●「私、CDやテレビ歌番組と、生のステージの印象が違うんです。着物姿で“長保有紀”…を貫き通せばいいのに、私はテレ屋だからすぐに変な事をしゃべりだしたりしちゃうんです。色っぽくならなくて、ざっくばらんなキャラクターが前面に出てしまいます。どうしたらいいんでしょうか…」と長保さん。両方あっていいんです。結果的にご夫妻のファンが多いとか。



きら星館「目次」に戻る                     HOMEに戻る