イルカ『夢ひとり』
作詞:美空ひばり/作曲:イルカ/編曲:石川鷹彦
〜ソングブック「おとな派歌謡曲」掲載〜

 昨年6月に展開された美空ひばり13回忌イベントから約1年後の今年5月22日、イルカさんのデビュー30周年シングルとしてリリースされた『夢ひとり』が今、話題を広げている。同曲は美空ひばりさんが生前の‘85年(昭和60年)に作詞、イルカ作曲でリリースされた楽曲で、13年目にしてイルカさんが当時の感動秘話を語ると共に、ひばりさんの心の叫びをイルカさん歌唱によって甦らせ、改めて感動が広がっているもの。また6月21日にはイルカさんのセルフカヴァーとカヴァーで構成されたアルバム『こころね』も、中高年層に懐かしいフォーク時代を思い出させて、これまた話題…。『夢ひとり』秘話を中心に語っていただいた。

プロフィール
 東京生まれ。女子美在学中からフォークグループを結成。‘74年にソロデビューし、ニッポン放送「オールナイトニッポン」他で人気を博し、‘75年『なごり雪』が大ヒット。‘78年に長男“冬馬”君を出産、2年間の休業後に活動再開。現在もコンサート活動の他に絵本、エッセイなど多彩に活動中。昨年からデビュー30周年コンサートを全国展開中で、6月21日にアルバム『こころね』をリリース。ニッポン放送のレギュラー「イルカのミュージックハーモニー」(毎日曜朝7時〜9時)は今年で12年目に突入。

