中村美律子デビュー15周年
シングル『赤いエプロン』、5枚組『中村美律子全集』
〜ソングブック9月号掲載〜

デビュー15周年で今、中村美律子が熱く盛り上がっている。
6月27日に新曲『赤いエプロン』と5枚(本)組み『中村美律子全集』をリリース。
新宿コマ劇場7月公演「夢見る頃を過ぎても」を終えて、
8月13日に大阪ドーム、9月2日にNHKホール、
10月10日〜12日になんばグランド花月で吉本新喜劇「のど自慢」、
11月1日〜27日に大阪新歌舞伎座「美律子の夫婦善哉」、
そして1月2日〜26日に名古屋・御園座「雲の上の青い空」と15周年特別企画が目白押し。
ノリにノッている中村美律子にエネルギーのお裾分けいただこうとインタビューです。


 新宿コマ劇場の7月公演も終わって、15周年記念行事がいよいよ佳境に入って来た中村美律子さん。まずは15周年について聞いてみた。
「10周年の時も自分が持っているすべてを出し切り、体力的にも目一杯に頑張った積り。で、あれから五つも歳をとっている訳ですがパワー、意欲共に5年前より大きいんです。これ不思議ですね。一体どこからこの力が湧いて来るのだろうかと考えてみれば、もっといろんな事に挑戦したいという“欲”なんですね。だから今、15周年でこんなに頑張っているのだから、20周年はそこそこでいいかなぁ、なんて思っていても、私のことやから20周年になったら、また燃えとるかわからんねぇ」 とファイターの弁。ここから今後の主なスケジュールの紹介。8月13日の「中村美律子15周年記念スペシャルIN大阪ドーム」の内容は…。
「お客様をちょっと裏切って、まさかの中村美律子を観ていただきます。えぇ、三味線を弾くのは当り前でしょうから、ピアノをちょっと弾きます。果たして上手に弾けるでしょうか…。で、盆踊りと題していますから、きっとお子様もいらっしゃる。そこで『ラブマシーン』『だんご三兄弟』『明日があるさ』のメドレーもあります。ドーム近所に多くお住まいの沖縄県人の方々が沖縄踊りを披露してくれることになっていて、私も沖縄衣装に身を包み『安里屋ユンタ』を唄います。司会はMBS“乾杯!トークそんぐ”で司会をなさっていた野村さんで、ゲストは神野美伽さん、三門忠司さん、氷川きよしさんはじめ大勢の方に来ていただきます」
 真夏の3万人熱狂ライヴになりそーです。次ぎに9月2日のNHKホールでの15周年リサイタルについて…
「10>周年の時に歌謡浪曲『瞼の母』(19分8秒)を演りまして、これ以上のものはなし、これを演ったら次ぎにナニ演るねん…と言う気持ちだったのですが、このほど新作『唐人お吉』(約16分)を作りまして、これがまたいいんですわ。で昨日(8月5日)、伊豆下田のお吉さんの墓参して来たんです。えぇ、今後にCDになる、ビデオになる、また各地のコンサートで演るかも知れないわけですから、最初にちゃんとお参りしときましょうと。こんな感じでいい題材は幾らでもあってキリがないんですね。中村美律子のコンサートへ行けば、いつも何か新しい試みがあると期待しているお客様がほどんどで、その意味でもこの“唐人お吉”は期待を裏切らないものになると思っています」
 ここで浪曲について…
「もうダメなんじゃないかしらねぇ。まずお三味線を弾く方が随分なお歳になっちゃった。浪曲はアドリブみたいに弾くわけですから、毎日演れる小屋があって腕を磨いていないとダメで、今はもうそんな小屋はありませんから。浪曲は三味線ひとつで節を語り、何人もの台詞を演り、ト書きまで言う。まさに一人ミュージカルで、こんなに素晴らしい芸は他になく、でも三味線弾く方がいなくなって出来なくなって来ているんです。私もお三味線の方を連れてのコンサートが出来ませんから、音を録っておいて、これに合わせて演るより他にないんです」
 と消え行く芸能へ心を痛めている。そして10月10日から「中村美津子3日間お笑い芸人」と銘打ったお芝居が「なんばグランド花月」で開催…。
「これは映画“のど自慢”をモチーフに、私のために吉本新喜劇風に書いて下さったお芝居で池乃めだかさん、チャーリー浜さんはじめ吉本のお友達と一緒に演ります。お芝居大好きですからとっても楽しみ…」
