堀内孝雄『かくれんぼ』

3月20日にシングル『かくれんぼ』、410日にアルバム『永遠の夏』リリース
〜月刊「ソングブック」4月号掲載原稿〜


 
昨年、30周年記念アルバム『MOON』をリリースし、そして今年は…
新たな世界と言うべきか、いや、原点復帰のニューミュージック・スタンスで、
大人たちの心意気ここにあり!とばかりの、胸を熱く打つニューアルバム・リリースです。
それに比しヒット仕掛けを凝らしたシングル『かくれんぼ』の楽しさよ。
さて、あなたはどちらが好きですか?

 今や歌謡曲ジャンルに居る堀内孝雄だが、410日リリースのアルバムを聴けば、彼はアルバム・アーティストで、そのスタンスはニューミュージックを歩んで来たしたたかな存在だと言うことに改めて認識せざるを得ません。
 そしてニューミュージック風に言えば、シングルはアルバムのパイロット的存在ですが、新曲『かくれんぼ』を聴けば、こちらは大ヒネリがたっぷり施されたヒット狙い曲…。作詞は荒木とよひさ。アルバムには彼の男詞で意気充ちる『古きギターを抱いて』、亡き河島英五に捧げる『俺がいつの日か』が収められていますが、このシングル曲の詞は…
「余りに、暗くてセコい(笑い)。…だから、このままメロディーをつけたらとんでもなく暗くなる。で、晴れた日に涙が出る…そんな感じの淡彩風に仕上げたんです。で、僕の全作はずっと山嵜プロデューサーに委ねていまして、彼が詞の暗さに比した明るいメロディーとリズムの妙がいい、さらにこの上に無邪気な子供の遊び声が欲しい、で“モーニング娘。”の中澤(裕子)さんと矢口(真里)ちゃんにお願いしてイントロとエンディングに “もぉ〜いいかい” “まぁ〜だだよ〜” の可愛い声を入れてもらったんです」
 これら“ミスマッチの妙”、“意外性”、“遊び”は、ベテランならではの計算された仕掛けで、理屈抜きに楽しめます。テレビ朝日系「はぐれ刑事純情派」第
15弾タイアップ曲ならではの大ヒット期待曲と言えましょう。
 その長い番組タイアップについて…
「先日、藤田さんにお会いしましたら“
70歳までやるからずっと頼むよ”で、“はい、最後まで見届けさせていただきます”と応えて来ました」
 ここからも分かる通り、堀内孝雄の全音楽は、互いに説明なしで分かり合った音楽仲間たちが「あ・うん」の呼吸で“仕事”をしているワケですが、このアルバムではそんな彼等が変化球を止め、ちょっと本気の直球勝負の感があります。
「小椋佳さんが体調を崩されている最中に2作、荒木とよひささんが
4作、三浦徳子さんが3作、若い相田毅君が1作の詞で全10曲。気心知れた皆さんですから、他の作家の傾向熟知で、その上で自分の果たすべき詞をそれぞれが書いてくれました」
 そして作曲とくれば…
「作曲重視で、それに不都合があれば言葉を書き替えさせていただいています。僕はメロディーメーカーであると同時に歌い手ですから、最終的には全部自分で責任をとるワケですから、詞を書く方の好き放題にはさせませんよと…」(笑い)。
 またこれを諒とする作家たちがいて、あの独特の堀内節が生まれているようです。そして今回のアルバム全体を貫いているのは、ニューミュージックへの鮮やかな回帰…。
「まず詞を担当された先生方が、今まで演歌色がちょっと強かったから、ここらで揺り戻しが必要でしょう、と。そう思われてフォークっぽい詞を書かれ、僕もそれにのって作曲です。ちょっと演歌っぽいかなぁ〜と思われるのはシングル曲と、去年の
30周年アルバム『MOON』のタイトルを生んだ楽曲ながら収め残した『月夜のうさぎ』だけかなぁ…」
 で、改めてアルバム全曲を聴けばニューミュージック・サウンドのなかで、大人たちが時に青年だった時の一途さを取り戻そうとしたり、
50代になっても生き様は枯れちゃいないゼ!とばかりの男たちの心の叫び、意気がビッチリと充ちています。
 シングルの計算された仕掛けに酔うも良し、男のホンネ叫ぶアルバムも良し。
4月中旬から全国約20会場予定で展開されるツアーもお楽しみです。

