「もっと遣いたい言葉集」
これは「東京下町ことば」とはまた別の
「アタシの好みで “あぁ、こう書いたら恰好いいなぁ”と思う」漢字や言葉集。
つまり昭和21年の当用漢字(1850字)や昭和56年の常用漢字にも、まぁ反対ってことですね。
漢文はわからねど明治・大正・昭和初期小説の味わい深さをなくしちゃ、余りにもったいない。
あたしは原稿にこれら言葉・漢字をつとめて使用。編集者が直すのを「ふふふっ」と笑って楽しんでいる。
いま遣わないと遣わずに死んじゃうワケですから、セッセと遣うための「書き付け」とでもいいましょうか。
加えてワープロ、パソコン20年余で
忘れた、書けない、読めないの無教養を補う極私的備忘録。いや、閑潰しでもありますので悪しからず…。


<あ>
相槌を打つ
:「うなずく」と書きがちだが、これは刀を作る時など相手となって槌を入れるからで、その呼吸感がいい。
同年(あいどし):互いに同じ年齢であること。
呆気に取られる、呆気ない:「呆然」ではなく、呆気のほうが口あんぐりの様子です。
後退(あとずさ)り:「あとじさり」とも読む。
汗だく汗をびっしょりかいているさま。
上がり口:
土間から座敷などにあがったばかろのところ。階段ののぼり口。「上がり框」は、家の上がり口にある框(かまち=床の端に渡す横木。戸・障子などの周囲の枠。
あけたて:
「開け閉て」。戸・障子などをあけたりしめたりすること。
仇(あだ)や
おろそかに:(U)徒や疎かに思う。いい加減に扱う。軽視する、無視する、黙殺する、度外視する、目も呉れない。
婀娜、婀娜っぽい:
「婀娜は深川、勇みは神田」。♪婀娜な年増を誰が知ろ〜 西條八十「東京行進曲」。婀娜っぽいというのは、若さははかないものだから崩れるわけですね。その崩れる直前のはかなさ、これは女性の魅力として最高のものだという感じ。それに比べると「いき」はもう少し純粋化されたというか、理念化されたというか…(多田道太郎)、
按配
:これなんか、もっと遣った方が便利だと思うが…。
雨気(あまけ):どんよりと、雨気を含んで…。
安気(あんき)
:(U)心配がなく、気楽なこと。
酒を呷(あお)る:酒をぐいぐい、ぐいッと飲むときは、やっぱり「呷る」がいい。
<い>
茶を
淹(い)れる:「入れる」ではなく「淹れる」
言(い)置く:立ち去るときに話しておく。
いっとう:いっとういいねぇ、なぁ〜んて子供時分によく言ったもんだ。一等の口語でしょうね。
いでたち:漢字は「出で立ち」。旅立ちの意。身なり、装いの意。立身、世の中に出る意。
いかばかり 如何ばかり:「ばかり」は物事の程度・範囲を限って言うのに遣う。どれほど。どれくらい。どんなに。程度のはなはだしさをいう。「…の女ぞ」「…およろこびのことでしょう」「悲しみは…かと」
いかほど:漢字では「如何程」。分量、値段についての疑問を表す語。「いかほどのこと(大したこと)もあるまい」
いっこうに:
「一向」(あとに打ち消しを伴って)まるっきり、ちっともの意。「いっこうに勉強しない」。
痛み入ります:
「痛み入る」は、相手の親切・好意に恐縮する、恐れ入ること。
粋:
関西は「すい」で、江戸は「いき」。このコーナーのファイル名は「ikikotoba」である。「いき」については九鬼周造の名著<「いき」の構造>(岩波文庫)を読むべし。難しかったら朝日選書の安田武 多田道太郎<『「いき」の構造』を読む>が対話形式で易しく解説している。
粋筋
:今じゃ、ホステスを「粋筋」とは言えないが、敢えて言ってみる。風情復活すればしめたもの。
訝(いぶか)しい、訝しげ、訝る:不審、合点がいかないの意。これも遣わなくなった。
今しがた今し方。ほんの少し前。ついちょっと前。
いわでもの事:
言わないでもよいこと。言わない方がよいこと。「…を言う」
言わずもがな:
言う必要のないこと。むしろ言わない方がよいこと。「…のことを言う」。言うまでもないこと。もちろん。「大人は…、子供さえ知っている」
<う>
打捨(うっちゃ)って
