チャン・スー 『昼顔』

韓国歌手共通のハスキーをパワーアップした歌唱に、大人の感動が満ち…

 例えば映画で言えばフィルム・ノアール、小説ならハードボイルド。それでありながら主人公は“闇夜にうなだれ、故郷はぐれ”のヒルガオのような女。こんな大人の歌謡曲を唄って、聴く者をシビレさせてくれる歌手はチャン・スーを置いて他にいないだろう。都会の昼と夜、その光と闇。彼女のハスキーヴォイスが流れると、そんなシーンがにわかに現出し、聴く者はその中に彷徨うことになる。バーボンがお似合いの世界…。
 チャン・スーの抑えたハスキー・ヴォイスが切なくビブラートする。パンチの効いたリズム感もいい。太く響く声から高音域で細く強靭にしなる歌唱。声、発声、憎いばかりの細かいノド遣い…。その歌唱はドラマ性を増してグイグイと引き込みます。なぜにかくも韓国歌手は、あの独特なハスキーを有しているのか。
「5人兄弟で、私と弟がハスキーだった。 9歳から民謡を歌った。私はそこまで本格的にはやらなかったけれども、民謡歌手を目指す方は山や海にこもって血が出るまで発声訓練をすると聞いています。私は高校生の時に日本の“スター誕生”のような番組でグランプリ受賞後に、1年半ほどお寺で修行をしました」
 天性のうえに激しい訓練で培った声だとおっしゃる。韓国で 50万枚のヒット曲ほか、10数枚のアルバムをリリースし、日本に来たのは 10年前。そのデビュー曲は日韓共同制作映画で帚木蓬生原作「三たびの海峡」の主題歌『無情(ゆめ)のかけら』。有線新人賞などを受賞し脚光を浴びた。だがトーラスレコードも所属事務所も失った。彼女にどんな年月が流れたのだろうか。
 1999年、テイチクから“チャン・スー”と名を改めて再登場した。 2年前に念願の自身の事務所 泣Iフィス・チャンスーが出来た。
「10年前、大きな夢を抱いて日本に来た。あれからもう 10年も経ってしまった…」
 その眼が一瞬ぬれた。いえいえ、花が咲くのはこれからです。時代がかった情念演歌が主流の歌謡曲・演歌シーンにあって、“今”を唄って泣かせられる稀有な存在。ちなみにカップリングは得意のバラード『東京氷河』。“今”が満ち、感動の涙とめどなし。熱狂ファン急増中。カラオケすれば、あなたもヒロイン間違いなし。

『昼顔』
作詞:城岡れい
作曲:樋口義高
編曲:伊戸のりお


たったこれだけのスペースだったが、実はインタビューを楽しみにしていた。と言うのは、その10年前のデビュー曲、日韓共同制作映画で帚木蓬生原作「三たびの海峡」の主題歌『無情(ゆめ)のかけら』のプロモート計画書を書いたような記憶があるからだ。そうでなければ「三たびの海峡」を読むワケもなく、『無情のかけら』も何度も聴いた記憶もある。ってことはやはり計画書を書いたんだろう。頼んできたのは彼女の最初の事務所、アクションファイブの河田さん。来日、いや再来日するかの招聘許可願いのような書類も書かされたように覚えている。だからあたしの最初の記憶は「張銀淑(チャン・ウンスク)なんだ。
< 「10年前、大きな夢を抱いて日本に来た。あれからもう 10年も経ってしまった…」 その眼が一瞬ぬれた。>
 この文章には、デビューの頃から本人に逢うことなく仕事で関わって、その後の消息を気にしていたあたしの気持ちなんだ。次作(06年6月21日発売)『めぐりあい』は、残念ながら編集部が取材した。その号のチャン・スーの上が真木ことみで、彼女もデビュー当初からポニーキャニオンのプロモート・ペーパーで事あるごとにレポートし、実は彼女のファン倶楽部ペーパーも長い年月あたしが作ってきた。一見じゃないってこと。



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