森昌子 『綺麗』
●平成19年10月号掲載原稿●
世代縦断!第3弾シングルは
『越冬つばめ』の石原信一&円広志楽曲
“きれいになりたい”全女性の願望を唄って、
パワフルに浸透の予感がする。
森昌子 『こころ雪』
●平成19年3月号掲載原稿●
第2弾シングルは、従来の歌唱から脱した清冽な新ストレート唱法。
10代から中高年層までの“世代縦断”でパワフルに浸透中…。
初雪が降るように、人は心を白紙に戻して新たな恋を予感する…。
頑張って生きてきた皆様への人生讃歌。
激動の1年を“紅白”で締めくくって、
新たな年を走り出しています!!
昨年6月、話題を浴びて20年ぶりに森昌子が帰ってきた。再デビュー曲『バラ色の未来』は、別れと旅立ちの人生応援歌。多数番組出演とコンサートツアーも開始。現役当時の声を日々回復させ、激動の
1年をNHK「紅白歌番組」で締めくくった。紅白は平成13年出演から5年ぶり…。
「リハーサルでは大丈夫かなと思っていましたが、当日は出番の5、6番前にスタンバイ。そうしたらもう心臓バックバクで大緊張。でも私にとって激動だった
1年が紅白歌合戦で締めくくれて、とてもいい区切りになりました。お正月をたっぷり休んで、2年目を走りだしています」
眼が輝き、シャープな顔。主婦からプロに復帰して人の眼にさらされると、こうも綺麗になるのか…
「フフッ、違うんです。早くも忙しくて痩せたんです。4月2日放送開始のNHK連続テレビ小説“どんど晴れ”の撮影が昨年秋から始まって、今も週に数回の撮影中。ヒロインの母親役ですから出ずっぱりで、先日は草笛光子さんと宮本信子さんと一緒のシーン。お二人の磁力というか存在感が圧巻で、ちょっと興奮しています」
19歳から新宿コマ劇場の座長を7年連続でやってきたが、20年のブランク後のベテラン勢との共演は余りに刺激的。気迫、間、タイミング…と日々勉強中。森昌子は楽しそうに娘(浅倉夏美)に優しく語る母の声、夫(大杉漣)に酔って絡む荒々しい声と芸の巾を披露してくれたが、新曲『こころ雪』はストイックなまでにストレートな歌唱で、美しくも清冽な世界を展開。注目の第2弾『こころ雪』について訊いてみた…。
従来の森昌子の殻を破るチャンス!
思い切ったストレート歌唱で新領域を開拓…。
作家陣は前作と同じで、同路線上の作品。美しく拡がるストリングスのイントロに、最初の4行詞が語り歌唱。続く5行詞のほとんどの語尾が全音符か二分音符で、ストレートに伸びる歌声が遺憾なく発揮されている。一切のコブシもビブラートもなし。あれっ、森昌子の歌唱ってこうだったかと引退直前の『愛傷歌』を聴き直してみれば多彩な小技・音色…。
「ふふっ、最初はそう唄ったんですよ。両先生がスタジオにいらっしゃいますから持てる“技全開”で唄いました(笑)。でも家で聴き直して、こう思ったんです。“これでは以前の森昌子と同じではないか”と。先日、阿久悠先生にご挨拶へ伺った際にこう言われたんです。“もっと下手に唄ってくれよ。森昌子を一度壊してもいいのじゃないか”。そう、この歌は疲れた心に初雪が降り、新たな恋を予感する人生讃歌。初雪さながら思い切り清々しく唄って、今までの森昌子ではない新たな歌唱に挑戦するまたとないチャンスじゃないか。お願いして、もう一度唄わせていただいたんです」
スタジオを真っ暗に、初雪が拡がるイメージを一心に描いて唄ったと言う。
「コーラスも自分で唄いました。今までの森昌子の殻をきれいに洗い流したかったんです。一切の小技を排除した直球、ストレートの清々しさで…」
新しい恋の予感は自身の等身大の叫びだろう。併せてこの新歌唱は、持ち前の美しい声を強調。さらには技を競い合って捏ねくり過ぎるきらいがなくもない演歌・カラオケシーンにあって、このシンプルさは逆に清冽なインパクトを放つ効果も生んでいる。“私は着物演歌歌手とは違いますよ”というアピールでもありそうだ。この歌唱には幾重もの意味がある。いや、もっと大きな意味が秘められていた…
他の演歌・歌謡曲歌手にない
“世代縦断”の大きな可能性…
「当初は再デビュー曲のCDをどんな方々が買って下さったのか顔が見えませんでした。でもお手紙やコンサート会場での握手会から、私と同世代女性、その子供だろう
20代がいて、恋に疲れた30代女性。一方、中3トリオ時代から応援下さっていた高年層が娘、孫を見守るように応援して下さって…」
10代から中高年までの全世代へのアピールには、この癖のないストレート歌唱があってこそで、これが成功したら“世代縦断”の快挙になる。一方、前半4行詞の“語り歌唱”も並の技ではない。