:(U)国語辞典には「打棄る」とある。打ち捨てておいて、かまわないの意で「打捨る」でもいいのかも。
うってつけ:ぴったりと当てはまっていること。最適。「打って付け」から。
うっちゃて:
うっちゃっといて下さい。
有為転変(ういてんぺん)
:(仏)この世のことは、常に移り変わり、しばらくもとどまることがなく、はかないこと。(太平記)
打ち揃って:
「打ち」は動詞の上について、意味を強めるのに遣う。
<え>
慧眼(えがん):
五眼の一つ。この世の空(くう)であるという真理を悟る能力を持つ目。二乗の修行者、菩薩、仏が備える。物事の本質を見抜く鋭い眼力。鋭い洞察力。
得も言われぬ
:言い表すことも出来ないほど。「…よいかおり」
絵看板劇場の正面にかかげる看板の一種。演目の内容を絵組みにしたもの。映画などの絵入り看板をさすこともある。
<お>
岡惚れ(おかぼれ):
プラトニックラヴ、歌手や役者を好きになるのは岡惚れ。
朧気(おぼろげ)
:朧雲、朧昆布、朧月、朧月夜、朧夜
訪(おとな)いを入れる:この言葉に出会って「おぉ、いいねぇ〜」と思った。マンションじゃ、この気分出ないかも。
おいでを願って:「お出で」で「出る」「行く」「来る」の敬った言い方。「こちらへおいで」「おいでなさい」「おいでになる」「おいでを願う」「おいで下さい」。下町言葉で「おいでなせぇ」
お引きまわし:
「お」は丁寧語。「引きまわし」は世話をやいて指導すること。「お引きまわしを願います」
慮(おもんばか)って
:今じゃ、なかなか遣わないなぁ。
お座なり:その場限りのまにあわせ、いい加減。
往生する:極楽に往って生まれること。死ぬこと。あきらめて静かにすること。どうにもしようがなくなること。閉口。
鷹揚な:鷹が空を飛ぶようにおおらかで威厳がある様。ゆったり、おっとりとして上品なこと。鷹揚にうなずく、鷹揚に鶴の一声。
仰せの通り:目上の者からのいいつけ、命令、お言葉。「ありがたい仰せをいただく」
瘧(おこり)のようなものが背中をざわざわと粟立たせる:瘧ってぇのはマラリア、その熱の意で、これは古い・古い。「粟立つ」は寒さ、恐ろしさで身の毛がよだつ、鳥肌だつで、「泡立つ」とは違う。
お手すき:これも遣われなくなって来た。「手透き」「手隙」で、手があいていること、閑なこと。
お目文字のうえ:お目もじは、お目にかかることの女房言葉。
おおぎょうに:「大仰」で、大袈裟なこと。
おっつけまいりましょう:「追っ付け」。そのうち、まもなく。
面悴(おもやつ)れ:心労や病気のため顔がやつれて見えること。面窶れ。

<か>
書き付け
:国語辞典だと文書、証文だが、ニュアンスはメモか?調べる必要あり。
花街(かがい):「はなまち」ではなく「かがい」。花柳界(かりゅうかい)。
柿色(かきいろ)
:柿色の幟(のぼり)。
掻き口説く(かきくどく)相手の理解や承諾を求めてくどくどと繰り返し述べる。「涙ながらに掻き口説く」
合点(がてん):
「如何にも合点の行かぬ」 承知。納得。がってん。
胆が冷えた
:これも余り遣わなくなった。肝は肝臓、広く内臓、精神の宿る所。胆をつぶす、胆が太い、胆に銘ずる、胆がすわる。他に「肝煎り」は仲に入って世話をする、する人。「胆試し」「胆っ玉」。
固唾(かたず):(…をのんで)、どうなることかと緊張して息をこらし、思わずつばをのみ込む。
毎月の
掛り:「毎月の生活費」って意だろうね。辞書には載っていねぇ。
却って:「かえって」とひらがなを遣えば、いろんな意味があるから、ここははっきり「却って」がいい。
脳裏を
掠める:脳裏を「よぎる」と言うが「掠める」とは言わないから遣ってみると新鮮かも。盗む、奪う、ごまかす、くらます、かする、わずかに触れる…の意。
恰好(かっこう):格好、恰好。「カッコいい」ではなく、正しく「カッコウいい」と言いましょう。「恰」はあたかもの意だから、「恰好」はちょうどよいすがた、様子の意で遣いたい。「格好」は国語辞典には載っているが、漢和辞典には載っていない。
芳しくない:立派の打ち消し。