 歌手ならぬ“芸人・中村美律子”をクローズアップ。そして劇場公演は…
「今年は新歌舞伎座1月公演が鼠小僧の「びっくり怪盗伝」で、7月が新宿コマ「夢見る頃を過ぎても」、そして再び新歌舞伎座11月公演で「美律子の夫婦善哉」です。3劇場それぞれ演目が違いますから、覚えなきゃいけないことがいっぱいで頭がパニックです。で、来年のお正月が初めての御園座で、初のお正月女座長と伺っています。演題は「雲の上の青い空」(自伝的物語)です。今後は3劇場公演がレギュラー化でしそうです」
 …と、聞いているだけで目が回りそうな大活躍。加えて中村さんは昨年2月にライヴの出来るお店「人生乾杯」を大阪・ミナミにオープンしており、そちらの運営も大忙し。
「昔は修行の場であり、かつお金もいただけて歌を唄える場がありましたが、今はもう唄う場所がない。新人がデビューし、キャンペーンに行っても唄う場所がない。で、後輩育成のためと言えばメッチャ格好えぇけれども、この店は自分の夢でもあるんです。今、自分には唄う場所がたくさんあるけれど、10年後は?と考えたら何も分からない時代。演歌だってやれITで配信だなんて時代になって来て、これからどないに変わって行くかさっぱり分からない。一時期のように新曲が出てある程度の数字が出るって保証もない。そんな事を考えればお芝居も好き、浪曲も好き、河内音頭も好きの芸人・中村美律子が、主役ではなくてもいいから“居られる場”としての「人生乾杯」なんです」
 美律子ママが公演で長期留守の時でも、日替わりの演歌ライブがあったり、河内音頭があったりと、お店は活況を呈する人気スポットになっていると言う。また中村さんは盲導犬育成のボランティア活動も熱心に展開中。
「そもそもは『壷坂情話』(目の不自由な夫を支える妻をテーマにした楽曲で93年にシングルを、95年に16分23秒の歌謡浪曲をリリース)がキッカケで盲導犬支援の会「みつまめ会」を設立して、当初は年間1頭の積りだったのですが、みっちゃんがそーゆー事をやっているなら応援しなくてば…とファンの方々も参加下さって去年で10頭分の基金になった。えぇ、1頭の育成費が300万円ですから大変なんです。で、今年は15周年ですから、皆さんと頑張って5頭分を基金し、15頭になっています」
 最後に熱狂的ファンが多い中村美律子さんだがこの辺の秘密も聞いてみた。
「基本的な私のイメージ、コンセプトはいわゆる大スターではなくて、“近所のおばちゃんスター”かしら。でもステージに立てば、その小さな身体で一生懸命にエネルギッシュに頑張っている。これを見て“あぁ、普通のオバさんだって、こんなに頑張っているんだ、俺も元気に頑張らなくちゃ”と奮い立つ。だから元気の素、生きる勇気の素として私の舞台、ステージが欠かさず観たいという方々が大勢いて…」
 ということらしい。だが人々に元気と勇気を与えてくれる中村美律子さんがこれだけ忙しいと健康が心配…
「劇場公演が終わったばかりで、目下、体調万全です」
 思わず「エェッ」と聞き返せば…
「劇場公演は最初のプレッシャーを乗り切れば、後は規則正しい生活が続きます。同じ時間に起きて働いて寝て、食事の時間も同じですから逆に体調良くなるんです」
 と元気に笑われた。これからの15周年記念イベントも元気に展開してくれるに違いない。元気のない方はぜひ中村美律子さんのステージに触れて奮い立つがいい…。

『赤いエプロン』
船村徹作曲生活五十周年記念曲/作詞:星野哲郎/作曲:船村徹/編曲:蔦将包
カップリング『逢酒春秋』 CD:TODT―6081 MT:TOST―6081
『中村美律子全集』
「恋の肥後つばき」から「おんなの純情」までのシングル曲を含む代表曲、懐メロ、カバー曲全74曲を収録。CD5枚組:TOCT−24605〜9 MT5本組:TOST−24605

中村美律子
(東芝EMI)
『めおと恋』
作詞:藤間哲郎/作曲:富田梓仁/編曲:佐伯亮
軽快さの中に多彩な歌唱魅力一杯の新曲。
不況日本の大いなる癒しの存在、それが“ミッチャン”です。


