冠二郎『酒に酔いたい』
作詩:三浦康照/作曲:遠藤実/編曲:前田俊明

ヒット曲『兄貴』に続く今年の勝負曲。
今度は女性ファンの皆様にも手拍子しつつ唄っていただきます!

 『炎』『ムサシ』『バイキング』の
ロック炎歌、アクション炎歌で暴れまわった冠二郎さんだが、
昨年春の『ふたりの止まり木』から本来の世界に戻っています。
前作『兄貴』で男性ファンのハートをがっちり掴んで、
新曲『酒に酔いたい』では女性ファンを巻き込んだヒットを狙っています。
来年は35周年…。
何時までも失わない少年の心で
新曲を、明日への夢を時に立ちあがっての熱弁で語って下さいました。


 2001・NAK「春のカラオケまつり」課題曲に急きょエントリーが決まった冠二郎さんの『酒に酔いたい』。さっそくインタビューです。
 同曲は前作『兄貴』に次いで遠藤実メロディー。別れた女性への想いを断ち切ろうして飲む酒…。淋しい心情を歌っているが、明るく軽快なメロディーにのせてイントロから女性コーラス入りの賑やかさ。コブシの効いたパワフルな冠さんのヴォーカルが響き渡っています。
「当初はちょっと重く哀しく唄ったんです。そうしたら遠藤先生が言うんです。“とってもいい女と別れたばかりなんだ。もっと明るく歌って”…と」
 そう言われて冠さんはピンと来た。18年前のこと、市川昭介先生の『みれん酒』の時にこう言われたことを思い出した。
「苦しさを唄うのに、苦しく唄っちゃいけないよ。笑って唄ってごらん」
 こんな経験もあった。叶弦大先生『酒場』でのこと、泣きで唄ったらこう指摘された。
「自分が先に泣いたら、聴く人は悲しくなれないんだよ。歌には情景があってその上に感情がある。重く唄わずに、まず鼻歌のような語りで唄ってごらん」
 来年、35周年を迎える冠さんにはしたたかなキャリアと、歌唱に関しても数多くの抽斗がある。明るさの中で人の哀しさを表現する歌唱法に即、切り替えてのレコーディングだったと言う。
 結果的に「フーテンの寅さん」にも通じる哀愁を、ジワーッと醸し出そうとする挑戦がここにある。
「僕は10年以上も前から“演歌の寅さん”と言われて来た。真面目になればなるほど、人が笑ったり、吹き出したりする。僕の人生やキャラクターに、そんな三枚目の部分があるのです。でもネ、僕は寅さんじゃぁ絶対ないんです。寅さんは定職を持っていないけれども、僕には歌という命を賭ける職業がある。僕は他の人より3倍努力しなきゃ、上から下から押されてはみ出しちゃう。だから両手でマイク抱きしめて、歌を抱きしめるように歌って来た。そういう歌手人生の厳しさの裏の泣き笑いがあるのだと思います」
 と、自己分析。
 そんな冠さんが爆発する時がある。『炎』『ムサシ』『バイキング』に代表される、言われるところのロック炎歌だ。
「僕は埼玉県秩父の田舎から出て来た。山間地でひっそり暮して来て、1年に1度、大爆発するのが秩父夜祭です。併せてままならぬ厳しい生活に耐え、我慢していたマグマを一気に噴出したくなる時がある。風土と歌手人生を併せて爆発したのがそれら楽曲です」 あの激しい炎歌には、低迷する演歌シーンを打ち破る爆発的パワーがある。それを期待する声もあるが、今、なぜ休火山状態なのだろうか。
「はっはっ〜、アリガトゥ〜!それを期待する声は知っています。でもね、マグマの爆発は時折がいい。僕の音楽世界は大別すると三つあって、一つは『旅の終りに』に代表される旅情演歌、二つ目が今回の新曲もそうですが男女がらみの哀愁もの、そしてロック演歌です。で、ここ最近は炎イメージが強くなってファンの皆様から“アニキはどこへ行っちゃうのだろうか”と心配の声が上がり、僕もいつまでも“セイヤァ〜!”とばかり叫んでいたら帰る場所もなくなっってしまう、歌番組よりバラエティー番組出演が多くなって来るわで猛省…。ですから昨年春“演歌ファンの皆様、ただ今戻りました”と『ふたりの止まり木』をリリースしたのです」
 見事にスマッシュヒット。そして昨年末発売の『兄貴』の好調です。
「えぇ、男性ファンがワァーと支持して下さった。そして今度が女性向けの『酒に酔いたい』です」
 入念なる戦略…。
「来年が35周年です。すでにスタッフによって35周年の3月21日にパーティー会場も抑えられ、その時に次の新曲発表と…段取りが決まっています。スタッフが優秀ですから、僕はその流れに乗って行けばいいだけ。そして今、僕が集中すべきは『酒に酔いたい』を、一人でも多くの方々に聴いていただくことです」
 冠さんによると、ロック炎歌の出撃でおざなりになっていた足許の畑を耕し直し、ここで大きな収穫を上げ、備蓄する大事な時だと言う。話題が再び新曲『酒に酔いたい』に戻ったところで、改めて同曲の魅力を探ってみたい。
「宴会ソングのノリで皆で手拍子しつつ、明るく歌っていただければと思っています」
 ウム、この一言で何かが見えてきたぞ。そう、歌詞は別れた女への断ち難い未練を歌っていて、そうした個人的感傷では全員手拍子とは参らぬわけで、実はこの詞、このメロディーの裏には別れた女に限らず、過ぎ去った様々な“いい思い出”への決別と新たな旅立ちの意も含んでいるのではないか、とわかって来た。冠さん、断酒して11年半ですが、あの笑顔でこう言っているような気がします。
「さぁ、飲もう、飲もうよ!過去は過去、淋しがらずに陽気に元気に酒に酔おうじゃないか」
 と…。ここで冠さんは…
「やっと分かっていただきましたか」
「ハイ、私もこの歌を唄いつつ、気持ちよく“酒に酔いたい”気持になって来ました」
「でしょ。さぁ、歌唱指導してあげましょう」
 と冠さん、やおら立ち上がって唄いつつの歌唱アドバイス(別項参照)。キラキラ輝くその眼が少年のようでした。
 さぁ、皆さんも一緒に唄いませんか?

