島津亜矢『夜桜晩花』
作詞:荒木とよひさ/作曲:杉本眞人/編曲:矢野立美
〜SB7月号掲載〜

この狂気こそ歌謡曲・演歌に求められていた世界。これでJ−POPとやらはどこかにぶっ飛びます。大人の世界が濃厚に展開される醍醐味をご堪能下さい

 ひょとして今年の最も美味しい果実…、それは島津亜矢『夜桜挽花』かも知れない。身体に電流が流れるほどの衝撃と感動。これは例えば最初の一行で鳥肌が立つような小説には滅多に出会えず、同曲との出会いはそれに匹敵する歓びか…。
 ♪あたしの中の 悪い子が… この“中の〜”抜け方でまずゾクゾクッ。
 ♪欲しい欲しいと またせがむ… な・なんという赤裸々な詞よ!ここで多分90%以上のヤワな詞の歌がぶっ飛んで行きます。
 ♪口紅を噛み切り 投げつけりゃ… 今度は突き抜ける高音の張りが驚かしてくれます。
 ♪死んだふりして 夢ん中… このワンフレーズは藤圭子彷彿か。そしてサビ
 ♪夜桜よ散れ みんな散れ/あたしもあいつも みんな散れ…
 破天荒までに荒らぶれた性の絶叫が、濁りのない高音の張りとパワーをもって屹然と聳え、もう宗教的な高見まで誘ってくれます。
“オィオィ、本当かよ”との声も聞こえて来ますが、いつかどこかで読んだ記憶があるんです。
「島津亜矢という凄いソウルシンガーがいる」…と。
 逢ってみれば後光は発していなかったけれども、普通のジーンズ・スカートとTシャツ姿で、ちょっと童顔の、でもゴスペルシンガーと言ったら似合いそうな豊満な姿態の奥に“凄い”ものが蠢いている気がした。
 昨年のデビュー15周年で紅白歌合戦に初出場。念願を果たした後の新曲『夜桜挽花』は、ファンを裏切るなんてレベルではなく、晴天のへきれき的な凄い作品。で、ソッポを向かれるかと思いきやチャートもセールスも好成績。むしろ新ファン獲得でグレードアップ。早くも今年のテーマ“進化”を実現です。
「私は平坦な道を歩くより、凸凹の道を歩く方が好き」
 常にチャレンジしていたいと言う。生来の挑戦魂が、紅白出場を果たしてさらに増した。
「紅白出場という大壁を越えたら、一気に視野が広がり、触れるものも多くなった。何か大きな殻がバーンと破れた感じで…」
 才を有した歌手に立ちはだかった壁がなくなれば、たぎる歌心を奔放に解くのがよく、そこで生まれた衝撃作。事務所スタッフも才ある歌手の扱いを心得ているのか、太っ腹なのか、“あ・うん”の感じで…
「コブシ効かせた男唄が得意ですから、迷ったらそこに戻ればいいんです。それより固定概念を壊しつつ“アレもコレも出来る”が次々に形になって行く面白さ、楽しさよ…」
 なぁ〜んて豪快に笑っている。新たな挑戦が新たな可能性を、新たな“縁”を広げることを知っている。
「二十歳の頃から長谷川伸作品はじめの名作歌謡劇場と題したシリーズ・シングルにも挑戦していますし、最近はNHK−BS“日本のうた”で、毎回さまざまな時代の歌にトライし、既に32曲も歌わせていただいた。フルバンド、フルコーラス、譜面も映像も残る。またとない挑戦の機会を得て“コレが出来るならアレも出来るだろう”と次々に新たな可能性喚起の連続です」
 これは本人のみならず見る・聴く人々も触発し、小柳ルミ子さんがアルバム・プロデュースを買って出た。
「作家への発注もすべてお任せしましてねぇ…」
 スタッフ、やはり太っ腹で大胆。そんなお任せ状況から、作詞家発の狂気が生まれた。これも誰かが言っていた。“歌を作るってことは狂気の伝達。作詞〜作曲〜編曲〜歌手へ狂気の共犯者になって行く”。歌謡曲や演歌がパワーを失ったのは、狂気的(エキセントリック)に凝縮された虚構世界を失ったからではないだろうか。いつの時代も詞がパターン化し始めればパワー失墜は免れず、そんなヤワな歌たちをぶっ飛ばすには、したたかな大人たちの狂気的パッションが生む詞、曲、そしてド迫力歌唱が必要。それが遂に出て来たって感じなのです。
 島津亜矢ちゃんも、こう言う。
「今の時代(演歌状況)は、皆さんに親しまれ唄っていただける歌の時代ですから、曲作りもそこからはみ出ぬやり方なんですね。だったら誰が唄ってもいいワケで、私はそれがすごく嫌で、枠にとらわれずに今の自分を出して行きたい。その時々に触れたもの、感じたもので自分にピタッと来るものがあれば、何にでもチャレンジしてみたいなぁと思っているんです」 『夜桜挽花』は、明日の歌謡曲・演歌復活の狼煙かも知れない…。その意味でも今、島津亜矢から眼が離せません。 (文・スクワットやま)

