香西かおり『秋田ポンポン節』

20周年記念シングル第2弾は“香西かおり色”を濃厚にして魅力全開。
喉を閉めた音色、多彩な表現力で
渋くて重厚な味わいにゾクゾクします。

ガツンと取り組んだ『秋田ポンポン節』、演歌の域を深めたC/W『酒』…大収穫の20周年です。

「色がないのが香西流、8割の控え目歌唱」から見事に脱却した記念曲…

 前作『き・ず・な』に続いて20周年記念シングル第2弾が『秋田ポンポン節』。そんな民謡は過去になく言葉の面白さを狙った楽曲だが、ここで注目はその歌唱その音色…。“香西かおりらしさ”が濃厚に強力にアピールされている。
「香西かおりが持っている民謡のコブシ、心地よい声が前面に出てくるように作ってくださったようです。ですからガッチリ行こうと取り組んだ楽曲です」
 またカップリングの演歌『酒』(同じ作家陣)を聴けば、さらに“らしさ”が濃厚で、その音色と多彩な表現で、聴いているとゾクゾクとさせられる。
「今までは“香西色のないのが香西流”。“8割の控え目歌唱が香西流”でした」
 スター歌手がまるでバイプレーヤーのようではありませんか。
「ファンの皆様も作家の先生方も“我慢して我慢しての香西”イメージが浸透していましたから、新曲に皆様ビックリされているようです」
 得意の民謡テイスト楽曲をもってガツンとやって、持てる魅力が見事に開花した。怒涛のようなエレキギターとやや繊細な三味線をメイン・フィーチャーしたサウンドとセッションしているかのライブ感に満ちた力強い歌唱。“控え目8割歌唱”から完全脱却してみれば、その音色も香西色濃厚になっているではないか。
「秋田の民謡三味線は同じ太棹でも青森のじょんがら三味線とは違ってツルツル、チリチリと奏でる繊細な技法が入っているので特徴です」
 かつては民謡歌手で、詳しいのは当然のこと。そして喉について語った。
「東北の民謡は力強さの中に哀しさがあります。凍てつく寒さ、貧しさ、耐える切なさ。マイナー調がメインですがカーンと大開放で力強く唄う部分があり、喉を閉めてある種、泣き声のように唄う部分があります。力強さと哀しさ両方の表現があって、それがここでも出来ていると思います。コブシがここでは二回、三回という風にカチッと決めて唄っています」

喉を閉めた歌唱をしたたかに磨いた…香西ならではの音色に魅せられます。

 喉を閉めての発声をしたたかに鍛え磨いてきた香西かおりならではの音色。C/W『酒』を聴いてみると前々作『最北航路』(昨年度の日本作詩大賞・大賞受賞作)に比して、さらにその音色が前面に出ていて、もう誰にも“色がないのが香西流”とは言わせない感じ。その音色に気づいたら、もう魅せられ惹かれること間違いないだろう。加えて定評ある言葉ひとつづつの繊細な表現にも力強さ、説得力が増している。
「私、カップリング曲が大好きなんです。お酒が好きだから、歌の気持ちもよくわかるんです。同じお酒の歌『雨酒場』(演歌デビュー曲)とはまったく違った味わいになっています」
 マイナー調の喉を閉めた歌唱なら香西かおりにお任せ。そこまで言ってもいいだろうステージアップを成し遂げた裏に、いったい何があったのだろうか…
「大阪に生活拠点を戻して精神的に落ち着いて、歌に真正面から取り組めるようになったこと。そして最近の鳥羽一郎さん、伍代夏子さん、堀内孝雄さん、前川清さんとの劇場公演やジョイント・コンサートなどで先輩方に触発された部分も大きいかと思っています」
 今までは華奢で、女の深い情念みたいなところを切々と唄っていた(本人の弁)香西かおりが、『秋田ポンポン節』で腰を溜めてパワフルに唄っている。そんな香西の変化にお客様は驚き歓び、さらには会場に手拍子が湧くシーンも展開されているという。
「スタジオのガラスの中で集中して唄っていて、いざ会場で唄ってみると手拍子が湧く。あぁ、そういう歌だったのかって。だったらもっとリラックスして唄ってもいいんだと。私はそうやってお客さんに 20年間育てられてきたんだなぁ、と改めて思いました」
 今年1月24日に『香西かおり20周年記念シングルコレクション』(4枚組BOXセット)がリリースされている。
「20周年で今まで唄ってきた楽曲の再発掘みたいなことを始めているのですが、今の歌唱で唄ってみると“あぁ、この曲はこんなに素晴らしかったんだ”と改めて思います。改めてレコーディングするわけには参りませんから、ステージで唄い直してみたく思います。いつかシングルのリクエスト・コンサートをやってみたい…」
 それだけの大成長があったということだろう。香西色がない、8割の控え目歌唱から脱曲した20周年第2弾シングル。これからはさらに音色アピールを!  10割を超える歌唱でドーンと前に出れば、あとは大飛躍あるのみ…。
 最後にカラオケ・ポイントを訊いた。
「テンポに乗らないとドンドン遅れてしまいます。いえ、乗らざるを得ないメロディーですからガツンッと勢いよく唄って下さい。」