好評発売中!シングル『かくれんぼ』作詞:荒木とよひさ/作曲:堀内孝雄/編曲:今泉敏郎
ニューアルバム
は410日発売で『永遠の夏』

目下、五木ひろしと抱腹絶倒のレギュラー番組…読売テレビ「歌ってe−気分」と、TBSラジオ「ENKAチックナイト五木孝雄」放送中/昨年末の紅白で『酒と泪と男と女』を熱唱した堀内さん、会場のご子息から「ベーヤン、ありがとう」の声援が嬉しかったと…。
420日には「復興の詩vol.8〜旧友再会〜」出演。



堀内孝雄『河』

テレビ朝日系ドラマ「はぐれ刑事純情派」第16弾!主題歌『河』と
…大人が聴きたい作品群!ニュー・アルバム 『河』

 間もなく第19回・日本アマチュア歌謡祭グランプリ大会です。今回の特別ゲストは堀内孝雄さん。楽しみですねぇ〜。堀内さんのステージを余すことなくご堪能いただきたく、今月号は、その音楽の魅力探りのインタビュー。
 アリスからソロ・アーティストへ。文字通り「おとな派かようきょく」を代表し、牽引する存在。今、53歳…。「この歳になって、やっと満足出来る声質を得た」。あらゆる面で充実期を迎え円熟を増す堀内さんの、注目のニューシングル『河』が3月19日リリース、そして4月23日に同題のニューアルバムをリリース。さまざまとご自身の音楽について語っていただきました。“べーやん”の世界へどうぞ…。

プロフィール 1949年10月27日、大阪市阿倍野区生まれ。1971年、アリス結成(with谷村新司・矢沢透)。1973年、24歳で結婚。『今はもうだれも』から次々に大ヒットを放ってトップグループに。1981年、アリス解散。以来、ソロ活動を開始するがヒットに恵まれず、6年後の『愛しき日々』が大ヒット。以来「おとな派かようきょく」を続々と大ヒットさせている。2001年、アリス再結成で全国ツアー。ニックネームは“べーやん”。