感興:興味がわく。面白みを感じること。「―がわく」
閑寂:もの静かなさま。静かで趣きのあるさま。「―な境内」
家財道具:昔はもっと遣っていた言葉だと思うが…。
<き>
訊いた
:話しを聞く、音楽を聴く、質問がらみは「訊く」と使い分けて遣うのがいいかも。「訊」は「訊問」で、ことばでたずねる意。
きまりが悪い:他人に対して具合が悪い、はずかしの意。
気忙(きぜわ)しい:慌しい、忙しい…より気持ち入っていますよね。文語で「きぜはし」。
気後れ:こんな表現言葉がちゃんとあるんだから、もっと遣いましょ。
気重(きおも):気分が沈みがちで引き立たないこと。「それは気重なことですねぇ」なんて遣っていたが。株相場でも遣われる。
踵(きびす)を返す
:「踵」は従い行くの語源から追う、つぐの意。また「かかと」「くびす」とも読む。
:胆をつぶす、胆が太い、胆がすわる。肝煎り、胆試し。
暮し「週末大島暮し」は「暮らし」ではなく「暮し」で、送り仮名に「ら」を入れていない。岩波の国語辞典には送っても送らなくてのよい場合として「暮(ら)し」となっている。久保田万太郎の小説、池波正太郎「鬼平犯科帳」も「暮し」で、新聞や「文芸春秋」は「暮らし」と送っている。で、おもしれぇ〜ことを発見してしまった。ヤフー検索で「週末大島暮し」と「週末大島暮らし」とでは検索結果がちょっと違うのだ。アタシのサイトを「暮し」「暮らし」の両方で紹介している方々がいるためで、二重ヒットの余禄付き。ウヒッヒヒ…。
<く>
酌み交わす
:「汲む」ではなく「酌む」
草深い:田舎めいた、地方らしい、鄙びた…の意だろうな。
屈託(くったく):ある事が気になってくよくよすること、だが否定で遣われることが多い。「何の屈託もない」。
下種(げす):「下種の勘繰り」(心がいやしいこと、そういう人)。「下種の知恵はあとから」(下賎の者)
<け>
気色(けしき)
:そんな気色はみえない…。
気色(きしょく):
顔などに現れた心の様子。快・不快の気持ち。物事や人などに対して抱く気分。体の状態。また症状。意向。意志。あたりの様子。
剣呑(けんのん):
あぶないこと。「それは剣呑な話だ」。
気取(けど)る
:(相手または周囲の)様子を見て、事情を悟る。気づく。気取られまいと…。
験(げん)をかつぐ:えんぎ。前兆。「験がいい」
<こ>
心許(こころもと)ない
:安心できない、たよりない。何とも心許ない。
哄笑(こうしょう)した:大口をあけて笑うこと。
拵(こしら)える:「拵え」は出来あがった状態、準備、作り。「拵え事」は虚構。「拵える」は洋服を拵える、子供を拵える、女を拵える、顔を拵える、(身なりを)派手に拵える、必要なお金を拵える…で遣い勝手は多岐に及びます。
業腹(ごうはら)非常に腹の立つ・こと。業腹さ。
こかす:
転す・倒す 「こける」の他動詞。転がす、人や物をある場所に隠す。だます。
御新造(ごしんぞ)新造=武家の妻女。町屋の上流商家の妻女。のちに他人の妻。特に若い妻、さらに未婚の若い女性のこともいうようになる。
捏(こ)ねる
:理屈を捏ねる、だだを捏ねる。

<さ>
先刻(さっき)
:(U)とうに、さきほど。「先刻承知之介だぁ〜」
苛(さいな)まれる:「苛む」は、苦しめ悩ます。いじめる。が、受動で遣われる場合が多い。
さざめく笑いさざめきつつ…。
さぞかし
:「嘸」。きっと、さだめし。推量の意を表わすことば。「嘸(さぞ)かし」は、嘸を強めた語。「かし」は文語の強めの終助詞。「嘸や」。
捌(さば)けた:「捌けた人」は世なれてものわかりがよい人。他に品物がよく売れていく、はける。「さばさば」(さっぱりとしたよい気分、物事にこだわらない)は、ここからか…。
戯(ざ)れ言:ふざけて言う言葉。冗談。「戯れ事」はふざけてすること。いたずら。「戯れ唄」
<し>
悉皆「しっかい)申し上げます:一つ残らず全部。ことごとく。悉(ことごと)く。悉(つくす、シツ、シチ)。悉皆屋は染物・洗い張りを業とする人、店。
思案(しあん):考えをめぐらすこと。その考え。
仕種:仕草ではなく仕種か?