『秋田ポンポン節』
(07年8月22日発売)
作詞:たきのえいじ
作曲:浜圭介
編曲:川村栄二

●喉を閉めて磨いた音色…この辺の秘訣を訊いた。「これはもう子供の頃からの民謡で自然に身に付いたものですから、特別の意識はないんです。ここではこんな表現で、ここでユスリを入れて…と思うだけで喉が自然に反応してくれるんです。ですから私はコンディションを整えて、喉がスムーズに反応をしてくれるように気をつけるだけ…」。香西かおりならではの喉を閉めた音色をたっぷりお楽しみ下さい。




香西かおり『き・ず・な』

黙々と歩いてきた20年。
20周年記念曲は“自分探し”の新たな旅立ち
見えない”き・ず・な”に導かれ…


『居酒屋「敦賀」』から『最北航路』。
そして今、なかにし礼・筒美京平コンビ作のバラードにメッセージを託して…


20周年へ誘った忘れ得ぬ香西かおりの“き・ず・な”とは…

 『居酒屋「敦賀」』から『最北航路』へ。演歌歌唱を充実させた後のデビュー 20周年記念曲『き・ず・な』は演歌ではなく意表を突くメッセージ色濃いバラード。なかにし礼作詞。森昌子の復帰2作をもって再び作詞活動を再開させたかのなかにし礼“人生讃歌”風の詞を、煌きポップスの大御所・筒美京平が流麗なメロディーに仕上げている。
“絆”と言えば、香西かおりを育んできた大切な絆は、聖川湧と久世光彦が挙げられるだろう。『最北航路』リリース時のインタビューで香西は恩師・聖川湧についてこう語っていた。
「子供のころから民謡一筋でしたが、聖川先生に演歌歌唱をみっちりと教えていただきました。先生の信条は“唇に言葉を乗せろ”でした。言葉ひとつひとつをいかに表現するか…そこを徹底して教えて下さいました。デビュー曲『雨酒場』でいきなりヒット。香西かおりを世に出して下さった先生です」
 歌唱の前に“心ありき”を徹底して教えたと言います。歌詞のひとつひとつの言葉の意味、効果…をどう捉えどう感じ、どう表現するか。それには心のしなやかな感受性と想像力、表現力が必要。香西は『最北航路』で♪カモメ一羽がついて来る〜 の詞に“群れではなく一羽”の情景を見事に唄い描いたものだ。
 そしてデビューから5年目の平成5年、日本レコード大賞受賞曲『無言坂』作詞の久世光彦(ペンネーム市川睦月、作曲は玉置浩二)。
「久世先生は初リサイタルも演出して下さいました。ステージをたくさんの“打ち掛け”で飾って“これがお前の結婚式だ。歌謡界への嫁入りだ”と祝って下さったんです。久世先生に 20周年記念曲をお願いしていたのですが、昨年3月に急逝されてしまった…」
 今年1月リリースの4枚組アルバム『二十周年記念 香西かおり〜シングル・コレクション〜』には、今までの27枚のシングル(カップリングを含めて)全 54曲が収められていて…
「改めて全曲を聴き直しましたが、自分で言うのも変ですがぜんぜん飽きないんです。作家の先生方や歌との素敵な出逢いがずっと続いてきて、改めて私は“いい歌しか唄ってこなかった”と誇らしく思うと同時に、先生方への感謝の気持ちを改めて感じました」