 毎年、春になると堀内さんのテレビ朝日系ドラマ「はぐれ刑事純情派」主題歌リリースで“さて、今年はどんな作品かなぁ〜”と楽しみです。昨年が『かくれんぼ』。今までに『時代屋の恋』 『竹とんぼ』 『影法師』 『恋唄綴り』とたくさんのヒット曲を生んで来て、今回で実にシリーズ16弾目、『河』をリリースです。
 たきのえいじ作詞、堀内孝雄作曲。ミディアム・テンポで、シンプルなメロディー。“あぁ、簡単に唄えそうだなぁ〜”と、堀内さんの歌唱に合わせて口ずさんでみれば、そのゆったりしたテンポに間がもたず “あぁ、こりゃ〜、難しいやぁ〜”です。
 堀内さんに、そう言いますと“してやったり”の笑顔を浮かべつつ、こう語ってくれました。
「ゆっくり&シンプルな楽曲は、小細工でごまかすことが出来ないから、実力がハッキリ出ちゃう(笑い)。僕だって、編曲の川村さんに“もう少し早くなんないのかなぁ〜”と言ったんだ。そうしたら“ダメです。これぐらいゆったりと唄ってくれないと味が出ません。腰を据えて唄ってみて下さい…”だったんだから」
 歌唱指導は後ほどしていただくとして、楽曲の説明をもう少し…。
「詞は、世の中の流れにはじき出された自分がいて、でも諦めずにもう一度チャレンジしてみよう、と言う内容です。時代の流れから外れ、世や人のせいだと愚痴りつつ人生を降りてもいいのだけれど、もう一度、時代の波と闘って自分のスタンスを取り戻してごらん…と唄っています。五十代の応援歌です」
 ちょっと厳しくきつい歌でもある。
「そう、易しい言葉で唄っているけれども、聴きようによってはボディーブローのように効いてくる詞です。去年の『かくれんぼ』がジャブだったから…」
 サウンドは、胡弓がフィーチャーされて、ちょっとチャイナ・テイスト。
「最初は沖縄サウンドだったんです。でもこのテーマで沖縄はないだろう…と。結果的に胡弓、ガットギター、マリンバ、篠笛…。ニッポン・テイストなんですが無国籍サウンドに落ち着いた(笑い)」
 作曲段階でのエピソードを伺えば…
「僕は作曲しながら詞をいじらせてもらうタイプですから、当初の詞から随分変えさせていただいた。で、メロディーは自分でも驚いているのだが、だんだんシンプルになっている。鼻唄で唄えなくちゃ意味がないよ…と」
 そのシンプルさが、逆に歌唱の難しさを生んでいる。
「唄う人それぞれの“河”になりますね。誰でも簡単に唄えるけれど、いい加減に唄えば歌が流れちゃう。ひょろひょろした小川にも神田川にもなる(笑い)。出来れば、存在感のある骨太の“河”で唄って欲しい…」
 それが難しい。で、コツは?
「僕の歌唱を聴いて、簡単に唄っていると思われるでしょうが、実はメチャメチャにリキ(力)が入っているんだ。唄い上げているんです」
 ちょっと難しい歌唱論になりそう。そこで、カップリング曲『ちぎれたボタン』。
 ここでは、拳をふり上げて
♪ぶん殴れ… 幸せ顔を
 ぶん殴れ… 右手の傷で
 昔は喧嘩を買ったじゃないか
 昔は 昔は不良だったじゃないか…
 とシャウトしています。この歌唱は?と問えば
「がなる、シャウトするなどの“動”の歌は勢いで唄えばいいワケですから、まぁ、誰にでも唄えます。40代までの歌ですね。それに比して本当に難しいのは“静”の歌です。先日、『河』のプロモーションビデオ撮影があって、静の間が我慢出来なくて、どうしても仕種を入れてしまうんだ。で、モニターを観直せば実につまらんのです。今度はグッと堪えて耐えて動かない(笑い)。この映像で初めて絵になった。動かぬ“静”の、なんと難しいことよ(笑い)」
 五十代になったら、この辺が出来なくてはいけません、と暗におっしゃっている。そしで世代論が出て来た…
「今、53歳です。60代や70代になって“枯れる”のもいいのかなぁ〜と思うけれども、本当に枯れちゃうのと“枯れた芸”とは違うんだ。僕は落語が好きですが、名人芸というのは50代、60代で油も乗り切っていて、それでいて枯れた芸が出来る…ということではないかと思うんです。枯れと慾の両方が分かっている狭間で成し得るのが名人芸だと。僕はそれが出来る年代にやっと入って来たなぁ〜と思うんです」
 そして、こう続けます。
「で、やっと今、望んでいた声が出るようになって来たんです。30代(アリスの時代?)の頃の声は“可愛くていい”なぁ〜んて言う人もいるが、あれはダメだ。ヘロヘロしていて大嫌いだ。あぁ、この世からあの声を消し去りたい…」(爆笑)
 堀内さんの油が乗り切って、かつその上で枯れた味わいを有した声質が、知らぬうちに、このスロー&シンプルの新曲『河』を求めていた。
「ありそうでなかった初めての楽曲です。探し求めていた歌とやっと出会ったような気がしています」
 燻し銀とも言える堀内さんの声質がフと色気を漂わせ、和み、微笑み、そして心の叫びになり…と多彩な変化を見せつつ進行するヴォーカリズム。“あぁ、今、堀内さんは大充実期に入って、成熟を深めている最中なんだなぁ〜と。
「今、五木さんに作曲した“山河”も唄わせてもらっていますが、この声じゃなかったらとても唄えない、と思っています。これは歌に限らず、例えば五木さんといい出逢いをしたように、歌手、人としてもいい年代になって、僕は今、幸せだなぁ〜と思っています」
 充実の年代に入って、明日の音楽シーンを想う気持ちも昂ぶって来る。
「阿久悠さんと五木さんが“歌謡曲の逆襲”について語り合ったりして、あぁ、いい出逢いが素敵なテーマを生んでいる、とうれしくなって来た。僕もあえて言えば、今こそ“日本語の逆襲あれ!”と思います。洋楽、サウンド志向に偏って日本語の歌が空洞化しちゃったきらいがあるから」
 ここでニューアルバム『河』へ…。
「もう何年間もずっと組んでいて“あ・うん”で仕事が出来るベテラン作詞家にお願いしていますから、日本語の奥深さを教えられつつ、また作曲しつつさらにノリ良くと手を加えさせていただいています。ニューアルバムはバラエティーに富んだ楽曲群で構成されていますが、全体的には車で疾走しつつ聴いたらゴキゲンな気分に、はたまた誰にも教えたくない隠れ居酒屋を見つけたような気分になっていただけたらと思っています。他の誰にも真似の出来ない、自分だけの世界が構築出来たと自負しています」
 一度耳にすれば、繰り返し・繰り返し聴きたくなる素敵なアルバムです。そして気付けば、貴方も“ベーやん”世界の虜…。
 最後に『河』のカラオケ・アドバイスをいただいた。
「唄わずに語る、が僕の基本です。ですから出だしは語って下さい。そしてサビにロングトーンがあって、ここの息遣いが難しいと思いますが、なだらかな流線を描くようにゆったりしたテンポ感で唄っていただければいいと思います」
 5月24日、日本アマチュア歌謡祭グランプリ大会の特別ゲスト、堀内さんのステージを…、さぁ、じっくりとご堪能、お楽しみ下さい。(スクワットやま)