忍びやかにどこかで虫が忍びやかに鳴いていた。
時世:時代。移り変わる世の中。「結構なご時世」「時世に合わない」
時勢:世の移り変わる勢い。時代の成行き。
しょうことなく:しょうことなしに。
情緒(じょうしょ):国語辞典には「じょうちょ」も載っているが、文春に元「群像」編集長の大久保さんが「文芸編集者の最近日本語批判」と題した文で、大西巨人さんは著作にルビをふって、誤りの慣用読みはさせないぞと、「情緒」を紹介していると書いていた。外に憧憬(しょうけい)、捏造(でつぞう)だとあった。国語辞典での意味は1)思いにつれておこるさまざまな感情。2)心理学で喜び・怒り・悲しみなどの複雑な感情の働き。とあった。「江戸情緒」は正しい言葉なのだろうか?
失敗(しくじ)った:(U)これはひらがなでよいでしょう。
内心忸怩(じくじ)たるものがある:「忸怩」は深く恥じ入るさま。
凌ぐ
:(1)「凌ぎ」は苦しい事を我慢して切り抜けること。「一時凌ぎ」「凌ぎがつかない」。「凌ぐ」は堪え忍ぶで、「飢えを凌ぐ」「暑さを凌ぐ」、他より優位に立つ意は「先輩を凌ぐ」。
頻(しき)りに:回数が多く。たびたび。たて続けに。ひっきりなしに(しきりが「ひ」に変化して)。
斟酌(しんしゃく):(…せず)あれこれ見計らって手加減すること。先方の事情をくんでやること。
示達(じたつ)の刻限どおり:「示達」は官庁から国民に文書で知らせること。また、その知らせ。上位者から命令・通知を文書で下位者に達すること。
時分どきを避ける:「時分どき」は食事の時刻。子供の頃はよく遣われていたが…。
娑婆っ気:(U)世俗的な名誉や利益から離れない心。「娑婆っ気が多い」。「娑婆」は釈迦が教化する世界。人間の住む世界。
仕舞う:今日の仕事を仕舞う、店を仕舞う、道具を仕舞う、人の秘密を見て仕舞う、あきれて仕舞う。「仕舞い」「仕舞い湯」
四の五の言わず:なんだかんだ言わないでの意。
逡巡(しゅんじゅん)する表情:「逡巡」はためらうこと。しりごみすること。
殊勝(しゅしょう):心がけ・行いなどが、けなげで感心なこと。「殊勝な心掛け」
染々(しみじみ)と:(U)カタカナで書きたいところだが、深く心に染みて感じるさまで「染々」が田T正しい。
如才(じょさい):手抜かり。「如才ない」「如才なし」は気がきく。あいそがいい。昔はよく遣っていた言葉だが…。
心底(しんそこ):心のおくそこ。「心底から嫌ぇだ」。「真底」は最下部。
しな:「しな」<動詞の連用形に付けて>その折。…がけ。「帰り…に寄る」「寝しなに飲む」「出しな」
焦眉(しょうび)の急:さしせまった危険や急務。眉毛を焦がすばかりに火がさし迫っていて、きわめて危急な状態であるの意から…。(ことわざ)。四字熟語:焦眉之急
先刻承知の介
「承知之助」の方が正しいのでは。「おっと合点、承知之助」
<す>
啜る
:「茶を啜る」「洟を啜る」。「啜り泣く」「啜り上げる」。
酔狂:「粋狂」とも書く。普通は人のしないようなことを、好んですること。ものずき。
 実はこの「もっと遣いたい言葉集」を作ってみようかなぁと思ったのは、平成14年の「文春」九月号に曽野綾子と石原慎太郎の対談中にこんなやり取りを読んだのがキッカケなんです。
曽野:私、新派の「滝の白糸」が好きなんです。あれは好きな男に貢いだ水芸の女がいて、それが殺人を犯す羽目になって、金沢の法廷で検事に追求される。それで、「どうして三百円も好きな男に貢いだのか」と尋問されて、「だからさっきから申したじゃありませんか。それは私の酔狂だったんでございますよ」って言うのね。
