2006年4月11日
▼ ある家の庭から、屋根よりもずっと高くそびえている木が、ハクモクレンであると気付いたのは、ようやく今年のことである。

先日、僕の家を久しぶりに友人が訪れた時、車の騒音さえもたまにしか聞こえぬ庭に、鶯の一声が落ちてきて、「夢のような環境やなぁ」と言った。

わかってはいても、馴染みすぎた周辺や、当たり前すぎる関係に、ともすれば忘れてしまっているかけがえのないものを、僕は失うことでしか意識できないのかと、自分の不明を悲しく思う。

今ここにあるものは、いつまでも無くなったりしないのだと、たかをくくってきた自分を苦々しく思う。

明日というものは、誰にでも必ず訪れるのだと、希望的観測を抱いていた自分を恥ずかしく思う。

見えぬ宝物を見落とさないように、これからは注意深く生きよう。
この次のチャンスは訪れないのだと言い聞かせて生きよう。
この花が散れば、来年は咲かぬかも知れぬと目に焼き付けよう。

その気持ちを忘れずに、幸運にも永らえることが出来れば、いつの日か暖かい風は、優しい記憶となって渡ってくるだろう。

さようならHOT SHOT

CONTAX RX2 Sonner180mm 開放 Kodak EB

▼ 一人は長野から、そしてもう一人ははるばる北海道から、ヒラスズキを釣りに僕を訪ねて来たのだ。

2階の屋根の高さほども上下するデッキから、狙い澄ましたピンスポットへ、波の押し引きを見計らった一瞬のタイミングを逃さずにルアーをキャストするという、ボートフィッシングならではのヒラスズキ釣りの醍醐味を、僕に耳タコで聞かされている彼らは、遂にやもたてもたまらず四国へやってきたのである。

トシちゃんは初めてではないが、過去の釣果は満足できるものではなかった。
今日は絶好のサラシであるが、港から出た途端、船長の顔は曇り、昨日とうってかわって極端に水温が低いとあきらめ顔だ。

しかし早々に僕に80cmクラスがヒットして、俄然テンションがあがる。
そしてとうとうトシちゃんのメガバスが弧を描き、グッドサイズが水面を跳躍する。

「ヒャッホーゥ!」
その瞬間は皆、我が事のように興奮する。
おめでとう、トシちゃん。

北海道の青年は「あーーっ!」と合わせ損なった悔しさを最大ボリュームで絶叫して、一度へなへなと崩れたが、忘れ得ぬ体験をありがとう、と感謝の言葉を残して帰って行った。

みんなまたおいでよ。

CONTAX RX2 Vario Sonner 28-70mm Kodak EB

▼ ややこしいカラーは、松本師匠にまかせていたから、僕は楽をさせてもらっていたのだけど、少しは頑張らねばと、久しぶりに塗ったレインボートラウトと虫食い斑イワナ。

誉めてもらおうと見せに行こうとしていた矢先の事だったから、なんとも言いようがないよ。

でもこれからは、難しいことにも臆さずチャレンジして、恥ずかしいビルダーにならないよう精進するつもりです。

OLYMPUS OM2 macro50mm  F5.6 RDP3


2006年3月8日
▼ 少し前に、こんぴらさんの近くのレザーショップ『ワンズワーカー』へおじゃました。

現在製作中の3ピースバンブーロッドを入れるケースのことをあれこれ思案中なのだ。
ワンピースロッドはしっかりした生地で袋を作ってしまうと、袋の自重でティップがダラリと垂れ下がってしまうことが判明し、せっかく作ったかっちょええ帆布製の袋がお蔵入りになってしまった経緯もあり、今度こそはちゃんとした袋を作りたいなと思っている。

僕はバイク乗りなので、出来ればバイクにロッドをくくって釣りに行きたいと常々考えていて、どうせなら滑りやすいアルミチューブ以外の物で作りたいと目論んでいたのだ。

やはりバイク乗りの手袋職人の友人とそんなことを話していて、「革のケース」というのが出てきたわけなのだ。
ならば善は急げで、究極的に頑丈な革と言えばサドルレザー、で、その専門店へ押し掛けたという寸法である。

