松前ひろ子『いたわり坂』

再再デビュー25周年記念曲は優しさ溢れる夫婦演歌
 従兄妹・北島三郎の祝福も受けて「いざ、開花!」

 従兄妹・北島三郎の内弟子からデビューするも交通事故。 8年のブランクを経て、今年が再デビュー25周年。プロ歌手を中断する時に北島三郎がこう言ったという。
「ひろ子、結婚しろよ」
 プロの世界の厳しさを知っている氏は、妻・母の道を彼女に勧めた。作曲家・山口ひろしと結婚し、三人の子を授かった。それで落ち着けばいいものを、松前ひろ子は動き出した。北島の「俺は応援しないゾ」の声も聞き流し、下の娘を北海道の実家に預けての再デビュー。
 彼女が夢みたのは“スター歌手の”華やかさだったのだろうか。
「10年ほど前のこと。真ん中の娘が成人式のときの手紙にこう書いていたんです。子供のころに“お前の母さんは売れない演歌歌手”と子供のころにからかわれたことがある。でもここまで来たからには頑張って下さいと。主人も“好きな歌が唄えれば、売れなくたっていいじゃないか”と。でもここまで来ると意地でもあります」
 しかし気付けば一歩一歩と地盤も固まり、一作毎に階段を昇っているのに気付く。一昨年『酒場情話』でファン層も広がった。昨年『母ざくら』は NHK新ラジオ歌謡(3ケ月)にもなった。営業活動も活発になっている。
「25周年の今こそ、小さくてもいいからパッと花を咲かせたい…。私の原点、夫婦や家族愛の歌に戻った『いたわり坂』で勝負です。演歌を聴いて下さる中心層は、この歌と同じ年輪を重ねています。詞も(主人の)メロディーも皆さまにスゥ〜ッと親しんでいただける楽曲ですから、きっと多くの皆様に支持されるような気がします。最近はご夫婦で演歌を楽しむ方々が増えていますから、そんな皆さまに唄っていただけるように思うんです」
 歌唱ポイントは…
「7行詞と長いのですが♪ねえあなた〜 ♪ふり返るの二ヶ所にポイントをつけて下さい。“ねえあなた〜”は優しく語りかけるように。“ふり返る”は思い切り歌い上げて下さい。あとは皆様が歩んで来た長い人生をふり返りつつ、ご夫婦でいたわり合う気持ちで唄って下さればいいと思います」
 最も多い人口を成す団塊の世代も、第二の人生を歩み出そうとする頃…。松前ひろ子の新曲に共感が広がりそうな予感がする


松前ひろ子『望郷千里』

再デビュー25周年記念・完結編。“松前節”の真骨頂で、ついに出逢った期待曲。
 聴けば唄いたくなります。唄えば、唄い醍醐味に快感必至!

 従兄妹・北島三郎の内弟子からデビューするも交通事故。8年のブランクを経て今、再デビュー25周年・完結編をリリース。歌手は楽曲との出逢いが勝負。苦しい闘いながら諦めない心が、ヒット性に満ちた楽曲を引き込んだ感がする。カラオケ自慢が唄いたくなる秀作の登場です。