石原:あ、いいねえ。
曽野:いい言葉よねえ。年寄りは酔狂でなきゃ。その酔狂って言葉がなくなっちゃの。生きていることなんてみんな酔狂なのに。
 …ここから、あぁ、そうだ、遣われなくなりつつある言葉がたくさんあるんだ。これを探してまとめてみようかな、と思い立った次第。

縋(すが)る:つかまって寄り掛かる「杖に縋る」。とりつく「袖に縋る」。転じて頼りとする「人の情に縋る」「母親に縋り付く」。
図星:目当ての所。急所。「図星をさす」(物事を推測し、大事な点をずばりとつく)。
ずは:否定的な仮説を表する。「…ずあらば」の意。「…ずして」の意。「訊かずはなるまい」
<せ>
世態人情:世態=世の中のありさま。世間の状態。世相。世情。「世態人情」
せちがらい
:世渡りがしにくい、暮しにくいの意。
切羽詰った:さしせまってしかたがなくなる、どたん場までおいつめられるの意。「切羽」はあて字で「迫場」が正しい。
何度も
栓(せん)のない溜め息:これは国語、漢和辞典にはない。江戸ことばでしょうか? 
截然(せつぜん):区別がはっきりしていること。「截然たる差」
先(せん)に:それより前。先立つ。「お前さん先に…お云ひぢゃないか」「先から知っていた」
詮索(せんさく)
:細かい所までさぐり求めること。
先達(せんだつ)「せんだち」とも。その方面で立派な仕事をして、後輩を導く人。先輩、先学。
<そ>
世辞(そらせじ):他に「空泣き」「空涙」「空似」「空寝(そらね)」「空音」「空念仏(信心なく、ただ口だけの念仏)」「空耳」など。
息災(そくさい):健康なこと。達者。無事。「無病息災」「息災延命」
卒爾(そつじ):突然のさま。にわかなさま。急なさま。「卒爾ながら」。これはもう、遣われないなぁ〜。
存外(ぞんがい):予想していた以上に。思いもほか。案外。「…手ごわい相手だ」
存念(ぞんねん):1)いつも心の中に思っていること。念頭にあって忘れないこと。2)思慮。所存。
そぐわない:似合わしくない。つり合わない。「そぐわぬ」とも言う。
そしる:「謗る」「誹る」。人のことを悪く言う。非難する。けなす。
<た>
だしぬけ:
永井荷風は「突如」と書いて「だしぬけ」とルビ。思いもかけず突然なさま。不意。「何だね、だしぬけに…」
堪える
:漢和辞典によると「堪える」はしんぼうしてなしとげる、「耐える」はたえしのぶ。
昂(たかぶ)る:漢和辞典で「たかぶる」は「亢ぶる」。国語辞典では「高ぶる」「昂る」。「昂る」には気持があがりはげしくなる。「軒昂」「昂奮」「激昂」がある。
高を括る:「高(程度)が知れる」「高を括る」は大した事がないと見くびる。
高低(たかひく):高い所と低い所とがある状態(であること)。これも遣われなくなった言葉で、江戸弁の感じがする。
箍(たが)のゆるみ:(U):桶の周囲にはめ、その胴が分解しないように押さえつけてある、金や竹で作った輪。緊張がゆるんだり、年をとったりして、気力・能力が鈍くなる。また、組織などの規律がゆるむ。
だしぬけ:「出し抜け」。思いもかけず突然なさま。不意。「出し抜けの来客にあわてた」。「出し抜く」は他人のすきに乗じ、まただまして、自分が先に事を行う。
店(たな)店棚の略。棚に商品を並べて販売する場所。見せ棚。みせ。商家。特に奉公人や出入りの職人などが、その商家をさしていう。おたな。
玉に瑕
「傷」は怪我、その跡。「瑕」「疵」は物がこわれ損じた所、不完全な所。欠点。