「昔、遠藤実先生、船村徹先生に言われた言葉を思い出しました。“昌子、唄っちゃダメだよ。普通に喋るように唄ってごらん、そう、役者になった気持ちで…”。そんな言葉も思い出しました」
すでにコンサートで『こころ雪』を唄っていて、その反応は…
「昔の歌は皆さんのイメージを壊してはいけませんから当時の歌唱。最後の方でこの歌を披露しますと歌唱がガラリッと変わりますから、お客様もアッと口を開けたままで聴いていらっしゃる。終ると大きな拍手を下さいます」
歌唱に癖を帯びたなと思われるカラオケファンの皆さんは是非『こころ雪』の森昌子歌唱を真似て、シンプル歌唱に立ち戻ってみるのはいいがだろうか。なおカップリング『美しき大地』は“いじめ”に負けるなと歌う母の感動メッセージソング。
『こころ雪』
07年1月17日発売
作詞:なかにし礼
作曲:浜圭介
編曲:萩田光雄
●3月9日消印有効で新曲のカラオケテープ募集中。優秀者5名前後が4月9日の神奈川県民ホール・コンサート中の決勝本選に出場できます。●「森昌子コンサート正子ひとり舞台」のライブ
DVDが2月21日発売。収録は06年11月9〜11の3日間に行なわれた天王洲・銀河劇場ライブ。
キラ星館
森昌子『バラ色の未来』
月刊「ソングブック」平成18年7月号掲載原稿
花の中三トリオから最優秀歌唱賞受賞歌手へ。あれから20年…。
人生キャリアを積んでの“歌手復活”第1弾は世代縦断大ヒットの予感がする。
アイドル歌手を経て25歳を迎えた森昌子は、地声発揮でゾクゾクするほどの色香と存在感を増して『越冬つばめ』を唄っていた。レコード大賞・最優秀歌唱賞を受賞。『愛傷歌』で「紅白歌合戦」2度目のトリ。だが期待の最中に突然の結婚・引退。あれから実に20年。今、酸いも甘いも知り抜いた女性歌手としてひのき舞台に戻ってきた…。
アイドル「花の中三トリオ」が、“気になる存在”になったのは、地声を前面に出してドキドキするような女の存在感を発揮した『越冬つばめ』からだった。24歳から25歳へ。その年の日本レコード大賞・優秀歌唱賞を受賞。大人の歌手に脱皮して今後が楽しみ、と思っていた最中に結婚・引退。
あれから20年…。復帰第1作は、したたかな人生キャリアを積んだ女のズシリと胸を突く歌で…と期待していたが、いきなりそれは無理だったようだ。なかにし礼作詞、浜圭介作曲『バラ色の未来』。
♪バラ色の 未来があるから
別れの時に 私は泣かない
かつてアイドル歌手に書いていた作詞家たちは“歌手の気持ちを代弁した詞”を得意としたもので、そんな昔を彷彿の楽曲…。
「いいんですよ。遠慮なく何でも訊いてくださいよ」
森昌子は淡々と意気軒昂。あの頃と変わらぬ自然体。ならばとその辺から訊いてみた。
「なかにし礼先生とは去年の冬に、初めてお会いし、小1時間ほど昼食をご一緒しただけ。そして今年2月、この詞をいただきました。私の気持ちが見透かされている。その通りで、自分の歌としてすんなり入って行けました」
…が20年のブランク。作詞家の心遣いの詞も、彼女には簡単に唄えなかった。スタジオに持ち込んだ父の遺影。
「声が出ない。唄えば涙が出てくる。なかにし先生がこう言って下さった。もうお父様もあなたの気持ちが充分にわかったでしょうから遺影をしまって、今日はもう終わりにしましょう。最後に笑顔で鼻歌のように唄ってごらんよ」
そう唄ってみたら…
「パチ〜ンと喉が開いたんです。ミキサー室をのぞけば、皆さんがウンウンと頷いていた。“あぁ、やったぁ”と思って、それから数回のテイクでOKが出たんです」
20年間まるっきり唄っていなかったワケでもない。別れる前の数年間は森進一とジョイント・コンサートもしていたはず…。
「でも、あのころから私は笑いを忘れていました。私にとって笑顔はもう遠い世界のこと。今、ヴォイス・トレーニングを始めていますが、心身が病んでいたら満足に声も出ないと教わりました。まさにその通りでした」
“森昌子の高音はきれい”は定評。そこを生かした浜メロディー。一番高い音から始り、実に覚え易いメロディー。
「浜先生は近年これほど悩んだことはない、というほど何度も書き直しつつ作られたそうです。高音はファルセットのちょっと手前。“この歌は、これからの人生を負けずに力強く生きて行こうという女性の歌だからファルセットで逃げずに、地声でしっかり唄いなさい”が浜先生のアドバイス」
