川中美幸『女の一生〜汗の花〜』
〜ソングブック6月号掲載分〜

●作詞:吉岡治/作曲:弦哲也/編曲:前田俊明●カップリング『風の異邦人』

この明るさ、この笑顔は“歌謡界の宝”です。元祖「しあわせ演歌」の川中さんが歌う
…母へ捧げる歌。温かさ充ち溢れます。
 

 添えない恋を歌った『貴船の宿』がロングヒット中ですが、5月8日リリースの新曲は元祖“しあわせ演歌”に戻っての真骨頂発揮作。とは言えテーマは夫婦ではなく母と娘で、タイトルは『おんなの一生〜汗の花〜』。母への感謝と愛が川中美幸ならではの明るさ、あたたかさ、やさしさで充ち溢れています。
「母をモデルに創って下さった歌です。あれは去年の12月2日のこと。NHKの番組“親の顔が見てみたい?”に77>歳の喜寿を迎えた母(久子さん)と共に出演したんです。母は“おしん”じゃありませんが、七つで養女にやられて苦労が始まったんです。一昨年の新聞連載エッセー“人・うた・心”を25周年記念出版して、そこでも母の人生を記していまして、この本や番組を見たスタッフが“貴船の宿”の次はお母さんをモデルにした歌にしよう、と決めていたんです」
 ♪負けちゃ駄目だと 手紙の中に
  皺くちゃお札が 入ってた…
「売れない頃のこと、封筒の中にお好み焼き屋の匂いが染み込んだ皺くちゃの千円札が十枚入っていて“頑張んなさいよぉ〜”って。えぇ、母は今も東京・町田市で元気にお好み焼き屋をやっています。80歳までは頑張りたいって…」
「私は今、47歳。今までは母に何かを言われれば“わかっているわよぅ、うるさいわねぇ”だったのが、この年代になると“そうやねぁ〜”と素直に聞けるんです。何故なんでしょう…。で、母の口癖は“人を大事にしなさい。それは自分を大事にすることと同じなのだから…”。今は、そう言われると度にジーンと心にしみます」
 ここで川中さんは年代論へ…
「私、今ねぇ、40代っていいなぁ〜と思っているんです。20代の私、30代の私より遥かに今の私の方が好き。自分で言うのもナンですが、顔だってすごくいい味が出て来た(笑い)。確かに肉体的な衰えはありますが、逆に心は豊かになっている。一つ歳を取る度に、いい階段を昇っているな、とわかるの。チグハグしていたこと、背伸びしていることが徐々になくなって、在るがままの自然体が居心地良くなって来ている。酸も甘いも分かって来て、でも未だ海ほどの広さは(心に)ないけれども、人間がちょっと出来て来たかなぁ〜って」(笑い)
 で、それが歌にも出る。
「7年前に広瀬香美ちゃんのプロデュースにチャレンジしたことがあるんです。振り返りますと、それがいいヴォイス・トレーニングになったのだと思います。最近は高音がさらに出るようになって、中低音の響きも良くなりましたから…。ですから20代の頃のアルバムと今を聴き比べれば、今の方が絶対的にいい」(笑い)。
 さらに、そうしてフィジカル・トレーニングの必要性を熱く語ります。
「私、今でも泳ぎに行けば1キロは泳ぎます。そしてステージ前はジャージでストレッチング。一汗かくと、ステージで声がポ〜ンと前に出ます。母もこういいます。“あんたぁ〜、今が一番えぇ〜時やから大事にしぃやぁ〜”って」
 母の眼に狂いはない。川中美幸さん、今が一番“油がノッている”んです。
「私、だから才能より体力が大事だと思うんですぅ。素敵なチャンスをいただいても体力がないと気力も湧いて来ませんから…。この健康も母に感謝しています」
 体力・気力が充実し、年齢を重ねる度に心も豊かになって表現力も増し、意欲は歌をも超える…
「7月に初めての明治座公演です。演目は“博多人情 あばれ芸者”。3年前に大阪・新歌舞伎座で演って好評だったお芝居です。フフフッ、私、お芝居大好きなんです。演じることで知らなかった自分を発見したり、教えられたり…。内緒ですがねぇ、私、将来はお芝居だけで看板揚げるのが夢なんです。明治座はノビノビと楽しく演じていますので、ぜひ観に来て下さい」
 劇場公演に限らず、川中さんのコンサートに行けば元気がモリモリ、その明るさにハートもあたたかくなって来る。
「で、私は皆様からパワーをいただいているんです。そう、最近は10代20代の追っかけファンもいるんですよぅ。私の顔にはハートマークが付いているんですって。“可愛い”って言うんですよぅ」
 厳しい時代に“癒しパワー業界NO1”の川中美幸さんは、グリグリとファン拡大中。加えて女性ファンが圧倒的ということですから、人気の根強さに納得です。
 最後に『おんなの一生〜汗の花〜』のカラオケ・アドバイスをいただいた。
「皆さん、ご自分の母親を想って唄って下されば、自然に歌にあたたかさ、優しさが出ると思います。また唄えば優しい気持ちになりますから、一人でも多くの方に唄っていただきたく思います」

 明治座7月公演な「博多人情 あばれ芸者」で7月3日から28日まで。火野葦平原作「馬賊芸者」より。博多弁、粋な艶姿、気っ風の良さ、素踊りと見所いっぱいです。共演は田村亮、横内正、東てる美…他。