プロフィール 本名:堀口義弘/生年月日:昭和24年4月23日/出身地:埼玉県秩父市/趣味:日本舞踊、書道(すごくお上手です)、読書、映画鑑賞、旅/デビュー:昭和42年11月『命ひとつ』、昭和51年4月にコロムビアに移籍
『酒に酔いたい』作詩:三浦康照/作曲:遠藤実/編曲:前田俊明 CD:CODA−1972> CT:COSA−1543カップリング『さいはての宿』作詩:三浦康照/作曲:遠藤実/編曲:前田俊明

冠二郎『ほろよい酔虎伝』

水森英夫の歌唱アドバイスを得て、氷川きよし君が乗り移った…ような大ヒット新曲『ほろよい酔虎伝』

  7月31日のNHK「のど自慢」にゲスト出演した冠二郎が、実に気持ち良さそうに『ほろよい酔虎伝』を唄っていた。軽快なテンポにのって、明るく気持ちよく抜けた歌唱。ちょっと三枚目のナチュラルな男歌。こうした楽曲は多少の“陰”を垣間見せて味わい深さを増すものだが、そのあっけらかんとした明るさが、見事に周囲を和ませ、陽気にしていた。まさに彼の等身大の楽曲。
「飲み仲間と肩でも組んで唄っているような“横揺れ”歌唱です」。
 一見“のほほ〜ん”!と安易に唄っているようだが、実はここに大チャレンジがあった。カップリング『男の道』ともに初の水森英夫メロディーで、レコーディングに際し発声指導があった。
「上あご奥にカンッと当たるような発声で、高音域がスカッと抜けた発声を教えていただきました。声を張り上げずとも、軽く小さな声でもその発声が出来ると“そうです。それが芯をくった声、発声のスィートスポットです。さぁ、もう一度やってみましょう。春日八郎さんのあの声です”…そんな指導でした」
 当初はとまどい、不安があったものの唄い慣れてくれば心地よい。歌い込むうちに“俺は中年の氷川きよしだ”と思いだした。そうしたらなんと!ヒットチャートも氷川きよし『面影の都』にピタリッと付いて2位を維持ではないか。いま思えば同曲との初出会いに予感があった…。
「前作『これでいいんだよ』のキャンペーンで有線放送モニター嬢とボーリング大会があったんです。その時に水森先生のこのデモテープが届いて、同大会のパーティーが終わるころには♪あ〜ああんあゝほろよい ほろよい酔虎伝〜と自然に繰り返し口ずさんでいたんです。みんなも気になって訊いてくる。“その歌、新曲ですか”と」
 キャッチーなサビ・メロディーに加え、同曲にふさわしい明るく抜ける発声を得て、人を誘う魅力が倍加された
「今、こんな明るい男歌が求められていたのかもしれない」
  40周年を2年後に迎える冠二郎が、上昇気流に翼を広げて気持ちよい飛翔をはじめている。グッと拳を固め頼もしい一言…。
「トップ歌手と氷川君の間にいる僕達がヒットを出せば、歌謡曲・演歌状況が元気になる。このヒットをさらに大きく育てます…」

