| ▼ じねんぼう親方の型落ちジムニーに、大人3人、釣り竿3本、ウエイダー、ベスト、その他釣りの装備一式をぎゅうぎゅうに詰め込んで、空港からホテルへ荷物を放り込んですぐのその足で、ガタゴト揺られながら660ccのターボエンジンをビンビンいわせてひたすら走るというこの状況が、免許取り立ての友人達と待ち合わせ、ポンコツのホンダZに4人乗りして、とにかく海だぁ〜!と海岸を目指した夏を思い出させて、僕はまだ知らぬ何事かがまさに始まろうとするあの日に似た期待感にワクワクしながら、かえって狭さが楽しい助手席で、流れ行く建物やトンネルや異郷の風景に浸りつつ、まるで心に翼がはえたような晴々とした高揚感を覚えていた。
車中、底抜けに明るく人の良いじねんぼう親方の語る、にわかには信じがたいほどの東北の渓流の恐るべき釣果を聞かされるにつれ、釣りに対する期待はいやがおうにも高まり、ドーっという川の音を間近に聞きながらガイドに糸を通すのが、こんなにもどかしいものなのかと思うほどに、K兄貴と僕の心ははやるのだった。
広々とした本流は、瀬と淵が理想的に連続していて、通い慣れた四国の急峻な流れとは明らかに趣を異にする、親方が語る夢のような話が、ここではあたりまえに起こってもちっともおかしくないなと僕らに思わせるような、いかにも大物がひそんでいそうな絶好の渓相を成している。
僕の故郷よりも一ヶ月以上遅い藤の花が咲き乱れるこの時期が、例年なら爆発的にヤマメが釣れる時期に当たるそうだが、ご存じのように今年は例年になく積雪が多く、この時期にはめずらしく、未だ稜線に白く雪を蓄える山々から、普段ならすでに収まっているはずの雪代(ゆきしろ=雪溶け水)がまだ流れてきていて、その影響が天候によっては、どっちに転ぶか読めない危うさを秘めて川は流れている。
親方のデジタル水温系が指した温度は18℃。
願ってもない高水温に不安も吹き飛び、僕達はこの川幅に対しては少しタッパの足りない5.2フィートのバンブーロッドを強くしならせながら、バルサミノーのフルキャストを繰り返したのだった。
答えはすぐに出た。
東北初のヤマメは、ここぞというポイントの、まさに狙ったとおりの場所であっさりと釣れた。
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