 アルバム『彩―AYA−』は6月21日発売。“進化”をテーマにしたリサイタル2002は10月に6会場で、そして12月1日〜23日は大阪・新歌舞伎座・師走公演で中条きよしさん、京唄子さんとお芝居。「瞼の母」で忠太郎の妹役と歌のショーをお楽しみに…。

島津亜矢『大器晩成』
作詞:星野哲郎/作曲:原譲二
〜05年3月28日発売(テイチクE) SB掲載原稿〜

島津亜矢20周年記念曲は尊敬する北島三郎・王道演歌血がたぎる大作。
そして自己磨きの旅立ち…


 20周年記念曲は北島三郎プロデュース&作曲『大器晩成』。
「15周年の時の北島先生のプロデュース曲『北海峡』は女唄でしたが…。今度はバ〜ンッとしたスケール感のある曲で、イントロからもう血がたぎります。私にピッタリの歌、待望の楽曲です」
 北島三郎の王道演歌。一点の曇りも迷いもなく、その若さと全身をぶつけている。大地に両足ふんばって、両手を広げての大熱唱…。
「ここは大空に投げかけるように、ここは大地が響くように…、北島先生はそう言いながら実際にワンフレーズづつを唄って教えて下さいました。実に唄い応えのある歌で、今はすごい達成感を覚えています。私、口先だけで唄うタイプじゃありませんから…」
 今は多くの演歌歌謡曲歌手が、新しい世界を模索し挑戦しているが、なぜにかくも北島演歌に全霊賛歌なのだろうか。
「私、両親が歌好きで、母のお腹ん中で北島先生の演歌を聴いていたんです。だから北島演歌に血がたぎるんです。血が騒ぐんです。歌手への夢を育んでくれたのも北島先生の歌でした。子供心に“大きくなったら北島事務所に入る”ものと思って育ってきたし、デビューから10年間は、北島作品とかけ離れた楽曲は唄うまい、とも思っていた。歌手生活の節目・節目に教えをいただいてきました」
 そのコブシ、歌い上げ、力み具合マスターで、まさに北島演歌の申し子。だが北島三郎の師・星野哲郎がこう言ったという。
「デビューから5年後、星野先生は(剛)直球だけではダメ。いろいろな楽曲にチャレンジしなさいと『愛染かつらをもう一度』にトライさせて下さった。偉大な両先生に恵まれて私は幸せです」
 その星野先生が20周年曲に贈った詞が“大器晩成”。曲は20周年を祝って大好きな剛速球楽曲だが♪枝を張るのは まだ早い いまはしっかり 根をのばせ〜 と歌っている。
「それは、人間を豊かに磨きなさいってこと。今までは歌のことばかりを考えてきましたが、これからは内面世界の充実です」
 自分を豊かに充実させていれば、結果は後でついてくる。
「いつも通過点なんです。人生にゴールはありませんものね」
 ヴォリューム、テクニック共に超弩級系実力派。それを遺憾なく発揮の同曲は、カラオケすれば誰もがスッキリ、ストレス解消間違いなし。だが詞の通り内面充実を経て“大器晩成”も間違いなく、島津亜矢の未来は限りなく輝いている。


