キム・ヨンジャ
『湯情の宿』
〜船山徹作曲生活50周年記念曲 作詩:星野哲郎(日本クラウン)〜
ソングブック11月号掲載文を加筆

「三文オペラ」出演でプロモート中断した『湯情の宿』
その声質、その歌唱はまさに“日韓の宝”。その裏に地道な努力と謙虚さがあった。


 相変わらず上手いなぁ、いい声をしているなぁ…と聴く度に感心させられるキム・ヨンジャさんの『湯情の宿』。同曲は
2月発売だが、蜷川幸雄演出ミュージカル「三文オペラ」出演で(東京はシアターコクーン、大阪はドラマシティ、埼玉は芸術劇場)6〜8月の3ヶ月間プロモートが中断されたため、秋から冬の演歌の季節に改めて本格プッシュ体制に突入。
「初めてのミュージカルは勉強の日々でした。一人で務められる歌のステージとは違って共演者あっての舞台でしたから、日本語と演技の二重のプレッシャーを浴び続けた3ヶ月でした」
 “圧倒的な存在感”とマスコミ絶賛だったが…
「とんでもありません。歌でプラス出来たかなぁと思いますが、お芝居ではマイナスですから結果はゼロですよ」
 と、なんとも謙虚。そして
11月には初めての長期劇場公演(梅田コマ)に臨む…。
「今年はチャレンジと自分を見直す年です。人間は死ぬまで勉強です。特に歌にはパーフェクトがありませんから、無限の努力があるのみ。そして次々に新たな試み、新たな試練が続いて、それらをひとつ一つ後悔なくクリアしながらステップアップして行く。韓国に“蟻のように一生懸命に生きる”意のことわざがあって、これが私の座右の銘です。えぇ、私は地道にコツコツで、やっと今の自分がいる、と思っています」
 何時しか日本人が失ってしまった地道な努力を称える倫理観ではないか…。さらに、こう語ってくれた。
「韓国から日本に来て、皆様に愛されている。それだけで充分に幸せです。むろん、新曲リリースの度にミリオン・ヒットを夢には見ますが、余り欲張ってはいけません。欲が先に出た行動は良くありません。結果は後から着いて来ればいいのです」
 と地道に加えて謙虚さもある。さて
11月の梅田コマは…
「藤田まことさんに「剣客商売」のお芝居をやっていただき、エキサイティング・ショウと題した歌のステージをやります。
4日から14日と、16日から千秋楽まで構成を変えての約70分ステージ。一昨年、大阪・中座で10日間公演をしましたが1ヶ月公演は初めて。このチャレンジがクリア出来たら、また新たな自分が見えてくるかなぁと思っています。中座では終盤になって、疲れからバイブレーションが微妙に伸びちゃったんです。丈夫な喉と思われがちですが、すぐに嗄れてしまう。良く食べ良く寝て…どこまで出来るか頑張ってみます」
 そして、その先に見えてくるものは…
「私の夢“一人音楽劇”。最初から最後まで一人で歌って芝居して…」
 も、そう遠くなく実現しそうです。そしていま再び『湯情の宿』をプッシュ。
「いい歌は足(ヒットの)が遅いと思っていますから、これから秋から冬に向かって一生懸命に歌いたく思っています」
 3拍子。すでに現代日本が失ってしまった湯の宿の懐かしき情緒の満ちる楽曲が、一語一音つづ丁寧に噛みしめるように歌われている。とりわけファルセットのビブラートは逸品。その類まれな声質もあいまって「
このヴォーカルは日韓の宝」だなぁと思わずにはいられません。その明確な一語一音の歌唱は、簡潔な文章の行間が生むような効果も発揮して、そこから奥深い湯の町の情景が見事に浮かんで来ます。
「韓国語の歌唱はスタッカート気味に歌わないと、歌詞がハッキリ伝わらないのです。そんなことが喉に染み付いている上に、日本語に自信がないから一語一音噛みしめて歌うわけで…」
 総じて韓国歌手の歌の上手さ、言葉の丁寧な表現が評されるが、その秘密はここにありそうです。 そして日本人でも懐かしい情緒について…
「想像力です。本を読んだり、映画で観たことなどが頭のどこかに残っていて、そこから想像を逞しく理解します。この曲に関して言えば、私はテレビっ子でサスペンス・ドラマ大好き。鄙びた温泉宿などのドラマがよくあって、その辺から想像して、感じを掴んだのです」 
 と微笑ましい告白…。
 
921日に、2002年ワールドカップサッカー応援歌『愛☆アリガトウ』を日韓で同時発売。杉本真人作曲のスケール大きなアップテンポ曲。
♪愛☆アリガトウ ひとつになれば 世界中の生命 光るから…
 「韓国訪問の年」名誉広報大使に任命された彼女にとっては、ここ一番大きく盛り上げたい楽曲リリースです。日韓のサッカー・スタジアムでこだまして欲しいですね。特に同CD収録の韓国語バージョンで発揮される歯切れよいヴォーカリズムに注目すれば、彼女の上手さの秘密に肉薄できるかも…。そして
「もし私にミリオンヒットが出るなら、演歌よりバラード曲のような気がするのですが…」
 と、いたずらそうに微笑むキム・ヨンジャさんでした。

♪プロフィール●本名:金 蓮子●出身地:韓国全羅南道光州市●誕生日:1月25日●学歴:光州市スピア女子高校卒業●1977年より日本盤発売を開始し、1995年にクラウンに移籍



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