弦哲也 アルバム『弦点回帰』

歌手+作曲家活動40周年記念。ヒット曲の自作自演集
楽曲誕生の瞬間ドラマが甦る。
曲のツボ抑えたドラマチック歌唱に感動アルバム


大ヒットメーカー、弦哲也が素敵で楽しいアルバムを3月24日にリリースした。耳になじんだあの歌この歌…全 16曲の自作自演アルバムは、汲みせど尽きぬ楽しさ満載。自作ならではのポイント強調歌唱はカラオケ教材にもなりそう。


 創る曲・創る曲…大ヒット連発の弦哲也が、歌手+作曲家活動40周年記念として自作ヒット曲の自演アルバム『弦点回帰』をリリースした。
“おぉ、これは楽しそう”
 と直感したが、聴いてみれば汲みせど尽きぬ楽しさ満載の画期的アルバム。収録楽曲は川中美幸、小林幸子、水森かおり、天童よしみ、石川さゆり、細川たかし、香西かおり、五木ひろし、都はるみ、山本譲二、石原裕次郎の名曲たち。オリジナル歌手とのデュエットもあって石川さゆりと『夫婦善哉』、川中美幸と『二輪草』、山本譲二と『花も嵐も』を唄っている。
 まずは選曲について…
「ここ5年間の曲で構成。35周年の時の自作自演集をリリースしていますから…」
 そして全曲、再アレンジの狙いは…
「シングル制作は、ヒット達成の使命感と緊張感がピリピリしています。ここでは、それから解放されて、僕の声と歌唱に合うようにと、各アレンジャーがのびのびとした仕事をしてくれました」
 弦哲也の歌唱は、全曲ともにオリジナル歌手よりもドラマチック唱法になっていて、ここが実に楽しくおもしろい。
「詞ができ曲ができ、楽曲に初めて声が発せられて歌になる。歌誕生のそんな感動をこめてデモテープを制作する。その意では歌誕生の瞬間ドラマ集とも言えるアルバムです。ドラマチックな歌唱になるのは、ここのフレーズは悲しく、ここは張り上げて…というように曲を作った側のさまざまな思い入れを、歌い手に伝えたくて…」
 プレゼンテーション歌唱。弦はこう説明補足する…
「曲のポイントを強調して唄っていますから、カラオケをなさる方には最適の教材にもなります」
 が、このアルバムの楽しさ・おもしろさはもっと深い。例えば石川さゆり『一葉恋歌』。弦は慟哭とも言える鳥肌立つような泣きの歌唱だが、石川は明治中期の最初の女流作家として極貧ながら気丈で健気に生きた 24歳の一葉を思ってやや硬質な抑えた歌唱を展開している。都はるみ『小樽運河』も逸品だ。ジャージなカッコ好いヴォーカルを披露の弦だが、これを聴いた都はるみは“違う・違う”と叫んだと言う。
「この曲は二人の男と一人の女が登場人物なんですが、都はるみは女を主人公に唄っていて、僕は涙を流す女を黙って見つめる男として唄っているです。これは 5年間の普通のオバさんを経た都はるみ復帰作」
 かくして一曲毎に、そんなドラマがびっしり詰まっている。これも逸品、溢れんばかりに情感を込めた弦絶唱『北の旅人』について…
「あぁ、よく訊いてくれました。これは一番思い出深い楽曲。昭和60年でした。裕次郎さんの歌を作ってみないかと言われ、同年暮に釧路をさまよった。夕方4時なのに港はもう暗い。♪たどりついたら 岬のはずれ〜。あの出だしのフレーズとメロディーが同時に出来た。あれは僕の詞なんです。それを山口洋子さんが函館、小樽と裕次郎さんを旅立たせてくれた。でも体調を崩した裕次郎さんはレコーディングが出来ない。お蔵入りかなと思っていたら昭和 62年2月、ハワイで静養中の裕次郎さんが体調を戻して、あの歌を唄ってみたいとおっしゃった。都はるみさんとハワイでゴルフの日程と重なっていて、当日、オアフ島の小さなドルフィン・スタジオで『北の旅人』と『想い出はアカシア』を録ったんです」
 弦の思い出は尽きない…。
「2時間足らずで2曲を唄ってくれまして“ありがとう”と握手をして下さった。亡くなったのは 7ヶ月後でした。18年経った今もカラオケ愛唱歌としてベスト10入りしているのは裕ちゃんと曲の生命力が成せる不思議かなと思っています」
 五木ひろしと同年に“田村進二”の芸名でデビュー。昭和51年に内藤国男『おゆき』で作曲家に。2年後に NHK「あなたのメロディー」で歌手として『与作』を歌唱。以来、歌手と作曲家の二束のわらじ。昭和 60年12月の100会場コンサートを経て歌手を引退して作曲に専念。たかたかし、川中美幸と組んだ“倖せ演歌”。吉岡治、石川さゆりと組んだ『天城越え』『飢餓海峡』などの情念演歌、そして木下龍太郎、荒木とよひさなどの作詞家たちと生んだ名曲の数々…。
「言葉が僕のメロディーを生んでくれるんです」
 このアルバムには、そんな弦哲也40年の歩みもビッシリと秘められている。歌謡曲好き、カラオケ好きの方々に、ぜひお勧めしたいアルバムです。

●僕は頭の中でメロディーを創ることが多いんです。それを譜面におこし、自ら唄ってデモテープで確認します。この際、詞を横書きする作家の場合はピアノで、縦書きの作家の場合はギターを弾きながら唄ってみます。この辺に、スケール大きくドラマチックなメロディーで次々大ヒットを放つ弦哲也作曲の秘密がありそうです。


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