ショベルヘッドのハーレー乗りのオーナー店長が作っているのは、ハーレー用サドルバッグや筒型の工具入れ、バッグ類、ワレット、銀細工を施したアクセサリー類等で、僕のイメージは一気に膨らんでしまい、コストとの戦いになりそうな気配が非常に濃厚だ。

あ〜楽しみだなぁ〜。
CONTAX 137 MD Vario Sonner 28-70mm RDP3

▼ 京都で暮らしている長男に、「あちこち行ってみたか?」と聞いても、どこも行ってないと答える。
それが僕には信じられないのだ。

僕が京都で暮らし始めた頃は、毎日が物珍しくて、東は銀閣哲学の道から西は嵯峨野嵐山、北は大原三千院、南は伏見寺田屋まで、徒歩とちゃりんこと市バスでそれこそ京都中、夢見心地で歩き回ったものだ。

まぁしかし、僕自身が訪れた場所のいったい何を見ていたのかと問われると、はなはだ怪しくはある。
たとえばこの新京極から寺町、錦市場界隈の通りが日本人にとってどういうポジションにある町筋かということを認識できたのは京都を離れて何年も経って、ニュース映像等で紹介されているのを外から見るようになってからだし、ここが心底大切な所と感じたのは去年の夏訪れた時が最初だったかもしれない。
それもカメラをぶら下げファインダーを通してしっかり見ようという意識があったからだと言えなくもないし…

春休みで帰省して、毎日ゲームしたりたまに本を読んだり弟とテニスしたり、そうして過ごしている日々が堆積物のように積み重なって、今はわからなくても、いつかふるさとのありがたさや、京都のたおやかさの本質に気付く肥やしになるんだろうと思っている。
親ばかだからな。
CONTAX RX2 Distagon25mm RVP100

▼ 加古隆(かこ たかし)さんというピアニストがここ数年のフェイバリットアーチストなのだ。

『光と影のバラード』という曲を仕事場のFMで初めて聞いたとき、外は雨だったのだけど、僕の脳裏にはどこか高原の白樺並木を縫うような道路の、左側から夕日が低く斜めに射し込んでいて、アスファルトの上に落ちた長く伸びた木の陰と光の明滅を踏みながら、なぜだか乗っているバイクは音がしなくて、そのかわり風が葉っぱをカサカサ揺らす音のする中を、ゆっくりと進んでいるシーンがパッと浮かんだのだ。

もちろんその時は曲のタイトルも、加古隆も知らなかったわけで、それなのにまさに光と影の明滅を、僕はイメージしていたのだ。

そんな経験が2度だけあって、中学生の頃、少し前にもちょっと書いたベートーベンの『月光』を聞いたときも、僕は明確に雲が流れる青白い満月の夜をイメージして、あとで月光という曲名を聞いてびっくりしたんだ。
音楽でシーンを伝える事が出来るんだと、今でも僕はその時の驚きを折に触れて思い出す。

以来この2曲は僕の大好きな曲となって(そういうエピソードとは関係なく、曲自体が大好きなのだ)2日に一度は聞いているから、年に200回くらい聞いてる計算になるなぁ。

最近なぜだかぴったりと、僕の心象にフィットするシーン…
それが斜め左から差し込む光と影なのだ。
CONTAX 137 MD Planar 85mm RDP3

▼ 水音が聞こえ、その凛とした冷たさが感じられるようなこのポジフィルムを見たとき、僕はある職人さんを思った。
近頃仕事絡みで何度か僕の工房を訪れてくれた漆職人さんのことだ。

バンブーロッドに漆塗りを施したくて、とはいってもその方面には何のコネクションも無いから、香川県漆芸研究所というところへ電話して、これこれしかじかと説明してようやく紹介していただいたのがこの職人さんなのだ。

