当選作(小説) 
                  仮病 | 
                  片野朗延 | 
                 
                
                  当選作(小説) 
                  ルッキング・フォー・ 
                  フェアリーズ | 
                  永野新弥 | 
                 
                
                  当選作(小説) 
                  冬のコラージュ | 
                  平井敦貴 | 
                 
              
             
             
            
             
            片野朗延 
             
            不動産鑑定士二次試験は二度と受けたくない試験で、思い出すだけで気持ちが悪くなる。試験そのものが大変というよりも、そのときの私の健康状態が問題だった。よくあの状態で合格したものだと自分でも不思議である。しかし合格後の厳しい就職活動や鑑定事務所の劣悪な雇用環境など困難はまだまだ続く。私の場合、入社するのに数ヶ月かかり、入社後は一ヶ月も経たずに辞めたいと思った。 
            私の文章は下手だ。去年三田文学の新人賞に応募し、そのことに気付いた。一年経って文章が上手くなったかというと、それほど上達していない。今後も書き続けようとは思うが、どうも文章力は上がらないらしい。 
            小説を書き始めた頃は、書くことで精神的に楽になったが、最近は負担になることが多い。今後書き続けることは苦痛をもたらすだろうが、何とか頑張ってみたい。どこまで続けられるかは分からない。 
            
              
                
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                  [略歴] 
                  かたの・あきのぶ。1978年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学文学部卒業。会社員。 | 
                 
              
             
             
            永野新弥 
             
            四年前、初めてラブレターを書き、ある女性に送った。返事には「面白い手紙をありがとう」とだけ書かれていた。脈があると勘違いした僕は、ラブレターを送り続けていれば、二人はいい関係になっていくだろうと思った。三日に一通の割合で、手紙もしくは絵葉書を送った。彼女からの返事は来なかった。忙しいから返事が書けないんだ、と解釈し、僕は手紙を書き続けた。一度に送る手紙の量は、回数を経るごとに増えていった。便箋五枚から、スペシャルヴァージョンと称して三十枚近くに及んだこともあった。内容や表現が重複しないように、コピーを取った。 
            四ヵ月後、彼女からの二度目の返事が来た。官製葉書にたった一行、こう書かれていた。「もうやめてください」 
            手元にはコピーの束だけが残った。捨てられなかった。僕はそれらを一つにまとめることにした。稚拙ながら一篇の小説ができあがった。そして、『初恋』という題名をつけた。 
            こうして僕は小説を書き始めました。 
            『初恋』から二年、今回の作品を書ききれたのは、ゼミの先生や友達、編集部の皆さんの励まし、そして両親の温かい助けがあってこそでした。心から感謝しています。 
            
              
                
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                  [略歴] 
                  ながの・しんや。1980年生まれ。神奈川県出身。 | 
                 
              
             
             
            平井敦貴 
             
            私事で恐縮なのですが、昨年、親友のタカユキくんとエリさんが結婚しました。二人の出会いから見てきた者として、それは非常に喜ばしい出来事でした。 
            この小説を書こうと思ったのは、そんな彼らが結婚する少し前、昨年の秋のことでした。その夜、タカユキくんと私は車で首都高速を走っていました。やがて環状線を周るのにも飽きてしまうと、私たちは高速を降り、ちょっとした窪地に車を停めました。そこからは、さっきまで私たちが走っていた高速道を見渡すことができたのです。二人とも何も話さず、火花と爆音を散らしながら通過していく車たちを、ひたすら眺めていました。排気ガスに喉を潰され、徐々に空気が冷えてきても、私たちは流れる車を眼で追い続けたのでした。 
            受賞の知らせを聞いたとき、一番はじめにこのときのことを思い出しました。真夜中の高速道、結婚を控えたタカユキくんと、私。あのとき、私が眺めていたのは、通過していく車ではなく、結婚や就職といった、漠とした未来像だったのかも知れません。これからも未来へのレースは続きますが、十年後も同じように走っていたいと思います。ありがとうございました。 
            
              
                
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                  [略歴] 
                  ひらい・あつたか。1980年生まれ。東京都出身。 | 
                 
              
             
             
             
            
             
            荻野アンナ、巽孝之、武藤康史、室井光広 
             
            ※選考座談会および予選通過作品は、「三田文学」No.73(2003年春季号)に掲載されています。 
             
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