| 2004年6月6日 |
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▼ きれいな夕日が見たいと、近頃ずっと思っていた。
理由はわからないが、燃え立つような濃いオレンジ色を一瞬だけ残して沈んで行く落日をただ眺めていたいと、ほんとにずっとそう思っていた。
夕方はたいてい、仕事の後で気が抜けてしまったり、または晩飯前の一仕事に追われて、気が付くと太陽は地平線の下に沈み、空はすでに赤みを失っているのだ。
今日の夕刻は用事で出かけなければならない。
そうだ、カメラを提げてバイクで出かけよう、そうすれば用事を済ませた後、うまく夕日を拝めるかも知れない。
お気に入りのビューポイントまでバイクを飛ばしたが、思惑通りにはいかなかった。雲が太陽を遮っている。
だけどほんの一瞬、雲の切れ間から少しだけ顔を覗かせた夕日は、ここまで出かけて来て辛抱強く待った僕に微笑むかのように、あたたかな色で空を染め上げてくれた。
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| CONTAX RX2 Planar 85mm f5.6 RVP100 |
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▼ ほんとは今日はカツオとシイラを釣りに、いつもの源洋丸で沖へ出たのだった。
最初の1時間は沿岸部でヒラスズキを狙ったが、そんなに悪くないコンディションにもかかわらず、ただの一度の当たりすらも無かった。
次の2時間はカツオの群を探しながら沖を目指して僕らは彷徨った。
沖は凪いでいて、雲はあるが、初夏の太陽がそのすぐ後ろにスタンバっている感じである。
僕は船長と話しながら時折、海の写真を撮った。
それから2時間、船上は夏の太陽が照りつける戦場と化した。
着水と同時か、もしかしたらそれよりも早く、カツオが次々とヒットして、うまく向こうを向かせずに強引に寄せられれば良し、さもなくば奴らの途方もないロケットダッシュにリールもロッドも腕も悲鳴を上げ続けなければならない。おまけに太陽だ…
最初は楽しんでもいられるが、それがだんだんと過酷になってくる。
かくして写真は海を写したもののみと相なるわけである。
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| CONTAX RX2 35-135mm RVP100 f4 |
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▼ 日本一のため池「満濃池」は、田植えシーズンをひかえて満々と水をたたえていた。
実はこの堤の東詰めに、変わったうどんを食べさせる店があるというので、幼なじみと二人、車を飛ばしてきたのだが、事前に仕入れた情報による定休日ではないのに、今日は臨時休業のようである。
「小学校の遠足で来たのぉ」
『そやのぉ』
と言い合っていると、一台車が現れて、中から現れた中年の男には明らかに見覚えがある。
それもそのはずだ、たった一クラスしか無かった僕らの小学校の40人のクラスメートのその一人なのだから!
『松原やん!お前なんしょん?!』
「それはこっちのせりふじゃ!てっちゃんたちこそ、こんなとこで…」
人生には思いもよらぬことが起こるものだ。
その日店は閉まっていたが、一日中なんだか得をした気分だった。
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| CONTAX RX2 35-135mm RVP100 f8 |
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▼ その満濃池で松原と別れた後、反対の西詰めまで堤防を辿ってゆくと、ヘラ釣り師が一人釣り座を構えていた。
しばらく眺めていたが、釣り師は淡々とエサを打ち返すだけで、ヘラブナが釣れた気配は無かった。
手前の草むらでは、白い子猫が何かを狙っている。
右側の大きな木の梢は風に揺すられて、葉が裏返ったり元に戻ったりを繰り返している。
ここだけの時計が、グリニッジとは別に時を刻んでいて、見つめていると自分まで引き込まれてしまいそうである。
自分は今どうしたいのだろう?
風がヒューと耳元で鳴った。
一つ息をして意を決めた僕はきびすを返し、たいして強い意志が働いたわけではないが、とりあえず現実の中に戻ることにした。
後ろには幼なじみのいつもの気取らない横顔があった。
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| CONTAX RX2 35-135mm RVP100 f4 |
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▼ 「紫陽花の花はねぇ、花に見えるけどほんとは花じゃないのよ、知らなかったでしょう?」
校庭の隅っこにひとかたまり咲いている紫陽花を、転校生の僕が一人眺めていると、その先生は僕に話しかけてくれた。
大津市立石山小学校へ1年生に上がると同時に四国から転校して行った僕は、周りの大人達から見るとさぞ淋しそうに見えたのだろう。
だが周囲の心配りや、良い友達にも恵まれ、ホタルを捕り、クワガタを捕まえ、アカマツを釣ったあの夏は、記憶のなかで今もひときわ輝いているのだ。
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| CONTAX RX2 Vario Sonnar 35-135mm RVP100 f8 |
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▼ 求めていた落日の光景は、つまりはこれだったのかも知れない。
三郎池に映る夕焼け。
首をひねりさえすればいつでも見ることができるこの光景を、あまりに近すぎるためにそれをどこか遠いところに求めてしまうような、夕焼けを求め彷徨う時、僕はそんな気持ちなのだろうか?
野良仕事を終え、夕食の前のわずかな時間外に出て、久しぶりにゆっくりと見た沈み行く太陽は息をのむほど美しかった。
初夏の夕焼けは色が浅い。
秋の燃えるような赤に比べると黄色やオレンジが強くて、いちばん外側の宇宙との境目は青い縁取りになっている。
その青が明日への希望に見えるのは、きっと僕だけではないだろう。
いちばん身近な人に「きれいだよ」と面と向かって言いにくいように、この夕焼けが一番だと、今まで僕は言えなかったのだ。
もう僕は臆さず言えると思います。
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| CONTAX RX2 35-135mm RVP100 f4 |
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