香川県は古来より漆芸が非常に盛んな土地で、様々な技法が確立し、中でも有名なものが蒟醤塗り(きんまぬり)という技法である。
その蒟醤塗りの重要無形文化財、つまり人間国宝の磯井正美先生のお弟子さんであられ、くだんの漆芸研究所の先生もなさっておられる職人さんがこの方で、僕のような趣味の延長のような仕事に興味を示してくださってまことにありがたいと思っているのです。

話していると、こちらが言わんとすること、欲していることを敏感に察して、常に期待を上回る回答を下さるおだやかな姿が、この写真から得た印象のようであると、僕の心は感じたのです。

決して楽な職業じゃないのは僕と同じで、作品の完成度を追い求めてゆくと商売にはならぬ、ならぬが追求する姿勢を失ったら作家としては終わりだと、訥々と話される表情に、ずっと探していた何かを目の前に見ているような、或いは僕の遠い将来を垣間見るような(そうだといいんだけど)、そんな気持ちで僕は時を忘れて話し込んでしまったのだった。
CONTAX RX2 Vario Sonner 28-70mm RDP3

▼ 今年に入ってからまだ2度しか釣りに行っていない。
一度は近所でメバル釣り、もう一度ははるばる愛媛の最果てまでヒラスズキ釣り。
だけどどちらもろくすっぽ釣れなかった。

あ〜釣りに行きたい!

2サイクルエンジンの硬質な振動を尻に感じつつ芦原やホテイアオイをかいくぐって上流を目指すのだ。
そして静かな水面にトップウォータープラグをガシャガシャ操り、バコッとでかいバスをいわして、ぬるりとしたあの感触を味わいたいものだ。

ジェットコースターのように絶え間なく揺れるデッキ先端の手摺りに身体を預け、逆巻く波濤の先へドラッグアーマーをフルキャストするのだ。
強烈な引き波を利用して、狙ったピンスポットへルアーを送り込むと、ズシッと重量感のあるアタリの直後にヒラスズキはサラシの上を首を振りながらテールウォークして針を外そうと抵抗する。
僕はロッドを寝かせ、抗う魚体をドタンと引き倒して主導権を握るのだ。

愛媛県は2月1日に渓流釣りが解禁になる。
だというのに僕は今日もガサゴソ仕事している。
だけど仕事が忙しくて釣りに行けないというのは、ほんとは言い訳だとわかっている。
どんなに忙しくたって、たとえ半日でも時間を都合して、昔の僕なら渓流に立っていただろう。

情熱がなくなってしまったのではない。
もうたくさんの感動を味わったから、それを思い出してはなんとか熱を下げるすべを覚えただけさ。

歳をとるということはそういう事なのかも知れないと思い始めている。
歳をとるとどうしてみんな情熱を失ってしまうのか…若者の僕はきっとそんな風に考えていただろう。
だが、若い僕が少し蔑んだ目で見ていた存在に自分自身がなってみてようやくわかったのだ。
まだ見ぬものを求めずにはいられない熱情の代わりに、経験を充填剤にして心の空洞を埋め合わせるすべを身につけたに過ぎないのだ。

あ〜釣りに行きたい。
その気持ちは今も昔もちっとも変わっていないんだ。
(上) Distagon25mm (下)Vario Sonner


2006年2月11日
▼ 友人に手袋職人がいる。
家業を継いで小さな工場を経営しているのだが、この業界も昨今の海外への技術流出の例に漏れず、彼のように国内で縫製を手がけている職人は数えるほどしか残っていないそうだ。

元々は、ワーゲンショップ(車のことね)を営む彼の従兄弟と3人でメバルやシーバスを釣りに行き始めた所からの付き合いなのだが、お互いにその頃は、自分達が職人的職業で生計を立ててゆく覚悟は、まだ薄ぼんやりとしかなかったと思う。

この2人の職人と僕が決定的に違うのは、彼らが数限りない圧倒的な量の仕事にまみれて、そう呼ばれるにふさわしい「腕」を身に付け、地道にその階段を登っているのに比べ、僕にはまだまだスキルの絶対量が不足しているところだ。

