●喜多郎●
〜ソングブック3月号に掲載分〜

今年2月、NHKのテレビ50周年記念企画番組として2日から12夜連続で放映された「懐かしの“シルクロード”」ご覧になりましたか?今から22年前…“地上最後の秘境”と言われ、神秘のベールに包まれていたシルクロードの全貌が、壮大なスケールとロマンに充ちた映像で展開された驚きと感動。併せて喜多郎によるシンセサイザー演奏も注目され、そのテーマ・シングル、オリジナル・サウンド・トラック『シルクロード〜絲綢之路』も大ヒット。あれから、実に22年です。あの時、シルクロードの映像や音楽に釘付けになっていた私たちはいま50代、60代でカラオケ世代。で、いかがでしょうか?喜多郎の新しいアルバムと共に、あの時の感動を再び…。

今、シルクロードの名曲の数々が、より温かいアコースティック・サウンドで甦ります…
Best Of Silk Road
ベスト・オブ・シルクロード
喜多郎
(コロムビアミュージックエンタテインメント)

プロフィール ●70年代にインド、カトマンズなどを訪ねヨガ、瞑想を体験しつつマインド・ミュージックを確立し、1978年よりシンセサイザー組曲『天界』『大地』『OASIS』をリリース。1980年、NHK「シルクロード」全シリーズの音楽担当に決定し、テーマ曲シングル、サントラ『シルクロード〜絲綢之路』『〃U』はじめ関連作を次々に発表。1986年の『天空』が全世界発売になったのを機に全米ツアーを開始。2001年2月『Thinking of You』で第43回グラミー賞最優秀ニューエイジアルバム賞を受賞。現在は米国コロラド州に在住。