15周年まで無我夢中。20周年まで演歌を直視。そして今“香西らしさ”追求へ

 20周年を振り返ってもらった。
「ただただ黙々と20年でした。まずはいろんな事を知りたい、覚えたい、唄いたいと貪欲にトライをしてきたのが 15周年まで。実際は20代半ばのデビューでしたが、15周年で歌手としての成人式を迎えたかなと思っています。そこから 20周年までは、もう一度演歌に取り組んでみようと思った時期で『最北航路』でいい区切りが出来たと思っています。そして今、新たな旅立ちです。演歌という狭いジャンルから、再び流行歌という枠に広げてみたくなりました」
 久世・玉置コンビの『無言坂』で従来の演歌枠を打ち破ったように、また新たなチャレンジを開始したくなってきたという。その目標は“香西らしさ”の追求…。従来の歌唱は“色がないのが香西風”。キャラクター面でも我を張らない素直さ、多くの先輩歌手より一緒にやって“楽だから”と乞われてジョイント・ステージや共演のお誘いも多かった。
「そうしたステージで、私は一リスナーのように隣のスターに見惚れている時があるんです」
 すでに鳥羽一郎に乞われて劇場公演を3度、今は伍代夏子とジョイント・コンサートを展開中。多くの音楽仲間に愛される存在だが、ここらで“香西らしさ”を前面に打ち出すトライを開始したいと言う。
「ステージング、また楽曲面でも私ならではのものを明確に、強力にして行きたいと思っています。そのためには今までのように“たゆたって”どこかから来る波を待っていたのではダメだと思うの。自分から間口を広げ、常に新たなトライをして行かなければいけません」
 そんな大きなターニングポイントでもあるのが20周年なのだろう。そして新たな自分探しの旅立ちを象徴するかの『き・ず・な』。この春に新たな旅立ちをする多くの人々へ送るメッセージソングであると同時に、それは自らの新たな絆を求める歌のようでもあります。その詞そのメッセージから、演歌の領域を超えて老若男女の旅立ちを応援する世代縦断ソングとして浸透する可能性もありそう。そこでカラオケ・アドバイス…
「♪それは絆 絆 絆〜の“は”の音程が取り難いんです。ア・カペラで唄うと知らぬ間に高くなってしまう。次に続く♪絆 絆 絆のメロディーをしっかり頭に入れて音を外さないようにして下さい。また沢山の“絆”が出てきますから、それぞれの“絆”のニュアンスを変えて唄ってみると歌に厚みが出てくると思います」
 今後に展開されるだろう“香西らしさ”を求めたチャレンジに注目…。

『き・ず・な』
07年3月21日発売
作詞:なかにし礼
作曲:筒美京平
編曲:船山基紀

(キャプション)●当初より上下共に音域が広がっています。特に低音部がガツンと出るようになっています。また1音づつのヴォリューム、厚み、まろやかさが出て来たかなぁと思っています。● 4月24日にC.C.Lemonホールで「20thコンサート」を開催。




香西かおり『最北航路』

“香西節”は絵描き歌唱。
言葉ひとつ一つの筆遣いならぬ“喉遣い”
20周年に向けて助走開始

“歌唱占い”ではないが新曲を聴いていて「香西さんはいい人だ」と思った。そのココロは…楽曲表現に徹して、我執が微塵も感じられないからだ。
「香西の色がないのが“香西節”」
 とよく言われるそうだ。詞曲にこめられた情景、情念、情緒…。言葉の細部や深部まですくい描こうとする歌唱に徹している。結果的に、絵が浮かんで来る、主人公の気持ちや情景が浮かんで来る。
「役者さんチックな歌唱、ドラマチックな歌唱…とよく言われます」
 子供の頃から民謡一筋で各大会受賞の実績を持ちながら、聖川湧に2年に亘って演歌歌唱を教わった。
「先生は“唇に言葉を乗せて”が持論。言葉ひとつ一つをいかに表現するか…を徹底して教えられました。民謡の基礎と歌謡曲歌唱。その両方を自分なりに取り入れたのが私の歌唱です」
 まずスゥ〜と軽めに入る唄いだしの見事さ。
「詞の解釈から、ここは淋しい港でしょうから、朗々と唄うワケにはまいりません。 2行目の“カモメ一羽”も要注意。決して“群れ”ではなく“一羽”の情景描写です」
 その詞読みの深さに脱帽。かくして香西かおりの歌唱には、これみよがしな張り上げは皆無。民謡で鍛えた喉を発揮も出来るはずだが…
「常に8割以下、抑えた歌唱です。これはジャズ系やポップス系の皆様とコラボレーションする機会が多い私にとって、声は楽器とのアンサンブルという考えにもよっているのだと思います。民謡のワザは最後の♪いまも ♪捨てに〜の 2箇所で“ユスリ”の技を遣っています」
 そこで哀切感が胸を打つ。香西の“調和が大切”という姿勢は習得した茶道、華道、日舞にも通じよう。またそれはパートナーシップに優れて、音楽仲間からの誘いも多い。それを代表するのが鳥羽一郎に乞われて二枚看板で出演の中日劇場6月公演。人柄をほめると…
「そんなことはない、私はキツイよ…」
 と笑うが性根は優しい。優しいが声質は“哀しみ声”。そんな声質に合った『最北航路』は『無言坂』にも通じるヒット性も大。来年が 20周年。『無言坂』作詞の久世光彦に記念曲を書いていただく約束だったが急逝された。まずはこの新曲が 20周年へ大きな弾みになりそうだ。

<歌唱ポイント> 全体的に大きく唄わない、張り上げない。まず唄いだしをスゥッと静かに入って下さい。サビの♪振りきれ 振りきれ 恋みれん〜はリズムに乗って。♪沫になれ〜は思い切り捨てる感じ。最後の♪いまも〜と♪捨てに〜は北の民謡によくあるタテユレ、ユスリとも言う民謡歌唱で、香西ならではの妙。ぜひ挑戦して下さい。 香西かおり

『最北航路』
06年3月22日発売
作詞:池田充男
作曲:あらい玉英
編曲:佐伯 亮


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