『河』
作詞:たきのえいじ
作曲:堀内孝雄
編曲:川村栄二

  歌手に「花粉症」は大敵!堀内さんも毎年、花粉症と闘っています。「マスク、目薬はもちろん、ステージ2時間前には必ず薬を飲んだりしています。薬は効くんですが、舌の水分がなくなって喉もカラカラになる。そっと水を用意したりしています」。アマチュア歌謡祭当日は花粉が飛ばなければいいですねぇ。コンサートツアーは花粉症も収まる6月〜7月に集中展開です。

 アルバム収録曲:ポスターカラー(相田毅)/ブラジル(三浦徳子)/嘘をちょうだい(三浦徳子)/挽歌(荒木とよひさ)/灯“ともしび”(荒木とよひさ)/ちぎれたボタン(荒木とよひさ)/キラメキ(三浦徳子)/恵比寿桟橋(たきのえいじ)/羅針の星(荒木とよひさ)/河(たきのえいじ)※作曲は全曲堀内孝雄、( )内は作詞者


堀内孝雄『不忍の恋』
月刊「ソングブック」(06年05月号掲載原稿)

言葉頭にアクセント、ワンワード毎にブレス…稀有な“堀内節”女唄は、名曲『恋唄綴り』に通じる味わい。
古き良き日本の「がまん」が生む人間関係と、昭和ロマンの世界へどうぞ。