 NHK特集「シルクロード」は80年から81年に亘っての放映。そして喜多郎のシンセサイザー音楽“マインド・ミュージック”も大ブームに。実はインタビューの筆者は、その22年前のレコード会社サイドのライターとして、広告やプロモーション・ペーパーで喜多郎の音楽を書きまくっていた当人で、彼とは約20年振りの再会…。
 取材に先だって懐かしく聴いた22年振りの『シルクロード』の第一印象は…「あれッ、あの頃はこんなに温かく柔らかなサウンドではなかったような気がするのだが…」だった。
 まったく久し振りに会った喜多郎への最初の質問も、この問いからだった。
「あの頃は、一人でスタジオにこもって、シンセサイザーの音を重ねつつ創っていましたから、結果的に観念的でスペーシィなサウンドが前面に出ていたと思います。また制作前にロケハンもせず、NHKスタッフが撮って来た西域の神秘・幻想的映像のイメージを壊してはいけないと思っていましたから…」
 全12集の放映が終えた後に、喜多郎はシルクロードへ旅立った。
「実際はゴミもあれば、猥雑な人間の営みもある。今、改めて思えば当初のサウンドは、一般人が抱く未知ゆえの神秘的イメージで創ったあのサウンドで良かったのだと思っていますが…」
 シルクロード以後の喜多郎は、次第にシンセの無機質なサウンドから、肌触りを大事にしたアコースティック・サウンドへ移行し始めます。
 一方、時代はコンピュータ駆使のデジタルサウンドが進化。いや、一色になって喜多郎の志向とクロスして行きます。
「今、僕はアメリカのスタジオでアコースティック演奏をマイクで録るアナログ的な手法を中心に創作しています。シンセサイザーだって、あの当時から20年経っていますから、当初の音はすでに懐かしい音でしかない(笑い)…。今回、22年振りに『シルクロードのテーマ』を録音し直したワケですが、あの頃の音は完全に失われていて…」(笑い)
 そんな大きな時代変化を経て再び甦った“シルクロード”のサウンドの、なんと温かく柔らく、心を和ますことか…。ねッ、もしも貴方が22年前に『シルクロード』のメロディー、サウンドに魅せられた記憶があるなら、ぜひ再び聴いてみたいと思うに違いないのが、この『ベスト・オブ・シルクロード』なのです。
 ユー・シャオカンさんの胡弓、胡弓に絡むストリングス・カルテット、除善祥さんの中国琵琶、喜多郎自身が奏でるアメリカ先住民の縦笛…と今度は生楽器中心で甦った名曲たち…。
 ここで改めて、何故再びシルクロードなのかを喜多郎に語ってもらえば…
「一昨年、01年8月に奈良・薬師寺の玄奘三蔵院伽藍で“玄奘三蔵に捧げるコンサート”を三日間させていただきました。ここで同寺に壁画を納めていらっしゃる日本画の平山郁夫さんにお目にかかった。で、あぁ、僕にも出来ることは何かないだろうか、と考えたら、それが西安の玄奘三蔵院での奉納演奏だと気付いたのです。で、昨年10月に日中国交正常化30周年記念の北京展覧館劇場「シルクロード・コンサート」を終えた後で西安まで足を伸ばして、玄奘三蔵院で奉納演奏させていただきました。そのライブをアルバム最終曲『西安に祈る/マーキュリー』として納め、他に今までのシルクロード代表10曲を録音し直したのがこのアルバムです」
 おなじみの名曲が、シンセサイザー一辺倒ではなく、時に胡弓をメインにストリングスが絡み、または喜多郎自身が奏でる縦笛、除さんの中国琵琶で、…そう、聴いているとメロディーは当時と同じなのですが、あたかも薪ストーブにでも温められているようなホカホカした幸せ感に満たされて来る、そんな仕上がり。喜多郎は…
「年齢を重ねるに従って、僕も手触り感のある優しい音を求めるようになって来たからでしょうね。シンセサイザーでもいろんな音は出せますが、生の音にはかなわない。となれば、誰かに演奏してもらうことになって、そこに出会いが生まれ、人の温もりも重なって来る。そんな仲間とよく旅にも出ますから、人の営みが生む風土や民俗音楽も積極的に吸収し、それらを反映した音が中心になって来る…」
 最終曲『西安に祈る』は喜多郎の縦笛と除善祥さんの中国琵琶による約17分に及ぶコラボレーション。心の芯から温もり(きっと、これは大きな愛なんだと思うのですが…)が広がり充ちて、幸せ感いっぱいにしてくれる感動ライブです。
「当初は宇宙的テーマが多かったのですが、次第に自然や風土が有する温かさ、またそれらに感謝する心が増したことで『Thinking of You』でグラミー賞も受賞出来たのだと思います」
 耳になじんだシルクロードの懐かしいメロディーが、手触りの温かさを増して甦った『ベスト・オブ・シルクロード』。ぜひ、皆さんにお薦めです。時節柄、とかく殺伐さ増す心に、大きな優しさと温もりが甦ること必至の名アルバムです。
 さて、気になる今後の喜多郎さんの活動は…
「現在の生活拠点はアメリカ・コロラド州の山また山の標高2800メートルの山荘スタジオです。制作者(アーティスト)にとって、スタジオに居るのが一番安心出来る場ですから、1年の大半はここで創作活動。レコーディングもライブ・リハーサルもここでやっています。作曲に疲れて外へ出ると夕焼けがワァーッと広がっていたりして、その瞬間をカメラに納めたり…」
 日本でのライブは8月の毎週末に各地でビッグ・コンサートの予定。今後のテーマは…
「西安からさらに西、ローマまで音楽を携えてキャラバンして行きたい。紛争の絶えない地帯になってしまったけれども、そこで出会った人々に平和の尊さを広げられればと思っています。そして自分のオリジナル・アルバムの他に、友人ミュージシャンのアルバム・プロデュースもこれから徐々にやって行く予定です」
 かつてシンセサイザー・イメージの強かった喜多郎ですが、今はその自然や風土への優しさと感謝する心が前面に出て、取材御礼にこちらも自然に“合掌”がしたくなって来る大人(たいじん)です。(スクワットやま)

 あの頃、20代だった喜多郎さんも今は50代。グラミー賞受賞の世界的なアーティストです。充実した人生を送っているのでしょう、実にいいお顔をされていました。今後のさらなる活躍に期待です。写真はライブ・パフォーマンスの喜多郎

『ベスト・オブ・シルクロード』 BEST OF SILK ROAD
<収録曲>シルクロードのテーマ/鐘楼/飛天/蜃気楼/菩提樹/40080年/遥かなるタクラマカン砂漠/風神/キャラバンサライ/ムーン・スター/西安に祈る・マーキュリー
COCB−53042 ¥2,940(税込)



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