予想にたがわず
「違(たが)う」の否定で(予想とまったく同じ)「寸分たがわぬ」
<ち>
近間(ちかま)
:(U)近いところ、近所。近辺。
<つ>
使う・遣う
「使う」は人と吏で、人をつかうを意味して、「遣う」は、はこんで行く意からおくる意となり、転じて、つかわす意。「小遣(い)」「仮名遣(い)は「遣」である。「小遣(い)」を「小使」とすれば用務員。
月末(つきずえ)(げつまつ)ではなく(つきずえ)。
手を
つかえて
(…深々と頭をさげる)。「つかえる」は「番える」だろう。この場合は両手を組み合わせての意だろう。
<て>
手だれ:
手足れ、手練れ。「てだり」の転。「てたれ」とも。技芸などのその道に熟達していること。またその人。腕利き。上手。手をつかえて:(…深々と頭をさげる)。「つかえる」は「番える」だろう。この場合は両手を組み合わせての意だろう。
てっきり<副>間違いなく。まさに。こうだと思い込んだのが思い違いだったという場合に遣う。「てっきりあの人だと思ったら、人違いだった」
てんてこまい当て字で「天手古舞」。あわて騒ぐこと。忙しくて落ち着かないこと。
てんから1)はじめから。あたまから。「…間違っている」 2)<あとに打ち消しを伴って>全く。まるで。「…相手にしない」。「天から」の意。
手間隙掛かった:「手間隙」は手間と隙。「手間隙いらず」は簡単に、またはたやすく事がはこぶこと。「手間隙掛かった」は、この逆。
頭(てん)から
頭(てん)からその相談をうけつけなかった。
<と>
どだい:「土台」はもともと。元来。の意で「土台無理な話だ」
とっつき:「取っ付き」。初めて会って親しめそうかどうかという、その人の感じ。「取っ付きのよくない人」。一番手前。は「取っ付きの部屋」。
問わず語りに:たずねもしないのに自分から語り出すこと。
<な
仲違(なかたが)い仲が悪い状態。仲が悪くなること。「世間と仲違ひになって」
詰(なじ)る:悪い点、不満な点をことさら取りたてて責めて問い詰める。「詰る口調」
宥(なだ)める:物事が荒立たないように、怒っている人、くやしがっている人などをたしなめたり慰めたりする。穏やかに済むようにとりなす。
何分にも:「何分」は、1)どうか。なにとぞ。「何分よろしく」 2)何といっても。とにかく。「何分若いので失敗も多い」 3)いくらか。なにがし。「何分のご配慮を願います」
半(なか)ば:半分ほど進んだところ。まんまか。「橋の半ばに立つ」「思い半ばに過ぎる」(それにつけて考えてみると、そうなのかと思い当る。2)最中。「宴半ばに」「業半ばで倒れる」3)半分(ほど)「半ば無意識のうちにやってしまった」。「中ば」ではない。
<に>
にべもない:1)愛想がない。とりつきようがない。「膠(にべ)もない」の「膠」は、にかわ。2)ニベやサメのうきぶくろから作った粘着力の強いにかわ。1)は2)から生まれた表現。
<ぬ>
ぬけうら
:狭いぬけうらを抜けた。
<の>
軒端(のきば)
:軒の端。軒の先端。「軒端に風鈴をつるす」。軒に近い所。軒のあたり。「軒端の梅」

<は>
蓮っ葉
:女の態度や行いっが軽はずみで下品なこと。浮気で品行のよくないこと。そういう女。漢和辞典には、女のおきゃんなこと、もある。。何故そういうかは、調べてみると面白そう。
側(はた):(U)1)「池の側」「井戸の側」など水がらみでの、すぐ外側。2)そば。かたわら。「側迷惑」「側の人が気の毒だ」「側からみて」
