9月25日リリース『人間模様』
●松下章一プロデューサーにインタビュ−●
〜「さゆり倶楽部」NO.27掲載原稿〜

作詞:阿久悠/作曲:杉本眞人/編曲:川村栄二
カップリング『稲妻』作詞:阿久悠/作曲:三木たかし/編曲:若草恵

 新曲は、発売前から話題沸騰…。ポップな感じで、カップリングは無国籍風。着物じゃなくて洋服なんですってぇ〜。 さゆりさんファンは皆さん熱心ですから、新曲情報の飛び交うこと活発です。しかも今号は、新曲リリース後の発行で、後追いレポートです。ならば、会報の使命は出来る限り突っ込んださゆりさん、松下プロデューサーへのインタビュー。新曲を聴いた後で“ははぁ〜ん、そういうことだったのか”と納得いただければ幸い。で、年末間近です。熱烈応援トコトンよろしくお願いです。

それはステージのさゆりさんとお客さんの掛け合いから始まった
“一生懸命に生きている女性の胸の内”をコンセプトに次々作品が!!


 新曲『人間模様』は、昨年30周年シングルの第1弾『転がる石』と同じコンビで、阿久悠作詞、杉本眞人作曲、川村栄二編曲。次頁の<さゆりトーク>で、さゆりさんも語っている通り、『転がる石』に触発された“型に嵌らず、収まらず。しなやかで素直な感性で生きて行こう”のメッセージが胸に秘められていての、再度の挑戦のような感じがします。
 そして同曲から、演歌ではなく歌謡曲で活躍中の松下章一プロデューサーが担当の心機一転。松下さんは、歌謡曲が演歌に括られて、その低迷が盛んにマスコミに取り沙汰されていた最中、チェウニの連続ヒットをもって“歌謡曲ここにあり”と唯一がんばった来た“あのディレクター”です。さゆりファンを代表し(勝手にそう思っています)、さっそく新曲誕生の経緯、狙いなどについてインタビュー。松下さんの開口一番は…
「石川さんを担当するに当って、代表ヒット曲以外にどんな世界があるのだろうか、と今までの歌々を聴きまくりました。まず、その世界の多彩さに圧倒されましたね。改めて“日本を代表する歌手”の巾の広さ、深さを再認識。そこから、新曲コンセプト探しを始めたワケですが、おいそれと決まるはずもない…。そんな折、ステージを観ていましたら、石川さんがお客様に“どういう方がお好きですか?”と問いかけるシーンがあって、或るお客さんが“一生懸命に生きている人”とお応えになった。
 後で石川さんと、あの“やりとり”は良かった、などと話し合っているうちに、次第に盛り上がって“そう、一所懸命に生きている女性の、素直な胸の内を描いた歌を創りましょうよ”と盛り上がったんです。真剣に、ひたむきに、けな気に生きている女性主人公の秘められた胸の内…。阿久悠さんが、これに応えて4作創って下さった」
 そんな主人公の胸の内…。それは、いきおいモノローグ(独白・吐露)風の作品になる。素直なつぶやきの詞に、杉本眞人さんが素直なメロディーで仕上げたのが『人間模様』。
「石川さんはご自身をプロデュースして行かれる方ですから、作品コンセプトは自分でしっかり固めてから作品創りに入る、それが肝心だと思いました。我々はそのために出来る限りの手助けをする。そうして楽曲が上がれば上がったで、石川さんは唄い方を含めて、その無限の抽斗からさまざまな表現を選び抜いて来ます」
 歌い手とプロデューサーのあるべき関係を説明した後に、新曲の歌唱に言及します。
「一生懸命に生きている健気な女性がその心情を吐露する、つまり、つぶやくような楽曲ですから、必然的に歌い上げない歌唱になる。心の中から出て来た素直な言葉を、間違いなく伝えたい。そのためには厚めのサウンドより、ギター1本に近い薄めのオケがいい。そして淡々と唄うだけではメリハリがつきませんから、石川さゆりならではの本来の味も、どこかで強調したい。それが…♪蝶々でないし 孔雀でないし〜 からのサビで、さゆり節とも言える気持ち良いコブシをそこで展開です」
 コンセプトが決まれば、かくの如く必然性で次々に歌創りが決まってくる、とおっしゃった。