 イルカさんは目下、デビュー30周年の記念イベント終盤を迎え、5月22日にシングル『夢ひとり』、6月21日にアルバム『こころね』をリリース。
 『夢ひとり』は、昨年6月24日の美空ひばりさん13回忌に自身のステージで歌い出し、話題と感動が広がってのシングル化。さっそく、同曲誕生秘話を伺った。
「あれは今から17年前、“なごり雪”から10年後で、ひばりさんはお母様を亡くされて悲しみに沈んでいたころのこと。当時、私の父(保坂俊雄氏。戦後のジャズマンを代表するテナー・サックス奏者)がひばりさんのバンド(ひばり&スカイ)で指揮をさせていただいていまして、ひばりさんの生のステージを何度か拝見させていただく機会があったのです。そんなある日“今日、イルカちゃんが来るんだったら、楽屋にいらっしゃい…”と声をかけて下さって、緊張と遠慮にためらっていますと“さぁ、どうぞ、どうぞ”と本番前にもかかわらず気さくに誘って下さった。父を自分の身内のように信頼していましたから、身内の娘かのように接して下さったのだと思います」
 ひばりさんはイルカさんに対し、姿も心もスッピンで迎えてくれたと言います。
「そんな何度目かの楽屋訪問で“イルカちゃ〜ん、元気ィ〜”のいつもの挨拶後に、ちょっと神妙な表情をされて“イルカちゃんに、ちょっと見てもらいたいものがあるのよ”と畳の上にスゥーッと縦長の白封筒を滑らせて“これなんだけれども、中を見てくれるぅ”。思いがけぬひばりさんの行動に、何が起こったのだろうとビックリしつつ、言われるままに封を開ければ、そこには加藤和枝の署名入り縦書きの詞…」
 ひばりさんの心の叫びを吐き出したような詞に、イルカさんの胸は震え出したと言います。
「どう思う〜、日記帳に書いた詞で、人に見せる積もりで書いたワケではないのだけれど、ベッド横の抽斗にずっとしまっておいて、時々読み返すうちに、これが歌になったらいいなぁ〜、とフと思ったの。何か感じるものがあったらでいいのだけれども、私、いつまでも待っているからメロディーをつけて歌にならないかしら」
 思いがけぬ展開に、イルカさんは目を白黒。そういうことなら「大勢いらっしゃる偉い作曲の先生方にお願いした方がいいのでは…」 しどろもどろのイルカさんに、ひばりさんはたたみかけるように、こう言った。
「でもねぇ、これはイルカちゃんに作ってもらいたいのよ。私ねぇ、毎日が辛くて、暗くて…」
 女王のホンネに、思わず身を硬くしたイルカさん。
「だからねぇ、少し笑顔で歌える歌になればいい。客席から自然に手拍子が来る、そーゆー感じの歌になったらいいなぁと思っているの」
 その詞、その言葉にひばりさんの中で、すでに或るイメージが固まりつつあって、それがイルカさんにビンビン伝わって来た。
「預からせていただきます」
 のイルカさんの言葉に、ひばりさんは正座して「よろしくお願い致します」と頭を下げたと言います。楽屋を去るイルカさんの背に、ひばりさんの声…。
「大丈夫よ、イルカちゃんならきっと出来る。私、期待しているから…」
 と、そこまで言われて“よっしゃ〜ぁ、やるっきゃねぇぞ”という感じで、身体がカーッと熱くなったと言います。その勢いで同日夜にメロディー完成。冷静になって、もう4、5パターンを!と思ってトライするものの、感動をぶつけた最初のメロディーがやはりベストだった。父が譜面に起し、イルカさんの音楽仲間が音を作って、イルカさんが唄入れしたデモテープが間もなくひばりさんに手渡された。
「ひばりさんが楽屋からダ・ダ・ダァーと父の許に走って来て、目に涙を溜めつつこう言ったんですって。“嬉しい!思い通りのいい歌が出来たわ”と。普段、感情を出さぬ父が興奮気味に私の仕事先に電話報告してくれたんです。そして間もなく、レコーディングに来て下さいの連絡。“これはねぇ、自分の本当の気持ちだからナチュラルに唄いたいの”そして完璧な唄入れ、と思ったらマイクテストで“どうでしょう、こんな感じなのですがいいかしら”って…」
 イルカさん、ご自身のコンサートで何度も語って来たのでしょう。お話がしっかり出来ていて、伺っていると、あたかもその現場にいたような感じ。ここで改めて同シングルをご紹介…。
 ピアノとギターの優しいフォークタッチのアップテンポ曲。イルカさんの歌声が、ひばりさんの望み通り、手拍子しながら聴きたい軽快楽曲として仕上がっていますが、その詞は…
♪母の愛に包まれながら/これからはひとり 喜びも悲しみも/愛をなくした 私は生きる…
 曲の軽快さに、絶望的な悲しさ満ちる詞が対比されて胸を突きます。そして救ってくれるのがカップリング『祈り』。これは作詩・イルカ/作曲・玉置浩二で、美しいメロディーと共に人と人のふれあいが生む、生きる勇気と喜びが静かに歌われた癒しの鎮魂歌。
 イルカさんは、同曲リリースへの経緯をこう説明してくれました。
「ひばりさんの13回忌イベントにご招待いただいたのですが、その日、自分のステージがありましたので急きょ、その場からひばりさんに同曲を捧げたく思って歌ったんです。そうしたら皆さん、大変に感動して下さって今回のリリースが決まったのです」
 一方、アルバムはニッポン放送「イルカのミュージックハーモニー」(毎日曜午前7時〜9時。12年目に突入)のリスナーから“イルカに歌って欲しい曲”募集から選曲されたセルフカヴァー、及びカヴァー作品で構成。発表当時の編曲者に21世紀ヴァージョンの再アレンジをしてもらっての名曲集。心やわらぐアルバムに仕上がって早くも大好評です。
 現在も年間約50〜60本のライブを全国展開しているイルカさんは…
「10年ほど前から、今は40代、50代になったフォーク世代の方々がジワジワと再びコンサート会場に戻って来て下さって、全国どこでも熱気ムンムンです。皆さん、今は働くばかりがベストではなく、それぞれが自分の人生や音楽をマイペースで楽しみ出した成熟世代になっていて、クラシックでも演歌でもフォークでも、その時に聴きたい音楽を楽しめばいい…、そんな風になっています。で、私はずっと私の歌を唄い続けていて、私の歌が聴きたくなったら集って下さる。中には、両親が聴いていましたと中・高校生たちが『なごり雪』をギター弾き語りしてくれたりで二代、三代と世代を超えた集いになって、あぁ、フォークやニューミュージックはしっかり定着したんだなぁ、と実感しています」
 イルカさんの歌声で美空ひばりさんの『夢ひとり』を、そして青春甦るアルバム『こころね』を皆様もぜひどうぞ…。(文:スクワットやま)

 
6月21日発売!アルバム『こころね』 松任谷正隆、小田和正、佐藤準、鈴木茂、石川鷹彦、中西俊博…ビッグミュージシャン参加で『なごり雪』『海岸通』の名曲15曲をリアレンジで収録。¥3000円。

 早くもお孫さんのいるイルカさん「旅がきつい年齢になってきましたが、お客様が全国で待って下さっているんです。ギター1本で気軽に全国津々浦々…。喜んでいただいてパワーをあげて貰って、止められません」 そして、旅する私が断言します。「今、中高年の皆様が再び音楽を楽しみ出していて、元気一杯です。若者中心の音楽シーンに、徐々にではありますが大人たちのパワー復活中です」


キラ星館目次に戻る               EnkaTopに戻る

HOMEに戻る