石川さゆり 10月21日発売 オリジナル・アルバム
『さゆりU〜10曲10色』

(さゆり倶楽部 NO.31掲載より)

松下プロデューサー「制作ノート」より

『一葉恋歌』をパイロットとして、待望のオリジナル・アルバムが10月21日リリースです。松下さんは担当当初より「石川さゆりノート」を記していて、新曲群誕生メモからレコーディング・メモをひもときつつ、さまざまに語って下さった…。

十名の作曲家。各曲違った曲調で、遊び心に徹した珠玉の十曲。
演歌の呪縛を解けば「さゆり歌謡曲の“ハレ”舞台」


 アルバム・コンセプトは“一切合財なんでも有り”。さゆりさんが今までにやっていないような楽曲、かつ各曲違ったタイプ10曲をキチンと練り上げて丁寧に創りました。
 前アルバム『さゆり』より演歌を少なくし、シングルでは出来ない音楽的遊びをふんだんに盛り込みました。結果的に今までになかったさゆりさんが出せたかと思っています。
 作詞家は星野さん、吉岡さんの両巨匠を置きつつ若手も起用。作曲家は10人起用で“十曲十色”。酷暑の真夏日に、アレンジを含め皆様に納得出来るまでトライしていただきました。暑さの中で辛かったけれども、出来上がってみれば…
「あぁ、いいものを作ったなぁ〜」
 という誇りと自信を持って、皆様にお届け出来ます。全体的に“和風のハレ”を感じていただけたら、それは私たちが面白さ、楽しさを冒険を含めて徹底的に追求したからでしょう。演歌の枠を取り外してしまえば、かつて歌謡曲の全盛期がそうだったように、貪欲なまでに自由な発想とテーマ、自在の切り方があって、私たちも歌謡曲はこんなに自由、こんなに楽しい、これぞ歌本来のパワー…と、それらの追求を存分に遊びつつ創ったからでしょう。
 ですから一発録りでライヴの一体感そのままのレコーディングあり、オブリガード(オカズ)に凝りに凝ったのあり、とことん洒落てみたのあり…で、ちょっと“はしゃぎ過ぎた”かなと思う部分もなきにしもあらず…。
 10曲違った曲をさゆりさんに唄ってもらって、今、改めてこう思います。
「あぁ、石川さゆりさんの埋蔵量ってまだ沢山ある、まだまだこんなものじゃない」
 ある意味では油が乗り切っているワケですが、そこから見える可能性みたいなものが無限に広がっているんです。十色出来れば、そこから新たな百、千の新しい可能性が見えて来ます。そしてさゆりさんの1曲1曲、歌に対する真摯な姿勢にも感服でした。制作期間は10日のうち8日は会ってディスカッションしていたように思います。技術的な勉強はもちろん、その歌の在り様、意味合をとっても深く考えていらっしゃる。
 先日、阿久悠さんと“歌謡曲の逆襲”談義をしましたら「いい歌は売れないのかなぁ〜」とおっしゃった。でも大ヒットはないけれど、数字はキチッと出ているし、ちゃんと聴いて下さる方もいる。こうして媚びずに自信を持って歌創りを続けて行くのが肝心だと思っています。お楽しみ下さい。

