日高正人『想い人』
作詞・作曲:長渕剛/編曲:服部克久(平成10年7月リリース)
当時、ポニーキャニオン時代に書いたパンフ・コピーを復活
14年間…胸に秘めていた男は、丸太からノミ1本で彫り出すように唄いだした!
14年間…待っていた男は、思わず叫んだ!「やったね、日高の兄ィ」
83年に日本武道館、89年に横浜アリーナのコンサート実績を誇りつつも、未だ大ヒットに恵まれず “無冠のスーパースター”に甘んじている日高正人。しかし今までに『春夏秋冬二十年』 『港町三文オペラ』 『燃えて候』をはじめ、数々の名作を放っている。太くまろやかな低音と豊かな声量に比し、おどろくほどに繊細な情感が込められた作品群…。
そんな彼が、今までの歌唱をガラリッと変えて、その風貌さながらの武骨、不器用、荒削りなヴォーカルを発揮した話題騒然の新曲『想い人』をリリースした。作詞・作曲は、長渕剛。
二人は共に鹿児島生まれ。訊けば、同曲は14年前に日高正人に提供された作品だという。14年前といえば、日高正人が手売りチケットで1万2千名余の大観衆を集めた日本武道館コンサートの直後。一方、長渕剛は6枚目のアルバム『ヘビー・ゲージ』リリース後、厳しく自己と闘っていた時期。そんな長渕が、郷里の先輩・日高の快挙に男の琴線をふるわせたのだろう。
以後、長渕剛は 『乾杯』 『とんぼ』の大ヒットをはじめカリスマ的スターの道をひた走った。日高正人もこの時期に 『港町三文オペラ』 から 『春夏秋冬二十年』 へと、やっと自身の歌世界をつかみ始めた時期だった。『想い人』は二人の男の胸奥に仕舞われた。
そして14年…。歌手生活30周年を来年にひかえた日高正人に、やっと長渕作品を唄う時がやってきた。日高の決意に、長渕剛はニヤリとしたに違いない。自身の作品リストに、未発表曲『想い人』 歌唱・日高正人とクレジットしたまま、いつの日か彼が同曲を唄い、それが日高自身の原点を見つめ直す厳しい闘いになるだろうことも知っていたからだ。レコーディングに当たって、長渕剛の真摯な応援があったという。
長渕作品ならではのアコースティックギターの響き…。日高の一語ごとに噛みしめるような武骨なヴォーカルが、不器用に楽曲を刻んで行く。ワンコーラスからツーコーラスへ、それはやがて、丸太からノミ1本で彫り出す荒削りの仏像のような味わいを漂わせる。いびつでザラザラした縄文土器にも似た味わい。今まで歌をきれいに仕上げてきた日高正人が、自身の風貌そのままのヴォーカルを得て、とてつもなく大きな存在感を発揮した。聴いていると、別れの情景の数々のショットが巨大なマルチスクリーン映像で迫ってくるような迫力がある。クローズアップされる繊細な心情、港の風景、漂う潮気…。こんなに大きく濃密な女歌、今までになかった。ヴォーカリスト・日高正人は、巨人のような存在で聴く者を優しく、温かく、包み込む…。
「やったね、日高の兄ィ」
長渕剛の声が聞こえて来るようだ。
日高正人、54歳。96年から開始している…故郷を離れて頑張りつづける歌手たちへの応援事業「日高正人&いもづるの会」も、すでに14回目のコンサートを重ねてライフワークになった感がある。また同会を通して、阪神淡路大震災で親をなくした子供達のケア・ハウス「希望の家」への基金も順調に続いている。
彼が名実ともに「太っとか男」になる日は間近いだろう。
日高正人『やじろべえ』
(平成18年5月10日リリース)