角川博 『宿時雨』

うまいなぁ〜と改めて感心すれば、美空ひばりさんをはじめとする男女歌手の
歌まね得意の“喉芸”達人…。
歌唱・音色などの秘訣を教えていただいた。

今はバラエティー番組などの露出を抑えて「艶歌=角川博」イメージ確立。
男性が唄える・唄いたい“艶歌”で期待増します。

艶歌は基本的に男性が唄う女歌。
女性は抑え気味に唄うのがコツです


 なんとも艶っぽい。角川博のまろやかな歌声がたっぷりと濡れて響いて、雨の不倫宿の濃厚な男女の情景が浮かんでくる。改めて艶歌は角川博の独壇場だなと思った。
「“抒情女歌”は五木さんと大川栄策さん、そして僕です。若手が出てこないのが寂しいが…」
 NAKのアンケートでも、艶歌は常に上位にランクインする人気楽曲。艶歌人気はどこにあるのだろう…、そう思ったら渡辺淳一の膨大な不倫小説群のロングセラーが浮かんできた。多くの人々の胸の奥に、そんな甘美な願望がくすぶっているに違いない。艶歌を得意とする歌手のなかで、角川博の声質“まろやかな艶”は特出している。
「その艶に、僕なりの自信をもって皆様にお届けしているつもりです」
 その艶声をよく聴けば、ほどよく締めて響かせた喉がある。そう、彼は美空ひばりをはじめ多彩な男女歌手の歌まね名人ではないか。すなわち喉芸の達人!と改めて思った。ここはまたとない機会、“喉芸”のお勉強…。
「歌声は喉から出すんじゃなくて、響かせるんです。楽器ですからね。三橋美智也さんをはじめとする民謡系歌手は頭の上の方で響かせつつ抜ける、浪曲系は横や下でまわす。それを粋にまわせば都々逸、端唄になる。ロック系は声を頭の後ろにぶつける感じが多いのかなぁ」
ブレスについては…
「J−POPにはブレスを“音”にしている方が多いですね。五木ひろしさんは鼻呼吸が優れていますからノーブレスのように聴こえます」
 音の高低について…
「一般の方は、高い音を頭の上と意識しているケースが多いけれども、これは逆なんですね。高い音は頭の下を意識して、低い音は頭の上を意識して響かせるといいんです」
 …して角川博の発声は?
「フフッ、皆さんのいいとこ取りです。あれはいい音色だ、その響きがいい…そう思えば次々取り入れたごっちゃ混ぜが僕の歌唱です」

てらいのないナチュラル歌唱。
その秘密は“抑えて、よりシンプル”志向の結果


 なるほど、それでいて“てらいのないナチュラルさ”も角川歌唱の特徴だろう。
「若い頃は凝ったんですが、今は逆に省いています。当初まわらなかったコブシが次第にコロコロまわるようになった。今は3回まわしたいところを逆に 1回で抑えて、あとは抑揚で補うなどシンプルにしています」
 それでいて、聴けば音色は多彩。唄い出しの高い音で微妙に抜いて哀切感を出したり、2行目の♪女ごころの〜でちょっと抜いて優しさを出したり…。
「僕は身体のなかにいろんな歌唱・音色が入っていて、詞曲に身体が反応して自然に出てくるタイプです。ですからレコーディングではまず思い切り唄ってみて、それを聴き直して凝り過ぎた部分、虚飾を削除する方法を採っています」
 それがナチュラルさの秘密。艶歌とは…
「基本的には男が唄う女歌だと思っています。女性が女の艶を唄うとグチャグチャにいやらしくなるケースが多いんです。ですから女性が艶歌を唄う場合は、自作自演風ではなく客観的に唄ってちょうどいいんです。思い入れが強すぎると遅れたり、ベトッとなりがちです」
 抑え控えた方が、色気がでる…そう言っている。角川楽曲で日舞を楽しむ方も多いようだが“女っぽさは、抑えたところで色気がでる”がポイント…。

バラエティー番組出演を控えて
艶歌=角川博イメージの確立


 さて男女七変化…も楽にこなす角川博の“喉芸”を最近はテレビでさっぱり眼にしない…
「五木さんの作曲、プロデュースで『船宿』をいただいた時に“自分の歌を皆様にお聴かせする際は、その前後でふざけてお客様を笑わせてしまうと、肝心の歌が薄くなってしまう。歌だけを前面に出した方がいい”とアドバイスされました。納得しましたから、以来バラエティー番組などでふざけたり…を控えています」
 お茶の間に三枚目イメージが浸透では、艶歌は似合わず、それではCDが売れるはずもない。その頃からイメージを大事にし始めたと言う。
「今までのカラオケは女性上位でしたが、市川昭介先生の『越前忍冬』(平成17年)から男性がよく唄ってくれるようになっています。また最近のコンサート会場は男性客が増えています。退職した団塊世代の男性が足を運びだしてくれているのではないか…。男性客の増加で今後の演歌の流れがちょっと変わってくるのかもしれません。これからは男性が唄いたくなる歌が求められてくる予感もします。僕は女性より男性に声をかけられることの多い歌手ですから、これからが楽しみです」
 昭和28年生まれ。そろそろ50代半ばでますます味わい深さが増して大活躍が始まる予感…。

『宿時雨』
07年4月25>日発売
作詞:木下龍太郎
作曲:花笠 薫
編曲:南郷達也

●テレビ露出でお茶の間へのサービスは控えたが、コンサート会場に足を運んでくれた皆様方には持ち前のサービス精神を発揮。角川博の珠玉のものまね芸を堪能するのは、コンサート会場でどうぞ…。●「人生の折り返し地点が 40代少々で、その頃が一番声に脂が乗っていたと思うが、今はその脂もちょっと取れていい感じになってきたかなぁ」でその喉の味わい深さ、滋味…絶好調




キラ星館目次に戻る      HOMEに戻る