一葉恋歌 作詞:吉岡 治/作曲:弦 哲也/編曲:若草 恵
 さゆりさん真骨頂の文芸楽曲です。担当になった当初から「石川さゆりさんノート」にアイデアなどをメモしていて、そこに樋口一葉、与謝野晶子と書いていた。一葉さんの名前、代表作題名は皆さんご存知だろうが、どういう人だったかはそれほど知られていないのではないか。私自身もそうで、調べ出したら非常に興味深い。そこから生れたんです。ですから皆さん、5千円札話題に便乗…と申しますが無関係。この趣旨を吉岡さんに話したら、氏は本郷丸山福山町のご近所だった。
 詞が出来て、弦さんと打ち合わせ。弦さん、眼前で3番まで朗読された。作曲家との打合わせで、こんなケースは初めてだった。弦さん、読みながらメロディーを浮べていたんだと思います。
 そして若草さんのアレンジも品良く演歌にならず。楽器も、例えばオブリガード(サブメロディー“オカズ”)の楽器も1番の恋心でギター、2番の生活苦でコルネットとヴァイオリン、3番の死の予感でオーボエが絡んで、それぞれ世界を変えると同時に時代の匂いも出しています。演歌の中に混ざっても印象に残る音となっています。
 聴けば聴くほどに良い…の声をいただきますが、こうした知恵、アイデアが随所に秘められているためでもありましょう。さゆりさんはレコーディング前に菊坂や記念館に行ったりして、一葉さんを手繰り寄せていた。24歳、健気で気丈で、それでいて“純”な気持ちで凛と唄って、さゆりさんじゃないと出せない品性もあって、実に見事に唄ってくれました。
 僕は出来た曲を車でチェックのためによく聴くのですがジーンと胸が熱くなって来た。久々にさゆりさんの新たな代表曲、「さすが!石川さゆり」と思われる歌が出来たと思うし、これを聴いて樋口一葉に関心を持っていただけたら、これまたいい仕事をしたと思います。
 ジャケット写真のさゆりさんも素敵です。楽曲、歌唱共に年末紅白にとてもふさわしい『一葉恋歌』です。

あらくれ一代 作詞:吉岡 治/作曲:安藤実親/編曲:南郷達也
 ステージの『無法松の一生』を見て、ド演歌を一作と考えました。白羽の矢が立ったのは『いっぽんどっこの唄』『銭形平次』など大スケール演歌が得意な安藤さん。狙い通りのメロディー。アレンジに苦労しました。ド演歌をやるなら徹底しようと、浪曲の節、古いタメとミエを入れたり。さゆりさんもここまで徹底した演歌は初めてではないでしょうか。
 考えず直球でド〜ンと唄っていただきたかったので、総勢38名のミュージシャンがスタジオに全員集合し、唄入れも一緒の「一発録り」。3テイクでOKのライヴです。唄い終わった後、聴いた後の爽快感は必至でしょう。ステージで同曲をやったら凄そう、聴いてみたいです。

やねせん小唄 作詞:浅木しゅん/作曲:新井利昌/編曲:竜崎孝路
 今までやっていそうで意外にやっていない日本調の歌です。新井さんはさゆりさんデビュー当初からヴォイス・トレーニングをして下さっている先生で、今も声を出したい時に先生を訪ねています。作曲も瀬川瑛子『長崎の夜はむらさき』などのヒット曲をお持ちです。作詞の浅木さんは星野哲郎の弟子で私の兄弟子。大正ロマンにこだわっていて、この情景・風情が書けるのは彼をおいて他になし!4行詩4番ですが、さゆりさんの過去の楽曲名が幾つも入る酔狂…。探してみて下さい。
 ストリングスと三味線の爪弾き短音のアレンジで懐かしくも新しいセンスを出しています。

酒供養 作詞:吉岡治/作曲:杉本眞人/編曲:若草恵
 いかにも…吉岡治・杉本眞人コンビ作。小唄、端唄の日本ニュアンスのメロディーですが、作りはロックンロールで遊んだ和洋折衷です。『酔って候』ライン作ですが、もっと洒脱な仕上がり。オケがハードなだけに、歌の主人公の表情が逆に際立って来ます。

凛太郎さ〜ん 作詞:星野哲郎/作曲:石川昭介/編曲:竜崎孝路
 歌い出しで♪凛太郎さぁ〜ん!と叫んでいます。スタジオでさゆりさんは♪昭介さぁ〜ん!♪哲郎さぁ〜ん!と唄ったりして、楽しいレコーディングでした。内容は最近ヘラヘラした男性ばかりだが、凛とした男性が好き!という女性の叫び。凛とした男性を唄って、逆に石川さゆりの可愛らしさ、優しさ、あったかい人柄が出ています。仕掛けはラテン・ペーストで、ウクレレがバッキングしています。それが軽快感とほのぼの感を出し、竜崎さんのアレンジさすがです。

