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2007年
第12回三田文学新人賞

当選作(小説部門)
青空クライシス
佐々木義登
当選作(評論部門)
越知保夫とその時代
――求道の文学
若松英輔

受賞のことば

佐々木義登

文章を書いていて「大変なんだなあ」と客観的に感じることが結構大切なことに、最近やっと気づきました。お恥ずかしい話ですが、気づくのに十年以上かかってしまいました。
若い頃は切迫すればするほど、大変さに巻き込まれて「何だよ。もーちきしょう」がすべてになってましたが、今は自分が当事者でも、「大変なんだなあ」と心のどこかでじっと見つめるようにしています。
観客席から競技場の中に入る許可を、ようやくいただいた気分です。はたして記録が出せるのか、それ以前にトラックを走ることが出来るのかさえわかりませんが、もう失うものはなにもありません。
おそまきながら、この年になって何かが開いて、書き付けられた言葉がようやく小説めいてくることがあっていいし、長時間醸成されたものの中に、以外に独特の味わいがあっても不思議ではないと思っています。
何でもいい方に考えて、これからも書けることを地道に書いていくつもりです。目を閉じて石ころを握り、手の中でじっくり存在を感じるように、日々の生活を生きる人間を腰をすえて丁寧に綴ってゆきたい。
末筆ですが、今までさまざまな形で支えてくださった多くの方々に、この場を借りて深く感謝申し上げます。
[略歴]
ささき・よしと。一九六六年生まれ。徳島県出身。現在、神奈川県茅ヶ崎市在住。大学院生。

若松英輔

まず、拙作を選んでくださった選考委員の方々および、応募全作品を読まれたという加藤編集長に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
越知保夫の名前をはじめて知ったのは、二十年ほど前、十代の終わり、井上洋治神父の『余白の旅』という本でした。その後、全く不十分ながら、あるところに越知保夫について書いたことがあります。それから十五年の歳月がながれました。
ある人物を批評する場合、批評家は、対象となる人物の手助けなくしては書けないということが、今回の執筆でよく分かりました。自分の中にあるものを発言することよりも、何者かが、自分を通じて語り出すのを待ち、その声に耳を傾け、沈黙する。書くとは、その沈思のうちに行なわれる営みだということを垣間見たように思います。
越知保夫の作品は、今日、古書店でまれに見るだけで、手に入れることが難しくなっています。この小品が、何かの切掛けになって創造的な読者が現れ、越知保夫の問いが深められることを願います。また、この場をお借りして、出版関係者の方々には、『好色と花』の復刊を心よりお願い申し上げたいと思います。また、越知保夫とご関係があった方がいらっしゃいましたら、お手数ですがご一報いただければ幸いです。
[略歴]
わかまつ・えいすけ。1968年生まれ。新潟県出身。現在、東京都杉並区在住。会社経営者。

選考委員

荻野アンナ、佐藤洋二郎、坂本忠雄、田中和生

選考座談会および予選通過作品は、「三田文学」No.89(2007年春季号)に掲載されています。

関連項目

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