 アリス結成から35年…。その記念シングルが4月26日発売『不忍の恋』。5月31日には2枚組の記念アルバム『OLD&NEW』もリリース。注目の新曲は、団塊の世代の胸にグッとくる昭和ロマンを感じさせる女唄。♪あぁ 一途な女です 日本の女です〜 その独特の“堀内節”をクローズアップしつつ、35周年の想いも訊いてみた…。

 イントロに妙なる音色。胡弓かしら?
「いえ、コルネット・ヴァイオリン。昔の演歌によく使われたヴァイオリンの胴からトランペットのラッパ状が出た楽器。独特な響きを有して、昭和歌謡の郷愁感が演出されています」
 不思議な調べに誘われて流れくる堀内孝雄の歌声は、女のつぶやき。
と筆なたに りまょうね…
 歌声は優しくソフト。そして単語頭(太G)にアクセント、ワンワード毎にブレスなのかスタッカート風に声が切れる彼独特の極めて稀有な歌唱法。
 これはハードボイルド小説や新聞に多用される体言止め、ショートセンテンスの文体に似ている。これでタメ気味に吐き出すように唄えば、男のリリシズムが漂って来る。前作の18年間続いた「はぐれ刑事純情派」最終主題歌の『ふたりで竜馬をやろうじゃないか』では、この歌唱でいい味を出している。本人は“朴訥な感じだろう”と言うが“ハードボイルド的歌唱”と命名したい。で、この歌唱法をもって女歌を唄うとどうなるか…、ここが一番の感心事。
 だが前述した通り優しくソフトな色合いで、時にフッと抜いて女心を演出している。“喉馴れた”ものである。堀内孝雄の女唄の代表曲といえば「はぐれ刑事…」3作目『恋唄綴り』だろう。
「あの曲はウチ(同じ事務所)の麻生詩織にあげた曲なんです。で、次の“はぐれ刑事…”主題歌にいい歌がなくて“そうだ、あの歌を自分で唄ってみよう”と。アレンジも音も良いから、キーだけを男性向きに直して唄ったんです。あのヒットがなかったら、僕の女唄はなかった…」 
 エピソードが面白い。続けよう…。
「で、藤田まことさんに聴いてもらったら“つまんねぇ〜や”と言う。でもドラマのプロデューサーからOKをいただいてリリースすれば大ヒット。日本レコード大賞までいただいた。そんなことがあって、藤田さんは以後の主題歌をすべてこっちに任せてくれたんです」
 “はぐれ刑事…”主題歌の女唄は14作目『時代屋の恋』、17作目『カラスの女房』などがある。
「女唄を唄う時は、いつも言葉尻とかをやさしく抜けた感じで唄うんですよ。そうすると“あぁ、いい女だなぁ”って感じになりますね」(笑い)
♪あぁ 一途な女です 日本の女です〜
 詞は“もったいない”と同じく“がまん”を知っていた日本人の男女の関係にこそ、かけがいのない良さがあったのでは…と問うている。“いい女”になりたかったら「がまん」と「堀内歌唱」です。カップリングは…
「30年前の『遠くで汽笛を聞きながら』を宮川彬良編曲のゴスペル・ヴァージョンで新録です。アリス時代の僕の歌を振る返ると、僕は当初から今の歌唱なんですね」
 ある時、俳優さんのラジオ番組にゲスト出演した際に、こう指摘されたという。
「俳優は“唄うように科白をしゃべれ”と教わりますが、堀内さんの唄は“語るように唄っているんですね”と。あぁ、僕は唄わない語り部なんだと…」
 かくして確立した珠玉の堀内歌唱。ゆえに自ら唄う歌は自らの作曲を貫いてきた。だが昨年、アルバム『男達のララバイ』で初めて他作家とジョイントした。作曲陣は杉本真人、浜圭介、吉幾三、つんく♂、五木ひろし、弦哲也、岡千秋、船村徹。
「いやぁ〜、勉強になったが辛かったねぇ」
 トークも上手な堀内は、その代表例をこう再現。相手は船村徹大先生…
「堀内君、ここに座りなさい」
「ハイ」
「阿久悠さんがけっこう一生懸命に作ってくれたんだよ。そこんとこ、よくわかるよね」
「ハイ、もちろんです」
 唄入れのブースから戻ると先生が言う。
「君はここをノンブレスで唄っているけれども、ここでブレスを入れた方がやっぱり君らしくていいよ。自分流でいいだよ」
 そんな感じで錚々たる先生方が“堀内節”を容認。かくもその歌唱はユニークなのだ。
「ニューアルバムは、ディスク1が35周年オリジナルで、ディスク2がアリス時代から現在までのTAKAO SELECTIONの2枚組。年々、音が抑えられて唄が前面に濃く出てきています」
 歌唱の自信でしょう。そして6月から35周年記念の全国リサイタルツアー。
 35周年を振り返れば…
「人との出逢いです。出逢ってきた方が皆いい人で、ここまでこれたんだと思います。35年前の谷村新司と、最近では五木ひろしさんとの出逢いが大きいですね。また出逢った時代も良かった」
 団塊世代のド真ん中。彼の歌には常に時代のメッセージがあるような気がする。