島津亜矢『流れて津軽』
06年5月17日発売 作詞:松井由利夫/作曲:チコ早苗/編曲:南郷達也
〜月刊「ソングブック」7月号掲載原稿〜


あの名作の決定版…遂に誕生!!
ヒット連発の次に求められるは内面世界の構築か…


 子供の頃は軒並み優勝で“末恐ろしい存在”。15歳でデビューすれば“演歌界の至宝”。そしてデビュー21年目の新曲は『流れて津軽』。
 ♪よされよされと〜
 と始まる同曲は、北島三郎『風雪ながれ旅』女版のよう。すでに幾多の歌手に唄われてきた名曲だが、遂に決定版誕生の感がする。
「私の名作シリーズでお世話になっている村沢良介先生(チコ早苗)の曲で、かねてより“お前にぴったりの歌だが…”とおっしゃっていた作品。新編曲で唄っています」
 尺八とトランペットと三味線…。ダイナミックで大スケール。島津亜矢の圧倒的歌唱が響き渡ります。天才の喉は、本人の意識に関わらず汲めども尽きぬ多彩さを有し、改めてこれぞ天性の喉。加えて…
「言葉ひとつ一つの表現をより繊細に…と心がけています」
 で、感嘆するのみ。前年春発売『大器晩成』は発売から年末の「作詩大賞・大賞受賞」でロングヒット。新曲も発売同時に「USEN演歌リクエスト1位」(6月初旬)をはじめ絶好調。
「目下、全国コンサートツアー中ですが“聴き応え・唄い応えある歌”として即売も賑わっています。今はカラオケをなさる皆様のレベルが高く“島津亜矢の歌は難しい”と思われることもなく、皆様に積極的に唄っていただいています」
 そんな要望に応えてオリジナル・カラオケ、一般用メロ入りカラオケ、男性用カラオケなど準備万端の収録。ジャケット裏に「歌唱ワンポイント・アドバイス」付き。 この名曲を島津亜矢版で人気曲に育て上げようというスタッフの意気込みも感じられる。
 圧倒的歌唱力にヒット連発、全国コンサートツアーの動員力も有し、さて、これからなすべきは…
「前作『大器晩成』で星野先生は“今こそ内面世界を充実させなさい”とメッセージして下さいました。それは今も私のテーマ。演歌は自分の生き方が如実に現れます、いや、歌は自己表現ですから、その意では、まず内面ありきです」
 彼女の“ハハハッ”の豪傑笑いや豪放磊落イメージは、彼女の繊細さの裏返しなのだろうか…
「私は熊本育ちですから“土”の匂いが懐かしい。草花も好き。小川に心が惹かれ、星空に無心となります。10歳と7歳の甥っ子に生命の愛しさを感じます」
 時を豊かに過ごすことを覚え、今度は“時を待つ”ばかりではなく、自ら“時代を撃つ”意識も芽生えつつあるようだ。
「ステージでも“こうやったらもっと良くなる”と自ら考え始めています。いずれは、こんな新曲を唄いたいと言い出すかも知れません。だって自分のことは自分が一番良く知っているのだから…」
 歌はメッセージ。その発信者としての自負の芽生え。自らをプロデュースできる存在へステップアップする時期を迎えたような気もする。明日の島津亜矢は、その圧倒的歌唱に似て、大地のような優しさを有した歌手像もチラッと見えて来るのだが…、さて?

『流れて津軽』
06年5月17日発売
作詞:松井由利夫
作曲:チコ早苗
編曲:南郷達也

●「シソにイチゴ…私のベランダ・ガーデニングの収穫です。花は今、ハイビスカスと紫陽花がきれいです」。●秋のリサイタルは 9月17日:東京NHKホール/10月が3日:福岡サンパレス/5日:熊本県立劇場/9日:名古屋センチュリーホール/17日:広島厚生年金会館/31日:大阪芸術劇場





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