流行(はやり)廃(すた)り:(U)はやることと、すたること。
はしこい:動作を起こす機をのがさず、すばやい。また頭の回転が速い。はしっこい。
はんかくせぇ:これは江戸弁でしょう。国語辞典には載っていないが「半可痛」がよく知らないのに、知ったようなふりをすることで、「なまはんか」の「はんか」で充分でない、未熟なこと。意味はこの辺でしょう。これは宿題。
<ひ>
陽の目
もめっきり:陽に目があるのか?これも宿題。「日の目を見る」は、今まで世間に知られていなかった仕事などが、初めて明るみに出ること。
光の褪せた月:光は褪せるんですねぇ。
胸の中で
独りごちた:これも宿題
畢竟(ひっきょう):つまるところ、結局。…するに(つまるところは)。
翻(ひるがえ)って:1)旗が風になびく。2)もと、反対の面が出るように、さっとひっくり返る意。
閑(ひま):「閑」は静かの意を含む。「暇」は自分のきままにすごすとき、やすみの意。
<ふ>
風流(ふうりゅう):『「いき」の構造』著の九鬼周造による「風流に関する一考察」によると、風流には離俗(束縛のない風の流れ)、耽美(芸術的・建設的耽美性)、自然美の要素があると言う。庭道、花道、色道、茶道、美的享楽など包括する、と言う。
深間(ふかま)にはまった:国語辞典には、男女の交情が非常に深いこと、と書いてある。アタシには関係ねぇ言葉だが。
布置結構、布置の妙:「布置(ふち)」は配置。
文机(ふみづくえ)
:アタシの文机にはラジカセ、パソコン、プりンター、ファックスがあらぁな。
不貞腐(ふてくさ)る:不貞が腐るとは、凄い表現です。
船玉(ふなだま)様:=観音様=女性のアソコ?
臥せる:病気の場合は「伏せる」ではなく「臥せる」が…らしいです。
踏ん切りをつける:思いきって決心すること。「…がつかない」
ふわりと笑った:へぇ〜、こんな表現があるんだ。
<へ>
臙脂白粉(べにおしろい)
紅白粉。べにとおしろい。べにやおしろうで化粧すること。「紅白粉は女のたしなみ」
<ほ>
放っつき歩く
:ほつくの促音化で「ほっつく」(歩きまわる。うろつく。)下町言葉。
棒立ち:驚いて…になる。
褒める:「誉める・褒める」。「褒」は本来、腋下にまちを入れ、腋下を広くした衣。音が称に近く、ほめたたえるを意味する。「誉」はほめる、たたえる、ほまれ、よい評判。普通に「誉める」が良いのでは…。
抛(ほう)る:「放る・抛る」 「抛」は(なげう・つ)で、すてる。これはもう、まったく遣われなくなった漢字。
ぽつねんと:ひとりだけで静かに(さびしそうに)居るさま。「ぽつねんと物思いにふける」
ほとほと:本当に。すっかり。「もともと困った」(やりきれない気持の時に言う)。「ほとんど」はこれから出た語。
ホゾの外れ:(U)これは臍ではなく、木材・石材などをつなぐ突起。漢字は木偏に内に似た字のホゾ。
臍(ほぞ)を噛む:漢和辞典では…口偏の筮と臍で「ほぞをかむ」。臍を噛むで、力の及ばないことのたとえ。または臍の形をしたもの。国語辞典では…「臍を固める」(決心する)。「臍を噛む」(後悔する)
本陽気(ほんようき)

<ま>
またぞろ:
またもや。またに候(そうろう)の転。望ましくない場合に言う。
窓框(まどがまち):
「框」は1)床の端に渡す横木。「上がり框」。2)戸・障子などの周囲のわく。窓框は窓枠。
外ならず
:「外」は一定の範囲の外。「他」は異なったの意で遣い分けたらいいのかも…。
真逆(まさか)それほどでも:(U)こりゃ〜、ひらがながいいんじゃないでしょうか?