昨年から多彩に展開して来た15周年記念イベントは今年の御園座お正月公演で終了し、新たな気持ちで再スタートの挨拶がわり『めおと恋』を3月6日にリリースした中村美律子さん。あたたかさがジワーッと胸に広がる新曲で、今回はそんな“みっちゃん”の歌唱魅力の秘密に迫ってみました。

 新曲『めおと恋』を聴いて、思わず「うまいなぁ〜」と唸ってしまった。軽快サウンドに弾みつつ、微塵の力みも感じさせずに唄っているのですが、その歌唱テクニックの多彩さよ。あそこでこう唄って、ここでこう唄っていますよね、と言えば…
「ははぁ〜ん、私はそんな難しいこと、なぁ〜んにも考えずに唄っていますよ」
 と軽くいなされてしまった。そこで、中村さんにとって新曲の位置付けを探るべく、ご自身の歌世界を分類して下さいと頼んだ。
「明るくノリのある歌、凄みのある男歌、たっぷりと台詞の入っている歌、しっとり艶っぽい女歌。で、新曲は“明るくノリのある歌”に入るかなぁと思いきや、これは『河内おとこ節』のように元気だけじゃなく、ジワ〜ッとあたたかくなる楽曲で、今までになかった歌ですね」 16年目で、またひとつ世界が広がった。
「私にとって“夫婦”と付いた初めての、しかも等身大の夫婦歌です。そもそもの発想は、この不景気な世の中で暗く重い歌は唄いたくないから、何としても心あたたかくなる歌を唄いたかった。で、今までの私になかった楽曲は?と考えてみたら、三船和子さんの『だんな様』風の歌がなく、そのセンで出て来はったのが、この楽曲です」
 再びあそこ、ここの歌唱がいいですねぇと言えば、今度は答えて下さいました。
「無意識ですがこの言葉は歯切れ良く、この言葉はしっとり、この言葉は気持ちを前に出して…言葉ひとつづつの表現をこう考えて、これらが連なってワンフレーズが自然に仕上がって行くのです。だから計算ではなく、自然に出来た歌唱です。しかも私の信条は“シンプル・イズ・ベスト”だから、コブシだって極力抑えているんですよぅ」
 当初、中村さんの唄った歌の採譜を試みた方が言ったそうです。“コブシが複雑で、とてもじゃないが採譜出来ませんよ”。
「そんな歌は聴いていても、きっと難しいはずです。まして今回の曲は、ちゃんと聴いて下さいっていう歌ではなくて、さぁ、一緒に唄いましょ、って歌ですから簡単がいいのです。敢えてひとつだけ言わせていただくなら、言葉を鮮明に伝える…これだけは重要ですね」
 と、その歌唱の秘密を答えて下さった。カラオケ・アドバイスもいただけば…
「ノリの良い曲ですから、音が細かい。ノリ遅れないように唄うのが肝心です。そして、皆様どうぞ、旦那様へ感謝の気持ちを込めて唄って下さい。それで充分です」
 中村美律子さんの、言葉ひとつづつに気持ちを込めた歌唱を、皆さんも試みて下さい。するとホラッ、こんなにも多彩な歌唱魅力が発揮かも。ぜひ挑戦してみて下さい。
 さて、今年はお正月御園座公演で15周年のフィナーレを飾り、今、新たなスタート。
「御園座107年で、初の正月女性座長公演が盛況で、かつ15周年の『赤いエプロン』が藤田まさと賞をいただき、皆様のお陰と感謝しております」
 そして、3月6日リリースの新曲『めおと恋』ヒット最中に…
「新宿コマ劇場“名作花舞台七変化!名曲歌謡劇場”6月公演、間もなく開始です。これはもう出づっぱり。私が舞台に立っていない時は、衣装替えの時くらい。休みなしで唄って演じます」
 新宿コマの次は、同演目で新歌舞伎座9月公演。そして劇場公演の合間をぬって通常の全国コンサート・ツアーで、年間約60会場を予定。不況で暗く沈んだ日本を「ミッチャン」の庶民的なあたたかさが明るく癒してくれます。
「関西では芦屋など一部のハイクラス地域外はみぃ〜んな下町。関西下町おばさんには、どんな逆境でも明るく頑張るパワーがあります。苦労を苦労と思わず乗り越える元気があります。この曲は標準語の歌ですが、関西下町のエネルギー、あたたかさが満ちていると思っています」
 そ〜なんです、こんな時代の日本の大いなる癒しの存在、それが中村美律子さん。『めおと恋』で心をあたたかくして、さぁ、頑張りましょ。(スクワットやま)