「この歌を初めて聴かれる方は、最初は誰が唄っているのだろうか?さゆりさんのように思うのだけど、違うかもしれないと思いつつ、このサビで“あぁ、やっぱり石川さゆりさんだぁ〜”と。こう引っ張り込むパワーが“大衆性=ヒット性”に通ずるんだと思います」
 これがさゆりさんを含めた制作スタッフのプロ手法。また、さゆりさんにとって、今回のような“ささやき歌唱”はそんなになかったように思いますが、と問えば…
「ここでの特徴は、抑えて唄っているようで、気持ちは前に出ていて言葉を伝えようとしている点です。僕はこう思っているんです。胸の内に秘めた事って、歌い上げるのではなく、こうした歌唱をもって初めて相手に想いが伝わるのではないかと…」
 新曲を改めて思うに…、と続けます。
「これぞ“うた”だと思っています。歌謡曲、流行歌という漢字に“うた”とルビをふりたくなって来る。これは、阿久悠さんが今、熱心にアピールされている“歌謡曲の逆襲”でもあるんだと思うんです。昨年11月の「第35回作詩大賞」審査・発表会場で阿久さんと久し振りにお逢いして、五木ひろしさんの『傘ん中』で大賞受賞された阿久さんはこう言われた。“若者一辺倒の音楽シーンに、なんとしてでも歌謡曲の逆襲を成し遂げたい…”。これは同会場にいた多くの関係者が胸の中に抱いていた想いで、阿久悠さんが言葉でハッキリ主張したものですから、誰もが喝采を送ったんです。演歌という言葉に括りられて、歌謡曲(=うた)がどこかに押しやられ“このままではいけない”と皆が思っていたんです。僕はポリドール時代に沢田研二さん、小林旭さんの『熱き心に』などを阿久さんと創って来た経緯があり、チェウニの連続ヒットで頑張っていた最中でしたから“よくぞ、言って下さった”と思ったもの。石川さんともこの辺の意識はまったく同じで、演歌ではなく歌謡曲(うた)で勝負しましょうと…」
 この辺をさらに強調したのがカップリング『稲妻』だとおっしゃる。そこで遠慮なく…イントロがフォルクローレ風で「コンドルは飛んでいく」彷彿、ややして中島みゆき「地上の星」彷彿ありと乱暴に指摘すれば、松下さん、してやったりと笑った。
「胡弓も入ってオリエント風もある。これは無国籍歌謡曲ですよ。石川さゆり=演歌イメージ払拭に、これ以上の楽曲なしです。こんな凄い歌もありますよぅ〜、というアピールなんです。だから、同曲を耳にした方が“これは何だ”と思ってくれたら大成功。またこれは三木たかしさんならではのアプローチ。阿久さんと三木さんのコンビでは、昨年の30周年アルバム『さゆり』に、沖縄風メロディーの『花ふたたび』がありますが、最近の三木さんの新しい歌を、今までになかった歌を…という意欲の現れです」
 こうなって来ると、次への期待が湧いて来る。
「でしょ。現在、他に12小節のブルースなど、今までのさゆりさんになかった楽曲が上がっています。先述した“一生懸命に生きている女性”を芯に、ここから様々なアプローチの曲創りが進行中です。限りない可能性を有した石川さゆりさん、その新たな挑戦は始まったばかり。さぁ、これからを大いにお楽しみ下さい」
 と同時に『津軽海峡・冬景色』『能登半島』の匂いのする楽曲も、その一方で着々と進行中。すでにドラマチックな作品も上がっているとか。
「やるなら徹底した楽曲でやるのがいいんです」
 と、なんとも頼もしい。しかし今は『人間模様』で年末ヒット、よろしくです。

<写真キャプション>
新曲レコーディング
新たなプロデューサーの許、スタジオには緊張感と、次第に見えて来る楽曲に笑みも充ち…。演歌から歌謡曲へ…、現場の雰囲気もちょっと違います。

胸の内のモノローグ。音は限りなく薄く…と検討が続きます

作品が生まれる瞬間が一刻一刻近づいて来る。スタジオは創造の苦しみと誕生の歓びの場

テイチクの千賀エグゼクティブ・プロデューサー

 作曲の杉本眞人さん



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