『ほろよい酔虎伝』
作詞:三浦康照
作曲:水森英夫
編曲:南郷達也



冠二郎『横浜物語』
06年3月22日発売/作詞:三浦康照作曲:叶 弦大編曲:南郷達也

コブシを抑えたら、まろやかな声質がクローズアップでレトロな楽曲にピタリ。
郷愁誘う癒し演歌… 


 ヤッ、昭和20年代の懐かしき歌謡曲イントロ…。コブシをまわさず、まろやかな中低音発揮で心地よいテンポで唄っている。イヨッ、裕ちゃん!
「コラッ、あんまり気取るなよ。気取ると売れないヨ」
 同曲に出逢って、石原裕次郎を気取って唄っていたら、恩師で作詞の三浦康照夫人にそう怒鳴られたそうな。
「デビュー当初はキャバレー全盛でコブシをギンギンの北島三郎さんの楽曲、コブシやビブラートなしの石原裕次郎さんの歌をずいぶん唄ったものです。この曲をいただいた瞬間に、これは後者の歌だなと思って“裕ちゃん”を気取って唄っていたんです」
 なるほど“コブシ・ビブラートなしの歌唱”もしたたかなキャリアがあってのこの歌唱だったのだ。だが反省をした。
「俺は裕ちゃんではない、港々に女もいない。モテない演歌の寅さんだと…」
 かくして抑えつつ僅かな要所のみでコブシまわして完成したのが『横浜物語』。
「もいちど逢えたら離しはしない…。この気持ちを伝えるべく唄いました」
 歌唱の新魅力。さらに新曲は、時代の要求も満たしているようだ、と冠二郎は言う。
「“ALWAYS三丁目の夕日”が、3月発表の日本アカデミー賞・各賞を独占したでしょ。あの映画は昭和33年、1958年の東京・芝の物語。僕は今56歳で“団塊の世代”ど真ん中。あの時代が懐かしくたまらない世代なんです。カラオケ層も50代、60代、70代。この歌にも昭和の懐かしさがいっぱいありますから、反応が極めていいんです。テレビ公録で三枚目をやっていた僕が、この歌を唄いだすとお客様がハッと聴き込んで、終るとワァ〜っと大拍手。手ごたえ充分です」
 前作『ほろよい酔虎伝』で水森英夫から明るい声の発声法を伝授され、新曲ではその明るさも生きている。その明るさとまろやかな中低音だけでタップリと酔わせてくれる上に、時代が求める懐かしさもプラス。前作ヒットに続いて連続ヒットの予感がいっぱい。
 来年が40周年。大ヒット『旅の終わりに』から30年。冠二郎が力強く羽ばたき始めている…。

『横浜物語』
06年3月22日発売
作詞:三浦康照
作曲:叶 弦大
編曲:南郷達也

●カラオケをするには、気持ちよく唄って、それでいいんだと思います。でもプロの僕はそれだけではいけないんです。“もいちど逢いたい、逢ったら離しはしない”という想いが伝わるように唄っています。コブシもブブラートなしが基本ですが、要所で“演歌の寅さん・冠”のコブシ入りです。その辺にも挑戦して下さい。by 冠二郎



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