 ドドド〜ン 胸おどるイントロ。人生の悠久を感じさせるスケールとドラマチックなメロディーとサウンド。
 父を振りきった吹雪舞う朝の港…。
 唄いだしから映画の感動シーンの絵が浮かんできます。情景は冷徹で厳しい冬景色ですが、松前ひと子の腹の底から絞り出した歌唱が、その絵に生命力を注入してグイグイと迫ってきます。父娘の涙が血潮のような熱さで伝わってきます。ここには楽曲に生命を宿そうとする歌手の真摯な姿勢と執念のようなパッションがあります。絵画に例えるなら気迫こもった油絵、とでも言いましょうか。
 さて、唄いだしの勢いのまま“逢いたい気持ち”を力唱かと思えば、途中でグッと抑えた情感表現。心憎いほどの技です。そして記憶に残るキャッシーなサビ・メロディーと詞。余韻を増幅するトランペット…。
 カラオケ自慢の皆様なら、誰もが挑戦したくなる歌唱とドラマ性に満ちた楽曲。松前ひろ子が、ここまで渾身歌唱ができるのは、それが自身のドラマに他ならないからでしょう。
 従兄妹・北島三郎の内弟子から昭和44年にデビュー。セカンド・シングル『兄妹』は北島三郎とのデュエット曲でスマッシュ・ヒット。だが乗っていたタクシーの事故でアゴを負傷。昭和46年『室蘭の男』を最後に歌手活動を断念。
「ひろ子、結婚しろよ」
 プロの世界の厳しさをイヤというほど知っている北島三郎が、彼女に妻・母の道を勧めたのは親身ゆえ。縁あって作曲家・山口ひろし(日本クラウン楽曲では中村典正)と結婚。三人の子を授かった。妻として母として幸せな人生があったに違いない。しかし“芸”の魔力がささやいた。
「いつか大輪が咲くはずだったのに…」
 引退から10年後…、彼女は再び“芸の道”を歩み出した。北島三郎は言った。
「俺は応援しないゾ」
“夫や子らの優しき妻、母たれ”のアドバイスを無視し、下の娘を北海道の実家に預けてまで再び歌手の道を歩み出した。バラ色であろうはずがない。現実の厳しさをイヤというほど味わった。だが厳しいほど辛いほど逃げだすワケにはいかない。
「だって、再デビューにあたって皆さんがあれほど止めたのを振りきったのですから」
♪わたしは涙で 振りきった
 あれから 幾歳せ〜
 状況は螺旋下降する一方。
「お前の母さんは“売れない演歌歌手”」
 子供たちが周囲の子らにからかわれたこともある。今度は“意地”が頭をもたげた。
「負けるものか、負けるものか…」
 それが10年、20年も経てば生き様になる。今は子供たちが言う。
「ここまで頑張ったんだから、最後まで夢を目指してください」
 夫が言う。
「好きな道を歩いているんだ。売れなくたっていいじゃないか」
 気が付けば再デビュー25年の奮闘は大成果を生んでいた。歌手としての座、全国的なファンの輪、営業活動も活発化している。
 再デビュー25周年記念の第1弾は夫婦愛を歌った『いたわり坂』で昨年6月発売。
「実はその時に『望郷千里』もできていたんです。松前ひろ子の歌は難しい…と言われてきましたから、まずは気軽に唄える夫婦愛の歌を先にリリースして…」
 満を持しての“松前節”真骨頂発揮『望郷千里』を発売です。えぇ、NAKの皆様にとpっては、そんなに難しい楽曲ではありません。ポイントは前述通り楽曲に生命を注入せんとする意欲、情熱次第。そして4行目からの張り上げたいところをグッと抑えた情感表現。ダイナミックに、ゆったり大きく、リズムに乗って、張って、抑えて、そして魅惑のサビ戦慄…。
 多彩かつメリハリの効いた松前ひろ子歌唱に肉薄すれば“唄う醍醐味”をしっかり堪能で、思わず“快感〜!”。聴けば、唄わずにいられない素晴らしい楽曲です。
「唄いたくなる…そう言われる夢の楽曲と出会えたんですね。すれし〜い。皆様も私と同じような思いで故郷から旅立ったんだと思います。故郷の両親や郷愁を胸に…、一人でも多くの皆さんに唄っていただけたら幸せです」
 なおカップリングはご主人。山口ひろしとのデュエット・ソング『夫婦スキスキ…』。これまた軽快リズムで流行りそう。
「歌手を志ながら編曲・作曲家になった主人の初歌唱披露です」
 昨年秋「よみうりホール」再デビュー25周年記念リサイタルが徳光和夫司会で盛り上がったばかり。そして今、この再デビュー25周年記念“完結編”が、松前ひろ子の新たな大きな旅立ちを予感させます。

『望郷千里』
作詞:池田充男
作曲:山口ひろし
編曲:佐伯 亮

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