SQ973(シンガポールエア973便)

page 1


毎日必ず雨が降る・・・今は雨季なのだ


 目的地へのほぼ中間地点にあるカンチャナ・ブリの街を通り過ぎる頃から、行く手の雲行きはますます怪しくなり、山間部へと国道を右折すると間もなく、とうとう大粒の雨がフロントガラスを叩きはじめた。

この国の特徴的な赤い土の大地を、快適な車内からただ眺めているだけの僕たちには、ここが乾季と雨季のはっきりと独立した熱帯気候であることが、俄には信じがたい。
いつもの最も信頼厚い我らがナビゲーター、現地在住1年のトシちゃんが話してくれる最近の豪雨や洪水の話しも、どこか絵空事のような気がして、いつまでも梅雨が続いているような冷夏の日本からやって来た身には、昨日と同じか、むしろしのぎやすくさえ感じたものだった。

相当な時間、山道を縫ってようやく現れた懐かしい町並み。皆で歩いた道路、屋台の列、たくさんの犬達、タイホンダ製6速ミッション125ccスーパーカブ。春に訪れた時と何も変わっていない。ただ一つだけ違っているのは、今は何もかもが雨に濡れている。


 
ディナーはいつものオープンテラスキッチンで皆と心ゆくまでタイの空気を楽しんだ。
タイ独特の香りの強い香辛料は少し苦手だったが、あらためて食べてみるとまんざらでも無かった。
めずらしく日本からの来客があり、少し話した後部屋へ戻ると、今日一日の長時間、長距離移動の疲れから、明日の準備もそこそこに、あっと言う間に寝付いてしまった。

僕が嫁と泊まっている2ベッド、温水シャワー付きの最も豪華なこの部屋で、一泊500バーツ(1バーツ=3円)であり、近隣では割高とされるここでの食事も、一食100バーツあれば充分満腹になる。)


翌朝、ボートハウスから眺める空は、今にも降り出しそうな鉛色だった


 「アマゴ釣りなら雨の後は最高なんやけどな〜」
はたして雨が、釣りにどんな影響を及ぼすのか、僕のみならず誰もが推し量りかねていた。

狙うは、僕の知る限り最もパワーウエイトレシオに優れた淡水魚『プラー・チャドー』、雷魚の一種である。
サツキマス等の遡上性のマス族のパワーも相当なものだが、チャドーはそれをひとまわり上回り、そしてこの釣りを決定的に面白くしているのは、大型のトップウォータープラグの早引きで釣るというスタイルである。

待望の出船だ。前回は一日しか釣りをせず、僕は結局何度かばらしただけで、とうとう間近にこの魚を見たのはトシちゃんの釣った奴、嫁の釣った奴のみで釣りを終えており、言うなれば片鱗を垣間見るだけでこの地を後にバンコク観光をしたのだった。
その時のバイトの激しさ、ファイトの強烈さ、ハンヤウと呼ばれる現地の船、そしてもちろんこの地と人間達の素晴らしさが、どうしてももう一度訪れたい熱病となって僕を苛んだのである。
あぁ、この空気・・・僕はやって来たのだ!


そして雲はやがて青空に変わりはじめる

next page