でくのぼう 作詞:高田ひろお/作曲:城賀イサム/編曲:竜崎孝路
 ジャージーな感じで始まって、一転♪いいじゃないか・いいじゃないか…の音頭風に。作詞の高田さんの詞に底抜け天性の明るさが充ち、作曲の城賀さんはラテンバンドの経歴を活かして素っ頓狂なまでに明るいメロディー。ネタ元はクレージー・キャッツの『ハイそれまでヨ』。アレンジ・竜崎さんがトコトン遊んでいます。コーラスはさゆりさんの男性スタッフ「でくのぼーいず」で、これも一発録り。しかも仮唄OK。さゆりさん曰く「ファースト・テイク」。

砂の椅子 作詞:田久保真見/作曲:千代正行/編曲:千代正行
 曲調はポルトガルはリスボン下町の歌ファド。唯一の曲先。千代さんのデモテープの哀愁ギターがたまらなく良く、ファドっぽいアレンジに。曲につられて詞が出来たから、ここにあるのはポルトガル大西洋の鉛色の海…。そこでフと青い空が見え、エトランゼが物思う。多くの曲が“ハレ”ですが、ここでドォ〜ンと落とします。その落差をお楽しみ下さい。作詞の田久保さんは最近売り出し中の女性若手作家。

夢の海峡 作詞:岡林信康/作曲:岡林信康/編曲:平野融
 さゆりさんの以前から岡林さん「エンヤトット」風をやりたいという希望を叶えて、岡林バンド(和太鼓、スルド、三味、マンドリン等と岡林さんのギター)のドンカマなしライブ収録で仕上げました。さゆりさんの唄の切れ味のよいこと。

昔美しゃ今美しゃ 作詞・作曲:BIGIN/編曲:千代正行
 去年のテイチク70周年記念アルバム『一期一会』が縁でBIGIN楽曲が実現。書き下ろしではない唯一の曲ですが、さゆりさんの歌声が沖縄メロディーに妙にはまっています。これまた他の曲とは違った味・表情をお楽しみ下さい。

涙岬 作詞:星野哲郎/作曲:船村徹/編曲:蔦将包
 涙岬は北海道・厚岸町の涙岬。岬の絶壁が乙女の横顔に見え、雨が降ると眼の辺りに溜まって涙のように流れます。それを旅行雑誌で見て「これは歌になる…」とクリッピングしていて今回具現です。星野・船村両巨匠作と言えば『みだれ髪』で塩屋崎。その主人公が涙岬で物思いに耽ったらどうだろう、と設定で作ってもらった楽曲です。
 出だしから3連16音符で、これぞ船村メロディー。さゆりさん初挑戦です。この正統派演歌がアルバムを締めます。美空ひばりさん彷彿で、ビリビリと鳥肌立って来ます。

●黄桜タイアップ曲
春夏秋冬 酒ありて』 作詞:浅木しゅん/作曲:新井利昌/編曲:宮崎慎二

 吉田拓郎『旅の宿』のような日本の四季、情感充ちる歌を作りたい…。春夏秋冬にお酒がある。花見があり、紅葉があり、星がある…4行詞4番まで。曲は和風エッセンス入った軽いタッチで、少しポップ。デモテープを聴かれた黄桜の社長が「これは我が社のため曲」と気に入られて、10月より「黄桜」CF曲としてオンエアー決定。この曲はいずれシングルかアルバムに収録予定です。

キャプション:♪昭介さ〜ん!と叫んでさゆりさん/岡林バンドの皆様と…/同時録音前は入念打ち合わせ/さゆりさんの歌創りへの真摯な姿/一つ唄えば、また新たな可能性…/「でくのぼーいず」デビュー!



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