川中美幸『歌ひとすじ』
30周年記念曲(テイチクE)
〜ソングブック06年3月号掲載分〜

今年の演歌スタートをトリプリ1位で飾った30周年記念曲 30年集大成曲は、まさに“芸は人なり”。頑張る皆さんの歌… 日本レコード大賞・大衆賞を受賞して駆け付けた大晦日の紅白歌合戦。紅組トップバッターで、日本中をパッと明るくしてくれた。翌、元旦発売の新曲が今年の演歌・歌謡曲スタートを見事 1位で飾った。初めて自身の歌手人生を歌った楽曲だが、その明るさ・暖かさですべての人の人生応援歌として大ヒット。30周年と50歳を祝してインタビュー。

「芸人というのは、登場した途端に客席がパッと明るくならなければいけません」
 と誰かが言った。昨年はやり切れぬイヤな事件、悲しい災害が多かった。誰もが心の底でそんな年に別れを告げ、良い年を迎えたい気持ちで大晦日の紅白歌合戦を観ていた。そんな期待に応えて、まずはあっけらかんと明るい細川たかしの歌声。それに続いたのが、紅組トップの川中美幸『二輪草』。その笑顔、その歌声が日本中の人々の心をポッと暖かくした…。
 日本レコード大賞・大衆賞受賞から駆け付けての紅白歌唱。そして翌、平成18年元旦に出荷されたのが、このデビュー30周年記念曲『歌ひとすじ』。同曲は今年の演歌・歌謡曲シーンの最初をオリコン演歌チャート、AMラジオ皿回し回数、USENアダルトチャートのトリプル1位で見事に飾った。
 ♪私は唄うわ 明日のために
  歌ひとすじの ひとすじの道〜
「自分のことを唄った楽曲は初め。30周年と歳を迎えて、それまでを集大成しつつ、今後の人生を歩みだそうとする歌です」
 ここまでの歩みを振り返れば…
「まずは大阪・吹田時代。両親は共稼ぎ。隣近所のオジさんオバさんたちみんなが親身にしてくれた。冬のアパート暮らしは寒かったけど、父が帰ってくれば炬燵代わりに私の足を両足で包むように暖めてくれた。母は“人を大事にしなさい”が口癖で、自分のことより人が喜ぶ顔を、幸せになる姿を見るのが好きだった」
 失われた下町の人情や暖かい心に育まれて、自然に自らの心も優しく暖かくなったのかもしれない、と川中は言う。
「小学校の卒業アルバムの寄せ書きを見ると“川中がいて教室が明るくなった”などの言葉がいろいろ書かれていました」
 そんな少女が歌に出会った。
「小3の時に、母が梅田コマ劇場の美空ひばりコンサートに連れていってくれた。母はひばりさんの歌を人生の応援歌のように感じて頑張ってきた。母をうっとりとさせ、かつ励ましたひばりさんって凄い、歌って凄いと子供心に思いました」
 川中美幸の資質形成と歌の原点。そうして歩んできた30年集大成の新曲。
「私の等身大の歌ですが、これはまた私に限らず“ひとすじの道”を生きている皆様の、いえ、生きるってことが“それぞれにひとすじの道”だと思いますから、これは皆さんの歌でもあります。私はそう思って唄っています」
 このトリプル1位は、それを物語った結果だろう。
 ♪行方嘆いて なんになる〜
「生きていれば辛いこともある。そんな時は内に籠もらず、勇気をもって一歩を歩み出しましょうよ。それが頑張るってこと。頑張れは、きっといつかはいい結果に結びつく。そういう励ましの歌です」
 ダイナミックでスケール大きな楽曲。大上段に構えて気張って大熱唱したい楽曲ですが、川中美幸はそう唄わず、自然に歌って大きな説得力を発揮している。それこそが30年にわたって磨き込まれた“幸せ演歌”の真骨頂。カップリング『想い出夜汽車』も哀切な歌だが、川中美幸が唄うと悲壮にならず、どこかに救いと暖かさがある。ここまで来ると“芸は人なり”である。
 “幸せ演歌”を意識したのは昭和55年の5作目『ふたり酒』の時だったと言う。
「その時、弦先生がこう言って下さった。“今までの演歌は怨歌、悲しい情念中心だったが、川中は人の暖かさ、優しさ、幸せを唄って売れた。これぞ“幸せ演歌です”と」
 ♪芸の深さは 計れない
    闘う相手はいつでも自分〜
 高音域のノリのよさ、ビブラートの心地よいこと。
「母がこう言います。“最近、声に巾が出てきたねぇ”って。調子が安定していなかった頃はビブラートも“ちりめん”(腰砕けに縮れた感じ)になることがありましたが、今はしっかりしたタイヤに穿き替えた感じで調子がいいんです」
 確かな“芸”は、入念なフィジカル・トレーニングにも支えられている。習慣になった水泳は平泳ぎからクロールへ。
「体調が良くなければ皆様に“さぁ、頑張りましょ”って言えませんものね。この歌で50代のスタート。今まで頑張ってきたことすべてが財産。それらを少しでも若い皆様にメッセージできたらと思っています」
 レコード大賞・大衆賞と紅白トップバッターは、川中美幸が円熟期の扉を開けたに宣言のような気がしてならない。

<30周年記念劇場公演>●新歌舞伎座四月公演「なにわ快盗伝 春や春 花吹雪振袖小僧」●明治座七月公演「お喜久恋歌 一番纏」●平成十九年御園座新春公演

『歌ひとすじ』
作詞:吉岡 治
作曲:弦 哲也
編曲:前田俊明

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