『不忍の恋』
06年4月26日発売
作詞:荒木とよひさ
作曲:堀内孝雄
編曲:川村栄二

写真下キャプション●18年間続いた「はぐれ刑事純情派」主題歌について:最後までやり遂げたという達成感があります。同時に肩の荷も下りました。その意味でも、この新曲から新たな旅立です。


堀内孝雄『男が抱えた寂しさ』
月刊「ソングブック」(07年7月号掲載原稿)

団塊世代・男性がカムバック。新曲はそんな男たちの述懐のうた。
共感が広がります。

ずっと等身大の目線で歌い続けてきて、10年前の『竹とんぼ』辺りから同世代男性の熱気を感じています。これからさらに盛り上がるでしょう…

違う人生も考えたけど、やっぱり俺らしく生きること…

 冒頭の小見しは、唄い出し前の台詞。そして4行詩+4行詩のワンコーラスで後半4行詩が3回リフレインされる構成。リフレインの最初が“俺は俺 俺らしく”で始まって“下手な生き方してきたけれど”で終わっている。間奏に入った二つ目の台詞はこうである。“人生を振り返るにはまだ早いよな 後悔したくないから頑張ろうぜ!”
 台詞と後半4行詞の3回リフレインで、同曲の印象と浸透力は極めてパワフルだ。
「居酒屋でパチンコ屋で…街のどこからか流れていれば必ず耳に残る…そんな曲作りを意識しました。最後の高音ロングトーンで終わるのは僕の得意のパターンです」
 ふと耳にしただけで、改めてジックリ聴いてみたいと誘う巧みな戦略。聴けば…そこにあるのはリタイアした団塊世代に絞らずとも人生の折り返し点を過ぎた男の渋い述懐。中高年層に共感が広がること必至だろう。台詞も歌唱もどこか寂しげでシミジミと胸に迫ってくる。
「最初は“最後まで頑張ろうぜ”という気持で“攻め”のアレンジ、歌唱だったんです。しかし山嵜プロデューサー(アップフロントグループ会長)がそれでは違うと言う。人生の寂しさを帯びた大人(ジェントル)の雰囲気を全面に打ち出して、さらに台詞を加えたんです」
 人生の終盤を迎え…特別な成功を収めたワケでもないが、俺は俺らしく生きたのだからいいじゃないかと述懐するか、いや最後までファイトで闘うぞ!と自らを鼓舞する曲調にするかは迷うところだ。しかし前者の解釈でシミジミとした深さが加わって、男たちの胸に響く楽曲に仕上がった。
「そうです。絶対多数の同世代男性は定年がくれば否応なく永年勤めてきた会社からウムを言わさず退かなければなりません。覚悟をしていても、その気持ちはいかばかりか…。なんとかエールを送らなければいけません」