まかり間違えば
:「罷り間違う」で「まかり」は間違うを強めていう語。「罷り間違うと命がない」「罷り間違えば命取りだ」「罷り間違ってもこれだっけは言うな」。「罷り通る」は(あたりかまわず)通って行く。あえて通る。「不正が罷り通る」。「罷り成らぬ」はいけない、許されない。
<み>
見巧者(みごうしゃ):
芝居などを見慣れていて、見方のじょうずな・こと(さま)。そのような人をもいう。
見切(みきり)
をつけて:(U)あきらめて見捨てること。「見切り発車」「見切り品」「…をつける」
目を瞠(みは)る:
普通は「目を見張る」だが、「瞠る」と書くもいい。瞠目。瞠若。
見知り越し:
以前から知り合っていること。「あいつとは、とうに見知り越しさぁ」 いいねぇ〜、大いに遣いましょ。
<む>
むざとした目:
むざと=やすやすと。むざむざと。考えもなく。軽率に。むやみに。取るに足りないさま。
無下(むげ)に:
形容動詞「無下なり」の連用形から。考慮すべき点がないように扱うさま。すげなく。ひどく。まったく。
咽(む)せる
「噎せる」と「咽ぶ」「噎ぶ」
<め>
捲(めく)って
:「まくる」から転じたか?頁を捲る、瓦を捲る、薄皮を捲る。
<も>
物言い:1)ことばづかい。「物言いが柔らかだ」 2)異議を唱えること。その異議。「物言いをつける」 3)いいあらそい。口論。「物言いの種になる」

<や>
自棄(やけ)
:「自棄のやんぱち」 ヤケではなく、ちゃんと漢字を遣えば気分が出ます。
易々(やすやす)と:これも漢字で意味がよく伝わる。
家並(やなみ):(いえなみ)と読んでもいいが、(やなみ)で風情が出る。
矢っ張りふ〜ん、久保田万太郎は、漢字でこうかくのかぁ。
<ゆ>
昨夜(ゆうべ):
(U)「さくや」ではなく「ゆうべ」。東京下町言葉では「ゆんべ」。
夕陽が射して
:夕陽は斜めから射すんですね。
<よ>
知る由(よし)もなく「由」1)いわれ。由来。事情。「由ありげな言葉」 2)由緒。「由ある人」 3)手段。すべ。「知る由もない」 4)理由。原因。「事の由をたずねる」 5)事の様子。「お元気の由、何よりです」 6)述べた内容。「その由を彼に伝えてくれ」 なんとまぁ、いろんな意味を含んだ言葉でしょう。
よござんしょ
:ざあます言葉の変化か?
よしんば:祖母たちがよく遣っていた言葉だ。仮に、たとえの意。
よくせき:手だてを尽くした最後に、やむを得ずそうするさま。よくよく。よっぽど。「よくせきのことだろう」
捩(よじ)れた:腹を捩る運動をすると下っ腹ダイエットにいいとか。英語はツイスト。
よすが:縁、因、便。物事をするのに、たよりとなること。よりどころ。てがかり。たのみとする人。夫や妻また子供など。「一葉の写真を思い出のよすがとする」「よすがを求めて」
<ら
埒(らち)
:くぎり。「埒があかない」はかどらない。「埒もない」はだらしない、くだらない。「埒外」は法や掟や道理の範囲外。
<り>
料簡
:思いをめぐらす、考え、思案。古典落語はみぃんな「料簡」だった。
悋気(りんき):男女間のしっと、やきもち。

<わ>
長期に
亘った:「亘る」はもとめる、めぐる、わたる、きわめる、ひろがり、つらなり、とおるの意。「渡る」はこちらからあちらまで行くの意。さて、どちらが正しいのでしょう?



参考書目

ほとんどが別項「東京下町ことば」参考書目と重複しますので、ここではそこに揚げていない参考書目のみを記します。
なお解釈は極私流ですので悪しからず。また調べは、中高校生が使う程度の国語辞典、漢和辞典によりました。

荷風全集・全28巻(岩波書店)、久保田万太郎「現代日本文学全集29」(筑摩書房、昭和31年刊) 「現代日本文学館22/宇野浩二・久保田万太郎」(文芸春秋)、久保田万太郎全集「第六巻〜第九巻」(中央公論社刊) まぁ、以上に代表される大正・明治時代の作家の小説からいろいろ探しております。


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