「常に新しい楽曲を求めていますから、私には同じ楽曲が少ないのです。紅白歌合戦初出場の平成4年には『男道』『酒場ひとり』で、180度違った楽曲を2曲リリースして1位と2位…。楽曲の幅広さは、コンサートにいらして下さるお客様にとっても、きっと楽しいはず。これからも今までにない楽曲を求めて唄って行きます」と意欲一杯の中村美律子さん。




中村美律子デビュー20周年とは言え、それはキャリア40年余の円熟領域
オリコン06年11月23日入稿原稿

記念アルバム『野郎たちの詩』を中心に・・・

 デビュー20周年で多彩な活動を展開中。
「7、8歳の頃に歌手になりたいと思って以来、歌だけの人生でした。生活の糧にアルバイトで河内音頭を唄ってきた。浪曲にも精進してきた。私の人生は歌一途なんです」
 だが30代半ばの“遅咲きデビュー”。その3年後『河内おとこ節』がヒット。以来、遅れを取り戻すような“バイ(倍)ペース”でひた走ってきた。大阪在住、河内音頭、浪花節、炸裂するパッション。そして定着したイメージが“大阪の元気なおばちゃん”。
 今年3月、20周年記念アルバム『野郎(おとこ)たちの詩(うた)』をリリース。“20周年”と言えば、普通は40歳前後の中堅どころだが、同アルバムを聴けば、すでにベテランの域に達していることが否応なくわかる。
 小西良太郎プロデュース。氏の入念な発注に意気を感じた作家たちの力作揃い。詞に文学性、曲と編曲にひと捻りふた捻りの奥行き。初組み合わせは阿久悠、吉岡治、ちあき哲也、喜多條忠…。
「中村美津子の芸の満開を目指す」
 の趣旨通り、彼女が少女時分から培ってきた喉が全曲に遺憾なく発揮されている。河内音頭で鍛えた弾けるパワーとリズムとコブシ。浪曲で鍛えた老若男女を使い分ける豊かな声色と表現力。“喉巧者”と褒めると…
「私は歌を作って下さった先生方の、ここはこういう気持ちで書かれた、作曲されたのでは…と思って唄っているだけ」
 理屈や分析を避け、身体が覚えた“喉”だから…と言うのがいつもの中村流。11曲が浪曲で言う“啖呵”(台詞)入り。啖呵の裏には物語がある。結果的に数分の 1曲がひと舞台の奥行き持つ。全曲を聴き終われば、その密度の濃さは息苦しいばかり。
「台詞はキーやテンポが自在ですが、歌はそうもいきません。そこでいかに豊かに表現するかが妙ですね。従来からの高音に、歳と共に中低音が心地よく響くようになって…」
 張りも艶もあってますますの真骨頂。汲めども尽きぬ鑑賞作ゆえに、カラオケ全盛のご時世に数字を求めるのは至難だが…
「こんなに素晴らしいアルバムが出来たことの自信は、かけがえのない心の宝物です」
 ここからカットされた20周年記念シングル第1弾が『夜もすがら踊る石松』。阿久悠作詞、杉本眞人作曲。ブルースっぽいサウンドにラップ入り。第2弾が『下津井・お滝・まだかな橋』は“神田川”の喜多條忠作詞、弦哲也作曲で唯一の女唄。
「私は欲深いのでしょうか、収録時よりステージではさらに艶っぽく唄っていて、客席から“色っぽい!”と掛け声がかかるんです」
 最もふさわしい楽曲群を得ながら、やや泥臭かった“みっちゃんイメージ”から脱却して、洗練された滋味充ちる“えんたあていんめんと”の仕上がり。ベテランだけが到達できる領域と言ってもいいだろう。
 12月1日より初の明治座公演。演目は「おゆき」。客席は涙・涙でハンカチが欠かせない。3月は九州・博多座の初公演。芝居も従来の“みっちゃん”から“女優・中村美律子”へスケールアップしているようだ。
 気軽に“大阪のおばちゃん”とは呼べぬトップステージに昇り詰めた中村美律子がここにいるようだ。(文:スクワットやま)





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