軽快テンポ。思わず一緒に口ずさみたくなるメロディー。森昌子の明るく弾む歌声。高音の唄いだしも、サブフレーズも印象的。
♪私は飛び立つ 青い鳥になる〜
別れと旅立ちの“青春ソング”のような仕上がりです。
「今日はレコード店への挨拶まわり。ある店で『バラ色の未来』を通りに流していたら20、30代の女性たちが足を止めて聴き、“誰の何という歌ですか”と訊いてきたと言うんです。あぁ、その世代の共感もいただける楽曲なんだな、とうれしくなってきました」
その復活がマスコミ話題として盛り上がる最中の新曲は、世代縦断の大ヒットを狙った戦略のような気もしてきた。だが年配の歌謡曲ファンとしては、ズシリと胸に響く楽曲を聴きたいところ。そう言えば…
「当然です。私の目標も同世代女性との共感です。三人の子の母であり離婚もして…。そんな人生を歩んできた私ならではの歌でメッセージをして行きたい。また皆様がそういう楽曲を待っていることも充分に承知しています」
それにはまずスパーリングが必要。『バラ色の未来』は、そう位置づけていいのかも知れない。
「ですから目下のトレーニングを、秋の全国コンサートツアーに標準を定めています。私の代表曲を20、30曲は唄うことになるでしょうが、若かった頃の歌を“48歳の今の私の歌”として、いかに表現できるかが勝負だと思っています。でも高らかに歌い上げる楽曲もあって、実は大変なんですよ。今、トレーニングの度に声が出ていますから、きっと大丈夫」
さらに続けて…
「あの頃は周囲の思惑で唄わされていたきらいもありましたが、今は歌が私の生業。したたかに経験を重ね、子供たちの母という生活を担っての歌手・森昌子です。歌に賭ける姿勢が全然違います。私も『哀しみ本線日本海』『立待岬』『越冬つばめ』『愛傷歌』など、今の森昌子としてどう表現できるかワクワクしているんです」
して、そのステージ衣装は
「ははっ、ワンピースかスーツ。たまにはドレスでも着て。でも着物は着ませんよ」
てらいのない本来の自然体を取り戻しつつ、48歳の波乱のキャリアも有しつつ、歌謡シーンをシカと見つめている森昌子がいた。きっと今までになかった演歌・歌謡曲シーンにおける新たなビッグスターのイメージを確立することになりそうだ。その意では森昌子の復帰は、演歌・歌謡曲復活の起爆剤にもなる期待もあって、ちょっと眼が離せない。
●秋から年末までに全国コンサート・ツアー、またアルバムもリリース予定。マスコミに森昌子情報は頻繁に露出されましょう。ご見逃さずご注目下さい。
『バラ色の未来』
06年6月7日発売
作詞:なかにし礼
作曲:浜圭介
編曲:萩田光雄
キャプション●「ははっ、お化粧なんて20年間ずっとしていなかったんですよう。それがまぁ、ここにきてメイクさんが付いて毎日メイクされてちゃって(爆笑)。皮膚呼吸ができないから、もう掻きむしりたくなっちゃうんです」こんな軽口も淡々と。すでに自信を取り戻しているからだろう。歌謡曲シーンに今までになかったイメージのビッグスターを確立する予感がする。
★20年余前、あたしは長い年月に亘ってポニーキャニオンのプロモート・ペーパー「マンスリー・プラネット」を編集していて、当時の森昌子もことあるたびに取材していた。以下、それを書いた「日乗」から転載すると…
編集部 凄い曲が出来たね。初めて聴いた時、ゾクッと鳥肌が立った。
三井 ホントに凄い!これが演歌だよ。森昌子だよ。
編集部 初めて耳にしたのが8月上旬。夏だぁと浮ついていた気持ちが一瞬キュン!と締めつけられた。以来、会う人ごとに森昌子『越冬つばめ』凄いぞ!と言いまくっている。
三井 演歌てぇのは、そうやってジワジワッと拡がって行くんだ。
編集部 詞がいい。曲がいい、ヴォーカルがいい。
三井 めったにないことだ。
編集部 あれを聴いてから森昌子が眩しくて。スゲェ〜いい女で迫ってくる。ナゼだ?
三井 ちょっと歌唱法を変えてみた。肉声(地声)を前面に出して唄いだしている。ヒュルリヒュルリ〜…ド迫力だろ。
編集部 チビっちゃうね。
…昭和58年の「マンスリープラネット」10月号。編集部はまだ30代のあたし。三井は現・夏川りみの社長。ちなみに同号はアルフィーがやっと人気爆発で1面特集。掘ちえみ、田原俊彦、岩崎良美、石川ひとみの新譜話題に、中島みゆきのシングル『あの娘』、元気だった松原みきのライブツアー開始を報じている。そして次号で森昌子を1面特集。おぉ!この頃は当然ながら原稿用紙に万年筆(確かモンブラン?)で書いていた。ははっ、某カラオケ誌のアイツが、未だオシメをしていた頃の話さっ。