職人の仕事というのは、大胆かつ繊細で、そして何より機械仕掛けのような正確さとスピードこそが真骨頂であり、デザインや素材がどうであれ、その手にかかれば製品は自ずからある種のオーラを発し、他とは違う特別な存在であることを主張する。

彼の作る手袋はとても履き心地が良くて、また彼の従兄弟の組んだ空冷フラットフォーは、淀みなくきれいに吹き上がるのだ。
そこにはただ、絶望的に繰り返される単純作業があるのみで、僕のようにデザインや作業工程で悩んだりする甘っちょろい時間を過ごしてなどいないのだ。

冬季五輪の日本選手の何割かは彼の作った手袋を使用している。
彼らの活躍をラジオで聴きながら、僕も職人を目指してマシーンのように作業するのだ。

68年式T120ボンネビルとバイカーズグローブ


2006年1月25日
▼ 猫がクシュンクシュンいい始めたかと思うと、次は息子に、とうとう僕までもインフルエンザに罹ってしまった。
僕は気管支炎までも併発して、さしものタミフルの威力も及ばず、平熱プラス3℃の熱が3日3晩下がらなかった。
ニャンフルエンザ恐るべしなのだ!
4日目の今日、どうにかこうにか寝床を這い出して、何から始めようかと思案中…


車のオイルもタイヤも替えたし、ルアーの針も付け替えて、 ほんとなら今日はヒラスズキを釣っているはずだったけど、仕方ない、こんなこともあるさ。

OLYMPUS OM2N macro50mm 開放 AE +1.3補正 E100G

▼ この半年間、僕が最も心血を注いだモデルが、この新型ストリームアーマーなのだ。

そりゃ大きなメーカーじゃないから、やりたくても出来ないこともいっぱいあるから僕が作っているすべての製品は、頭の中の理想には一歩も二歩も及ばないところだって当然あるけれど、出来る範囲内でやれることはすべてやった、と、心地よい満足感を覚えることの出来る製品がまた一つ増えました。

見た目の美しさと性能を、レイチューンのクオリティーレベルを維持しつつ、価格をマスプロモデル並みに押さえることが、かねてからの一つの目標でした。
そのこと自体の必要性や功罪について考えることは後回しにしてでも、かったるい性能やブッサイクなデザインや仕上げに、あるまじき値段を付けたハンドメイド製品が跋扈しているトラウト業界が、僕にはとても不健全に見えていて、コストパフォーマンスの一つの基準となり得たらと思って開発を続けて来ました。

釣りのスタイルは人それぞれだから、このリップレスミノーに対する評価もまた、多様であるのが当然だと思っていますが、上記の様な意味合いからこのルアーを見た場合、一つの指針にはなり得たかなと自負出来る仕上がりにまで持って来れたことが、ひとまずは嬉しいのです

OLYMPUS OM2N macro50mm E100G


2006年1月3日
▼ 何度も何度も「今年こそは」と誓っては、されども何かが変わった兆しもないままに月日は移ろってしまっておりますが、それでも僕は凝りもせず「今年こそは…」とお天道様を見上げてはつぶやくのです。

僕に出来ること…
それは「勤勉」だったり「誠実」だったり、日々若干、趣は異なりますが、要は「精一杯生きろ」、これに尽きるのであります。
さらにスキルアップしたレイチューンをご覧にいれる所存です。

新型ストリームアーマー
マルチピースバンブーロッド
もう少しだけお待ち下さい。

CONTAX 137 MD Vario Sonner 28-70mm Kodak BW400CN f5.6

TU'S Talk 2005.8/1〜2005.12/31

TU'S Talk 2005.5/1〜2005.8/31

TU'S Talk 2005.4/1〜2005.4/30

TU'S Talk 2005.1/1〜2005.3/31

TU'S Talk 2004.4/1〜2004.6/31

TU'S Talk 2004.1/1〜2004.3/31

TU'S Talk 〜2003.12/31

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