常に等身大目線で唄ってきた。今、団塊世代が戻ってきて…熱気一杯

 堀内孝雄、昭和24年生まれで今57歳。団塊世代が昭和22年〜24年なら、数年後には800万人が一斉に定年退職する。すでにその現象は始まっている…。
「約10年前、『竹とんぼ』の頃から上でも下でもなく僕の世代目線で唄い続けてきました。その結果、僕のステージには同世代男性が集りだしています。五木ひろしさんの『山河』を作ってから、さらに増えましたね」
 ちなみに『竹とんぼ』も台詞入り。“今は我慢しよう 俺たちは一緒に夢を飛ばしてきた竹とんぼじゃないか”。
「団塊世代が退職して、同世代男性がさらにコンサート会場に足を運んでくれるでしょう。ですからしっかり唄っていないといけません…」
 昨年秋の「吉田拓郎&かぐや姫inつま恋」のテレビ番組を観ていて“アレッ”と思ったことがある。吉田拓郎も南こうせつも団塊世代で、番組もその世代がつま恋に大集結したようなことを言っていたが、観客をよく見れば明らかに彼らより一回り下の世代だった。アリスも同じことが言えたのではないか…。
「そう、同世代は仕事が忙しくてコンサートに来れない。その一回り下の世代が中心で、ステージに立つ側もいきおい目線を下に向けた活動になったと思う。今になってそんなギャップが埋まって同世代が大結集し始めているんです。コンサート会場のノリのすごいこと…」
 さて、そんな堀内孝雄の今のメッセージがビッシリと詰まっているのが6月27日リリースのアルバム『いつまでもラブソング』。また7月1日スタートの「堀内孝雄コンサートツアー2007〜08」だ。同ステージは通常編成とアコースティック編成の2パターン。後者は本人のギター弾き語りとトークでフォークコンサートの感じでしょうか。いずれも会場は同世代の熱気でムンムン…。また桂銀淑コンサートに 6月から6会場ゲスト出演でこれも楽しみ。最後に新曲のカラオケ・アドバイスをいただいた。
「物事はすべからく物まねから始まるんです。まねれば僕の歌唱も楽曲も把握し易いでしょう。それが出来てから自分流にしたらいいんです。でも僕とまるっきり違う歌唱で唄うと、きっと合わないと思いますがね」(笑)
 堀内孝雄メロディーは、自身のユニークな歌唱に合わせた作りになっているからだ。フレーズ頭にアクセントがあって、ワンワード毎のブレス気味…。それはショートセンテンスでリリシズムを醸し出すハードボイルド小説文体に似ているところから、それを“ハードボイルド歌唱”と命名したいのだが、本人はそれは違うと、こう言った。
「僕のポリシーは“語るように唄う”、そう唄うためのメロディー、歌唱なんです」
 これらを参考に、まずは物まねでカラオケです。そして唄い終わったら「サンキュー」の一言が肝心。

●コンサートツアー2007〜08の主なスケジュール(☆印はアコースティック編成)7月1日:太田市新田文化会舘エアリスホール/☆7月 28日:美濃市文化会館/9月15日:日本青年館/9月28日:滝野文化会館/9月29日:NHK大阪ホール/☆10月5日:中標津町総合文化会館/☆ 10月7日岩見沢市民会館/☆10月8日七飯町文化センター/10月13日:愛知勤労会館/11月17日:平塚市民センター/2 月23日:岩舟町文化会館

『男が抱えた寂しさ』
07年6月13日発売
作詞:荒木とよひさ
作曲:堀内孝雄
編曲:川村栄二

アルバム『いつまでもラブソング』
07年6月27日発売
収録曲:許してごらん/いつまでもLove Song/大丈夫が心配だよ/青春の日々/紫煙/男が抱えた寂しさ/生命(いのち)の大河/うたかた/女房のちょうちん/恋心抄



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